My sunshine

 賢人と美奈子


「何であんたがここにいるのよ」
「俺が本屋にいて何か不都合でもあるか? 寧ろ美奈子がここにいることの方が驚きだ」
「はあー⁉︎」
 彼女相手には、要らない事まで言ってしまうのはなぜだろうか。そのせいで周りの客から一斉に注目を集めてしまった。
「じゃあな、俺はもう欲しい本は買った」
「はいはいどうも! さよーなら‼︎」
 真っ赤な顔してあかんべーをしてくる美奈子の下で、白猫が哀れみの眼差しを送ってきて遣る瀬無い。本屋を出ると主を残してアルテミスだけが俺の足元にいつの間にかやって来て小首を傾げられた。
「あのさ、ボクがこんなこと言うの野暮かもしれないけど、クンツァイトって前世の時からそんなだったか? あ、今は賢人か」
「俺は前世の時とは違う。好きな女に上手いこと一つ言えない、ただの不器用な男だ」
 するとさも嬉しそうに俺の足元をぐるぐると回ってニヤッと笑われる。
「へー、ふーん?」
 しかし抱き上げると黙り込んで目をまん丸くして俺の事を見つめた。白猫の手触りは上等で、遥か昔に触れた彼女の金色の髪を思い出してしまいそうになり、唇を引き結ぶ。
「いいかアルテミス。美奈子には言うなよ? そのうちちゃんと自分から伝える」
「なるほど。男と男の約束だな」
「そうだ」
 かくして彼女の知らないところで白銀同盟は結ばれた。見計ったかのように美奈子が本屋から出てきてこちらに気付く。俺は白猫を下ろしてやり、何か言いたげな彼女に笑い掛けた。
「いい相棒だな」
「え? ま、まあね」
「大事にしろよ」
 そう言って手を振ると、頬を染めてきょとんとした顔のまま手を振り返された。そういう顔もするんだな。背を向けてそんな事を思っていた俺自身も、ショーウィンドウに映った顔がやたらと穏やかに微笑んでいて、再び唇を引き結んだ。

 
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