sweet home(まもうさ四四)
瑛二とレイ
瑛二は見惚れていた。
彼の傍らには最愛の人が眠っている。朝早く目が覚めてしまった瑛二は貴重な彼女の寝顔を心行くまで堪能していた。
神社で生活しているレイの朝は早い。そんな彼女よりも早く起きてしまったのはおそらくきっと高揚感でしっかりと眠れなかったからだろう。
結婚して瑛二も火川神社の中にある彼女の住まいに身を置いたのは自然の流れだった。
祖父を独り残せないという彼女の願いもあったが、レイ自身も宮司になるという夢があり、それを傍らで支えたいという瑛二の思いもあって今の状態に落ち着いたのである。
布団の上を流れる美しい漆黒を指に絡めて口付ける。
ふと彼女の左手を見ると誓いの印のシルバーのリング。
瑛二はそれを見るだけでどうしようもないほどの幸福感に包まれるのだった。
大切なもの、譲れないものがたくさんあるだろう彼女が、パートナーとして自分を選んでくれたことがこれ以上ない喜びだったから。
「レイさん…あなたのことは俺が守るよ。だからレイさんはいつでもありのままの自分でいて。」
薬指にキスを落として瑛二は囁く。
彼が顔を上げるのとレイが目を開くのはほぼ同時だった。
しかも彼女の頬は徐々に朱に染まる。
それは彼の囁きを聞いていたということを物語っていた。
「おはようレイさん。今日も綺麗だよ。」
しかし相変わらず瑛二はそんなことを朝日よりも眩しい笑顔で本気で言うものだから、レイは耐えられず布団を頭まで被った。
「レイさん?どうしたの?」
「…何でもないわよ。」
布団に潜ったままくぐもった声で言い返す。
さっきみたいな言葉を起きぬけに聞かされたらさすがに恥ずかしく、いつものように冷静でいられないぼんやりとした時間には頭が痛くなるほどの殺し文句だった。
「レイさん。」
「何よ。」
漸く顔を出して答える彼女に彼は優しく微笑む。
「キスしていいかな。」
「な…駄目!もう起きて支度しないと。それに昨日も散々したでしょう!?」
言っていて段々昨夜のことが思い出されたレイは起き上がって背を向ける。
彼女は赤面している表情を瑛二に見せたくなかったのだ。
むき出しの白い背中が長い黒髪の隙間に見えて美しく、瑛二はそれに吸い寄せられるように起き上がる。
そして無防備なその肩に唇を寄せた。
「ちょっと…駄目って…!」
「うん。でも肩ならいいよね?」
掠れた声で言われていよいよ情事の間の彼がフラッシュバックする。
夜の彼は想像以上に積極的で普段と立場が逆転してしまうようで。
その様子を日が昇ったころに思うとどうにも納得できなくて若干腹まで立つのだが、その時になってしまうと受け入れてしまっている自分もいて。
レイは己のそういう矛盾を整理しきれずに頭を抱える。
けれどそんな自分を嫌いになることもできないのだった。
「…駄目。さあ仕事よ!瑛二さんも早く服を着て頂戴!!」
色々な事を振り切るようにレイはそう言うと、手早く散らばる衣服を着て布団から離れた。
「はい。掃除は僕が全部しますから、レイさんは中のことに専念してくださいね。」
仕事中と同じ話し方で瑛二は言う。
程よく筋肉が付いた上半身を惜し気もなく晒し、誰もが振り返るような綺麗な笑みを携えて。
そんな彼にやはりレイは軽く頭痛を覚えるのだった。
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