boys & girls(年齢逆転パロ)
1.
あ。またあの大学生と喋ってる。
学校帰りに、この辺りでは人気のあるゲームセンターをちらっと見るともう探すのが習慣になってしまった彼女の揺れるお団子頭が見えた。
高校生って言ったって、女子が毎日のようにゲーセンに通うのはどうなんだよ。
腹が立つ原因を意識してすり替えようとするけれど、大学生だとかいうバイトの男と彼女が楽しそうに笑い合っているのを見て、そんな無駄な努力は一瞬で吹き飛び店内に足を踏み入れている自分がいた。
けれど話し込んでいるからか店員のはずの大学生は「いらっしゃいませ」の一言も無く。彼女も俺のことを気付かない。
何だよこの店、教育がなってないんじゃないか!?
とかどこぞの親父のような文句を心で叫びつつ、
お前もちょっとは気付けよな!!
と俺には絶対見せないような笑顔を浮かべている彼女にイライラが増して思っていたために、出た口調と言葉はこれ以上無いくらい刺々しかった。
「寄り道してる暇があるなら勉強しろよ、お団子頭のおねーさん。」
「え?あー!!あんた!!」
「いらっしゃいませ。」
こっちを向いたのはいいけれど俺のどうしようもない発言に真っ赤な顔して怒る彼女と、苦笑いしながら漸く店員の対応をする大学生。
「あーあーいいんですよー元基お兄さん。この小憎ったらしい中学生、どうせ嫌味言いに来ただけなんですから!」
「お前なあ!」
「だから!お団子頭とかお前とか、年上の大人なお姉さまに言わないでよ!」
「そういう了見狭いこと言っててど・こ・が!大人なんだよ!!」
「うっ…だ、大体!そういうあんたこそわざわざ嫌味を言いにくる暇があるなら勉強しに帰ったらいいじゃない!」
「ご心配なく。俺、頭いいから。お前と違って。」
「くあああっ!!口の減らないやつね!どーせ私は万年赤点補習組のおバカで運動も音痴な残念女子高生ですよーっだ!!」
「そこまで言ってないだろ!!」
「はーいはいはいはい。ケンカなら外でやってねー」
間に入った大学生に笑顔で制されてはっとなる。
お互い言い合っているうちに声が大きくなっていたようでかなり注目を浴びてしまっていた。
「――っ…!!帰るっ」
途端に羞恥に襲われてそう言って背を向け出口に向かう俺に、彼女の言葉が追い掛ける。
「ちょっと!言うだけ言って逃げるなんてゆるさなーい!!」
「気を付けてね二人とも。」
微笑んで手を振る大学生をちらっと見て、やっぱりそんな余裕な姿に腹が立って何も答えずにいると「はい!さようなら元基お兄さん♪」と笑顔で手を振り返す彼女にむしゃくしゃした気持ちは溜まる一方で。
「あれだけケンカしてうさぎちゃんも結局付いていくんだから、ほんと、仲がいいよなあの二人。」という大学生の独り言には俺も彼女も気付かずにいた。
俺に対して怒ってはいるけれど、隣で歩いてくれていることにほっとし、あの大学生にどことなく優越感を抱いていた。彼女に掛かると俺の感情は自分でも引くほど分かりやすく、そして驚くくらい単純になってしまう。あまり表情には出してないはずだから、鈍感な彼女は気付くはずもないけれど。
「うさぎちゃーん!」
しかし大学生の呼び止める声に俺は再び眉間に皺を寄せ、隣の彼女は不思議そうな顔をして振り返る。
「忘れ物。これがないと明日困るよ?」
追いかけて来た彼は彼女の通学鞄を差し出して笑う。
「あー!いっけない!ありがと元基お兄さん!」
「いえいえ。また来てね、うさぎちゃん。」
「はい♪」
店に戻っていく大学生にひらひら手を振っている彼女をじとっと睨みながら口を開く。
「お前バカだろ?いくら勉強しないとはいえ、どうやったらそんな大事なもん忘れられるんだよ。弁当はしっかり持ってるくせに。食い意地だけは立派だな。」
「うっさいわね!あんたのせいでしょあんたの!!」
「は?」
「いっつもやなこと言ってくるからあんたの事ばっかり考えちゃって周りが見えなくなっちゃうの!もう!どうしてくれんのよ!!」
「…っ!?」
どうしてくれると聞かれても、俺もどうとったらいいんだよそれ。
「ちょっと。なーによ黙っちゃって!あんたも忘れ物?」
ぐるぐる考えていると突然至近距離に彼女の顔があり声を上げそうになるのを咄嗟に抑えた。
落とした視線の先にある彼女の手を掴み、ゆっくりと顔を上げて真っ直ぐに見つめる。
