俺だけの(リレー小説Part 3)
『俺だけの』(合作)
①今回の課題は終わるまでにいつもよりも時間が掛かってしまった。衛は深い溜息をついてから時計を見る。深夜一時。もう恋人は眠ってしまっているだろう。五日ほど会えなかった分せめて声だけでも聴きたかったが諦めよう。明日は講義の後彼女の高校の前まで行こうと決め、写真立ての恋人に笑みを送った。
②次の日、彼女を驚かせようと何も連絡しないで、衛は高校の前まで行く。
いつものように美奈達と一緒に下校しているだろう。彼女は学校の門で愛おしい恋人の顔を見た時に凍った心を溶かすとびきりの笑顔を見せるだろう、そう思うと衛自身が自然に笑みを溢していた。
③衛はうさぎの笑顔が何よりも好きだ。
数分後。
彼女を見つけ、その名を呼ぼうとした時だった。美奈子がこちらに気付いて大袈裟にリアクションを取ったと思うとバレー部仕込みの走りっぷりで突進して来る。
「ど、どうした美奈?」
「いいとこに来たわ!あいつに何とか言ってやって」
衛は指差す方を辿る。
④美奈子が指差したのは学ラン姿の男だった。
「あいつ、うさぎのクラスメートなんだけど、執拗にうさぎにつきまとおうとするのよ!うさぎには彼氏がいるって言ってるのに」
美奈子が言っていることが本当なら、由々しき事態だと衛は思った。その男はうさぎの名前を呼んで、うさぎに近づこうとしていた。
⑤声を掛けられたうさぎは、嫌がるでもなくにこやかに応対している。それどころか、男の手がうさぎの髪に伸びても払い除ける素振りもない。
ああ、男の恋心に周りは気付いているけれど、当のうさぎ本人は一ミリも気付いていないパターンか、と衛はコンマ一秒で理解した。
⑥「うさ」
衛は少し声を張って呼び、こちらに気付かない恋人に意識を向けさせた。
ダメだろ。会えなかった分俺が真っ先にうさの事をたくさん触りたかったのに、他の男に簡単に許したら……。衛はそう思うが、うさぎは誰にでも優しく光の輪の中心にいる事は今に始まった事では無い。だから、方法は一つだ。
⑦今までクラスメイトの男子にうさぎは笑顔を向けていた。男子もこの笑顔を見る度に「月野は俺のことが……」と思い、髪などを触れてしまう。
しかし、少し低い「うさ」の声で、その想いは跡形も無く崩壊した。うさぎのその声に振り向き、先程と比べるのが失礼な程の笑顔をその声の主に向けていた。
⑧ニヤリと歪む形の良い唇は自信に満ち。睨むように見つめる青の瞳は怒りの炎で冷たく燃えている。
うさぎは胸の中にしっかりと抱きしめられているので衛の顔は見えない。
(……こ、こいつ。かなりヤバいんじゃ?)
