月野家のクリスマス(貴士は少しだけ、まもうさと月野家メイン)
時計は10時。パーティーが終わり衛は薄っすらと降り積もる雪の中を既にシャーベット状になっている灰色のそれをシャリシャリと音を立てながら酔いを醒ますようにゆっくりと家路についていた。
しかし玄関の鍵を開けると白いローヒールのパンプスが目に入り、傘立てには見覚えのある濃いピンク色の傘があるのを見て急いで靴を脱ぐ。
「うさ!?」
リビングのドアを開けるのと同時に恋人の名を叫ぶ。
「ん…ふわあ~…まもちゃんお帰り」
寝ていたのであろう彼女がソファーからむっくりと起き上がりへにゃっと微笑んだ。
「待ってたのか?」
どくんと胸が鳴ったのを自覚しながら、普段ならそれを表に出さずに冷静に聞けるものを、今ばかりは隠すことも出来ずに上擦った声で衛は問う。
「うん!皆とのパーティーも終わったし、やっぱり今日どうしてもまもちゃんに会いたくなっちゃって。」
欠伸混じりに答える彼女の言葉に衛の心はじんわりと温かくなっていく。そしてうさぎに近付き、そのままソファーに彼女ごと倒れこんだ。
「え!え!!??まもちゃんどうしたの!?大丈夫!?」
身動きの取れないうさぎは真っ赤になりながら衛の背中をぽんぽんと叩いて聞く。
「だいじょうぶ、だよ。」
大きく溜め息を付いてうさぎの体を強く抱き締めるといつもよりも定まらない調子でそう切り返す。まだ完全には酒が抜けていないようだ。
それでも体の力はこれ以上無い安堵感によってすっと抜けていく。
うさに会えたから、大丈夫だ
なんて、そんな本音は酒の力を借りても何となく言えなかった。
「まもちゃん外寒かったでしょ?あのね、勝手にお風呂沸かしちゃったんだけど…入る?それとも寝ちゃう?あ、もちろんベッドでだよ!?」
腕の中であたふたと新妻のように可愛い発言をする恋人に衛は笑みを漏らして「うん…ありがとう。」と掠れた声で囁いた。
そして彼女の顎に手を添えるとありったけの愛を込めてキスをする。
潤んだ瞳のうさぎに見上げられて本当はこのまま丸ごと抱き締めていたいと思うけれど。衛はギリギリのところでうさぎを開放して彼女の額を指で撫でながらゆっくりと口を開いた。
「でもお前は今日は家に帰ったほうがいいよ。」
「え。何で?」
「明日もうさの家で会えるだろ?ご両親にも会うのに今日お前を泊めるのはやっぱりまずいと思うんだ。」
「大丈夫だもん!まこちゃんちに泊まるって言ってあるし!!」
「そういうことじゃ…」
「やだやだっせっかく会えたのに…!クリスマスイブの残りの時間、私にちょうだいまもちゃん…!!」
「うさ」
気持ちが揺らぎそうになるも諭すような彼の呼びかけにうさぎはぐっと唇を噛み締めた。そして目元をじんわりと濡らす。
「私…行ってらっしゃいなんて言ったけど、ホントは寂しかった…!我儘ばっかりで困らせたくなかったの。でも、もうパーティーは終わったんでしょ?だからお願い。あと少しでいいからまもちゃんといさせ、…!?」
「全く。なんでそれ、はやく言わないの?」
「だ、だって…っ」
「ごめん、責めてるわけじゃない。良かった…」
彼女が自分と同じように思ってくれていることに心底ホッとする衛は頬へと唇を寄せて抱き締める。
「まもちゃ…」
「かえしたく、なくなったんだけど。いい?」
うさぎが言い終わらないうちに再び覆いかぶさった衛が彼女の耳元で甘く囁く。
「私は、いいんだもん…」
「うん」
衛のその声はもう拒むものは含まれていなくて。うさぎは彼の体を精一杯抱き締めた。
「まもちゃん、えっと、お風呂は…」
「決めた。うさと風呂に入ってうさと寝る。」
そう言って音を立ててキスをする、いつもは決して見せることの無い恋人の雄の視線にうさぎは顔を再び真っ赤にする。
「え!!??」
「え、じゃない。煽ったのはうさだからな。今日はもう逃がさないよ。」
そうして衛は恋人に唇を寄せる。戸惑いながらも震える睫毛を閉じてそれに応えるうさぎは、あっという間に嵐に飲み込まれていった。
恋人達の聖夜は甘い情熱を持って、緩やかに更けていく。