かわたれ時、宵闇眠る(遠うさ)
「あ、起きた?」
目が覚めるとぼんやりとした視界の中、大好きなヒトが私の事を見下ろしていて、がばっと起き上がって腕を伸ばした。
「まもちゃん……! 良かった。もう会えないかと思ったよ……!」
このベッド、覚えてる。正体を明かしあったあの日に目覚めた彼の部屋のベッドだ。間違えるはずない。だって、あの日は私たちのトクベツな日だもの。
「まもちゃん、傷はもう大丈夫? どこも痛くない?」
泣きながら背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。そしたら彼も私の腰に大きな手を回して抱き寄せてくれた。けど、その手が突然背中をつっと指でなぞって、首筋もやわやわと触ると、後毛をくるくると指に絡ませる。彼がくすくす笑うと首すじに息がかかってビクッと震えた。
違う。こんな触り方、まもちゃんは……
「まもちゃん。そうか、君はアイツのことをそう呼んでいたんだね」
私の心に広がる小さな絶望と同時に、彼の言葉を浴びて、手から力が抜けてシーツに落ちる。
「可愛いな。君はそういう風にアイツに甘えるんだ。ちょっと、いやかなり妬けるよ」
「遠藤さん……」
「そう。俺は、アイツじゃない。でも、隠しててももうバレてるみたいだから言うけど、この体は『地場衛』だよ。君の大好きな衛だ。中身は俺のモノだけどね」
「な、にを……言ってるの?」
「俺のことをまもちゃんだと思っていいよ。すごく気に食わないし、地場衛のことはできればこの手で息の根を止めてやりたいけどね。だけどアイツの体を今は俺が使ってて、魂だって俺の中のどこにもない。無意味だ。
アイツはいないし、俺は君が好きだ。だからうさぎちゃんも俺のことを愛せばいいと思うんだけど、どうかな?」
頭がガンガン痛い。息も少し苦しい。
浅い呼吸を繰り返す中、私は必死に考えた。
彼は、やっぱりまもちゃんなの? だからまもちゃんの部屋に住んでて、私のことを連れてきたの? まもちゃんの体を使って遠藤さんが勝手に…
「誤解しないで欲しいんだけど、俺がアイツをどうこうした訳じゃないよ。目覚めたらこうなってた」
頬や耳、首筋にキスをする遠藤さんは甘えたように、まるで私に縋るようにしてくる。そして、気付けばまたベッドに横にされていた。
どうして? なんで私、抵抗しないの? 抵抗、できないの?
「俺を受け入れろよ」
「だめ……」
「俺の体も心もうさぎちゃんが欲しくて堪らないんだ。ああそうか……それってこの体の中にあるアイツの望みの残滓なのかもしれないね。まあ、俺がそうしたいだけかもな。正直分からない」
「ざんし……?」
「アイツがこの体に残していった、捨て切れない大切なモノってこと」
まもちゃん……っ
涙を流す私に向けた、細くした暗い目にどこか優しさを秘めた表情は、やっぱりまもちゃんに似ていた。けれど、遠藤さん自身の何かに追い立てられるように私の事を奪おうとする姿は、なぜだか……悲しくて。まるで迷子みたいに見えてしまう私は、どうかしてるのかな。
それが、遠藤さんの手を振り払うことができない理由……なのかな。
分からない。でも、このヒトのことを放っておけない。まもちゃんの体だって聞いたらなおさら。
「それで、遠藤さんの気持ちが少しでも楽になれるならいいですよ。私、あなたの事ちょっと怖いけど、でも嫌いになんてなれない。だから遠藤さん という存在も……私は受け入れます」
難しいことなんて私にもわからない。でも、大好きなヒトと同じ姿をした彼がまるで捨てられた子猫みたいな顔をしてるのを見るのは嫌だと思ったの。冷たくてもいいから、笑っていて欲しいと思ったから。
私、やっぱりバカなのかな。でもね、遠藤さんが悪いヒトって言うなら、私だってズルイ女だよ。
だって、まもちゃんの体が無事だって分かっただけで……こんなに嬉しいんだもん。その腕に抱き締められてると思っただけで、嬉しいって……思っちゃったんだもん。
だから彼の手が制服の裾から中に入ってきても、私の心臓はいっぱいドキドキするけれど、やめて欲しいだなんて思わなかった。