空気を震わす程の怒りは目の前の自分だけに向けられたものだと痛いくらいにわかった。
⑨「まもちゃん。え?どうしたの?」
不思議そうに訪ねるも、衛はどうしても逢いたくて迎えに来た。と優しく微笑んだ。「まもちゃ~ん」
うさぎはクラスメイトがいるにも関わらず嬉しそうに衛へ抱きついた。そんな衛もうさぎを愛おしそうに抱きしめクラスメイトに向かい黒い微笑みを見せた。
⑩「おい、月野、その人はお前の何なの?」
言うまでもない関係だと言う事は分かっているが、クラスメイトの男はうさぎに訪ねる。
「紹介するね、あたしの彼氏だよ」
衛は男に軽く会釈をした。
「なんだよ、散々思わせぶりな態度を取っておいて」
自分に好意があると思っていたので、男はカッとなった。
⑪「うさ、キスして」
「えっ? 急にどうしたの? 皆見てるのに?」
「早く」
「う、分かったよぉ」
耳まで真っ赤に染めたうさぎは、衆人環視の中、衛の袖を引き寄せ精一杯背伸びして衛に唇を寄せた。
「……何? 思わせぶりな態度って。アンタは一度でもうさからこういうことされたことあるの?」
⑫「いや…それはないけど…」クラスメイトは動揺が隠せないが「で、でも月野がいつもニコニコ笑いながら話してくるとそう思うだろ」と苦しい反撃に出た。
「あら!うさぎが皆に優しいのはいつものことよ。それを勝手に勘違いされた困るわよ」
今まで黙っていた美奈子が反論した。
⑬ 「月野も悪いんだぞ!いつも興味深そうに俺の話を聞いてくれるだろ。それに、お前、髪とか触っても、全然嫌がらないじゃないか!」
男は、自分の行動について弁解する。
「へぇ…。アンタがベタベタうさに触るのも気に入らないけど、これ以上うさのことを悪く言うなら…」
衛は男に冷たい視線を送る。
⑭ 「俺はアンタを許さない」
星一つ吹っ飛ぶくらいのオーラを放っていた、とのちに美奈子が言う程の怒気を静かに男に向ける。男は反論する力も奪われた様に口をはくはくさせていた。
「まもちゃ……」
腕の中で不安そうに呼び掛けるうさぎの髪と頬を撫で、空気を吸うほど自然な動作で今度は衛から唇を塞ぐ。
⑮す、と瞳を細くさせたかと思えば。
一瞬にして甘やかな色をまとわせ「うさ」と優しく囁き恋人の細い顎を指先で引き寄せたではないか。
「ちょっ!!アンタ達っ!」
こーしゅーのめんぜんよ!と赤くなりながら慌てる美奈子。
突然のキスにうさぎも真っ赤である。
「ま、まもちゃん?」
⑯「今更照れてるの?」
「う、うん。でもやっぱりあたし、まもちゃんからしてくれるキスのが好きだな」
うさぎは笑顔をよく見せる子だ。それは誰もが知っている。けれどもこんな蕩けるような表情をアンタ見たことあるか?とでも言うような勝ち誇った視線を男に遣って衛はとどめを刺した。
⑰ その動作を見て、男はその場にはいることが出来ない。彼女の自分への「好意」というのは如何にちっぽけで、ただクラスメートであったことを嫌でも分かる。これ以上、うさぎにも好意も敵意も向けることが出来ない。ただ、彼女の傍にいることは自分の命の脅威になることだけは直感した。
⑱ 「あー、もう!勘違いした俺が悪かったよ!こんな事ならもう月野に手を出さなかったらよかった!!」
男は居たたまれなくなり、逃げるように去っていった。
「アイツもさすがに懲りたわよねー、これだけ二人に見せつけられちゃ」
美奈子は衛とうさぎに呆れながら、走り去る男を気の毒そうに見ていた。
⑲ 「美奈、色々ありがとな」
