探していた
ー6:00 起床ー
カーテンを開けて陽の光を浴びる。
今日はいい天気になりそうだ。まだうさこは夢の中だろうな。
そんな風に考えれば自然と笑みが浮かぶ、穏やかな朝。
湯を沸かしてコーヒーを淹れるときに食器棚にあるピンクのマグカップが見えて思い出した。
そうだ、コーヒーシュガーがそろそろ切れるから帰りにうさこと買っていこう。
朝食を済ませた後の時間は読書に没頭する。以前よりも物語が頭の中に心地良く入ってくるから、この時間は自分にとって大切なものになった。
「行って来ます。」
玄関を出る前に両親の写真立てに笑い掛けてそう言えるようになったのは、彼女のおかげ。
ー8:00 登校ー
待ち合わせの彼女が遅いのはいつものこと。それでもこんな風に誰かと約束をして待つ、なんてことは初めてで、嬉しさも込み上げてくる。けれど時間のことを考えればそんな悠長なことも言っていられない。
全く、俺の朝も随分と忙しなくなったものだなと思う。
「まもちゃん!おはよっ!!」
抱きついて挨拶してくる恋人にそれを返し、一応は注意するけれど、もうずっと……ずっと長いこと君のことを待っていたから。少しくらいの遅刻なんて本当は全然気にならない。
ごめんなさいとしゅんと謝るうさこの頭を撫でて顎に手を添え、そっとキスをする。
すると愛して止まない笑顔が見られて、俺の心はそれだけで満たされるんだ。
ー12:00 昼休みー
「衛ー!購買付き合えよ!」
クラスの友人にチャイムが鳴り終わる前から声をかけられる。
「やだよ。俺弁当あるし。」
「そう言うなって!お前足速いしタッパあるから即戦力なの!少しでもカツサンドゲットの確率上げたいんだ!!」
頼む!と両手を合わせられたら断れない。
「仕方ねーなぁ。」
苦笑まじりに答えてダッシュを決めた。
仮面の戦士として彼女を守る為に日々鍛錬している体を、最大限に活用して。
ー16:30 放課後デートー
一ノ橋公園で待ち合わせをした彼女とそのままベンチで昼休みの事を話せば、楽しそうだねー!と声を上げて笑われた。俺もつられて一緒に笑う。
「それで、カツサンドは買えたの?」
「もちろん。」
「さっすがまもちゃん!」
拍手までしてくれるから嬉しくなってカツサンドのお返しに友人からチョコパンをもらったことまで話してしまった。
やべ。男のくせにチョコが好きとか引いたりしないか?ええかっこしいかもしれないが大好きな女の子の前ではかっこよくありたいと思うのは普通の事だろう。けど、俺にもこんな普通の感覚があったんだな。
そんなふうに思考する事数秒。うさこは羨ましそうな顔をして目を輝かせていた。
「いいなー!カツサンドだけじゃなくてチョコパンみたいな菓子パンまであるなんて!高校の昼休みってほんっとおいしそう!!私も早く女子高生になりたい!!」
「おいしそうって…」
吹き出して笑う。ほんと、彼女には敵わない。
そんな中、何かに気づいたようなうさこが俺の瞳をじっと覗きこんできた。
か、かわいい……
……じゃなくて!
「何?」
「ひょっとして、まもちゃんチョコが好きなの?」
「え、ああ…」
「じゃあ今からオススメのアイスクリーム屋さん行こう!あそこのチョコアイス、すーっごくおいしいの。」
「へ?」
「はやくはやくー!」
怒涛の展開の彼女に手を引かれてアイスクリーム屋に向かうことになった俺。その心と手の温もりに、頬が自然と緩んだ。
※挿絵イラスト 栗要さん(Twitter/@kurikaname )
放課後デート
ー18:00 恋人を送るー
手を繋いで彼女を家まで送る。
別れる時は離れがたい、寂しい気持ちが過るけれど、
「また明日な。」
この約束ができるから。
抱き締めてもう一度キスをして、彼女の表情からもたくさんの気持ちが伝わってくるから。
俺はもう大丈夫。
うさこ
うさこに出会えて本当に良かった。
ありがとう。
空から注がれる優しく白い光に心が休まる。
もう月を見上げても苦しくないよーー
おわり
2022.2.14