嫉妬シリーズ(前サイトからの移行作品集)

『想われプリンセス』(まもうさちび+モブ)

俺がうさとの待ち合わせに、絶対約束の時間よりも早く行くのには訳がある。

本を読んでいたいから?

いや

そんな小さいことではない。


遅れてきたうさが、まっすぐに俺だけを見て一生懸命走ってくる姿を見るのが好きだから?



それもある


だが、本当はもっと別の理由が俺の心の大半を占めている。




以前、どうしても講義の都合で待たせてしまったことがあった。

急いで待ち合わせ場所に駆け付けた俺は、想像したくない事態を目撃する。

うさの隣に座り込んで何やら楽しそうに話している一人の男。


うさと同じ十番高校の制服。やたらと親しげに話しているところを見れば…おそらくクラスメートなのだろう。


あの男を見るのは初めてではない。いつだったか、高校まで行って待っていた時、うさの隣を歩いて同じように嬉しそうに話していた。

俺のことに気付いたうさが彼に何か一言声を掛けて手を振り別れる。
すると彼は切なそうにうさを見つめ、俺のことを一瞬睨んできた。


その時に俺は思った。あの男はうさに確実に好意を抱いている…と。





俺は心をざわつかせたまま、顔には出さず、2人の側に歩み寄る。


「うさ。遅れてごめんな。」

「まもちゃん!」

満面の笑顔をうかべるうさと、対照的に顔を強張らせる十番高校の男子生徒。

俺は意識的にその男を無視して恋人に笑顔を向ける。

「行こうか。」

「うん!あ…またね森口くん!」

そう笑顔でクラスメートに手を振り俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

すると森口と呼ばれるその男はあからさまに目を逸らして複雑な表情を浮かべていた。

「またな、うさぎ。」

そう言ってその場を逃げるように立ち去った。



「うさぎ…」


あいつ…勝手に名前で呼んだりして。

まさかクラスメートはみんな下の名前で呼び合ってる…って訳じゃないだろ。


「?なあに?まもちゃん。」


俺のあいつに向ける歪んだ気持ちなんて全く気付かずに、隣の恋人は顔を覗き込んでくる。


「…いや、何でもないよ。それより、今度から俺が遅れる時は先にマンションに行ってていいから。そのための合鍵…だろ?」

俺がわざと合鍵という言葉を強調して言うと、案の定うさは顔を赤くして、分かった…と小さく頷いた。




そんなことがあったから、俺は必ず予定時刻よりも早く行き、うさを待つことにしている。

※※※

あたしが一番知ってると思う。


だってまもちゃんはあたしのパパだから。


うさぎでも気付かない、ちょっとした仕草や言葉で、まもちゃんが何を考えてるのか…よく分かるんだ。


「最近、うさ学校楽しそうか?」

あたしとうさぎでまもちゃんの家にお泊まりに行ったときに、うさぎがお風呂に入っている間に急にそう聞かれた。

「どして?いつもと変わらず皆と騒いで、赤点取って体育で怪我して…。まあ楽しそうにしてるんじゃない?」

まもちゃんは伏し目がちだった視線を急にこっちに向けて怒ったような表情を浮かべる。

「皆って?」

どうしたんだろ?そんなこと改まって聞いてくるなんて…。

この怒ったような顔、前にも見たことある。


「森口って名前、聞き覚えあるか?」

「森口…?ううんないけど。」


あたしがそう言うと、まだ不安そうな空気は残しているけれど、小さく溜め息をついて「そうか。」と、少し安心したように視線を落として微笑した。


やっぱり、この反応はアレだ。


ったくうさぎのヤツ…


「要するにまもちゃんは森口って人にヤキモチやいてるってことなんだよね?で、天然鈍感うさぎは何も気付いてない…と。」



あたしの察しの早さに驚いてはいたものの否定もしなかった。



「うさには余計なこと言わなくていいから。俺はうさを信じてるし。だけど…」



あたしは次の言葉に頷くと、浴室のドアが丁度開いた音がして、その時の会話は終わった。





数日後。


あたしが月野家に桃ちゃんの家から帰ってくると、うさぎが固定電話で誰かと話していた。

「うん分かった。明日の10時に駅だね!じゃあね~。」


まもちゃんや美奈子ちゃんたちとは最近携帯で話している。
だから、電話の相手はそれ以外の誰か。

あたしは嫌な予感がした。

「あ!ちびうさおっかえり~!今日はママ特製ビーフシチューだよ。」

そうやって屈託のない笑顔であたしを出迎える。

あたしはその笑顔で危うく聞きたいことを言い逃しそうになった。

「…ただいま!それよりうさぎ。今の電話誰から?」

「ああ電話ね。同じクラスの森口君って人からよ?」

森口…!!

