boys & girls(年齢逆転パロ)
2.
「じゃあね!衛くん、また放課後ね♪」
「うん。」
衛くんの頬にキスを一つ送ると、彼は真っ赤な顔をしてちょっとだけ口を尖らせた。それが可愛くてばいばいと大きく手を振った私はピョンピョン跳ねるように学校へ向かう。
そんな私を後ろからがっちりと肩を掴んで「うーさーぎー?」と呼びかけてくる友人に慌てて振り向いた。
すると美奈Pが顔を赤くしながら怒りの表情で私の両肩をそのままぶんぶん振りながら攻撃してくる。
「ちょっとちょっと何なのよあの元麻布中のイケメン君はーーー!!」
「えへ♪カレシだよん☆地場衛くん!可愛いでしょ~♪」
「くっそー!デレデレすんなー!!」
「美奈P、私、幸せよ…?」
「んなこたあ分かってる!つか聞いてない!!」
「おーい二人ともーそんなとこで喋ってると遅刻だぞ。」
私たちの横を通り抜けるまこちゃんはやれやれって顔しながら言ってきた。それにつられて私と美奈Pも歩き出す。
「おはよーまこちゃん!」
「おっす!今日も二人とも朝から元気だな。」
「ちょっと聞いてよまこちゃん!うさぎってば中学生に手出してんのよ!?犯罪よ犯罪っ!!」
もー美奈Pってば大げさなんだからー。
「あらあら私達清い交際よ♪」
「朝っぱらから堂々とほっぺにチューしてたのはどの口かーー!!」
うふっと笑って言った私に、美奈Pが容赦なく口を両側から引っ張ってくるから両手をバタバタさせて抵抗した。
「いはぁい(痛い)ははひへほ~(離してよー)っ!」
「うさぎ彼氏が出来たのかー。いいなあ…。でも私は年上で背も私より大きい人が理想だな!」
「衛くんは年下だけどカッコいいし、背だって伸びるもん!それに…衛くんといると私、一番ホッとするの!この辺がポカポカあったかくなるんだよ?」
胸を押さえて必死に言う私を見た二人はポカンとして、いたたまれなさそうに頬を染めると溜め息を付いた。
「分かったよ。うさぎがその、衛くんにベタ惚れだってことは。けど朝からこれ以上の惚気は胃がもたれるな…。ほら、学校急ぐよ!」
「さんせーい!うさぎ!置いてくわよ~?」
美奈Pも走り出す。体育会系の二人の走りに付いていくのは私には至難の業。涙目になりながら「待ってよ~!」と必死に後を追ったのだった。
※※※
放課後。うさぎさんと待ち合わせしている一の橋公園に向かう。
朝のうさぎさんを思い出すとどうしても顔が赤くなっていきそうになるから溜め息を漏らして手の甲で目元を隠す。
付き合ってからの彼女の変わり様は本当に、可愛いを通り越して小悪魔だ。これが三つ年上の余裕なのか、彼女の天然から来るものなのかいまいち分からない。でもそのどちらにしても俺のことを翻弄していることには変わりは無く。
いまだに自分のポジションを上手く確保できずにいた。
年下だって言っても。俺はうさぎさんの彼氏なわけで。あんまりやられっぱなしなのは良しとしない、14歳なりのプライドだってある。
けれど腕を絡めてきたり、キスをしたり抱きついてくる彼女の香りや柔らかさ、そして白さや細さなどに気を持っていかれ過ぎて…やり返すこともできず。
本当に情けなくて、そんな自分が嫌にもなる。
自制の利かない思春期なんて早く終わってしまえとも思う。
けれど彼女が自分に触れてくれるだけで、そんな不埒な男子中学生の欲求とは別に、酷く安心する自分もいて。だから拒否することも絶対にできなくて。
こんなアンバランスな自分の気持ちに折り合いなんて付くはずもないから。だったらもう、ぐちゃぐちゃ悩んでないでもっと彼女の近くで一緒にいたいという一番シンプルな自分の望みをぶつけても良いような気がしてくる。
俺だってもっとうさぎさんのことが知りたいし、うさぎさんに…触れたい。
俺は漸く手を顔から離して真っ直ぐに前を見つめて歩き出した。
「お待たせ~!ごめんね、たくさん待っちゃった?」
明るい声が飛び込んできて、読んでいた本から顔を上げる。するとうさぎさんがにっこり微笑んで立っていた。
うん。やっぱり今日は言うぞ。
俺はさっきの決意をその笑顔を見て新たにする。
「大丈夫。俺も今来たから。」
