第三話 王子の涙
大樹の彼の後に続いて歩き出してからそれなりの時間が経過していた。やがて、プリンセス自身が見覚えのある道に出た。
「あれ?もしかして王子の涙が咲いている所って……」
『そう。ここだ』
道が開けて大樹の彼が指をクイっと指したその先を見れば、いつかの花畑が広がっていた。
「やっぱりここに咲いてたんだ!」
プリンセスは駆け出したが、彼の言葉にその足を止める。
『ただし、普通に探してたって見つからないぜ?』
「え?」
『どれだけキングのことを治したいかって思うかが大事なんだ』
「そんなの決まってる! こーーーーーーーんなにっ! たっくさんっ!! 思ってるよ!!」
両手をこれ以上ないくらい大きく広げて顔を真っ赤にして言うプリンセスに大樹の彼は笑顔で頷いた。
『じゃあ、ここからはプリンセスが一人で探すんだ。できるな?』
「うん。できるよ! あたし頑張るっ!」
そして彼女は一人で花畑に入っていった。
『大丈夫か? スモールレディだけに探させて。彼女はまだあんなに幼い子供だぞ?』
白銀の青年が心配そうに隣にいる彼に聞く。
『ったく! お前はいつまで経っても心配性の苦労性だな。大丈夫だ。あの子はなんと言ってもマスターとプリンセスの娘だ。それに、覚えてるだろ?あの時……あの子からの言葉にどれだけ俺たちが勇気づけられたか。だから今のプリンセスにもきっと出来るさ』
大樹の彼が自信たっぷりにそう言うから白銀の青年は黙って信じることにした。
苦労性とまで言われて多少は腹も立ったが彼の裏表のないおおっぴらな性格は大昔から百も承知だった為、敢えて何か反論するのはやめた。
大樹の彼がマスターとプリンセスと呼ぶのは言うまでもなく、キングとクイーンのことなのだが、彼らはなぜスモールレディに自分たちのことを話さないのか。それは、全ての星が死んで行き着く場所、そして全ての星が生まれてくるコルドロンの中で交わされた約束があったからである。
『あなた方の願いを聞くためには、私がこれから話す事を絶対に守らなければなりません。そうでなければ、あなた方はその業を背負って無限の宇宙をさ迷う事になるでしょう』
コルドロンの中のガーディアンコスモスは四人にそう言った。
彼らは確かに、償いきれない罪を、前世でも転生後も犯してしまった。しかし彼らのマスターが四人を精神だけ翡翠に宿らせて共に過ごすことを許し、しばらくは魂だけが現世に留まることが出来た。
しかしそれを長く続けるための精神力はもはやなく、再びその魂はコルドロンへと流れ着いたのだった。
『黙って消えるのは許さない!』そう鼓舞してくれた少女との約束を果たせず、無念を抱いていた彼らは、今度こそという希望を抱いてガーディアンコスモスと対話する。
『あなた方の大切な人の大切な存在が願っていることを叶えてあげること。そして、あなた方が何者であるかはその相手に決して言わないこと』
その約束事に、二つ返事で四人は彼の地へと降り立った。四人はこの森にひと時だけ現れることを許されたのである。
しかしこれまでスモールレディに関わってきたのは三人。あとの一人はどうしたのだろうか。
『あいつの結界はどれほどもつだろうか?』
白銀の彼は確認する。
『最後にはスモールレディをクリスタルパレスの彼女たちに引き合わせないといけないからな。それまでは絶対、何が何でももたせてみせるだろ。あいつは律儀で真面目な奴だからな』
四人目の彼のことを二人は思い浮かべてどちらからともなく頷いた。
この花畑にはたくさんの種類の花々が咲いているが、絵本で見た王子の涙は見付からない。
『そこで若者は一生懸命祈りました。愛する人がもう病気で苦しまないように。そのためなら自分は何でもする。
だからどうか王子の涙が見付かりますように』
いつか父親が読んでくれた絵本の内容が思い出される。
信じる心、立ち向かう勇気、無償の愛。
それらが全部揃った時、王子の涙は初めてその雫を揺らして微笑みかけてくれる。
『スモールレディ、私はいつでもお前を信じているよ。いつでも、どんなときも、スモールレディの味方だ』
絵本を読み終えて、優しい瞳で娘を見つめ、くしゃくしゃと頭を撫でたのだった。
「パパ……!」
スモールレディの両頬には涙が流れていた。
(パパの優しい声であたしのことを呼んで欲しい。温かい手で「いい子だね」って頭を撫でて欲しい。たくさん絵本を読んで欲しい。
そしてママを本当の笑顔にして欲しい)
「お願い! パパを元気にしたいの……!!」