「…違う。ていうかうさぎさん、自分が何言ってるか分かってる?」
俺の雰囲気が変わったことと名前で呼んだことに顔を赤くして瞳を揺らしている。初めて見るその表情に蓋をしていた想いが溢れてくるのを感じた。
「え…っと…」
答えを聞く前にその口を塞ぐ。
頭で考えるよりも先に体が動いていた。
思考は既に沸騰していてキャパオーバーなのに、自分の想いだけははっきりとクリアになっていくという、今まで経験したことのない感覚。
彼女が驚いているのも当然だが、何より俺自身がとてつもなく動揺していた。
初めてのキスがまさかこんな形で訪れるなんて俺も想像すらしていなくて。だけど彼女のふっくらと柔らかな唇の感触が、現実であることを告げてくる。
心臓がどうにかなってしまったんじゃないかというくらいドクドク鳴っていて体が甘く痺れたようにくらくらする。
唇を離し目を開けると、泣き出しそうな彼女の顔が見えて。そんな表情も胸を掴まれるように痛いのに…かわいい、だなんて。
駄目だ、俺。
この人のことが本当に―――
「な…んで…?」
とうとうポロッと一滴頬に涙を伝わせて問う彼女の両手を握る。それで自分の手も微かに震えているのが分かって情けなくなるけれど、溢れた想いは止まらない。
「怒ったっていい。泣いてもいい。そうやって、俺のことだけ、考えてくれるなら。」
「…!」
「あの大学生に、もう笑ったりしないで。」
「なんで…そんな…」
自分がどれくらい勝手で、訳分からないくらい我儘なことを言ってるのか分かってる。
いつだって一つも冷静になれなくて、必死で。勝手に嫉妬して勝手にキスして。ガキで、最低だよ。
だけど、それら全てはただ一つの事実から生まれるんだっていうことも…嫌というほど分かってる。
一度深呼吸して彼女の空色の瞳を真っ直ぐに捕えた。
「うさぎさんが、好きだから。」
「!!」
一段と目を大きくして何も言わない彼女に俺はもう一度伝える。
「うさぎが…好きなんだ。」
今度は両方の目から涙を零す彼女は微かに唇を開いた。
彼女の言葉がどんなものでも、受け止める。
この想いはそう簡単に消えるものではない。
覚悟を決めて彼女が紡ぐ言葉を待った。
あ。またあの大学生と喋ってる。
学校帰りに、この辺りでは人気のあるゲームセンターをちらっと見るともう探すのが習慣になってしまった彼女の揺れるお団子頭が見えた。
高校生って言ったって、女子が毎日のようにゲーセンに通うのはどうなんだよ。
腹が立つ原因を意識してすり替えようとするけれど、大学生だとかいうバイトの男と彼女が楽しそうに笑い合っているのを見て、そんな無駄な努力は一瞬で吹き飛び店内に足を踏み入れている自分がいた。
けれど話し込んでいるからか店員のはずの大学生は「いらっしゃいませ」の一言も無く。彼女も俺のことを気付かない。
何だよこの店、教育がなってないんじゃないか!?
とかどこぞの親父のような文句を心で叫びつつ、
お前もちょっとは気付けよな!!
と俺には絶対見せないような笑顔を浮かべている彼女にイライラが増して思っていたために、出た口調と言葉はこれ以上無いくらい刺々しかった。
「寄り道してる暇があるなら勉強しろよ、お団子頭のおねーさん。」
「え?あー!!あんた!!」
「いらっしゃいませ。」
こっちを向いたのはいいけれど俺のどうしようもない発言に真っ赤な顔して怒る彼女と、苦笑いしながら漸く店員の対応をする大学生。
「あーあーいいんですよー元基お兄さん。この小憎ったらしい中学生、どうせ嫌味言いに来ただけなんですから!」
「お前なあ!」
「だから!お団子頭とかお前とか、年上の大人なお姉さまに言わないでよ!」
「そういう了見狭いこと言っててど・こ・が!大人なんだよ!!」
「うっ…だ、大体!そういうあんたこそわざわざ嫌味を言いにくる暇があるなら勉強しに帰ったらいいじゃない!」
「ご心配なく。俺、頭いいから。お前と違って。」
「くあああっ!!口の減らないやつね!どーせ私は万年赤点補習組のおバカで運動も音痴な残念女子高生ですよーっだ!!」
「そこまで言ってないだろ!!」
「はーいはいはいはい。ケンカなら外でやってねー」
間に入った大学生に笑顔で制されてはっとなる。
お互い言い合っているうちに声が大きくなっていたようでかなり注目を浴びてしまっていた。
「――っ…!!帰るっ」
