祭りと恋と、誕生日(クン美奈)
「今月の第四土曜は予定はあるか?」
その日は十月二十二日。美奈子の誕生日だ。賢人はその日に何かしたいことがあるかという意味で彼女に聞いたのだが
「うん、文化祭」
「何?」
想定外の返事に賢人は固まる。自分の聞き方が悪かったかもしれないが、まさか学校の最大イベントである文化祭と被っているとは。
自分の恋人が、行事にも全力投球お祭り娘だという事は分かっている。だから別日に祝った方がいいかもしれないと思い、スケジュールを脳内で立て直し始めたのだが、美奈子からの提案に再び白紙に戻した。
「その日、終わったらデートしてくれる?」
「……クラスの打ち上げがあるだろ?」
柄にもなく美奈子の言葉に心臓が跳ねる。動揺を顔に出さないよう、より眉間に皺を寄せて言ってしまう自分を、わりと本気で呪いたくなった。
「何よ、あたしとデートしたくないってゆーの?」
「馬鹿な。元々そのつもりで、こっちは予定を聞いていた」
「あ、そう。ふーん?」
ニヤニヤする美奈子からふん、と顔を背けた。
「別の日でも俺は構わないぞ」
「何で! 十七歳の誕生日は一回しか無いのよ?」
「……駄目だ。帰りが遅くなる」
「あーそうですか!」
完全に不貞腐れた美奈子を黙って引き寄せる。
「その代わり、文化祭に行ってもいいか?」
こんなくたびれた無愛想男が高校の文化祭に訪れて良いものかと自問したが、それしか恋人に当日会えなさそうなので意を決した。
「ま、いいけどぉ……」
毛先をクルクル指で弄って口を尖らせる美奈子に小さく笑みが漏れる。彼女の恥ずかしがってる時の癖を見ているだけで、賢人の心に余裕が戻って来たのだった。
手を伸ばして顔を近づけていく。
「美奈子「あ! じゃあ他の皆もついでに誘って来て!」
「……他の?」
「そ! お騒がせ四天王+王子御一行様! お客さん多い方が盛り上がるし♪」
稼ぐわよ〜! と拳を振り上げる彼女に嘆息する。恋人同士の機微にも気付かず、それとなく失礼な事を言ってくる彼女に、思う所はまあまあ色々とあった。それでもそんな彼女を見つめる賢人の眼差しは、存外柔らかなものだった。
しかし美奈子の視線が彼の方に戻れば「このお祭り娘が」とつい要らない事を言ってしまう。
不平を言われる前に今度こそ唇を塞いだ。
おわり
2021.10.20