スモールレディの美しく温かい涙が草花にポタリポタリと落ちていく。するとそれが光となって、辺り一面の景色が彼女を中心にして一気に変わっていった。
『これは……!』
白銀の彼は眩しい光の中に、今までとはまったく別の花が咲き乱れているのを見て息を呑む。
『ほ~らな。やっぱりあの子はただ者じゃねえんだって』
なぜか大樹の彼が勝ち誇ったような顔をしてそう言った。
そこには、呆然としているこの国の王女と、絵本の通りの可愛らしいピンク色をした美しい雫を滴らせているたくさんの王子の涙が、風にそよいで揺れていた。
スモールレディが花畑に辿り着く少し前、マーズとジュピターの二人。そして捜索部隊の隊員たちが森の前にいた。
守護戦士二人が森に一歩踏み入れたとき、何か違和感を覚えて立ち止まる。
「マーズ、なんか変じゃないかこの森」
「分かってる。今その原因の気を辿ってるわ」
マーズは眉間に深い皺を寄せて祈祷を始める。
すると、酷く懐かしい気配に触れて瞳を大きく開けた。
「まさか……そんな」
マーズの変化に気付いたジュピターはどうしたかと尋ねるが、火星の守護戦士は意識をここではない場所に飛ばしているようで反応を示さない。
「ジェダイト……」
ポツリと零れたその名にジュピターも動きを止める。
「結論から言うわ。この森、結界が張られてる。でも、負のエナジーは感じない」
「結界が張ってあるってことは、やっぱりプリンセスはこの中にいるってことだよな? どうしてプリンセスを閉じ込める必要があるんだよ! 本当に負のエナジーじゃないなら、あいつらなんでそんなこと」
「分からない! でも、彼の声が聞こえるの。後で必ず解くけれど、もう少しだけ待ってくれって」
「何だよそれ!」
マーズの困惑しながらも確かに感じ取ったその言葉を聞いてジュピターは益々訳が分からなくなった。しかしもっと訳が分からないのは彼女たちが引き連れてきた捜索部隊の隊員たちだろう。
「マーズ様、この森に入れないというのは本当ですか?」
「入れなければプリンセスは捜索できません。どうするおつもりですか?」
「何か策でも?」
次々と不安気に質問してくる隊員たちに二人は顔を見合わせて困った表情を浮かべるが、すぐにジュピターが拳を握り締めて彼らに向き直った。
「確かに今は無理だが、すぐに入れるようになる! マーズの言うことを信じろ。今まで彼女の言うことで間違ってたことがあったか!?」
少しの間のあと、俯く者、首を横に振る者……。全員が、間違ったことなどないと認める。ありがとうジュピター、と小声で言った後、マーズも彼らに向き直る。
「皆。もう一度、私も集中して彼と交信するから、少しだけ時間を頂戴。そして絶対にプリンセスを見つけ出しましょう」
「「はい!」」
マーズの凛とした姿と言葉に彼らは口を揃えて返事をした。
(ジェダイト、なぜ結界なんて張っているの?)
(プリンセスの願いを叶えるために)
(どういうこと?)
(それが叶えられるまでは、誰もこの森に入ってはならないんだよ)
(詳しくは話してくれなさそうね)
(残念だけど)
交信しているうちに、段々その声がクリアになっていく気がしたので彼女は目を開ける。すると、結界のギリギリ内側にポゥっと白い影が揺らめくのが見えた。これはもちろん彼女にしか見えていない。
彼女はゆっくりとその影に近づいていく。すると、懐かしいその顔がふわりと微笑んでいた。
(久しぶりにマーズと話せて嬉しかったよ)
(もう行くのね)
(僕にはまだやらなくてはならないことがあるからね)
(プリンセスを頼んだわ)
(必ず連れてくるよ)
マーズの言葉にしっかりと頷いて、お辞儀をすると、その白い影は再び景色に溶け込んで見えなくなった。マーズは誰にも悟られないよう、一瞬寂しそうな表情を浮かべる。
しかし皆の方に振り返ったときはすっかりと戦士の顔に戻っていた。
「この森にはまだ入れない。だけど、分かったことが一つあるわ。プリンセスはこの森の中に確実にいる。だから、マーキュリーとヴィーナス、そしてクイーンに急いでそのことを知らせてきて!」
数名がその命に従ってパレスに向かった直後、森の中央から眩い光の柱が吹き上がる。
その突然の美しい光に、彼女たちは声も出ず、ただ驚いて見つめる事しかできないでいた。
「スモールレディ……?」
そして、病に伏せていたキングも窓からその光が降り注ぐのが見えて、たった今聞こえた気がした娘の名を呼び、その不思議な感覚に意識を囚われていたのである。そして普段は眠らさせている胸の奥のクリスタルが熱く光を放っている事を感じて、胸元にそっと手を当てた。
