記念日
『記念日』(まもうさ)
今日は衛とうさぎが付き合って丸五年。記念すべき五周年を迎える日だった。
「まもちゃんまだかなあ…」
休日。外で待ち合わせた二人だったが、今日は珍しくうさぎが待ちぼうけ。予定の時間より三十分が過ぎていた。
うさぎならばともかく衛が連絡もよこさずにこれほど遅れるのは滅多にない。初めのうちはあまりない恋人を待つという状況に多少の優越感と高揚感でいた彼女も次第に心配になってきた。
まさか事故、とか―――?
過る不安に足が衛の家に向かう一歩を踏み出そうとしたその時だった。
「うさ!」
何故か背後から呼ばれて振り向いたうさぎは更に瞠目する。
周りもざわついていて注目を浴びていた。
「まも、ちゃん……」
「遅れてごめんな。注文してた花屋の商品の搬入時間が遅れてて」
「これ、持って走ってきたの……?」
「え? ああ。あ、少しよれたか?」
カサカサと慌てて確認する衛の様子に愛おしさが溢れる。
「すごい、目立ったでしょ」
「あー、そうかもな。とにかく急いでたから気づかなかったけど」
「今も、目立ってるよ……」
言いながら頬を染め目を伏せて睫毛を揺らすうさぎは、恋人が抱える鮮やかな赤にじんわりと胸の内が温かくなるのを感じた。
衛はその長身の半分はある薔薇の花束を抱えて肩で息をしてうさぎの前に現れたのだった。
うさぎの言葉に花束と自分の姿を今更ながら思い返して動揺を映すように少し目が泳ぐ衛だが、意を決し改めてそれを恋人に差し出した。咳払いを一つ。真っ直ぐに空色の瞳を捕らえて。
うさぎはそんな彼の姿を見つめ、目に透明の膜を張りながら、ずっと以前。付き合い始めた当初に衛に他愛なく話したことを思い出していた。
『ねえまもちゃん! 私こういうの憧れちゃう!! ドラマで観たんだけど、街でね、恋人のことを待ってたら、こーんなおっきい、両手いっっぱいの花束を抱えて「俺の気持ちです」って言ってもらうの!!』
『えー? なんだそりゃ。やだよ俺は。恥ずかしい』
『ぶー!! まもちゃんのケチ!!』
まだ高校生だった衛の、赤面しながらぷいとかわした横顔。
そして今、少し大人になった彼が自分をしっかりと見つめて微笑んでいる。
「月野うさぎさん、俺の……気持ちです。受け取ってもらえますか?」
その言葉に、衛への想いが溢れてうさぎは涙を頬に滑らせながらとても幸せそうに微笑んで…
「はい……っ!」
大きな花束を抱き締めると踵を上げて周囲の視線も気にせず愛を贈り返した。
その一連の美男美女の二人の雰囲気は、まるでドラマの撮影、はたまたどこかの童話の王子とお姫様のようで最早周りの人間も呆れとは違った溜め息を付く始末。
そして互いの顔が離れてもう一度咳払いをした衛の顔はやはり赤かった。
「うさ、お前の方が目立ってるから」
「だあって、嬉しかったんだもん」
「じゃあ、行くか。」
「え、でもこのおっきな花束持ってデートするの?」
「あー……俺んち行くか。」
「うん行く!」
あまりの即答に苦笑しつつ。このとんでもなく愛に溢れた花束を渡すという一大イベントに頭を使い果たしてその後のことを全く考えていなかった自分にも呆れてしまう衛。しかしそれでも嬉しそうに微笑む恋人を見るだけで彼も満たされてしまうのだから、もう何も語る必要も無かった。
おわり
(副題:薔薇とお姫様)
今日は衛とうさぎが付き合って丸五年。記念すべき五周年を迎える日だった。
「まもちゃんまだかなあ…」
休日。外で待ち合わせた二人だったが、今日は珍しくうさぎが待ちぼうけ。予定の時間より三十分が過ぎていた。
うさぎならばともかく衛が連絡もよこさずにこれほど遅れるのは滅多にない。初めのうちはあまりない恋人を待つという状況に多少の優越感と高揚感でいた彼女も次第に心配になってきた。
まさか事故、とか―――?
過る不安に足が衛の家に向かう一歩を踏み出そうとしたその時だった。
「うさ!」
何故か背後から呼ばれて振り向いたうさぎは更に瞠目する。
周りもざわついていて注目を浴びていた。
「まも、ちゃん……」
「遅れてごめんな。注文してた花屋の商品の搬入時間が遅れてて」
「これ、持って走ってきたの……?」
「え? ああ。あ、少しよれたか?」
カサカサと慌てて確認する衛の様子に愛おしさが溢れる。
「すごい、目立ったでしょ」
「あー、そうかもな。とにかく急いでたから気づかなかったけど」
「今も、目立ってるよ……」
言いながら頬を染め目を伏せて睫毛を揺らすうさぎは、恋人が抱える鮮やかな赤にじんわりと胸の内が温かくなるのを感じた。
衛はその長身の半分はある薔薇の花束を抱えて肩で息をしてうさぎの前に現れたのだった。
うさぎの言葉に花束と自分の姿を今更ながら思い返して動揺を映すように少し目が泳ぐ衛だが、意を決し改めてそれを恋人に差し出した。咳払いを一つ。真っ直ぐに空色の瞳を捕らえて。
うさぎはそんな彼の姿を見つめ、目に透明の膜を張りながら、ずっと以前。付き合い始めた当初に衛に他愛なく話したことを思い出していた。
『ねえまもちゃん! 私こういうの憧れちゃう!! ドラマで観たんだけど、街でね、恋人のことを待ってたら、こーんなおっきい、両手いっっぱいの花束を抱えて「俺の気持ちです」って言ってもらうの!!』
『えー? なんだそりゃ。やだよ俺は。恥ずかしい』
『ぶー!! まもちゃんのケチ!!』
まだ高校生だった衛の、赤面しながらぷいとかわした横顔。
そして今、少し大人になった彼が自分をしっかりと見つめて微笑んでいる。
「月野うさぎさん、俺の……気持ちです。受け取ってもらえますか?」
その言葉に、衛への想いが溢れてうさぎは涙を頬に滑らせながらとても幸せそうに微笑んで…
「はい……っ!」
大きな花束を抱き締めると踵を上げて周囲の視線も気にせず愛を贈り返した。
その一連の美男美女の二人の雰囲気は、まるでドラマの撮影、はたまたどこかの童話の王子とお姫様のようで最早周りの人間も呆れとは違った溜め息を付く始末。
そして互いの顔が離れてもう一度咳払いをした衛の顔はやはり赤かった。
「うさ、お前の方が目立ってるから」
「だあって、嬉しかったんだもん」
「じゃあ、行くか。」
「え、でもこのおっきな花束持ってデートするの?」
「あー……俺んち行くか。」
「うん行く!」
あまりの即答に苦笑しつつ。このとんでもなく愛に溢れた花束を渡すという一大イベントに頭を使い果たしてその後のことを全く考えていなかった自分にも呆れてしまう衛。しかしそれでも嬉しそうに微笑む恋人を見るだけで彼も満たされてしまうのだから、もう何も語る必要も無かった。
おわり
(副題:薔薇とお姫様)