嫌な予感が当たってしまったことに一瞬表情が固まってしまう。

「ふ…ふーん?その森口って人、うさぎに何の用だったの?何か約束してたみたいだったけど。」

慌てて表情を戻して問いかける。

「明日2人で買い物に行くの。」

「は?デート!?」

あたしが血相変えてそう言うとうさぎはケラケラ笑う。

「やっだ~!デートじゃないって~。森口くんの妹さんが明日誕生日だから一緒にプレゼント選んで欲しいって言われただけよ。これでも私は学校では頼られてるんだから!」

そうしてなんだか得意気に胸をポンっと叩いて見せるうさぎ。

ばか…

まもちゃんのあの様子じゃ、うさぎにその気が全く無くても、その森口っていう男は確実にうさぎが好きで、絶対デートのつもりで誘ってるってば!!


これは一度森口にはガツンと痛い目見てもらわなきゃ。

あたしはまだ見たこともない森口という男に敵意にも似た感情を抱いていた。




うさぎがリビングに入るのを見届けてから、まもちゃんに電話を掛ける。



『もしそいつがうさに近づくようなことがあれば、俺にすぐ知らせろ。』


あの、鷹をも射落としてしまうかのような鋭い目で言ったまもちゃんの言葉を思い出しながら――――

うさぎは知らない。自分の恋人が誰かにこんな目を向けることなんて…。



「うさぎ、その子…誰?」

「ん?妹(大嘘)だよ!」

「ちびうさって呼んでください!お兄ちゃん。」

午前中の爽やかな日射しの駅前通りには、明らかに困惑している森口と、ニッコリと微笑むうさぎ。そして、子供らしく笑って見せたあたしの3人が約束の時間に居合わせていた。

森口という男、一体どんなやつかと思って来てみれば、かなりイケメンの部類に入るルックスで、スポーツでもしているのか肌は健康そうな褐色。うさぎのことを見つけて手を振って呼ぶその姿は爽やかそのもので、不覚にもドキッとしてしまった。


いや、でも!


まもちゃんとうさぎの仲を脅かす存在は、今のうちに徹底的に排除しておかなくちゃ!!


だってあたしの存亡の危機になる可能性がある訳だし。もちろん二人のことが大好きなあたしとしては断固として阻止してみせる!








昨日の電話のあと、あたしはうさぎに一つの提案をしていたのだった―――



「ねえねえ!その森口くんの妹のプレゼント選ぶなら、小学生事情に詳しいあたしも一緒に行ってアドバイスしてあげるよ!」

「え~?あんたが?」

うさぎは少し迷惑そうな顔をしていたけど、あたしは構わずに続ける。

「伊達に小学生やってないよ!それともうさぎは、女の子の間で今流行ってるものとか知ってるわけ?」

ズイッとうさぎに顔を近付けてニヤリと笑う。

「…もう!分かったわよ!その代わり、選んでるうちにちびうさが何か欲しくなっても買わないわよ?私だってお小遣い前なんだから。」

「分かってるってば!どケチのうさぎには最初っから期待してませ~ん。」

べーっと赤い舌を覗かせて言い返す。

その後も、やいのやいのと押し問答を繰り返していたけれど、内心は、とりあえず2人で出掛ける事態は免れたことにほっとしていた。










「え~と、実は今日…妹が急に熱出してさ!だから、誕生日どころじゃないんだ。」

「妹さん熱なの!?大丈夫!?」

うさぎは本気で心配してる。

でも…あたしから見れば、この男、絶対嘘ついてる。

だってあたしがいることでうさぎと2人でデートはできないし、何より目が泳いでいて変に身振り手振りが多くなってるもの。


「あ…ああ大丈夫!…でも、プレゼント選びは今日は止めようと思って。断ろうとしてここに来たんだ。」

なーによ。見かけによらず根性無い男ね。あたしがいるからってやめるなんて。

あたしは冷めきった目で彼を見やる。

するとその視線に気付いた森口が、あたしのことを見てぎょっとする。

彼のその表情を確認した後で、再びあたしはこれ見よがしに泣きそうな顔を作って「妹さん…お大事にね。」としおらしく言ったものだからかなり戸惑っていた。へんな汗を吹き出してる。

