snow moon(クン美奈)

「じゃ、帰るね」
「そこまで送ってく」
 賢人は立ち上がってコートを取りに行った。
 前は、賢人の家から帰ろうとしたら、「ああ」とか「そうかじゃあな」とかすっごく素っ気なかったのに。最近はどういうわけか決まって送ってくれるようになった。だからなんだかちょっと、落ち着かない。
「別にいいのに。あたし一人でも」
「一応な」
「なあにそれ」
 口下手不愛想朴念仁クンツァイトの、相変わらずな言い回しがおかしくて笑ってたら口を唇でふさがれた。ほんと、ずるい奴。

 ポーチに出たらいつもよりも明るくて、門扉を開けて空を見上げるとまん丸のお月様が浮かんでいた。
「すーっごい。ほら賢人、うさぎの形もはっきり見えるわよ」
「そうか、今日は満月だったな」
 玄関の鍵を閉めた彼もそう言って目を細める。月に反射した賢人の白銀の髪がきらきらと光ってて、思わず見とれてしまった。
「どうした?」
「んーん、何でもない。行こ?」
 ぱっと視線を逸らしたあたしは賢人の腕を取って歩き出す。上から不思議そうに顔を覗き込んでくるのが分かるけど、あたしは意地になって前を向き続けた。
 
 前世でプリンセスの護衛について行った時、あの夜も彼の髪はさっきみたいにキラキラ光っていたなと思い出す。プリンセスの銀髪とは少し違った白銀色。

 あたしはプリンセスと同じ月を愛して、月の光を受けた貴方に恋をした。

「美奈子、なぜ黙っている」
「こんな月が綺麗な日はね、あたしだってちょっとはセンチメートルにもなるんです」
「それを言うならセンチメンタル、だ」
「もう!」
「ようやくこっちを向いたな」
 どきん。胸が鳴る。そんな風に優しく笑うな。ちょーし狂う。
「俺は、月より太陽の方が好きだな」
「そうなの?」
「美奈子は昔から、陽の下が似合う」
「へっ?」
 あたしの髪をするっと梳いて、らしくないことを突然言ってくるから真っ赤になってしまう。賢人も自分で言って恥ずかしくなったのか、無駄に咳払いをした。
 手を繋ぎ直されてからはどっちも無口になってしまう。もう、何なのよこれ。中学生かっつーの!
 
『陽の下が似合う』

 でも。前世の時からあたしのこと、そんな風に思ってたの? ふーん? まぁ、悪い気はしないわ。あんたが月で、あたしが太陽ってわけね。

 あたしはきらきらと雪が降った月のような彼の髪を見ると微笑んで、踵を上げて頬にキスをする。そしたら唇から熱が伝って彼の顔も赤く染まった。


おわり
2022.2.17
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