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「え? 何?!」
「うさっ!」
 二人が手を取り合って間もなく、目も開けられないほどの光がうさぎの身体から放出される。正確に言えば、彼女の心臓とも言えるクリスタルから膨大なエネルギーが放射されていた。
 しかしそれは持ち主であるうさぎの意思とは無関係で、いつも銀水晶は己の心と直結してそのパワーを発現していたため、想定外な出来事に彼女自身もなす術なく立ち尽くすしかない。
 衛はその力を鎮める手助けをする為両手を胸の前に掲げ、自身のクリスタルで黄金色のオーラを纏い、うさぎへとパワーを送った。その効果があったのだろうか。光は音もなく収まり静まり返る。二人は放心した表情で見つめ合うと、どちらからともなく抱き合った。直後、大地が揺れ、月が真っ白な輝きで地表全てを照らし出す。
「まもちゃん、見て!」
 うさぎが指差した月を見て衛は身震いした。恐怖か、感嘆か。そのどちらとも言えない感覚に支配され、抱き寄せる力を込めた。
 月はこれまで見えていた三倍大きく、その眩い光でこちらを照らしている。二人はあの月の輝きをかつて見たことがあった。あの時の衛は目に映すことは出来なかったが、見えなくても感じるほどの強い輝き。
 クインベリルとの戦いの時に、セーラームーンがプリンセスと一体となって覚醒し、月の王国の最大限のパワーが引き出され、シルバーミレニアムが復活した。それと同じものだった。しかしその時よりも遥かに力が増している。

 衛は地球と己の体が繋がっている事から、うさぎよりも状況の判断がはっきりとできていた。
『変革』――― クリスタルトーキョーがあった、あの未来の地球への急速な変化が今この時、始まってしまったのだと。
 しかしここからは衛は知らない事実なのだが、この変革のきっかけはうさぎが成人した事にある。そして、地球の王子である衛との接触がその力を後押ししたのだ。銀水晶とゴールデンクリスタルはまるで対に作られたかのように表裏一体、互いの存在が唯一無二の聖石。それを司る二人の力が、様々な戦いを経てまさに今、真に星を継ぐ者としての時が満ちたのだった。

 白き月の輝きが街を変えていく。辺り一帯がクリスタル化し、最上部にシルバーミレニアムを擁したクリスタルパレスが姿を現した。そしてパレスが虹色に輝くと、梅雨の蒸し暑さが消えて空気が澄み渡る。しかしそれと同時に街を行き交う車の音、人々の息遣い、カラスの羽ばたき一つ聴こえなくなった。
 周りの人間を見てうさぎは顔色を変える。

 一人一人がクリスタルに包まれて動きを止めていた。

「街の機能が……静止している」
 衛の言葉に、彼のシャツにしがみついていたうさぎは更に凍り付いた。
「そんな……私の、せい?私と、銀水晶の……」
「うさ!」
 銀水晶の暴走ともとれるこの状況に、うさぎが取り乱すのも無理はない。衛は彼女の肩をぐっと掴んだ。
「落ち着け!」
「無理だよ!! だって私、こんな風に突然、変わっちゃうなんて……望んでないのに!!」
 そう叫ぶとうさぎは自分の家の方に向かって走り出す。
「うさ!!」
「プリンス! プリンセス!」
 追いかけようとしたところではるかの声が背後から聞こえてくる。パーラークラウンで一堂に会していたメンバーが血相を変えてやってきたのだ。
「すまない、俺はうさを追う! 君たちは先に司令室へ……!」
 彼女たちの返事を聞くと、衛は風の速さでうさぎが消えた方角へと走り去っていった。
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