「うさぎの為ですから」
美奈子は、衛の男への殺気とうさぎへの甘々モードの温度差でフラつきながらもやれやれ、という具合で答えた。
「帰ろうか」
「うん!」
勿論帰るのはうさぎの家では無いのだが、うさぎは嬉しそうに衛の腕に絡ませて歩き出す。美奈子に手を振って。
⑳ 直接衛が手を下した男以外にも、うさぎに淡い恋心を抱いていた者はいたのだが、今回のやり取りを目の当たりにして皆一様に恐れを為したようだった。
この一件から、美奈子ら守護戦士達が害虫駆除する手間もぐっと減ったという。
おわり
2021.5.6
担当
①③⑥⑭⑲みっこ@mimikomoon630
②⑦⑰夕月さん@yuugetu25
④⑩⑬⑱煙華さん@Ele_Sonic
⑤⑪⑯⑳にいなさん@niina_a171
⑧⑮焔桜さん@hiou_touya
⑨⑫アャフィスさん@ayaka_u0617
①今回の課題は終わるまでにいつもよりも時間が掛かってしまった。衛は深い溜息をついてから時計を見る。深夜一時。もう恋人は眠ってしまっているだろう。五日ほど会えなかった分せめて声だけでも聴きたかったが諦めよう。明日は講義の後彼女の高校の前まで行こうと決め、写真立ての恋人に笑みを送った。
②次の日、彼女を驚かせようと何も連絡しないで、衛は高校の前まで行く。
いつものように美奈達と一緒に下校しているだろう。彼女は学校の門で愛おしい恋人の顔を見た時に凍った心を溶かすとびきりの笑顔を見せるだろう、そう思うと衛自身が自然に笑みを溢していた。
③衛はうさぎの笑顔が何よりも好きだ。
数分後。
彼女を見つけ、その名を呼ぼうとした時だった。美奈子がこちらに気付いて大袈裟にリアクションを取ったと思うとバレー部仕込みの走りっぷりで突進して来る。
「ど、どうした美奈?」
「いいとこに来たわ!あいつに何とか言ってやって」
衛は指差す方を辿る。
④美奈子が指差したのは学ラン姿の男だった。
「あいつ、うさぎのクラスメートなんだけど、執拗にうさぎにつきまとおうとするのよ!うさぎには彼氏がいるって言ってるのに」
美奈子が言っていることが本当なら、由々しき事態だと衛は思った。その男はうさぎの名前を呼んで、うさぎに近づこうとしていた。
⑤声を掛けられたうさぎは、嫌がるでもなくにこやかに応対している。それどころか、男の手がうさぎの髪に伸びても払い除ける素振りもない。
ああ、男の恋心に周りは気付いているけれど、当のうさぎ本人は一ミリも気付いていないパターンか、と衛はコンマ一秒で理解した。
⑥「うさ」
衛は少し声を張って呼び、こちらに気付かない恋人に意識を向けさせた。
ダメだろ。会えなかった分俺が真っ先にうさの事をたくさん触りたかったのに、他の男に簡単に許したら……。衛はそう思うが、うさぎは誰にでも優しく光の輪の中心にいる事は今に始まった事では無い。だから、方法は一つだ。
⑦今までクラスメイトの男子にうさぎは笑顔を向けていた。男子もこの笑顔を見る度に「月野は俺のことが……」と思い、髪などを触れてしまう。
しかし、少し低い「うさ」の声で、その想いは跡形も無く崩壊した。うさぎのその声に振り向き、先程と比べるのが失礼な程の笑顔をその声の主に向けていた。
⑧ニヤリと歪む形の良い唇は自信に満ち。睨むように見つめる青の瞳は怒りの炎で冷たく燃えている。
うさぎは胸の中にしっかりと抱きしめられているので衛の顔は見えない。
(……こ、こいつ。かなりヤバいんじゃ?)
