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 二十歳の誕生日が明日に控えていて、うさぎは自室で当日デートに着ていく袖がふわりとしたマーメイドドレスをルナにお披露目していた。
「ねえねえ、どうかな? ルナ」
「うさぎちゃん……すごく綺麗よ」
「ホント!?」
「ええ。うさぎちゃんももう二十歳だものね。そういう格好も似合うような歳になったんだなって、しみじみしちゃった」
 ルナの脳裏には月に仕えていた頃のクイーンの姿が過ぎる。うさぎは近頃、日を増すごとに身に纏う空気が洗練されていき、何か内から出る光が増しているように見えていた。これはシルバーミレニアムの王族に太古の昔から従事している自分だから気づくのか、そうでないのかは分からない。けれど、敵が現れなくなって平和な地球で銀水晶の力も解放されず静けさを保つ日々が続く中、何かが起こりそうな気配をルナの第六感が告げていた。
「ねえうさぎちゃん、最近何か変わった事とかない?」
「変わった事?」
 ピアスを選び直して付けているうさぎは、鏡越しにルナを見た。
 変わった事はない。そう、現実では。
 しかしうさぎは最近よく見る夢があった。けれど夢は夢だ。ここでそれを言ってルナに余計な心配をかけたくはなかった。
「何もないよ。美奈Pたちもみんな変わりなく元気だし、まもちゃんともラブラブだし」
「そうよね……でも、何かあったら教えてね。私はあなたのパートナーなんだから」
「ルナ……」
 そこで部屋がノックされてはっとなる。
「うさぎ、お袋が呼んでるぜ?」
 弟の進悟が言いながらドアを開けた。
「もう進悟! 返事する前に開けないでって言ってるでしょ?」
「へいへい。てか、何だよその格好。」
「これ? ふふっ明日まもちゃんとデートするときに着ていくの」
「……」
 進悟は目の前で笑ううさぎの余りのまばゆさに、姉なのに姉では無いような、妙な焦燥感に駆られた。
「ママー今行くー!」
 うさぎはそう言いながら、一人でリビングに降りて行った。
 部屋の入り方は注意するくせに、その弟を猫と一緒に平気で自室に置き去りにしていく姉に呆れたように笑う。
 ベッドにいる美しい黒猫と目が合い、進悟はしゃがんで喉元を擦ってやる。気持ち良さそうに目を閉じて委ねている猫に、進悟の目も柔らかく細められた。
「なあルナ、姉ちゃんの事いつも気にかけてくれてありがとな」
 まるで何もかも見透かされているような言葉に、ルナの心臓は跳ねる。
 いつの間にか随分大きくなった掌で頭から背を柔らかく撫でられ、見上げると彼はうさぎにそっくりな笑顔でルナを見つめていた。
「苦労かけると思うけど、これからも姉ちゃんの事頼むな」
 進悟くん……
 思わず声に出しそうになる。ルナは返事をする代わりに、大事な主人の可愛い……と言うにはずいぶん逞しい青年に成長した、素敵な弟の事をその青い瞳にじっと映していた。
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