祭りと恋と、誕生日(クン美奈)
「早く進んでくれないか」
賢人の声にハッとなり、衛はすまんと謝った。
「うさぎちゃん! 衛さんと見つめ合ってないでこっちにご案内して」
教室の中央で注文を取っていた亜美が尻尾をフワリと振りながらこちらを向く。その号令で六人を案内したうさぎは厨房コーナーに入っていった。
「亜美……あなた……」
要は非常に珍しい恋人の姿に、スーッと音もなくスマホを取り出して連写し始めた。
「あ! かなめっち何してやがる! 撮影禁止って書いてあんだろ」
黒板に『カフェのお願い』と書かれた注意書きを指差す晃に、への字の口で見やる。
「あらそう? それは失礼したわ」
このカフェは撮影スポットでのみ撮ることが許されていて、それ以外は活動の妨害となる為禁止されているらしかった。
亜美が効率的にオーダーを受けてテキパキと動く様子と、フワフワと揺れる尻尾のアンバランスさが際立っている。その姿とスマホに収めた彼女の両方を見てふふと笑う要。
彼女はオオカミ少女の格好をしており、灰色の獣耳のふさふさしたカチューシャを付け、服装はカフェらしくウエイトレスの格好で、エプロンはハロウィンカラーでコーディネートされている。しかし最もインパクトがあるのは、後ろから生えている耳の色とお揃いのふさふさの長い尻尾だ。
「にやにやしちゃって。やらしいな、かなめっち」
「うるせー。男はみんなそうだろ」
「うっわ、ブラック要降臨した」
「そういうあんたの彼女はどこなのよ」
「それな。俺そろそろ泣きそう」
「ご勝手に〜」
今度はメニューを楽しそうに眺める要はそう言ってあしらうと、衛が口を開いた。
「まことは厨房係だってうさが言ってたぞ」
「え! じゃあ俺だけ彼女の可愛い格好見られないのかよ?!」
わざわざ立ち上がってのたまう彼の、愕然とした様子に賢人はため息をつくと、今しがた美奈子に渡されたメニュー表を見て冗談抜きで椅子からずり落ちそうになった。
『マジョマジョ魔女っ子のほうき星☆しゅわしゅわジンジャー恋するソーダ』
『高鳴る胸と響く遠吠え、寂しがり屋の涙閉じ込めオオカミルフィーユ』
『採血のお時間です!真っ赤なあなたのハイテンションブラッドオレンジジュース』
『ゴーストの叫び!黒いソースは何の味?消えちゃうアイスを召し上がれ』
『どす黒い液体は魅惑の香り☆苦味も恋のスパイスだ』
(長い。絶対美奈子が考えただろ。このクラスの男子はどうしたんだ。厨房にいるのか? クラスの女子の暴走を止めるような奴はいなかったのか!)
「ご注文はお決まりですか?」
ナース美奈子が嬉しそうにやって来た。
「ジンジャーエール」
「アイス」「あ、俺も」「じゃあアイス二つ」
「私はオレンジジュース」
「ミルフィーユね」
「俺はコーヒー」
「ちょっとちょっと! ちゃんとメニューをご覧くださーい?」
「読まないぞ」
「ちっ」
舌打ちしたな? このナースめと、賢人は眉間に皺を寄せたが、本日誕生日の恋人に小言は控えたかったので「頼んだぞ」とだけ、言葉を掛けた。
つづく
賢人の声にハッとなり、衛はすまんと謝った。
「うさぎちゃん! 衛さんと見つめ合ってないでこっちにご案内して」
教室の中央で注文を取っていた亜美が尻尾をフワリと振りながらこちらを向く。その号令で六人を案内したうさぎは厨房コーナーに入っていった。
「亜美……あなた……」
要は非常に珍しい恋人の姿に、スーッと音もなくスマホを取り出して連写し始めた。
「あ! かなめっち何してやがる! 撮影禁止って書いてあんだろ」
黒板に『カフェのお願い』と書かれた注意書きを指差す晃に、への字の口で見やる。
「あらそう? それは失礼したわ」
このカフェは撮影スポットでのみ撮ることが許されていて、それ以外は活動の妨害となる為禁止されているらしかった。
亜美が効率的にオーダーを受けてテキパキと動く様子と、フワフワと揺れる尻尾のアンバランスさが際立っている。その姿とスマホに収めた彼女の両方を見てふふと笑う要。
彼女はオオカミ少女の格好をしており、灰色の獣耳のふさふさしたカチューシャを付け、服装はカフェらしくウエイトレスの格好で、エプロンはハロウィンカラーでコーディネートされている。しかし最もインパクトがあるのは、後ろから生えている耳の色とお揃いのふさふさの長い尻尾だ。
「にやにやしちゃって。やらしいな、かなめっち」
「うるせー。男はみんなそうだろ」
「うっわ、ブラック要降臨した」
「そういうあんたの彼女はどこなのよ」
「それな。俺そろそろ泣きそう」
「ご勝手に〜」
今度はメニューを楽しそうに眺める要はそう言ってあしらうと、衛が口を開いた。
「まことは厨房係だってうさが言ってたぞ」
「え! じゃあ俺だけ彼女の可愛い格好見られないのかよ?!」
わざわざ立ち上がってのたまう彼の、愕然とした様子に賢人はため息をつくと、今しがた美奈子に渡されたメニュー表を見て冗談抜きで椅子からずり落ちそうになった。
『マジョマジョ魔女っ子のほうき星☆しゅわしゅわジンジャー恋するソーダ』
『高鳴る胸と響く遠吠え、寂しがり屋の涙閉じ込めオオカミルフィーユ』
『採血のお時間です!真っ赤なあなたのハイテンションブラッドオレンジジュース』
『ゴーストの叫び!黒いソースは何の味?消えちゃうアイスを召し上がれ』
『どす黒い液体は魅惑の香り☆苦味も恋のスパイスだ』
(長い。絶対美奈子が考えただろ。このクラスの男子はどうしたんだ。厨房にいるのか? クラスの女子の暴走を止めるような奴はいなかったのか!)
「ご注文はお決まりですか?」
ナース美奈子が嬉しそうにやって来た。
「ジンジャーエール」
「アイス」「あ、俺も」「じゃあアイス二つ」
「私はオレンジジュース」
「ミルフィーユね」
「俺はコーヒー」
「ちょっとちょっと! ちゃんとメニューをご覧くださーい?」
「読まないぞ」
「ちっ」
舌打ちしたな? このナースめと、賢人は眉間に皺を寄せたが、本日誕生日の恋人に小言は控えたかったので「頼んだぞ」とだけ、言葉を掛けた。
つづく