月野家のクリスマス(貴士は少しだけ、まもうさと月野家メイン)
衛が月野家に向かう中、再び粉雪が舞って来た。この時期に二日と続けて雪が降るのはとても珍しいことなのだが、衛は昨日のように溜め息を漏らしてそれを見ることは無く、雪の感触を心なしか楽しみながら歩いているようだった。
今夜の雪は白く、柔らかだった。
「いらっしゃい衛君!」
月野家のドアを開いたのは育子。彼女は我が子を迎えるかのような人懐こい笑顔を浮かべる。その表情は衛をとても安心させた。
「こんばんは。突然ですみませんが、お邪魔します。」
「何言ってるの!いいのよパパが誘ったんだし、うちは衛君だったらいつでも大歓迎なんですから♪」
「ありがとうございます。」
「ああーーー!ママずるい!私がお出迎えしたかったのにー!!」
リビングからうさぎが大声で言ったかと思うと廊下をパタパタと小走りしてくる。
「もう!うさぎったら子供みたいに!ちゃんとお椀は並べたの?」
「並べたよ!まもちゃんいらっしゃい♪」
「ああ、お邪魔します。」
キラキラふわふわとピンクや赤の花が咲いてきそうな微笑み合う二人の世界に少し呆れ気味に息を吐く育子だったが。
「お!衛君いらっしゃい。よく来たねえ!」
上機嫌の謙之がやってきて三人の視線はそっちに向けられた。
「こんばんは。今日は招いて下さってありがとうございます。」
やはり恋人の父親の登場に若干の緊張が生まれた衛はそう言って頭を下げた。
「いやいや。まあ、そんな堅い挨拶はいいから上がりなさい。」
どこまでも人のいい笑顔を浮かべた謙之は衛を促してリビングへ鼻歌まで交えながら向かう。それを育子が追った。
「何か…パパ嬉しそう??」
「そうなのか?」
「良かったねまもちゃん!」
「…うん。」
衛としては、彼女の父親ということを差し引いても博識な謙之のことを慕っていたし、温かくて優しい人柄に触れて救われることもしばしばだったのだが。
果たして謙之は自分のことをどう思っているのだろう。娘を持ったことは無いが、例えばちびうさが彼氏を家に連れてきたらどう思うだろうかと考えると、かなり複雑な気分になる。
そうやって色々考えると不安にならないわけではなかったが、それでもこうして笑顔で迎えてくれていることは事実で、隣にいる恋人もこう言っているのだから今は素直に嬉しい。難しいことは考えずにそう思うことにした。
衛は自身が放っておくとどんどん物事を複雑に考えすぎてしまうという短所を認めていた。それゆえ、いつも素直に本当のことを口にする恋人には本当に数え切れぬほど救われていたのだ。
「あ、衛さんいらっしゃい。いつも馬鹿姉貴が世話になってます。」
屈託の無い笑顔で進悟は開口一番爽やかにそんなことを言ってのけた。
衛は笑い、うさぎは怒り、そしてそんな衛の表情を見て泣きそうになり、それを慌てて衛が謝るという構図は相変わらずで、多分この先も変わらないのだろうと齢十四の弟はしたり顔で一人うんうんと頷いて見せたのだった。