ワンダーランド
俺の名前は土屋貴士。KO大学医学部の四年生だ。彼女である薫ちゃんとの付き合いも半年は過ぎ、交際は至って順調。
今までの俺は彼女ができても長続きしなくて、三ヶ月も持たずに別れてきたから……。だからこんな風に一人の女の子が大切で、大事に思えるようになれたのが素直に嬉しい。
俺は薫ちゃんと繋いだ手に力を込めた。そしたらふふっと笑いながらそれを返してくれて。幸せだな……なんて思う。
そして俺たちの前を腕を組んでラブラブに歩く、ロイヤルスーパーミラクルロマンスカップルを見て苦笑した。けど、俺が変われたのも、この二人のおかげなんだよな。二人の互いを思う気持ちを砂吐きながらも見守って行くにつれ、素直に、いいなって。そんな思いを強くしていったんだ。衛には言わんけど。
相変わらずうさぎちゃんをエスコートをする衛の姿は、スマートで完璧。
特に示し合わせた訳ではないらしいが、二人の今日の服装は色合いが似ていてリンクコーデみたいになっている。スニーカーだけは色違いで買ったということを、前に携帯で彼女からの画像を見てニコニコしている衛から言質を取った。
「まもちゃん! 遊園地楽しみだね」
「そうだな……」
「貴士さん! 薫さん! 今日は誘ってくれてありがとうございます」
振り返って笑顔で言ううさぎちゃんとは対照的に、少し陰りのある横顔で微笑む衛。
ん? なんだなんだどうした? 『モードグレー』? これは初めて見るパターンだぞ?
「いえいえ! 私達も楽しみだな。遊園地なんて久しぶりだもん。ね? 貴士くん」
「あ、ああ。よし! 今日は全部忘れて遊び倒すぞ!」
何だか浮かない衛の様子は気にはなったが、敢えて明るくそう言い、入園チケットの購入場所に向かった。
「なーんでジェットコースター苦手だって言わねえんだよ衛は」
「……」
「大丈夫かよ」
「……ああ」
飲食コーナーの隅のベンチで項垂れる衛に俺はやれやれとため息をついた。心配したうさぎちゃんが飲み物を買いに行き、薫ちゃんもついて行っている。
あれから俺たちは早速この遊園地で一番人気のジェットコースターに乗ったのだが。初めの急降下を目前にした所で、後ろの席に乗っていたうさぎちゃんが、「まもちゃん? まもちゃん!」と焦った声を上げた。驚いた俺と薫ちゃんは目だけ後ろに向けると、衛はうさぎちゃんの呼びかけに答えることもなく、青ざめた顔で菩薩のような微笑を浮かべている。
え? 『モードボサツ』? ……じゃなくて! もしかしてお前、
「おい衛、お前ジェットコースター……」
ガコンッ
そこで急激に景色が後ろに吹っ飛んでいった。
「うさが、あんなに楽しみにしてたし、俺ももしかしたら大丈夫になってるかもって……思ったんだよ」
ふうと長いため息をついて頭を抑えてしょんぼりと告げる姿は、完全無欠の大学での姿とギャップがあり過ぎて苦笑してしまう。
まあ同じ男として、分からないでもない。恋人の前ではいつでも頼ってもらえるような、カッコいい男でありたいって思うよな。
知らなかったとはいえ、初っ端から苦手なものに乗せてしまって悪いことしたなと思った俺は「うさぎちゃんなら大丈夫だよ」と切り出した。
「衛がジェットコースターがダメな事を知ったところで、嫌いになったり、引いたりする子じゃないだろ?」
「それは、分かってる。けど俺は……」
「まもちゃん!!」
飲み物を持って戻ってきたうさぎちゃんが衛に駆け寄った。そしてペットボトルの蓋を開けて背中を支えて飲ませてやっている甲斐甲斐しい彼女に、いつも守られているだけではない女の子の強さと優しさを見た気がして、胸の中が温かくなった。
「まもちゃん、大丈夫?」
「ああ。飲んだら少しスッキリしたよ」
「本当?」
「ありがとな、うさ」
儚げな笑みと掠れた声はそこはたとなく甘い。対するうさぎちゃんの目もうるうるしている。というか。介抱するだけでこの雰囲気はやばくね? ここ一応外よ?
