嫉妬シリーズ(前サイトからの移行作品集)

『誰よりも君を愛す』(まもうさ←星野)
※解説を見てから読むことをお勧めします。


それは、あの最終決戦から一年の月日が流れてからのことだった。







「うさぎー!ビッグニュースよビッグニュース!!」

登校中に、後から人一倍大きな声で美奈Pが叫んできた。

私が驚いて振り返ると、美奈Pはアイドル雑誌を片手に目をハートにさせて猛スピードで突進してくる。


「どっどうしたの!?」


「コレよコレ!!」

既に開かれているページを目の前に突き出す。
私は友人の勢いに少したじろぎながらも、そこに目を移した。




『夢の実現!!世紀のスーパーアイドルスリーライツが一夜限りの復活ライブ開催!!』




スリーライツ…!?


「嘘!?だって星野たちはキンモク星に帰ったはずじゃ…」

「だまらっしゃい!!この雑誌のネタは確かな情報なの!彼等はもうこの東京のどこかにいるわ!今それをワタクシが必死に調べているので~ありますっ!!」

わーまた美奈Pがアレになってるよ…。


どこから出てきたのか伊達眼鏡を掛けて、彼女曰く必勝(←?)アイドル情報ノートをパラパラとめくっている。





だけどそれが本当なら、私達に一言くらい教えてくれてもいいのに。

あの辛い戦いを一緒に乗り越えてきた仲間でしょ?

それに友達って思ってるのに。

向こうはそうじゃないのかなあ…。


私がそんな事を考えて少し表情を曇らせていても、美奈Pは全然気付かずに彼等が潜伏していそうな場所を何個も上げて燃えていた。

いつの間にやら亜美ちゃん達も登校してきて、半ば呆れ顔で挨拶をしてくる。

夜天くん、大気くん、星野…皆元気かなあ…。
 
※※※



「ねえどうしてあの子達になんにも言わない訳?」

もう10回目にはなるであろう質問を俺に投げ掛けてくる夜天。

「だから、今回はそんなに長い滞在じゃねーんだからあいつらと遊んでる暇はねえって言ってるだろ?」

スリーライツの復活ライブはもちろん本当の目的ではなくて、太陽系の調査の一貫でキンモク星から飛ばされた俺達。
地球にいられるのは二週間だけ。
もう既に調査とライブの打ち合わせで一週間経ってしまったから実質あと7日しか無いのだ。そのうちの最終日はライブで占められている。




「それはそうですが…私は少しくらいなら会ってもいいと思いますよ?」

大気は読んでいた堅っ苦しい本から目線を変えずにポツリと意見した。


「わーったよ。じゃあお前ら2人で行け!」


吐き捨てるようにそう言うと、2人の視線が途端に痛いものに変わる。


「星野。」


「な…何だよ。」


大気の眼鏡の奥からの鋭い瞳にたじろいながらも返事をする。


「正々堂々と、会えばいいと思いますよ?」

「…。」

俺は返事ができない。

会う?

誰と?



そんなことは決まりきっていて。


だからこそ何も言えない。





お団子




俺はお前を忘れることなんてこれっぽっちもできなかったよ



何億光年離れていても、俺の心は届かないお前の心にしがみついたままだった



笑っちまうほどな





きっとお前の横には…地球の王子がいて





幸せにしてるんだって



分かってる




お前を一番笑顔にできるのは




アイツなんだってことも




分かってる









だけど





その光景を目の当たりにするのは



多分きっと




耐えられない






情けないだろ?