できるだけ何でもない風に、できるだけさりげなく…
頭の中では全く別のことを考えながら彼女の質問に答える。
「ホント?良かった♪あれ?何の本読んでたの?」
ベンチに腰掛ける俺の隣にピョコンと座る彼女は覗き込んで聞いてきた。
顔が近い。うさぎさんの香りが柔らかく漂ってきてぐっと息を飲んだ。
「…ガリレオ。」
「あー知ってる!!『実におもしろい』ってやつでしょ!?」
「それ違う。ドラマじゃなくて、その彼のあだ名の由来の人物、物理学者で天文学者のガリレオ・ガリレイの本だよ。」
うさぎさん…相変わらず頭の中はカボチャだなぁ…。
なんて、がっくりしながら失礼なことを思っていたら。
「へえー??衛くんってやっぱりすごいのね!こーんな難しそうな本を読めちゃうんだからっ!」
キラキラした目で真っ直ぐ言われてすぐさま心の中の非礼を詫びた。そして空を見上げて一呼吸置くと俺もうさぎさんの事を真っ直ぐ見つめて話し出す。
「俺、星が好きだから。」
「星?」
「そう。ガリレオって、天体望遠鏡での観測を初めて実演した人物なんだ。金星や木星も、ガリレオが発見したんだよ。」
「そうなの…?」
目を見開いてそう言ったうさぎさんはどこか遠い目をしているようだった。
「ごめん、興味なかったか。」
「ううん!私も星、大好き!」
「そっか。」
星が大好きだという彼女の微笑みは本当に可愛くて。うさぎさんの裏表の無い表情と言葉に俺の心は自然と温かくなる。
「今日はこれからどこ行く?衛くんお腹すいた?」
「お腹空いてるのはうさぎさんなんじゃないの?」
「あはは!ばれましたか。」
ばればれ。と返せばうさぎさんは怒りながらも笑って俺の肩を叩いてきた。
言おうか。うん。言うなら今だよな…
「あのさ…今日は、俺の家、来ない?」
よし。言った。やばい。俺の心臓こんだけで脈速くなりすぎだろ。しかも若干声が上擦った…?情けない。
「へ?」
「腹が減ってるなら何か買ってさ。俺の家で…食べれば?」
無意味に頭を掻きながら目を逸らしつつ言う。
「うん!行く!!」
二つ返事で誘いに乗る彼女に何となく想像していたこととはいえ若干の肩透かしを食らった。
嬉しそうに笑っている様子は可愛くはあるけれど。全く警戒していない素振りに、やはり自分のことを『男』と意識されていないのでは。という気持ちも広がったから。
「うさぎさん、コンビニのスイーツとか好きそうだよな。」
立ち上がって歩き出すと、手を繋いでくる彼女に先程までの己の気持ちを払拭するように明るく聞く。
手を繋ぐと上がる心拍数は相変わらずだが、やっぱりどこか安心する。まるで、ずっと昔からその温もりを知っていたような…そんな気がして。
「わ!何で分かるの!?」
「やっぱり。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で言う彼女の反応が面白くてつい笑みが零れると、今度はうさぎさんが真っ赤になって俯いた。可愛いなあ…。そんなことを思っていると。不意に何かに気付いたように顔を上げた彼女は若干の緊張を走らせて俺のことを見てきた。
「そうだ!衛くんの家族にも何か買っていったほうがいいよね?」
「あー、大丈夫。」
「でも、」
「いないから大丈夫。」
「え?」
不思議そうな顔をする彼女にぎこちなく微笑む。
両親はいない。俺の六歳の誕生日に二人とも交通事故で他界したから。
でも今、この青空の下でそれを話すのは憚られて。
それに、それを話してうさぎさんがどんな反応をするのか…少し怖かった。
今までの周囲の人間と等しく同情をぶつけられても、それを正面から受け止められるほど素直な子どもでもないし、過去だと割り切れるほど大人でもない。
それにしても…そうか。
俺はうさぎさんのことがもっと知りたい。
でも、それと同じ様に俺の心も彼女に少しずつ開いていかないと駄目なんだよな。
うさぎさんと…もっと深く繋がりたいのなら。
手離したくない人だと、思うなら。
「家着いたら話すよ。」
「…うん。」
流石に空気が少し変わったことを察したのか、うさぎさんは特にそれ以上追及することもなく、その代わりに俺の手を握る力をほんの僅かに強めた。
