月野家のクリスマス(貴士は少しだけ、まもうさと月野家メイン)




「うさ!そろそろ起きろ!!」

布団に包まって頭だけちょろりと出していたうさぎを揺り起こす。

「うー…まだ眠いよぉ…」

「だめ。早く起きなさい。」

がばっと布団を剥ぐと衛のシャツ一枚を羽織っただけのうさぎが緩慢な動きで起き上がり、寒いー…と言いながら目を擦って欠伸をする。

「ずるいよーまもちゃん…あんなにしたら起きらんないってば…」

「そ…っれは悪かった。…とにかく今は服を着ろっ」

うさぎの一言で昨夜自分がしでかしたことを思い出した衛はばつが悪くなる。しかし彼女の両親をこれ以上待たせるわけにはいかないと考える彼は必死だ。畳んでおいた彼女の昨夜のパーティーに着ていたワンピースを差し出して赤くなる顔をごまかすように背中を向けて立つ。しかし。

「まもちゃん着せて?」

「ばっ…!なにいってんだ」

うさぎの唐突な要求に冷静な彼の姿はなりを潜めて動揺のままに振り向いた。しかしそこにはまっさらな笑顔を浮かべた恋人が長い袖の両腕を差し出している。その可愛さたるや最早殺人兵器だ。

なんなんだ本当にこの子は。勘弁してくれ。


「馬鹿なこと言ってないで自分で着なさい。」

これ以上理性を失ってなるものかと衛はなるべく普通に切り返したつもりだったが、開いている胸元から昨夜自分が散らした鬱血痕が見えてまたしても不埒な考えが沸いてきそうになり、その危うい思考回路をもう一度背を向けることでシャットダウンする。

するとイジワルーとか何とか不満をたらすうさぎは立ち上がり、広い背中の彼のシャツの裾をくんと引いた。

この時、その動きに静止した衛は部屋を数秒前に出て行かなかったことを後悔する。

つっと目線だけ後ろを向けると更に嬉しそうな笑顔を浮かべた彼女が小首を傾げて言ったのだ。

「じゃ、キスして??」


あーもう、天然ってこわい。


衛はそう思いながらもこの願いをふいにしようなどという考えも既に無かった。というよりも小難しいことを考えるような余裕がこの状態のうさぎを前にしたら完全に消え失せたという方が正しいだろう。


結論。彼は性急な動きで彼女の体を引き寄せて、うさぎに一言も零させずにあっという間に奪うようなキスをした。


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着替えてから諸事情により曇った窓ガラスを指で擦って外を見たうさぎは、声を上げて衛の方に振り返る。

「まもちゃん、雪積もってる!!」

「ああ、積もったな…そうだ、あの靴で帰り道大丈夫か?」

コーヒーを注いでいた衛が自室に戻り、彼女が履いてきた滑りそうな白いパンプスを思い浮かべて心配そうに聞き返した。

「んもー!まもちゃんてば夢がないよ?もっと雪だー!って楽しまなきゃ♪」

マグカップを受け取ったうさぎはその間に怒ったり笑ったりと大忙し。それを見て衛は想像通りの彼女の行動に笑みを零した。

「そうだな。うさと初雪が見られて良かった。」

衛もコーヒーを注いだそれを持って窓の外を見るうさぎの隣に立って彼女に倣う。

「えへへ!来年も、その先もずーっと一緒に見ようね!」

「ああ。」

そして二人は軽く触れるだけのキスをして微笑み合った。

「さて、コーヒーを飲んだら帰るんだぞ?」

「う…はーい…」

途端に現実に引き戻されたうさぎは渋りながらも今度こそ衛に従った。
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