何よりもお前の幸せを一番に願っていたはずなのにな―――――

※※※

夜天くんと大気くんが前触れもなく私達の前に現れたのはライブ記事を見てから二日後だった。

パーラークラウンで戦士…もとい、仲間集合で放課後のお茶の時間を楽しんでいたら、急に辺りは騒然となり、悲鳴のような黄色い歓声が上がる。



驚いた私達はその嵐の中心を見ると、一年前と変わらない(すっごくカッコイイ)2人がこちらに笑顔を向けて手を振っていた。









余りにも周りの女の子たちが騒いでいたから挨拶も短めにするしかなくて、再び出会えた嬉しさを共有する時間も無かった。


「プレゼント。」


去り際にいたずらっぽく囁いた夜天くんが、女の子達からは分からない角度でスッと私の手に封筒を渡す。


「あ!待って!星野は…!?」


「ソレに来れば分かるよ。」

投げキッスをしてウインクする彼。隣では大気くんが静かに微笑んでいた。

その仕草に回りから再び歓声が上がって、いつの間にかその輪の中に入り込んでる美奈Pも同じように叫んでいる。



そしてその嵐は彼等の退場と共に去っていった。



「あ…?わー!!ちょっと皆さーん!?お勘定~!!」


閑散とした店内を呆然と見ていた宇奈月ちゃんは我に帰ると大慌てで彼女たちを追い掛けて行った。




「ライブのチケットだ!!」


封筒を開けると、私達人数分のチケットが入っていた。

「あら良かったじゃない。チケット取れなかったんでしょ?今回、私も力になれなくて少しだけ気になってたのよ。」

みちるさんが両手を合わせて言ってきた。

みちるさんは、以前スリーライツと共演をしたことがあるから今回もそのつてで取れないか頼んでみたものの、既に完売。

だから美奈Pは幽霊のように無気力に落ち込んでいたっけ…。

一瞬、ゴースト・美奈子を思い出して笑う。

「美奈が聞いたら今度は卒倒するんじゃないか?」

面白そうにはるかさんが言った。


「わ!ちょっと見ろよこの席!?」

まこちゃんがチケットを手に取るなり叫んだ。

「え!?アリーナ中央最前列!?」

いつにないレイちゃんの興奮気味な発言に私も食い付いた。

「わわわ!?ホントだー!!すごいすごい!!」



めちゃめちゃビッグなプレゼントだよー!!



「これで一層、彼等の音楽を堪能できそうね。」

亜美ちゃんもにわかに頬を染めて嬉しそうに呟いていた。



あれ?全部で10枚ある。

封筒にもう一枚あるのを確認すると、じっとそれを見つめて考える。



ちびうさは未来に帰ってしまった。

まもちゃんは…行けるかなあ?



だけど前に他のアイドルのチケットが余って誘ったら、

「そういうのは女同士で行った方が楽しめるんじゃないか?」

って断られてしまったことを思い出す。



でもやっぱり、一緒に行きたいな…。



うん!星野たちにもちゃんと紹介したいし!


今回は多少嫌がっても連れて行こうと決めて頷く。


私は皆にチケットを配ってバイバイすると、彼が待つマンションにちょっと不安になりながらもウキウキした気持ちで向かって行った。

※※※




そしてライブ当日。珍しくまもちゃんが家まで迎えに来てくれると言ってくれて、私は気が付けば鼻歌混じりにご機嫌で支度をしていた。

まもちゃんとライブ!楽しみだな~!




