スキボタンお礼小話



『陽だまり』(エンセレ)

 バルコニーの窓を開けると、小鳥のさえずりと森の匂い。向こうからお日様が登ってくる薄桃色と橙色に染まる空。月では感じることの出来ない、この星の美しい朝。
「セレニティ……?」
 後ろの大きなベッドの中で動く気配がしたかと思ったら愛しい貴方が私を呼んだ。
「おはよう、エンディミオン」
 おでこにキスすると、彼はくすぐったそうに目を細める。そして私を引き寄せると何も着ていない半身で抱きしめてきて、「おはようセレニティ」と返事をしてくれた。
 この腕の中にずっといたいな。貴方のそばが私が一番上手に呼吸ができる、どこよりも生きてる実感が湧く場所なの。でも、それは許されなくて。私の中の何かがゆっくりと壊れていくのが分かるから。
 この幸せは、きっといつか手放さなくてはいけないから。
 私はキスしてくれる貴方に応えながらも心の中で涙を流して、このひと時だけは自分のことを許してあげる。
「私、帰らなきゃ」
「うん……」
「もうすぐクンツァイトが来ちゃうわ」
「分かってる」
 月ではきっとヴィーナス達が青筋立てて待ってる。そう思うと憂鬱だけど、自分がいけないんだもの。ちゃんと怒られなきゃダメよ、セレニティ。
 
 大好きな貴方の腕から抜け出して、開け放たれたバルコニーへ向かう。彼はガウンを掛けてそれに続くと私の手を取り、手の甲にキスを落とす。私はそれを返すように、彼の小指に唇で小さく触れた。
「いつも、心は君のそばに」
「いつも、私の心は貴方の中に」
 唇を重ねる。
 それは別れと、誓いと、祈りのキス。
 
 目を閉じて力を込めると、月への道を開いて私は天空へと身を委ねる。
「また来るわ、エンディミオン」
「……待ってる」
 微笑みの中に沢山の想いを忍ばせて。私達は新しい朝の始まりに逢瀬の終わりを告げた。

 また絶対に逢いにくるわ。愛する人、私のたった一つの大切な居場所。
 

 私の陽だまり



おわり
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