甘々ピンクな二人にそう突っ込んでいると、うさぎちゃんの金色の髪がふわっと揺れて衛の肩に落ちる。
「もう! まもちゃん、良かったあ〜っ死んじゃうかと思ったあ〜っっ」
ぎゅううっと抱きつきながらそう言ううさぎちゃんに、今度は衛が背に腕を回して撫でてやっている。
「ばかだな、死ぬわけないだろ」
「だって〜っあんなまもちゃん見るの初めてだったからっ」
「情けないな、俺は」
「そんな事ない!!」
顔を上げてキリッと見つめるうさぎちゃんの表情にハッとなる衛。俺の隣で一部始終を目の当たりにして顔を赤くしていた薫ちゃんも、思わず両手を胸の前で組んで見守っている。……この二人への耐性結構ついたね、薫ちゃん。
「誰でも苦手なものはあるよ。ごめんねまもちゃん。私が遊園地に行くのすごく楽しみにしてたから言い出しづらかったんでしょ?」
「それは……」
「私だって勉強が大の苦手だし、遊園地だったらお化け屋敷は絶対無理だもん! ね?」
「勉強はちゃんとしろよ」
そこは威張るなよな、と言いながら笑う衛にうさぎちゃんも笑った。
「ふふっまもちゃん、やっと笑った。良かった」
「うさ……」
「まもちゃん……」
そして例の如く顔を近づけていく二人。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「そ、そうそう! 地場先輩、大丈夫みたいなので他の……ゴーカートとか乗りませんか?」
「薫ちゃんナイス! な? 二人とも」
俺と薫ちゃんは、二人の世界へ果敢に切り込んで提案する。すると二人は笑顔で頷き合うと、俺たちに続いて歩き始めた。
今までの俺は彼女ができても長続きしなくて、三ヶ月も持たずに別れてきたから……。だからこんな風に一人の女の子が大切で、大事に思えるようになれたのが素直に嬉しい。
俺は薫ちゃんと繋いだ手に力を込めた。そしたらふふっと笑いながらそれを返してくれて。幸せだな……なんて思う。
そして俺たちの前を腕を組んでラブラブに歩く、ロイヤルスーパーミラクルロマンスカップルを見て苦笑した。けど、俺が変われたのも、この二人のおかげなんだよな。二人の互いを思う気持ちを砂吐きながらも見守って行くにつれ、素直に、いいなって。そんな思いを強くしていったんだ。衛には言わんけど。
相変わらずうさぎちゃんをエスコートをする衛の姿は、スマートで完璧。
特に示し合わせた訳ではないらしいが、二人の今日の服装は色合いが似ていてリンクコーデみたいになっている。スニーカーだけは色違いで買ったということを、前に携帯で彼女からの画像を見てニコニコしている衛から言質を取った。
「まもちゃん! 遊園地楽しみだね」
「そうだな……」
「貴士さん! 薫さん! 今日は誘ってくれてありがとうございます」
振り返って笑顔で言ううさぎちゃんとは対照的に、少し陰りのある横顔で微笑む衛。
ん? なんだなんだどうした? 『モードグレー』? これは初めて見るパターンだぞ?
