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 月野家に着くと、これから待ち受けているだろう光景にうさぎはドアを開けようとする手を躊躇ってしまう。そんな時、追い付いた衛がその手を背後からそっと取った。
「まもちゃん……」
 うさぎの目を「大丈夫だ」と見つめる眼差しと、包み込む温かな手が彼女の心を落ち着かせる。こくりと頷くと、ドアを開けて家の中に足を踏み入れた。
「ママ! パパ! 進悟!」
 リビングに三人はいた。夕食を一緒に摂っていたのだろう。ダイニングテーブルの椅子から立ち上がって、外の様子を見ようとしていたところでクリスタルに包まれたようだった。
「そんな……」
 うさぎはその場に力なく座り込む。その肩を衛がしっかりと抱きしめた。
 腕の中で、涙をはらはらと流す恋人の背中をさすりながらゆっくりと語り始める。
「うさ、うさ。辛いと思うけど、聞いてくれ。この街の急激な変化は、銀水晶と……おそらく、俺のゴールデンクリスタルの力によるものだと思う」
「私たちの……」
「そうだ。そして俺たち、それから美奈たちはみんな無事だった。これは、戦士としてのクリスタル……星の力に守られているからなんだと思う。でもこの星の人々はまだ、この急激な変化には耐えられなかった。だから君の銀水晶の保護の力が働いて、地球が変化に対応し安定するまで人々を守っている……俺にはそう思えるんだ」
「でもどうして……どうして急に変わっちゃったの? 私たちが見てきた30世紀の未来もこんな風に突然変わったの? まだ私、クイーンになる覚悟もないし銀水晶をこの星の為に上手く使える方法も知らないのに」
 それはやはり、あの時に見た30世紀の自分には今と同じ形であるようには感じなかったゴールデンクリスタルの影響が大きいのかもしれない。衛はそう考えたが、まだはっきりとは自分でも処理しきれていない為彼女にしがみ付くように抱きしめる事しかできなかった。
 衛自身も酷く混乱していた。うさぎが楽しい時も悲しい時も、幸福な時も辛い時も、共にいようと固く誓っていたし、一緒にこの星を守っていくことこそ自分達の夢であり使命。そう思ってはいるものの、大きな変化の渦に突然放り出されたこの状況は敵と戦う時とは全く別の焦りや不安を抱かせるのだった。それでも自分を信じなければ。そして彼女を誰よりも信じている。その覚悟が揺らがない限りきっとこの試練も二人なら乗り越えていけるはずだと、衛は心の中で新たに誓った。

「うさ、この星の人々も、三人もきっと、きっと大丈夫だ。だから、今は司令室に行って情報を少しでも整理しよう。皆がきっと君のことを待ってる」
「まもちゃん……」
 うさぎの濡れた頬を優しく拭うと、衛は頷いて微笑む。
「心配するな。うさは一人じゃない。皆が、俺がずっとそばにいるから。この星のために今できることを一緒に考えよう」
 再び大粒の涙を流す彼女はくしゃっと顔を歪ませて、大きく頷いた。その様子にふと肩の力が抜ける衛は、うさぎの姿を今宵初めてしっかりと見つめて笑みを浮かべた。
「まもちゃん?」
「うん、そのドレスうさにすごく似合ってるよ。綺麗だな」
「も、もうまもちゃんたらこんな時に……!」
「そうだな、でも……どんな時でもそう思ったら伝えていきたいから」
 真っ赤になって見つめてくる恋人にくすっと笑うと、もう一度抱きしめ、互いを確かめ合うようなキスをする。
 衛は先に立ち上がり、頬を染める姫に手を差し伸べて横に立たせた。そして三人のもとに近づいて意を決して口を開く。
「お嬢さんを少しの間、連れていきます。必ずこの星を、あなた方を守れるようにしてみせますから」
「待ってて。パパ、ママ……進悟」
 静かな家族に胸が裂けそうな想いを抱えながらも、うさぎは衛と力強く手を繋ぎ月野家を後にした。


つづく

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