愛のばかやろう(クン美奈←エース)

「あんたが言いたかった事ってそれ?」

にっこりと目を細めるエースは相変わらず意地が悪い。

「あたしは、前世も今も。あの子が一番大切なの。だから、あの子を傷付けようとする奴がいれば、それが彼じゃなくても倒すわ。躊躇いなく、ね。」

『美の女神と言われた君が、勇ましいねえ。』

「あたしを誰だと思ってるの?もうあんたを倒した時みたいに気持ちが揺れたりしない。幾つもの戦いがあたしを強くしたのよ。」

『でも女としての幸せも手に入れたい?ここにいるってことはそうだよね。強欲だなあ。』

「そうよ。あたしって欲張りなの。平和になったこの世界で生きていけるなら、どっちも諦めたくない。」

『ふーん』

さして興味もなさそうに答えたエースは賢人の椅子に座り、引き出しを勝手に開けてあたしだって見たことがない手帳をパラパラとめくって溜息をついた。

「ちょっと!なんなわけ?勝手に触ったりしたらあいつにミンチにされるわよ?それにあたしにどーして欲しいっていうの?幽霊は大人しくあの世に帰りなさいよ!」

あたしの言葉に片眉をぴくっと上げるものの、イケメン様は何をとち狂ったのか賢人の手帳を読み上げ始めた。

『今日は美奈子と出掛けた。あいつはいつも高エネルギー体の如く元気だ。レストランで食事をした。ニラをよけて食べる俺を鬼の首を取ったかのように揶揄ってきた。だから食べた。
もう二度とニラは食いたくはない。』

「や、やめなさいよ!」

顔が熱くなるのが分かる。そんな些細なことをあいつが書いていたなんていう事実と、それをエースに目の前で読まれている状況にキャパを越えそうになっていた。

『クンツァイト様も浮かれてるなあ。えーと、何々?美奈子が最近帰りたがらなくて困っている。俺だって本当は
「そこまでだアドニス。」

重低音がリビングに響いた。この部屋の主がいつの間にか帰ってきていて鋭い目つきでエースを思いっきり睨んでいる。

『これはクンツァイト様お帰りなさいませ。』

でもって全くひるまないエース。もう何なのよこの状況!頭が痛くてクラクラしてきたっつーの!!
それにエースが読みかけた内容も気になり過ぎる。

俺だって本当は....?

「美奈子」

「うわあ!はい!!」

あたしの前に立つ賢人は頬にそっと触れてきた。

「大丈夫か。アドニスに何か言われたか?」

あたし、顔色に出てたかな。いつになく優しい手つきに胸がほっとあったかくなる。

「あ、うーん『僕はね、美奈子に告白しに来たんですよ。クンツァイト様。』

「なに?」

エースの言葉に振り向いた賢人の声は一段と低かった。そして彼に近づくと持っていた手帳を取り上げて元あった場所に音を立ててしまった。代わりに小さな石を取り出してエースに詰め寄った。

「勝手に人のものを物色するのは怪盗をしていたからという理由でも許されないぞ。それにどうして今頃になって現れた。」
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