嫉妬シリーズ(前サイトからの移行作品集)

『愛しているのに』(まもうさ←デマンド)


ブラックムーンとの激しい戦いは幕を下ろし、未来の地球と現代の地球には平和が訪れた。


未来に帰ったかと思えばすぐに戻ってきたちびうさは、うさことは口喧嘩は絶えないけれど以前よりもずっと仲良くしている…。


平和な時


平穏な時間



こうして俺の隣にはうさこが居て。


大好きな笑顔を向けてくれるから。


今さらあの時のことを蒸し返すようなことはしたくない―――そう思っていた。



だけど時が経つにつれ、その思いが膨らんできて…。俺はどうしようもなく醜い存在になる。

ドロリと黒い感情が

押し込めていた言葉をとうとう喉元までせり上げる。






うさこ



暗黒の惑星ネメシスで



アイツと2人きりのとき



一体何があった?


※※※

今日はちびうさがクラスメートの家に泊まるとかで、珍しくうさこが一人で俺の家にやって来た。


「今日、泊まってっていいよね?」

相変わらず彼女はそうやって甘えて言ってくる。

「ああ、いいけど…」

「?…けど?」

「…いや。」

曖昧に微笑んで承諾する。



うさこ



今、夜に2人きりになるのは本当は避けたい。



嫌な訳じゃない。



だけど、ずっと心に渦巻いているものがきっと隠しきれなくなって。



何かの拍子にそれが飛び出して君を傷付けてしまうかもしれないから。



君が好きすぎて…




抑えられないかもしれないから。









「え!?まもちゃんベッドで寝ないの!?」

風呂から上がったうさこは、俺がソファーで寝る準備をしているのを見て、驚きと不満を込めた声で聞いてきた。


「俺、実は風邪気味で。お前に移したくないからな。」

嘘をつく。

いつものように無邪気に甘えてくる彼女と一緒にベッドで眠ることなんて…今の俺にはできそうに無かった。

うさこを傷付けるのが分かっていて、できるはずない。


「え!そうだったの?ごめんね気付かなくて…」

彼女は俺の言葉を信じて心配そうに駆け寄り、額に手を伸ばしてきた。

「熱あるかな」

「触るな!!」


咄嗟に声を張り上げて彼女の手を払う。

触れたら歯止めが効かないって、分かっていたから。



「ご…めん。」


俺の声と行動にビクッと体を揺らした彼女は謝る。俺は顔を背けていたからその表情は確認できなかったけれど。


最悪だ…。


自分をそうやって戒める。



「まもちゃん、それなら私がこっちで寝るから、まもちゃんはベッドでゆっくり寝て?」


それなのにこんな俺を未だ気遣い、そう言ってくれる彼女に俺はやりきれない思いを抱く。

きっと彼女は俺のこんな態度に不安になっているだろう。
色々聞きたいに違いない。それでも俺の事を思いやって何も問いたださないでいる。



そんなうさこの健気な気持ちが分かっているのに。


ブラックムーンの、あの銀髪の男がうさこに向ける屈折した愛情を込めた瞳を思い出すと再び何も言えなくなってしまう。



俺は何かに導かれるようにゆっくりとうさこに手を伸ばしていった。


※※※

俺はきっと…血に飢えた吸血鬼みたいな顔をしているだろう。



うさこの愛に飢えた



醜い男――――




サラサラの金色の髪に指を通してそれに口付ける。

「こうやってお前に触れたのは俺だけ?」

「まもちゃん…?」

グイッと体をソファーに座る俺に引き寄せて、両足の間に座らせる。
後ろから見るうさこのうなじに吸い寄せられるかのように口付ければ、面白いくらいに君は跳ね上がる。

「こういううさこを知ってるのは…俺だけ?」

「ま…っもちゃ…」

顔は見えなくても泣いている事は声だけで分かった。

いつもならこんな風にしないし、泣いたらもちろんそれ以上しようなんて思わない。



だけど…今はやめられない。



「うさこ」



俺は背後からうさこを振り向かせてキスをする。




何度も角度を変えてするそれは、逃れようとする彼女を一切許さず…苦しそうにしているのが分かっても離すことができなかった。




「こうやって…キスをするのも…俺だけだよな…?」

ようやく離してそう言うと、呼吸が乱れている彼女は、何かを思い出したかのようにボロボロと涙を流し始めた。



「ごめんなさい…」


その言葉に、石で殴られたかのような衝撃を覚える。



「何が…ごめんなさいなんだ…?」

やっとの思いで彼女に低い声で聞き返す。


涙を流すだけで何も言わない彼女を、体を反転させて勢いよくソファーの背もたれに押し付ける。



「うさこ!」



傷付けるのは分かっていたのに。


君の泣き顔に胸が痛んでいる自分よりも



欲情している自分が抑えられないなんて…



多分俺はきっと…狂っているんだ。



「何で謝るんだ!?」




彼女の細い肩を激しく揺らす。
うさこは声も出せずに怯えて泣いていた。



あの時拐われるのをただ見ているだけしかできなかった俺が悪い




助けようとした途中で敵の罠にはまって操られた俺が悪い




悪いのは自分




そんなこと、分かっているのに。



嫉妬に狂った今の自分にはそんな風に考える余裕もなかった。


そんな俺に君は追い討ちをかけるように聞きたくて聞きたくなかったことを話し始める。



「わ…たし…っあの時…デマンドにキスされた…」

「…っ!!」

うさこはそう言うと口元を抑える。

「嫌だったのに…ネメシスの暗黒の力で体が思うように動けなくて…わたし…っ!!」


その後は言葉にならなかった。


なぜなら俺が噛みつくようなキスをしたから――――

※※※

初めは抵抗して胸を叩いていたうさこも、途中から諦めたのか腕を下ろし、俺の暴走する心を受け止めようとするかのように背中に手を回してしがみついてきた。


いや、俺のことを怖がっているだけかもしれなかった。




だけどもう止められなくて。




愛してる


愛してる





…―アイシテル―…




何度もそう、うわ言のように呟きながら…乱暴に彼女の体に刻印を付けていく。




消したい




うさこの中にいるアイツを消したい




消えろ





消えろ





この体から




この心から





全部いなくなってしまえばいい――――





狂気じみた感情をそのままに吐き出し…視界が真っ白に弾ける。




その脳裏には大事にしたいと思っていた大好きな彼女の笑顔がよぎったけれど。


今目の前に横たわる彼女は…無理に体を開かれてボロボロに泣いた跡を頬に残し、青白く、無数の紅い華を咲かせた細い体はソファーに深く沈んでいた。



それを見た瞬間、俺の視界は一転して真っ暗になる――――





どうして





愛しているのに





こんな風に傷付けることしかできなかったんだろう―――――





意識がここには無く、深く息苦しいところに身を任せている彼女のその痛々しい頬を撫でると、不意にその額に水滴が落ちる。



それが自分の瞳から落ちるものだと気付いた時に。どうしようもない罪悪感が襲ってきて――――





「ごめん…」




そう呟くことしかできない俺は…



本当に最低だ…。











朝起きれば君はこんな俺を許すのだろうか?


もしもその瞳にまだ恐怖が残っていたとしたら俺はどうすればいい?




だけど今さら君のことを手離すことなんてできるわけないんだ。




絶対に離せない









絶対に






離さない――――――


おわり(初出2012年)
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