ナイスカップル

「ねえ貴士くん、もしかして……あの二人じゃない?」
「え! 衛とうさぎちゃん来た?」
 夕暮れ時の十番街。薫の言葉に振り返った俺はその顔のまま固まった。視線の先には一組のカップル。
 まずオーラがそこはたとなくピンクに見える。そして花だとか蝶々だとか、そんなものまで舞っているような気すらする。
 手を繋いでいるだけなのに甘いムードが漂っているのは何故だろう。それはきっとお互いのことが大好きで仕方が無いという空気がそう見せているに違いない。
 何か店先に見つけたのかうさぎちゃんは『あっ』という顔をした後、必要あるのか衛の耳元に口を寄せて(手は繋いだまま)内緒話をするように何か言う。
 それを聞いた衛はなんだかとてつもなく優しく甘い顔をして微笑んで愛おしそうにうさぎちゃんの頭を撫でていた。うさぎちゃんはそれを嬉しそうに受けている。

 相変わらず公衆の面前、街のど真ん中でも二人の世界を繰り広げている彼ら。
 暫くそんな二人を放心して見ていると。漸く俺達のことに気付いた衛が軽く手を振ってきたから振り返す。もちろんうさぎちゃんと繋いでいる手は離さない。
「待たせてすまない」
「遅くなっちゃってごめんなさい!」
「いや、時間通りだから」
「地場先輩お久し振りです。今日は西園寺聖子のピアノコンサートのチケットありがとうございます」
「どうも相模さん。いや、西園寺聖子の息子が俺の友人なんだ。要っていうんだけど、そいつが要望があればまたいつでも言ってくれってさ」
「本当ですか!? 嬉しいっ」
 そう。今日は俺の彼女、相模薫がファンだというピアニスト西園寺聖子のコンサートに四人で行くことになっていた。
「要さんってまもちゃんにはほんっとーに甘いよね!」
「何膨れてんだ」
「だあって~」
 衛の腕にぎゅっとしがみつくうさぎちゃんは上目で可愛く睨んでいる。
「男に妬く奴があるか」
 こつんと軽く頭を小突き言う衛にえへへと笑顔を返すうさぎちゃん。それをまたにこにこと微笑んで見つめる衛。

 ……。

 えーっと。久し振りに二人をセットで見たから開始五分で早くもこの甘々ムードが色々ときつくなってきたんですけど。
 そんなことを思ってから改めて彼らの服装を見る。
 ちゃんとしたクラッシックのコンサートとあってドレスコードで来た二人はかなり様になっている。衛のタキシードなんて、もともとそういう格好で生まれてきたんじゃないかというほど自然だし、白いふわふわのドレスを着たうさぎちゃんもさながらお姫様だ。
 そんな姿だから尚のこと彼らの行動は際立って目立つ。
 コンサートホールに向かいながら後ろのカップルをちらっと見てから薫が顔を赤くして尋ねてくる。
「あの二人って、いつもあんな感じなの?」
「そうだな……うん。あんな感じだ」
 ちらっと見ると躓きそうになったうさぎちゃんを、腰に手を回して助けてやる衛。
「ほんとにうさはそそっかしいな」
「まもちゃんが守ってくれるから平気だもん♪」
「頼むから俺がいない時に怪我するなよ?」
「大丈夫だってば! そんなに心配?」
「当たり前」
 満面の笑みのうさぎちゃん。そしてそのまま互いの腰に手を回して歩き出す。

………。

「さーて! さくさく歩くか!」
「そ、そうだね!」
 無駄に赤くなった俺達二人は、前を向いて出来るだけ彼らの会話が聞こえてこないように早足で歩くことにした。
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