「じゃあね!衛くん、また放課後ね♪」
「うん。」
衛くんの頬にキスを一つ送ると、彼は真っ赤な顔をしてちょっとだけ口を尖らせた。それが可愛くてばいばいと大きく手を振った私はピョンピョン跳ねるように学校へ向かう。
そんな私を後ろからがっちりと肩を掴んで「うーさーぎー?」と呼びかけてくる友人に慌てて振り向いた。
すると美奈Pが顔を赤くしながら怒りの表情で私の両肩をそのままぶんぶん振りながら攻撃してくる。
「ちょっとちょっと何なのよあの元麻布中のイケメン君はーーー!!」
「えへ♪カレシだよん☆地場衛くん!可愛いでしょ~♪」
「くっそー!デレデレすんなー!!」
「美奈P、私、幸せよ…?」
「んなこたあ分かってる!つか聞いてない!!」
「おーい二人ともーそんなとこで喋ってると遅刻だぞ。」
私たちの横を通り抜けるまこちゃんはやれやれって顔しながら言ってきた。それにつられて私と美奈Pも歩き出す。
「おはよーまこちゃん!」
「おっす!今日も二人とも朝から元気だな。」
「ちょっと聞いてよまこちゃん!うさぎってば中学生に手出してんのよ!?犯罪よ犯罪っ!!」
もー美奈Pってば大げさなんだからー。
「あらあら私達清い交際よ♪」
「朝っぱらから堂々とほっぺにチューしてたのはどの口かーー!!」
うふっと笑って言った私に、美奈Pが容赦なく口を両側から引っ張ってくるから両手をバタバタさせて抵抗した。
「いはぁい(痛い)ははひへほ~(離してよー)っ!」
「うさぎ彼氏が出来たのかー。いいなあ…。でも私は年上で背も私より大きい人が理想だな!」
「衛くんは年下だけどカッコいいし、背だって伸びるもん!それに…衛くんといると私、一番ホッとするの!この辺がポカポカあったかくなるんだよ?」
胸を押さえて必死に言う私を見た二人はポカンとして、いたたまれなさそうに頬を染めると溜め息を付いた。
「分かったよ。うさぎがその、衛くんにベタ惚れだってことは。けど朝からこれ以上の惚気は胃がもたれるな…。ほら、学校急ぐよ!」
「さんせーい!うさぎ!置いてくわよ~?」
美奈Pも走り出す。体育会系の二人の走りに付いていくのは私には至難の業。涙目になりながら「待ってよ~!」と必死に後を追ったのだった。
※※※
放課後。うさぎさんと待ち合わせしている一の橋公園に向かう。
朝のうさぎさんを思い出すとどうしても顔が赤くなっていきそうになるから溜め息を漏らして手の甲で目元を隠す。
付き合ってからの彼女の変わり様は本当に、可愛いを通り越して小悪魔だ。これが三つ年上の余裕なのか、彼女の天然から来るものなのかいまいち分からない。でもそのどちらにしても俺のことを翻弄していることには変わりは無く。
いまだに自分のポジションを上手く確保できずにいた。
年下だって言っても。俺はうさぎさんの彼氏なわけで。あんまりやられっぱなしなのは良しとしない、14歳なりのプライドだってある。
けれど腕を絡めてきたり、キスをしたり抱きついてくる彼女の香りや柔らかさ、そして白さや細さなどに気を持っていかれ過ぎて…やり返すこともできず。
本当に情けなくて、そんな自分が嫌にもなる。
自制の利かない思春期なんて早く終わってしまえとも思う。
けれど彼女が自分に触れてくれるだけで、そんな不埒な男子中学生の欲求とは別に、酷く安心する自分もいて。だから拒否することも絶対にできなくて。
こんなアンバランスな自分の気持ちに折り合いなんて付くはずもないから。だったらもう、ぐちゃぐちゃ悩んでないでもっと彼女の近くで一緒にいたいという一番シンプルな自分の望みをぶつけても良いような気がしてくる。
俺だってもっとうさぎさんのことが知りたいし、うさぎさんに…触れたい。
俺は漸く手を顔から離して真っ直ぐに前を見つめて歩き出した。
「お待たせ~!ごめんね、たくさん待っちゃった?」
明るい声が飛び込んできて、読んでいた本から顔を上げる。するとうさぎさんがにっこり微笑んで立っていた。
うん。やっぱり今日は言うぞ。
俺はさっきの決意をその笑顔を見て新たにする。
「大丈夫。俺も今来たから。」
できるだけ何でもない風に、できるだけさりげなく…