この間のまもちゃんとの会話を思い出す。



まもちゃんのお家でいつものようにコーヒーを淹れてくれて、それを受け取るとさっそく切り出した。

「ねね!まもちゃん!ライブのチケットがあるんだけど。」

「ライブ?いつ?」

「今週の土曜日!」

すると彼は一瞬カレンダーに目を向けて眉間に少しだけ皺を寄せる。

「あーその日は駄目だな。」

「え!なんで!?」

「その日は大学の特別授業なんだ。ごめんな。」

明らさまに残念がる私にすまなそうに答える。


「そっかあ…仕方ないよね…」


チケットどうしようかな…あ!なるちゃん!なるちゃん誘おう!前にスリーライツ好きだって言ってたし。

まもちゃんが行けないのは残念だったけど、何とか頭の中でチケットの行方を解決していたところだった。

「何のライブだったんだ?」

まもちゃんが私の頭をポンポンと叩いて聞く。

「あ!スリーライツだよ!星野たち、今地球に来てるんだって!」

笑顔でそう答えると、彼は頭の上に置いた手をするりと離してちょっと難しい顔をした。

「まもちゃん?」

「…行く。」

「え?」

「チケットくれ。」

そうやって手を差し出す彼。

「大丈夫なの?だって特別授業は!?」

私がそう言うと、なぜか少しだけ怒ったような顔をする。

「大丈夫だ。」

何だかよく分からなかったけれど、一緒に行けるという嬉しさが胸に広がった私はすぐにチケットを手渡す。

「ありがとうまもちゃん!まもちゃんもスリーライツ好きだったんだね!」

「…まあな。」

そして再び私の頭をポンポン叩いた。











「うさぎー!衛君来たわよー!」

下から聞こえるママの声に勢いよくドアを開ける。

「はーい!」

そして小声で、「じゃあルナ、行ってくるね!」と、ウインクしながら告げる。

「うさぎちゃん!」

「…?なあに?」

「…いいえ、なんでもないわ。行ってらっしゃい。」

「?変なルナ。」

私がそう言うとよく分からないけど溜め息をつかれた。


ドアを閉めた私はすぐにそんな変な態度のルナのことも忘れて彼が待つ玄関へ足取り軽く向かって行った。

※※※



ライブのリハも無事に終了して、本番まであと一時間。俺達は控え室で最後の確認をしていた。


「いよいよこれが終わったらキンモク星だな。」

俺はふっと息を吐いてそう言った。

「そだね。」

と言いながらも時計をチラチラと落ち着きなく見ている夜天。不思議に思って声を掛けようとしたその時。

ドアをノックする音が聞こえ、ビックリするほど素早く夜天はそちらに身を翻して開けに行く。

「はいど~ぞ!」

「「こんにちはー!!」」


ドアが開かれた瞬間、俺はバカみたいに口を半開きにして立ち尽くしてしまう。

「星野?…口。」

後ろから大気に冷静に言われて、呆けたまま口を閉じる。

そこには、地球の仲間達が勢揃いで笑顔でこちらを向いて立っていた。



中心には、会いたくて会いたくなかった…彼女。



「お団子…」



「星野!久しぶり!」


そう言う彼女の笑顔は変わっていなくて。

でも何て言うか、やっぱりずっと綺麗になっていて…。


人懐こい笑顔の中に俺の知らない女の顔を見た気がした。


嬉しいのに、胸の痛みはジワリと俺を蝕んでいく。


「もー星野くんたら私達もいるんですけどー?」

美奈子がわざとらしく不満気な声で釘を刺したことで意識をこちらに戻す。


「おう!皆元気だったか!?」


心の疼きを悟られないようにいつもの笑顔を作ってそう言った。













「じゃあ、本番前に押し掛けちゃってごめんね!」

しばらく他愛ない話をしたあと、お団子が切り出した。

「いーのいーの僕達が頼んだんだから!」


夜天…。お前やっぱりそういうことかよ…。



俺が心の中でげんなりしていると大気がポンと肩を叩いてくる。

「では。久しぶりのライブ、私達頑張りますので、応援よろしくお願いしましたよ?」

彼女達に笑顔でそう告げる。

「はい!星野、頑張ってね!途中で歌詞間違えるんじゃないわよ?」

「バーカ。お前じゃあるまいし。そんなドジ踏むかよ!」

俺の言葉に言い返しながらも楽しそうに笑ってる。

大丈夫…。俺、変じゃないよな?

