sweet home(まもうさ四四)
賢人と美奈子
賢人は眉間に皺を寄せていた。
インテリアショップにソファーを選びに来た彼と美奈子だったが、もうかれこれ二時間近く決められずに悩んでいたからである。
美奈子が、ではなく賢人が。である。
「もおー!賢人ってば悩みすぎ!これでいいじゃないこれで!!」
さすがに短気な美奈子は切れ気味に夫に真っ赤な二人用のソファーを指差して催促する。
「…駄目だ。」
「なんでー!?新婚ぽくっていいじゃない!色も赤で可愛いし。」
「駄目なものは駄目だ。」
頑ななその態度に遂に美奈子はぶち切れた。
「じゃあもうそこで一生悩んでれば!?私帰る!」
「待て。」
躊躇うことなく去ろうとする彼女の右腕をぐいっと掴んで引き止める。
「もう!何が気に入らないのよ!ちゃんと説明してくれなきゃ分かんないじゃない!!」
「お前はすぐにどこでも寝るだろ。」
「…は?」
突然の話題に怒りも引っ込んで唖然とする美奈子。
「結婚する前俺の家に来たときもすぐにソファーで寝てただろ。」
「それが何よ!」
「あんな狭そうなソファーじゃ、お前はきっと寛げない。」
「…。」
真っ直ぐに真剣な眼差しで言われて、彼女は顔が熱くなってくるのを感じながら黙り込む。
「色も駄目だ。お前のリボンの色と一緒だからな。」
「何で一緒じゃ駄目なのよ…。」
「白がいい。それがお前が一番映える色だ。」
臆面も無くそんな台詞を吐く目の前の夫にただ呆然とするしかない彼女は、今度こそ確実に顔中が熱くなっていくのを自覚する。
しかしそんな彼女を気にすることも無く淡々と今言ったものに当て嵌まるものを見つけ出して満足気に美奈子に催促する。
「じゃ…じゃあさっさとそれ買って帰るわよ馬鹿賢人!!」
見るからにゆったりしていそうなその真っ白な革張りのソファーは確かに魅力的だった。
「座ってみないのか?」
そう言って手招きする笑顔の賢人にもう何も言えない彼女は素直に歩み寄っていく。
少し離れて座る彼女を不思議そうに眺める賢人は、真っ赤になる妻をくすっと笑って肩を抱き寄せた。
「お気に召しましたか?」
「い…いいんじゃない?ていうか恥ずかしいからもう立つわよ!?」
耳元で囁かれてぞわりと甘く体が震えた美奈子は必死に離れようとする。
仕方ない…など独りごちる彼は彼女を解放してゆっくりと立つ。
「このソファーが届くのが楽しみだな。色々と。」
「え?何?」
さっさと先に行ってしまっていた美奈子は未だ赤いままの顔で振り返る。
「いや、行こうか。」
その笑顔は、ちょっとなかなか見れないような悪戯を秘めた少年のような表情で。
美奈子は慌てて前に向き直した。
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