頭の中では全く別のことを考えながら彼女の質問に答える。
「ホント?良かった♪あれ?何の本読んでたの?」
ベンチに腰掛ける俺の隣にピョコンと座る彼女は覗き込んで聞いてきた。
顔が近い。うさぎさんの香りが柔らかく漂ってきてぐっと息を飲んだ。
「…ガリレオ。」
「あー知ってる!!『実におもしろい』ってやつでしょ!?」
「それ違う。ドラマじゃなくて、その彼のあだ名の由来の人物、物理学者で天文学者のガリレオ・ガリレイの本だよ。」
うさぎさん…相変わらず頭の中はカボチャだなぁ…。
なんて、がっくりしながら失礼なことを思っていたら。
「へえー??衛くんってやっぱりすごいのね!こーんな難しそうな本を読めちゃうんだからっ!」
キラキラした目で真っ直ぐ言われてすぐさま心の中の非礼を詫びた。そして空を見上げて一呼吸置くと俺もうさぎさんの事を真っ直ぐ見つめて話し出す。
「俺、星が好きだから。」
「星?」
「そう。ガリレオって、天体望遠鏡での観測を初めて実演した人物なんだ。金星や木星も、ガリレオが発見したんだよ。」
「そうなの…?」
目を見開いてそう言ったうさぎさんはどこか遠い目をしているようだった。
「ごめん、興味なかったか。」
「ううん!私も星、大好き!」
「そっか。」
星が大好きだという彼女の微笑みは本当に可愛くて。うさぎさんの裏表の無い表情と言葉に俺の心は自然と温かくなる。
「今日はこれからどこ行く?衛くんお腹すいた?」
「お腹空いてるのはうさぎさんなんじゃないの?」
「あはは!ばれましたか。」
ばればれ。と返せばうさぎさんは怒りながらも笑って俺の肩を叩いてきた。
言おうか。うん。言うなら今だよな…
「あのさ…今日は、俺の家、来ない?」
よし。言った。やばい。俺の心臓こんだけで脈速くなりすぎだろ。しかも若干声が上擦った…?情けない。
「へ?」
「腹が減ってるなら何か買ってさ。俺の家で…食べれば?」
無意味に頭を掻きながら目を逸らしつつ言う。
「うん!行く!!」
二つ返事で誘いに乗る彼女に何となく想像していたこととはいえ若干の肩透かしを食らった。
嬉しそうに笑っている様子は可愛くはあるけれど。全く警戒していない素振りに、やはり自分のことを『男』と意識されていないのでは。という気持ちも広がったから。
「うさぎさん、コンビニのスイーツとか好きそうだよな。」
立ち上がって歩き出すと、手を繋いでくる彼女に先程までの己の気持ちを払拭するように明るく聞く。
手を繋ぐと上がる心拍数は相変わらずだが、やっぱりどこか安心する。まるで、ずっと昔からその温もりを知っていたような…そんな気がして。
「わ!何で分かるの!?」
「やっぱり。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で言う彼女の反応が面白くてつい笑みが零れると、今度はうさぎさんが真っ赤になって俯いた。可愛いなあ…。そんなことを思っていると。不意に何かに気付いたように顔を上げた彼女は若干の緊張を走らせて俺のことを見てきた。
「そうだ!衛くんの家族にも何か買っていったほうがいいよね?」
「あー、大丈夫。」
「でも、」
「いないから大丈夫。」
「え?」
不思議そうな顔をする彼女にぎこちなく微笑む。
両親はいない。俺の六歳の誕生日に二人とも交通事故で他界したから。
でも今、この青空の下でそれを話すのは憚られて。
それに、それを話してうさぎさんがどんな反応をするのか…少し怖かった。
今までの周囲の人間と等しく同情をぶつけられても、それを正面から受け止められるほど素直な子どもでもないし、過去だと割り切れるほど大人でもない。
それにしても…そうか。
俺はうさぎさんのことがもっと知りたい。
でも、それと同じ様に俺の心も彼女に少しずつ開いていかないと駄目なんだよな。
うさぎさんと…もっと深く繋がりたいのなら。
手離したくない人だと、思うなら。
「家着いたら話すよ。」
「…うん。」
流石に空気が少し変わったことを察したのか、うさぎさんは特にそれ以上追及することもなく、その代わりに俺の手を握る力をほんの僅かに強めた。