いつも通りに話せているか心配だったけれど、お団子の笑顔を見たら少しだけ安心した。


そして笑顔の彼女達を見送りドアを開ける。部屋の前の通路に目を向けると、心臓がドクリと大きく鳴った。




「まもちゃんお待たせ!」


そこにはお団子の恋人、地場衛が待っていた―――――

※※※



「あ!星野。ちゃんと紹介してなかったよね?こちら地場衛さん。私の…」

「恋人だろ?紹介なんてしなくても、前に嫌というほど聞かされたぜ。」

お団子の言葉を遮って話す。その時、衛の表情が一瞬歪んだのを俺は見逃さなかった。



「で、こっちが星野光くん!」

「ああ。うさが世話になったな。」

今さっきの表情が嘘だったかのように余裕の笑顔で俺に握手を求めてくる。


「いいえ。」


俺はその手を握り締める。すると、一瞬ビリッと電気のようなものが流れたのを感じて、反射的に衛の顔を見た。

そこには色んな仮面を脱いだ本心をさらけ出したような瞳があった。


手を離せばすぐにそれは元に戻り、恋人に優しい笑顔を向けている。


「衛さん!」


去ろうとする後ろ姿に呼び掛ける。

「…何?」

クールな笑顔でそう返す奴に何だか無性に腹が立って思わず睨む。

「話、あるんですけど。ちょっとだけいいですか?」

後ろで夜天と大気が慌てる気配を感じたけれど気にしない。


「俺は君に話すことは何もないけど。」


さらりとそう言う奴に更に苛立ちが増す。

「5分でいいですから!」


衛はお団子たちに先に行くように促し、どこか心配そうな表情を浮かべたお団子も恋人にしばしの別れを告げて、仲間たちと会場に向かって行った。



「僕達も先に行くけど、すぐに来てよね!」

夜天が大気と走りながら忠告してくる。

俺は短く返事をすると、控え室に衛と共に入った。

※※※



「俺はお団子が好きだ。」

衛がドアを閉めるのを確認すると真っ先にそう伝える。

その完璧な仮面を崩してやりたかった。


「ああ。」


だけど落ち着いてそう答えるだけで、瞳を全く揺らさずに俺のことを正面から見てきた。

「余裕…なんだな?俺、アンタのいない間、ずっとあいつと一緒だったんだぜ?自分の恋人に気のある奴がそばにいたこと、気になんねえのかよ!?」


俺が熱くなればなるほど、衛はクールに冷静になっていく。そんな気はしたけれど、言ったことを今さら訂正しようとは思わなかった。



「うさは今、俺と一緒にいる。それが全てだ。」



理路整然とした言い方。全く隙がなくて、悔しくても間違っていない真実。



真っ直ぐの瞳、お団子に対する真っ直ぐな思いをぶつけられて、堪らなくなり視線を外した。




「ああ…そうだよな。あの頃も今も。俺の入り込める隙間なんて、全然無かったよ。」

自嘲気味に笑いながら言い返した。



「じゃあ、ライブ頑張って。」


衛は何事も無かったようにそう言うとドアノブに手を掛ける。


「衛さん!」


「何?」


「これからもアイツの笑顔、ずっと守ってやって下さいよ?」


俺がそう言うと、意地悪な笑みを向けてくる。


「君に言われなくても。」

「お前ようやく本性だしたか!?お団子は知ってるのかね~。彼氏がこんなんだってこと。」

「知っても知らなくても、俺はうさを離すつもりなんて無いからな。」

!?

「じゃあな。」



そう言い残してドアがバタリと閉まる。




「言うじゃん…。」



悔しいはずなのに、何だか胸はスッキリしていた。

会えなかった時期に欲しくて欲しくて堪らなかった気持ちも、実際あいつらを見たら何だか不思議なほど消えていくのを感じていたのだ。


お団子を好きな気持ちは変わらないけれど


自分でもどうしようもなかった薄暗い闇が徐々に晴れていく。




そんな気がした。







だからライブで、あいつらが仲良く肩を並べて聴いているのを見ても、あんなに不安だった気持ちの乱れが起こることもなく、歌うことができた。






お団子





これからも幸せにな





今なら、心からそう願える――――――



おわり(初出2012年)
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