祭りと恋と、誕生日(クン美奈)

 2年A組の教室の前まで来ると、廊下にも待っている客がいて、なかなかの盛況ぶりだった。
「レイ!?」
 瑛二が黒髪の美少女を目敏く見付けると、ぱっと顔を華やがせて大型犬のように駆け寄る。レイは客の列とは反対側の、窓際の方で本を読みながら立っていた。
 
 瑛二に一瞥する事もなく本を閉じると、やっと来たのねと呟く。
「遅いじゃないの、何していたの」
「あ、うん、えっと……」
「よお! レイちゃんも来てたんだな! それならそうと瑛二にも言ってやんないと。こいつ、レイちゃんいなくてゾンビみたいな顔してここまで来たんだぜ? ショックで盛大に遅刻してきたしよぉ」
「それは晃だって同じだろ!?」
「俺はバイトの仕込み作業の手伝い頼まれて仕方なくだ」
「ほら、良いからさっさと並べ。瑛二、そのしまりのない顔をどうにかしないか」
 レイの手をとって人目を憚らずニコニコニコニコしている男に賢人は呆れ顔で釘を刺す。そんな中、もう要は既に並んでいたし、晃は廊下から教室の中を覗けないかと長身を生かしてまことを探していたし、衛はレイに挨拶した後、うさぎから貰ったチケットを眉を下げながらも愛おしそうに見つめていたし……とにかく、自由すぎる地球組なのである。

「あ! 賢人ー! やっと来た来た」
 並ぶ事数分。ひょっこりドアから出て来た美奈子に彼は目を見開いた。
 ハロウィンカフェと銘打った看板を背に、ナース姿で笑顔でぶんぶん手を振っている。髪型はポニーテール。しかしその真っ白な衣装に血飛沫を浴びたような鮮やかな赤が付いていて、ナースキャップの代わりに蜘蛛の巣が張った蝙蝠のヘッドドレスを付けている。白いタイツはところどころ大きく破れていて血糊のようなものも付いていていたし、スカートは無駄に短かった。

(これは、アウトだろう美奈子! 仮装自体のクオリティはすごいが、そんな風に足を出すなっ!)

「美奈子お前「おおーっ!? 美奈ちゃんハロウィン仕様のナース服決まってるじゃん!」
 キッと晃を睨む賢人だが、本人はどこ吹く風である。
「ありがとーあっきー! もう少しでご案内できるから待っててね♡」
「了解!」
「……」
 あっという間に引っ込んでしまう恋人に、結局何も言えない賢人なのであった。

 二列で並んでいたのだが、賢人と晃の前には要と衛がいて、衛が独り言ともとれる言葉を零した。
「うさはどんな格好してるんだろう」
「知らないわよ。パンプキンじゃない?」
 文庫本片手に適当に答える要にむっとして、「さっきからページ進んでないぞ」と大人げない反撃に出る。
「うるさいなぁ! 今めくる所だよ!」
 ムキになって言い返す彼も、内心は亜美がどんな姿で中にいるのか気になって仕方がなかった。それを衛に見透かされて、ついカッとなってしまったのだ。
 
 賢人達の後ろには、レイと瑛二が手を繋いで並んでいる。
「その、瑛二さん、ごめんなさいね」
 レイはさっき晃に言われた事が気になっていた。自分はうさぎたちには文化祭に来ることは伝えていたし、四人のうちの誰かが相手の男に伝えてそれが瑛二にも伝わるだろうと思っていた。しかしそれは、やはり恋人である自分が直接伝えるべきだったと反省していたのだが。そんな思考を巡らす彼女とは真逆に、太陽な笑みでレイを見つめる彼。
「え? 何が?」
 レイに会えた時点で、瑛二としては何の憂いも無かった為、その言葉は本心から出たものだった。
「もう……ほんと、あなたって……」
「ん?」
「何でもないわ。どんなメニューがあるのかしら。楽しみね」
「うん! そうだね」

「まもちゃーん♡」
「うさ!」
「皆も、来てくれてありがとう。えーと、6名さまごあんないでーす!」
 衛は天使が登場したのかと思った。実際の彼女の衣装は魔女なのだが。オレンジ色の魔女帽子には三日月と黒猫のフェルトが付けてあり、黒いケープにはオレンジ色のフリルが付いている。その下には黒色のスカート部分がチュチュのようなワンピースを着ていて、折り重なった白いレース部分には紫色で蜘蛛の巣のような刺繍が施されている。膝上のスカート丈から伸びる脚は黒タイツに、オレンジ色のリボンが印象的なヒールを履いていた。
「可愛い……」
「本当? 嬉しい♡」

(うちにこのまま連れて帰りたい)
 
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