My sunshine

 要と亜美


 「お勉強?」
「それ以外の何に見えるんですか」
「かーわいくなーい」
「ほっといて下さい。それは元々なので」
 喫茶店の片隅で黙々と参考書を解きまくる天才少女水野亜美を見付けたのは木野まことが教えてくれたおかげだ。さっきケーキ屋のバイトをしている彼女に客として訪れたら偶然会って知ったのだ。「亜美なら私のバイトが終わるのをそこの喫茶店で待ってるよ」と。
「ここ、失礼するわよ」
 返事も待たずに正面に座る。すると、参考書から上げられた彼女の母星と同じ色をした双眸とぶつかった。
「これあげる」
 小さな封筒を取り出してテーブルに置く。
「え? いりません」
「中身も見ずに断らないでよ!」
「あ、私、ラブレター触ったり見たりすると蕁麻疹が……」
 目を逸らして口に手をやり、ぶつぶつ言っているのが聞こえてずるっと肩を落とす。
「違うから。何で私があなたにラブレターなんて(今さら)送るのよ」
「確かに、そうですよね」
 今度はひどく落胆した顔。もう! 何なのよ。
「いいから早く開けてみて」
 渋々という単語が一番似合う動作でそれを開けていく亜美だったけれど、中身が何か分かった瞬間、瞳を輝かせて笑顔になった。
 可愛い。亜美は、可愛いよ。
 口に出さない代わりに、その手に持っている物の説明を始めた。
「本の栞。母からの土産の品なの。あ、私の分もあるんだから遠慮なんてしないでよね」
「ステンドグラスみたい。素敵……」
「亜美、さっきはあんなこと言ったけど、あなたは」
「ありがとうございます‼︎ 要さん」
「ど、どーいたしまして」
 店内の照明に翳して色を変える栞を嬉しそうに見つめる彼女に、お礼を言いたいのは僕の方だよ。なんて思っていた事は、きっとこの先もなかなか上手くは伝えられないだろう。
 自分も持っていた栞を翳して笑みを浮かべた。これから君と、新しいページを一緒に開いていきたい。そんな風に思いながら。
 
 
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