かわたれ時、宵闇眠る(遠うさ)

 この公園のシンボルの時計と噴水のある広場に辿り着くと、前を歩いていた彼は振り返ってニコニコ笑う。こんな風に機嫌が良さそうな彼を見るのは初めてかもしれない。噴水を背にした彼の表情は、嬉しそうなのに、どこか暗い。このヒトと会ってる時はいつもそう。心の中がぜんぜん分からなくて、不安になるの。

「ここ座りなよ」
 遠藤さんはベンチに座り、足を組んで左腕をゆったりと背もたれに掛けると、その左側に空いてるスペースを指差して笑った。
「えっと、はい」
 なるべく彼に触れないように左の端っこに座る。でも、長くて大きな腕は私のことを簡単に捕まえて引き寄せられてしまった。
「ほら、もっとこっちだよ。ね? うさぎちゃん」
 耳元から直接その声が降ってきてぞわりと背中が震える。そんな私のあごを掴むとこれ以上ないくらい近い距離で見つめられた。
「遠藤さっ」
「話、しようか」
「は、はい」
 私はとっさに身を引くと、顔ごと目を逸らして前を向く。すぐ近くでくすっと笑う彼の気配がして、胸の中がぞわぞわした。
「遠藤さんはふるちゃんお兄さんとずっとお友達なんですか?」
「大学に入ってからね」
「遠藤さんは今、何才なの?」
「フルハタと同じだよ」
「そ……ですか。えっと、その、親戚に地場衛ってヒト、いたりしませんか? あなたに……そっくりなの」
 ずんっと空気が重くなった気がして彼を見る。そしたら怒っているような、イライラを隠すことなくどこか遠くを睨みつけているような横顔が飛び込んできて背筋が凍る。
 怖い。どうしてそんな顔をしているの?
 でも、次の瞬間私のことを見る彼はまたにこにこと笑って頬に触れてきた。
「知らないな。そいつはうさぎちゃんの恋人か何かなの?」
「恋人じゃ……っまだ、ない、の。でも私にとっては……っっ?!」
 突然唇を塞がれて体が固まって動けない。どうして? なんで? 私、遠藤さんにキス、されてる……?!
「ど、して……」
 唇が解放されても、涙がポロポロ溢れて言葉がうまく出てこない。
「恋人じゃないなら、俺が君にこういうことしたって誰も困らないだろ? 俺はうさぎちゃんが好きだよ。うさぎちゃんの全部が欲しいんだ。うさぎちゃんの何もかもを……ね」
 聞いた瞬間。私の中に何かドロリとしたものが入ってくる感覚がして、そこで突然意識が消えた。

つづく
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