途端に羞恥に襲われてそう言って背を向け出口に向かう俺に、彼女の言葉が追い掛ける。
「ちょっと!言うだけ言って逃げるなんてゆるさなーい!!」
「気を付けてね二人とも。」
微笑んで手を振る大学生をちらっと見て、やっぱりそんな余裕な姿に腹が立って何も答えずにいると「はい!さようなら元基お兄さん♪」と笑顔で手を振り返す彼女にむしゃくしゃした気持ちは溜まる一方で。
「あれだけケンカしてうさぎちゃんも結局付いていくんだから、ほんと、仲がいいよなあの二人。」という大学生の独り言には俺も彼女も気付かずにいた。
俺に対して怒ってはいるけれど、隣で歩いてくれていることにほっとし、あの大学生にどことなく優越感を抱いていた。彼女に掛かると俺の感情は自分でも引くほど分かりやすく、そして驚くくらい単純になってしまう。あまり表情には出してないはずだから、鈍感な彼女は気付くはずもないけれど。
「うさぎちゃーん!」
しかし大学生の呼び止める声に俺は再び眉間に皺を寄せ、隣の彼女は不思議そうな顔をして振り返る。
「忘れ物。これがないと明日困るよ?」
追いかけて来た彼は彼女の通学鞄を差し出して笑う。
「あー!いっけない!ありがと元基お兄さん!」
「いえいえ。また来てね、うさぎちゃん。」
「はい♪」
店に戻っていく大学生にひらひら手を振っている彼女をじとっと睨みながら口を開く。
「お前バカだろ?いくら勉強しないとはいえ、どうやったらそんな大事なもん忘れられるんだよ。弁当はしっかり持ってるくせに。食い意地だけは立派だな。」
「うっさいわね!あんたのせいでしょあんたの!!」
「は?」
「いっつもやなこと言ってくるからあんたの事ばっかり考えちゃって周りが見えなくなっちゃうの!もう!どうしてくれんのよ!!」
「…っ!?」
どうしてくれると聞かれても、俺もどうとったらいいんだよそれ。
「ちょっと。なーによ黙っちゃって!あんたも忘れ物?」
ぐるぐる考えていると突然至近距離に彼女の顔があり声を上げそうになるのを咄嗟に抑えた。
落とした視線の先にある彼女の手を掴み、ゆっくりと顔を上げて真っ直ぐに見つめる。
「…違う。ていうかうさぎさん、自分が何言ってるか分かってる?」
俺の雰囲気が変わったことと名前で呼んだことに顔を赤くして瞳を揺らしている。初めて見るその表情に蓋をしていた想いが溢れてくるのを感じた。
「え…っと…」
答えを聞く前にその口を塞ぐ。
頭で考えるよりも先に体が動いていた。
思考は既に沸騰していてキャパオーバーなのに、自分の想いだけははっきりとクリアになっていくという、今まで経験したことのない感覚。
彼女が驚いているのも当然だが、何より俺自身がとてつもなく動揺していた。
初めてのキスがまさかこんな形で訪れるなんて俺も想像すらしていなくて。だけど彼女のふっくらと柔らかな唇の感触が、現実であることを告げてくる。
心臓がどうにかなってしまったんじゃないかというくらいドクドク鳴っていて体が甘く痺れたようにくらくらする。
唇を離し目を開けると、泣き出しそうな彼女の顔が見えて。そんな表情も胸を掴まれるように痛いのに…かわいい、だなんて。
駄目だ、俺。
この人のことが本当に―――
「な…んで…?」
とうとうポロッと一滴頬に涙を伝わせて問う彼女の両手を握る。それで自分の手も微かに震えているのが分かって情けなくなるけれど、溢れた想いは止まらない。
「怒ったっていい。泣いてもいい。そうやって、俺のことだけ、考えてくれるなら。」
「…!」
「あの大学生に、もう笑ったりしないで。」
「なんで…そんな…」
自分がどれくらい勝手で、訳分からないくらい我儘なことを言ってるのか分かってる。
いつだって一つも冷静になれなくて、必死で。勝手に嫉妬して勝手にキスして。ガキで、最低だよ。
だけど、それら全てはただ一つの事実から生まれるんだっていうことも…嫌というほど分かってる。
一度深呼吸して彼女の空色の瞳を真っ直ぐに捕えた。
「うさぎさんが、好きだから。」
「!!」
一段と目を大きくして何も言わない彼女に俺はもう一度伝える。
「うさぎが…好きなんだ。」
今度は両方の目から涙を零す彼女は微かに唇を開いた。
彼女の言葉がどんなものでも、受け止める。
この想いはそう簡単に消えるものではない。
覚悟を決めて彼女が紡ぐ言葉を待った。