「あれ?もしかして王子の涙が咲いている所って……」
『そう。ここだ』
道が開けて大樹の彼が指をクイっと指したその先を見れば、いつかの花畑が広がっていた。
「やっぱりここに咲いてたんだ!」
プリンセスは駆け出したが、彼の言葉にその足を止める。
『ただし、普通に探してたって見つからないぜ?』
「え?」
『どれだけキングのことを治したいかって思うかが大事なんだ』
「そんなの決まってる! こーーーーーーーんなにっ! たっくさんっ!! 思ってるよ!!」
両手をこれ以上ないくらい大きく広げて顔を真っ赤にして言うプリンセスに大樹の彼は笑顔で頷いた。
『じゃあ、ここからはプリンセスが一人で探すんだ。できるな?』
「うん。できるよ! あたし頑張るっ!」
そして彼女は一人で花畑に入っていった。
『大丈夫か? スモールレディだけに探させて。彼女はまだあんなに幼い子供だぞ?』
白銀の青年が心配そうに隣にいる彼に聞く。
『ったく! お前はいつまで経っても心配性の苦労性だな。大丈夫だ。あの子はなんと言ってもマスターとプリンセスの娘だ。それに、覚えてるだろ?あの時……あの子からの言葉にどれだけ俺たちが勇気づけられたか。だから今のプリンセスにもきっと出来るさ』
大樹の彼が自信たっぷりにそう言うから白銀の青年は黙って信じることにした。
苦労性とまで言われて多少は腹も立ったが彼の裏表のないおおっぴらな性格は大昔から百も承知だった為、敢えて何か反論するのはやめた。
大樹の彼がマスターとプリンセスと呼ぶのは言うまでもなく、キングとクイーンのことなのだが、彼らはなぜスモールレディに自分たちのことを話さないのか。それは、全ての星が死んで行き着く場所、そして全ての星が生まれてくるコルドロンの中で交わされた約束があったからである。
『あなた方の願いを聞くためには、私がこれから話す事を絶対に守らなければなりません。そうでなければ、あなた方はその業を背負って無限の宇宙をさ迷う事になるでしょう』
コルドロンの中のガーディアンコスモスは四人にそう言った。
彼らは確かに、償いきれない罪を、前世でも転生後も犯してしまった。しかし彼らのマスターが四人を精神だけ翡翠に宿らせて共に過ごすことを許し、しばらくは魂だけが現世に留まることが出来た。
しかしそれを長く続けるための精神力はもはやなく、再びその魂はコルドロンへと流れ着いたのだった。
『黙って消えるのは許さない!』そう鼓舞してくれた少女との約束を果たせず、無念を抱いていた彼らは、今度こそという希望を抱いてガーディアンコスモスと対話する。
『あなた方の大切な人の大切な存在が願っていることを叶えてあげること。そして、あなた方が何者であるかはその相手に決して言わないこと』
その約束事に、二つ返事で四人は彼の地へと降り立った。四人はこの森にひと時だけ現れることを許されたのである。
しかしこれまでスモールレディに関わってきたのは三人。あとの一人はどうしたのだろうか。
『あいつの結界はどれほどもつだろうか?』
白銀の彼は確認する。
『最後にはスモールレディをクリスタルパレスの彼女たちに引き合わせないといけないからな。それまでは絶対、何が何でももたせてみせるだろ。あいつは律儀で真面目な奴だからな』
四人目の彼のことを二人は思い浮かべてどちらからともなく頷いた。
この花畑にはたくさんの種類の花々が咲いているが、絵本で見た王子の涙は見付からない。
『そこで若者は一生懸命祈りました。愛する人がもう病気で苦しまないように。そのためなら自分は何でもする。
だからどうか王子の涙が見付かりますように』
いつか父親が読んでくれた絵本の内容が思い出される。
信じる心、立ち向かう勇気、無償の愛。
それらが全部揃った時、王子の涙は初めてその雫を揺らして微笑みかけてくれる。
『スモールレディ、私はいつでもお前を信じているよ。いつでも、どんなときも、スモールレディの味方だ』
絵本を読み終えて、優しい瞳で娘を見つめ、くしゃくしゃと頭を撫でたのだった。
「パパ……!」
スモールレディの両頬には涙が流れていた。
(パパの優しい声であたしのことを呼んで欲しい。温かい手で「いい子だね」って頭を撫でて欲しい。たくさん絵本を読んで欲しい。
そしてママを本当の笑顔にして欲しい)
「お願い! パパを元気にしたいの……!!」
スモールレディの美しく温かい涙が草花にポタリポタリと落ちていく。するとそれが光となって、辺り一面の景色が彼女を中心にして一気に変わっていった。
