月野家のクリスマス(貴士は少しだけ、まもうさと月野家メイン)

玄関先で二人の世界を作っていたのを目の当たりにして謙之は、全くけしからん。と思うのと同時に衛がうさぎを見つめる表情が余りにも愛おしさと優しさ、とにかく嬉しくて仕方が無いという様を伝えていたから。

娘を本当に大切に思ってくれているのだな、と少々複雑な思いを抱きながらも感じ取ったのだった。それでも親として、やはり嬉しい事には変わりない。娘の恋人という目で見なくても衛のことを気に入っていたし、眉目秀麗、成績優秀、品行方正で誠実な彼が(これは褒めすぎではない)自分に信頼や憧憬の思いを寄せていてくれていることも知っていた。

そう考えると何となく気恥ずかしく、それでいてとても嬉しくなり、気が付けば鼻歌まで口ずさんでいる始末だった。





「すごいですね」

食卓に並ぶ料理を見て思わず声を上げる衛。鍋と具材の他にチキンやサラダ、オードブルまで用意されていた。

「でっしょー!?パパとママったらまもちゃんが来るから張り切っちゃって。あ、この野菜はね、私が切ったんだよ!で、このドレッシングは私がかき混ぜたの♪」

「かき混ぜただけなんだろ?」

「うっ…もー!」

衛は、うさぎの説明に自分のような男の為に彼らが本当に手を尽くしてくれていることを知り嬉しくなる。昨日の教授の家のそれよりもどの料理も温かそうに見えた。
そして更に続いた彼女の話の内容ににやりと笑って切り返すと、彼女は案の定真っ赤になって膨れ面になり衛をポカポカ叩く。それを笑いながら受け止めたのだった。

「ほーんと、二人はいつも仲良しさんねえ」

「姉貴もちゃんと料理できるようになんねえといつまでも衛さんにからかわれるぞー?」

「もう!進悟は余計なこと言わなくていいの!!」

衛は楽しそうに笑いながらそんなうさぎの頭を優しく叩いていた。

「あーあー駄目っすよ衛さん、そんなに甘やかしちゃ。もっと厳しく言わないと姉貴はどんどん甘えますからね。」


そうか。俺はうさこを甘やかしすぎなんだ。


進悟の発言にたった今気付いたかのように衝撃を受けた。


いや、でも…


横で再び進悟に言い返しているうさぎを見る。そして結局言い負かされる彼女は衛のことをうるうるした瞳で見上げてきたのだ。そんな恋人を苦笑しながら頭を撫でて思う。


この顔を見たら無理なんだよなあ…






食事は本当に賑やかで、やはり食べてもその一つ一つが美味しく、温かだった。
衛は食卓にまるで家族の一員のように座り、そしてそんな彼を四人は微笑み話しかける。

それが衛にとって今まで味わったことの無い様な安心感、そして幸福感を与えた。作らず、飾らず、ありのままの自分を受け入れてくれる幸せ。家族という、存在。



衛は心の内で、うさぎに、そしてうさぎを囲む家族に言葉では言い尽くせないほどの感謝を抱くのだった。
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