「いえいえ! 私達も楽しみだな。遊園地なんて久しぶりだもん。ね? 貴士くん」
「あ、ああ。よし! 今日は全部忘れて遊び倒すぞ!」
何だか浮かない衛の様子は気にはなったが、敢えて明るくそう言い、入園チケットの購入場所に向かった。
「なーんでジェットコースター苦手だって言わねえんだよ衛は」
「……」
「大丈夫かよ」
「……ああ」
飲食コーナーの隅のベンチで項垂れる衛に俺はやれやれとため息をついた。心配したうさぎちゃんが飲み物を買いに行き、薫ちゃんもついて行っている。
あれから俺たちは早速この遊園地で一番人気のジェットコースターに乗ったのだが。初めの急降下を目前にした所で、後ろの席に乗っていたうさぎちゃんが、「まもちゃん? まもちゃん!」と焦った声を上げた。驚いた俺と薫ちゃんは目だけ後ろに向けると、衛はうさぎちゃんの呼びかけに答えることもなく、青ざめた顔で菩薩のような微笑を浮かべている。
え? 『モードボサツ』? ……じゃなくて! もしかしてお前、
「おい衛、お前ジェットコースター……」
ガコンッ
そこで急激に景色が後ろに吹っ飛んでいった。
「うさが、あんなに楽しみにしてたし、俺ももしかしたら大丈夫になってるかもって……思ったんだよ」
ふうと長いため息をついて頭を抑えてしょんぼりと告げる姿は、完全無欠の大学での姿とギャップがあり過ぎて苦笑してしまう。
まあ同じ男として、分からないでもない。恋人の前ではいつでも頼ってもらえるような、カッコいい男でありたいって思うよな。
知らなかったとはいえ、初っ端から苦手なものに乗せてしまって悪いことしたなと思った俺は「うさぎちゃんなら大丈夫だよ」と切り出した。
「衛がジェットコースターがダメな事を知ったところで、嫌いになったり、引いたりする子じゃないだろ?」
「それは、分かってる。けど俺は……」
「まもちゃん!!」
飲み物を持って戻ってきたうさぎちゃんが衛に駆け寄った。そしてペットボトルの蓋を開けて背中を支えて飲ませてやっている甲斐甲斐しい彼女に、いつも守られているだけではない女の子の強さと優しさを見た気がして、胸の中が温かくなった。
「まもちゃん、大丈夫?」
「ああ。飲んだら少しスッキリしたよ」
「本当?」
「ありがとな、うさ」
儚げな笑みと掠れた声はそこはたとなく甘い。対するうさぎちゃんの目もうるうるしている。というか。介抱するだけでこの雰囲気はやばくね? ここ一応外よ?
甘々ピンクな二人にそう突っ込んでいると、うさぎちゃんの金色の髪がふわっと揺れて衛の肩に落ちる。
「もう! まもちゃん、良かったあ〜っ死んじゃうかと思ったあ〜っっ」
ぎゅううっと抱きつきながらそう言ううさぎちゃんに、今度は衛が背に腕を回して撫でてやっている。
「ばかだな、死ぬわけないだろ」
「だって〜っあんなまもちゃん見るの初めてだったからっ」
「情けないな、俺は」
「そんな事ない!!」
顔を上げてキリッと見つめるうさぎちゃんの表情にハッとなる衛。俺の隣で一部始終を目の当たりにして顔を赤くしていた薫ちゃんも、思わず両手を胸の前で組んで見守っている。……この二人への耐性結構ついたね、薫ちゃん。
「誰でも苦手なものはあるよ。ごめんねまもちゃん。私が遊園地に行くのすごく楽しみにしてたから言い出しづらかったんでしょ?」
「それは……」
「私だって勉強が大の苦手だし、遊園地だったらお化け屋敷は絶対無理だもん! ね?」
「勉強はちゃんとしろよ」
そこは威張るなよな、と言いながら笑う衛にうさぎちゃんも笑った。
「ふふっまもちゃん、やっと笑った。良かった」
「うさ……」
「まもちゃん……」
そして例の如く顔を近づけていく二人。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「そ、そうそう! 地場先輩、大丈夫みたいなので他の……ゴーカートとか乗りませんか?」
「薫ちゃんナイス! な? 二人とも」
俺と薫ちゃんは、二人の世界へ果敢に切り込んで提案する。すると二人は笑顔で頷き合うと、俺たちに続いて歩き始めた。