My sunshine

 晃とまこと


 ある休日の正午前。車を走らせていると、歩道に見覚えのあるポニーテールが揺れるのを見つけた。一つ向こうの角を曲がると停めて確認する。するとやはりその髪の毛の主は木野まことだった。時計を確認しつつ、大急ぎで走っている。
「おーい!」
 助手席側の窓を開けて手をブンブン振ると、彼女はこっちに気付いてなんでっ? とか言ってる声が聞こえた。
「よ! 急いでどこいくんだ?」
「これからうさぎ達と会うんだよ。ピクニックの弁当作り過ぎて家出るのが遅れちゃって……あーっもう! こんな時間だ、またな! 晃!」
 ネフライトだった俺の今の名前を何の躊躇いもなく呼んでくれるのはすごく嬉しかったが、あっさりし過ぎていてついつい食い下がってしまう。
「まこと! 良かったら乗ってけよ」
「え、でも悪いよ」
「うさぎちゃん達と会うんだろ? 俺も会いたいし」
「あ……そうなんだ」
 トーンダウンしたまことに、遠慮するな、俺の用は済んだし帰るだけだったんだからと付け加えると、「そういうことなら、お願いするよ」と助手席のドアに手を掛けた。俺は待った! と声を掛け、前後を確認して車から降りるとまことが背負っている大きなリュックサックを受け取って後部座席に積む。そして助手席のドアを開けると彼女を車内へと促した。
「しかし随分大量に作ったんだな」
 運転席に乗り込んだ俺は、荷物をちらりと見て言った。
「みんな私の料理が美味しいって褒めてくれるからさ、嬉しくって。気付いたら作り過ぎてた」
「そっか」
 照れ臭そうに笑う横顔が可愛くて、ついそのまま見続けてしまう。
「晃、行き先は⚪︎△植物公園だから、待ち合わせの□駅まで行ってくれたら助かる」
「了解」
 ハッとして、車をゆっくりと発進させた。
 車内で付けっぱなしにしていたラジオが、微妙に会話が途切れてしまった俺たちの空気とはちぐはぐに、ハイテンションな曲を流し続ける。
「俺さ」
「え? なに?」
「うさぎちゃん達に会いたいのも本音だけど」
「うん」
「俺が一番会いたかったのは、まことだから」
「え……」
「だから偶然に感謝してる」
 まことは何も答えない。
 車内に流れる音楽が、スローペースのラブソングに切り替わった。

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