空気を震わす程の怒りは目の前の自分だけに向けられたものだと痛いくらいにわかった。
⑨「まもちゃん。え?どうしたの?」
不思議そうに訪ねるも、衛はどうしても逢いたくて迎えに来た。と優しく微笑んだ。「まもちゃ~ん」
うさぎはクラスメイトがいるにも関わらず嬉しそうに衛へ抱きついた。そんな衛もうさぎを愛おしそうに抱きしめクラスメイトに向かい黒い微笑みを見せた。
⑩「おい、月野、その人はお前の何なの?」
言うまでもない関係だと言う事は分かっているが、クラスメイトの男はうさぎに訪ねる。
「紹介するね、あたしの彼氏だよ」
衛は男に軽く会釈をした。
「なんだよ、散々思わせぶりな態度を取っておいて」
自分に好意があると思っていたので、男はカッとなった。
⑪「うさ、キスして」
「えっ? 急にどうしたの? 皆見てるのに?」
「早く」
「う、分かったよぉ」
耳まで真っ赤に染めたうさぎは、衆人環視の中、衛の袖を引き寄せ精一杯背伸びして衛に唇を寄せた。
「……何? 思わせぶりな態度って。アンタは一度でもうさからこういうことされたことあるの?」
⑫「いや…それはないけど…」クラスメイトは動揺が隠せないが「で、でも月野がいつもニコニコ笑いながら話してくるとそう思うだろ」と苦しい反撃に出た。
「あら!うさぎが皆に優しいのはいつものことよ。それを勝手に勘違いされた困るわよ」
今まで黙っていた美奈子が反論した。
⑬ 「月野も悪いんだぞ!いつも興味深そうに俺の話を聞いてくれるだろ。それに、お前、髪とか触っても、全然嫌がらないじゃないか!」
男は、自分の行動について弁解する。
「へぇ…。アンタがベタベタうさに触るのも気に入らないけど、これ以上うさのことを悪く言うなら…」
衛は男に冷たい視線を送る。
⑭ 「俺はアンタを許さない」
星一つ吹っ飛ぶくらいのオーラを放っていた、とのちに美奈子が言う程の怒気を静かに男に向ける。男は反論する力も奪われた様に口をはくはくさせていた。
「まもちゃ……」
腕の中で不安そうに呼び掛けるうさぎの髪と頬を撫で、空気を吸うほど自然な動作で今度は衛から唇を塞ぐ。
⑮す、と瞳を細くさせたかと思えば。
一瞬にして甘やかな色をまとわせ「うさ」と優しく囁き恋人の細い顎を指先で引き寄せたではないか。
「ちょっ!!アンタ達っ!」
こーしゅーのめんぜんよ!と赤くなりながら慌てる美奈子。
突然のキスにうさぎも真っ赤である。
「ま、まもちゃん?」
⑯「今更照れてるの?」
「う、うん。でもやっぱりあたし、まもちゃんからしてくれるキスのが好きだな」
うさぎは笑顔をよく見せる子だ。それは誰もが知っている。けれどもこんな蕩けるような表情をアンタ見たことあるか?とでも言うような勝ち誇った視線を男に遣って衛はとどめを刺した。
⑰ その動作を見て、男はその場にはいることが出来ない。彼女の自分への「好意」というのは如何にちっぽけで、ただクラスメートであったことを嫌でも分かる。これ以上、うさぎにも好意も敵意も向けることが出来ない。ただ、彼女の傍にいることは自分の命の脅威になることだけは直感した。
⑱ 「あー、もう!勘違いした俺が悪かったよ!こんな事ならもう月野に手を出さなかったらよかった!!」
男は居たたまれなくなり、逃げるように去っていった。
「アイツもさすがに懲りたわよねー、これだけ二人に見せつけられちゃ」
美奈子は衛とうさぎに呆れながら、走り去る男を気の毒そうに見ていた。
⑲ 「美奈、色々ありがとな」
「うさぎの為ですから」
美奈子は、衛の男への殺気とうさぎへの甘々モードの温度差でフラつきながらもやれやれ、という具合で答えた。
「帰ろうか」
「うん!」
勿論帰るのはうさぎの家では無いのだが、うさぎは嬉しそうに衛の腕に絡ませて歩き出す。美奈子に手を振って。
⑳ 直接衛が手を下した男以外にも、うさぎに淡い恋心を抱いていた者はいたのだが、今回のやり取りを目の当たりにして皆一様に恐れを為したようだった。
この一件から、美奈子ら守護戦士達が害虫駆除する手間もぐっと減ったという。
おわり
2021.5.6
担当
①③⑥⑭⑲みっこ@mimikomoon630
②⑦⑰夕月さん@yuugetu25
④⑩⑬⑱煙華さん@Ele_Sonic
⑤⑪⑯⑳にいなさん@niina_a171
⑧⑮焔桜さん@hiou_touya
⑨⑫アャフィスさん@ayaka_u0617