はしたない? でも、私の体の奥がずっと熱くて、目の前のヒトを求めているって分かっちゃったから……。
つづく
目が覚めるとぼんやりとした視界の中、大好きなヒトが私の事を見下ろしていて、がばっと起き上がって腕を伸ばした。
「まもちゃん……! 良かった。もう会えないかと思ったよ……!」
このベッド、覚えてる。正体を明かしあったあの日に目覚めた彼の部屋のベッドだ。間違えるはずない。だって、あの日は私たちのトクベツな日だもの。
「まもちゃん、傷はもう大丈夫? どこも痛くない?」
泣きながら背中に腕を回してぎゅっと抱きつく。そしたら彼も私の腰に大きな手を回して抱き寄せてくれた。けど、その手が突然背中をつっと指でなぞって、首筋もやわやわと触ると、後毛をくるくると指に絡ませる。彼がくすくす笑うと首すじに息がかかってビクッと震えた。
違う。こんな触り方、まもちゃんは……
「まもちゃん。そうか、君はアイツのことをそう呼んでいたんだね」
私の心に広がる小さな絶望と同時に、彼の言葉を浴びて、手から力が抜けてシーツに落ちる。
「可愛いな。君はそういう風にアイツに甘えるんだ。ちょっと、いやかなり妬けるよ」
「遠藤さん……」
「そう。俺は、アイツじゃない。でも、隠しててももうバレてるみたいだから言うけど、この体は『地場衛』だよ。君の大好きな衛だ。中身は俺のモノだけどね」
「な、にを……言ってるの?」
「俺のことをまもちゃんだと思っていいよ。すごく気に食わないし、地場衛のことはできればこの手で息の根を止めてやりたいけどね。だけどアイツの体を今は俺が使ってて、魂だって俺の中のどこにもない。無意味だ。
アイツはいないし、俺は君が好きだ。だからうさぎちゃんも俺のことを愛せばいいと思うんだけど、どうかな?」
頭がガンガン痛い。息も少し苦しい。
浅い呼吸を繰り返す中、私は必死に考えた。
彼は、やっぱりまもちゃんなの? だからまもちゃんの部屋に住んでて、私のことを連れてきたの? まもちゃんの体を使って遠藤さんが勝手に…
「誤解しないで欲しいんだけど、俺がアイツをどうこうした訳じゃないよ。目覚めたらこうなってた」
頬や耳、首筋にキスをする遠藤さんは甘えたように、まるで私に縋るようにしてくる。そして、気付けばまたベッドに横にされていた。
どうして? なんで私、抵抗しないの? 抵抗、できないの?
「俺を受け入れろよ」
「だめ……」
「俺の体も心もうさぎちゃんが欲しくて堪らないんだ。ああそうか……それってこの体の中にあるアイツの望みの残滓なのかもしれないね。まあ、俺がそうしたいだけかもな。正直分からない」
「ざんし……?」
「アイツがこの体に残していった、捨て切れない大切なモノってこと」
まもちゃん……っ
涙を流す私に向けた、細くした暗い目にどこか優しさを秘めた表情は、やっぱりまもちゃんに似ていた。けれど、遠藤さん自身の何かに追い立てられるように私の事を奪おうとする姿は、なぜだか……悲しくて。まるで迷子みたいに見えてしまう私は、どうかしてるのかな。
それが、遠藤さんの手を振り払うことができない理由……なのかな。
分からない。でも、このヒトのことを放っておけない。まもちゃんの体だって聞いたらなおさら。
「それで、遠藤さんの気持ちが少しでも楽になれるならいいですよ。私、あなたの事ちょっと怖いけど、でも嫌いになんてなれない。だから
難しいことなんて私にもわからない。でも、大好きなヒトと同じ姿をした彼がまるで捨てられた子猫みたいな顔をしてるのを見るのは嫌だと思ったの。冷たくてもいいから、笑っていて欲しいと思ったから。
私、やっぱりバカなのかな。でもね、遠藤さんが悪いヒトって言うなら、私だってズルイ女だよ。
だって、まもちゃんの体が無事だって分かっただけで……こんなに嬉しいんだもん。その腕に抱き締められてると思っただけで、嬉しいって……思っちゃったんだもん。
だから彼の手が制服の裾から中に入ってきても、私の心臓はいっぱいドキドキするけれど、やめて欲しいだなんて思わなかった。
はしたない? でも、私の体の奥がずっと熱くて、目の前のヒトを求めているって分かっちゃったから……。
つづく