そして少しの間の後、顔を引きつらせながら「ありがとう」と棒読みのセリフのように返してきたのだった。

うさぎはそんなあたしたちの微妙な空気にも気付かず、「早く帰ってあげなよ。」と、森口に声を掛けてあげている。


まったくうさぎったらどこまでもお人よし。日ごろのまもちゃんの苦労が目に見えるなあ…。


優しいところはうさぎの長所でもあるし、時としては短所にもなる。


あたしがそんなことを思いながら小さくため息をついていると、ここにいる天然お姫様の恋人がこちらに向かって真っ直ぐ歩いて来るのが見えた。

※※※

俺は、ちびうさから聞いていた場所に三人がいるのを確認すると、ゆっくりと向かっていった。

いち早く俺に気がついたちびうさが、いたずらっぽく微笑んでくる。

この様子だと、俺が出なくても大丈夫だったのだろうか。


いや、でも。


うさを好きだとかいう存在は、今のうちに徹底的に排除しておかなくては。




「あ!まもちゃんだ!!」

さも今気づいたかのようにちびうさが声を上げる。

俺は小さく手を挙げて見せた。

するとうさが無邪気に微笑んで、手を振り返してくる。

「まもちゃん!偶然だね!約束もしてないのに会えちゃうなんてうっれしい~!」

「そうだな。ちょっと見たい本があって、駅前の本屋に行くところなんだ。」

俺は今度は森口のことを見て笑いかける。

「どうも。前にも会ったよな?うさのクラスメート?」

「え?…はい。」

俺に話しかけられるとは思っていなかったのか、戸惑いながら返事をする。

「これから出かけるの?三人で?」

微笑みながらも見えない威圧感を漂わせながら森口に問いかける。

「あ…いや…。」

「そう思ってたんだけどね、森口君の妹さんが急に熱を出しちゃって。だから今日はこれでバイバイしようとしてたんだ!」

返事に窮していた森口の代わりにうさが身を乗り出して答える。そして森口の方に向き直って「そうだよお大事にね」と、労いの言葉を掛けてあげていた。

「急に熱が、ね。」

俺はまっすぐに森口を見据えてゆっくりそう言う。

その様子に気付いたヤツが少し顔を青ざめる。
うさはその変化を妹を心配しているものだと思ったのか早く帰るように促していた。

「心配だよねえ、まもちゃん。」

隣にいたちびうさが俺と同じ様な表情をして呟く。

「ああ。心配だな。」

俺はうさの肩を抱き、表情は変えないまま言う。

そしてうさを自分の体にピタリと密着させる。



うさは俺のモノ



誰にも渡さない



「早く帰ってやれ。」



諦めて帰るんだな




俺の絶対零度を持った心の声が聞こえたかのように森口は押し黙り、俯く。


「うさ…月野、もう誘ったりしないから。じゃ、じゃあな。」

「?…うん。じゃあね!…!?」

うさがまた森口に笑い掛けようとしたところで、俺は触れるだけのキスをする。


この行動はちびうさも予想外だったらしく、森口と同じ様に赤面して唖然としていた。



あいつに笑顔なんか見せてやらない。



うさは、俺だけを見ていて。



クラスメートの前でされた行為に恥ずかしがるうさの頭を撫でながら、俺は森口に意地悪な笑みを向ける。


対する彼は、怒りと悔しさと半ば諦めた表情を露にして、走り去って行った―――――




そのあとは、3人でいつものように過ごす。

本屋の帰り道、アイスクリーム屋に寄り、うさがアイスに悩んでいる間、ちびうさが俺のことをつついてくる。


「まもちゃん、わが父ながらちょっと怖いよ。」

冗談混じりに囁かれた。

俺は何事もなかったかのようにふっと笑い、ちびうさの頭をクシャクシャと撫でる。

「チョコとイチゴとバニラのトリプルにしちゃった!3人でわけっこしようね!」

うさが嬉しそうに俺達に言ってくる。

「うん!」
「ああ。」

同時に2人で笑顔で答えた。

曇りない笑顔を愛しい彼女に向けて――――


おわり(初出2011年)

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