『これは……!』
白銀の彼は眩しい光の中に、今までとはまったく別の花が咲き乱れているのを見て息を呑む。
『ほ~らな。やっぱりあの子はただ者じゃねえんだって』
なぜか大樹の彼が勝ち誇ったような顔をしてそう言った。
そこには、呆然としているこの国の王女と、絵本の通りの可愛らしいピンク色をした美しい雫を滴らせているたくさんの王子の涙が、風にそよいで揺れていた。
スモールレディが花畑に辿り着く少し前、マーズとジュピターの二人。そして捜索部隊の隊員たちが森の前にいた。
守護戦士二人が森に一歩踏み入れたとき、何か違和感を覚えて立ち止まる。
「マーズ、なんか変じゃないかこの森」
「分かってる。今その原因の気を辿ってるわ」
マーズは眉間に深い皺を寄せて祈祷を始める。
すると、酷く懐かしい気配に触れて瞳を大きく開けた。
「まさか……そんな」
マーズの変化に気付いたジュピターはどうしたかと尋ねるが、火星の守護戦士は意識をここではない場所に飛ばしているようで反応を示さない。
「ジェダイト……」
ポツリと零れたその名にジュピターも動きを止める。
「結論から言うわ。この森、結界が張られてる。でも、負のエナジーは感じない」
「結界が張ってあるってことは、やっぱりプリンセスはこの中にいるってことだよな? どうしてプリンセスを閉じ込める必要があるんだよ! 本当に負のエナジーじゃないなら、あいつらなんでそんなこと」
「分からない! でも、彼の声が聞こえるの。後で必ず解くけれど、もう少しだけ待ってくれって」
「何だよそれ!」
マーズの困惑しながらも確かに感じ取ったその言葉を聞いてジュピターは益々訳が分からなくなった。しかしもっと訳が分からないのは彼女たちが引き連れてきた捜索部隊の隊員たちだろう。
「マーズ様、この森に入れないというのは本当ですか?」
「入れなければプリンセスは捜索できません。どうするおつもりですか?」
「何か策でも?」
次々と不安気に質問してくる隊員たちに二人は顔を見合わせて困った表情を浮かべるが、すぐにジュピターが拳を握り締めて彼らに向き直った。
「確かに今は無理だが、すぐに入れるようになる! マーズの言うことを信じろ。今まで彼女の言うことで間違ってたことがあったか!?」
少しの間のあと、俯く者、首を横に振る者……。全員が、間違ったことなどないと認める。ありがとうジュピター、と小声で言った後、マーズも彼らに向き直る。
「皆。もう一度、私も集中して彼と交信するから、少しだけ時間を頂戴。そして絶対にプリンセスを見つけ出しましょう」
「「はい!」」
マーズの凛とした姿と言葉に彼らは口を揃えて返事をした。
(ジェダイト、なぜ結界なんて張っているの?)
(プリンセスの願いを叶えるために)
(どういうこと?)
(それが叶えられるまでは、誰もこの森に入ってはならないんだよ)
(詳しくは話してくれなさそうね)
(残念だけど)
交信しているうちに、段々その声がクリアになっていく気がしたので彼女は目を開ける。すると、結界のギリギリ内側にポゥっと白い影が揺らめくのが見えた。これはもちろん彼女にしか見えていない。
彼女はゆっくりとその影に近づいていく。すると、懐かしいその顔がふわりと微笑んでいた。
(久しぶりにマーズと話せて嬉しかったよ)
(もう行くのね)
(僕にはまだやらなくてはならないことがあるからね)
(プリンセスを頼んだわ)
(必ず連れてくるよ)
マーズの言葉にしっかりと頷いて、お辞儀をすると、その白い影は再び景色に溶け込んで見えなくなった。マーズは誰にも悟られないよう、一瞬寂しそうな表情を浮かべる。
しかし皆の方に振り返ったときはすっかりと戦士の顔に戻っていた。
「この森にはまだ入れない。だけど、分かったことが一つあるわ。プリンセスはこの森の中に確実にいる。だから、マーキュリーとヴィーナス、そしてクイーンに急いでそのことを知らせてきて!」
数名がその命に従ってパレスに向かった直後、森の中央から眩い光の柱が吹き上がる。
その突然の美しい光に、彼女たちは声も出ず、ただ驚いて見つめる事しかできないでいた。
「スモールレディ……?」
そして、病に伏せていたキングも窓からその光が降り注ぐのが見えて、たった今聞こえた気がした娘の名を呼び、その不思議な感覚に意識を囚われていたのである。そして普段は眠らさせている胸の奥のクリスタルが熱く光を放っている事を感じて、胸元にそっと手を当てた。
