十番街の片隅で
「まもちゃん、お待たせ」
甘く柔らかな恋人の声に呼びかけられて衛は読んでいた文庫本から目線を上げると、返事をするのに少しだけ時間が掛かった。
そこにはいつもとは雰囲気の違った姿のうさぎがいて、衝動的に誰にも見せたくないという思いに駆られる。
ふわふわの長い髪をサイド二つでお団子には結っているが、それ以外はツインテールにはせずにおろしていた。小さな赤と黄色の花柄の白いワンピースにベルトの青色が差し色になっていて、細い腰も強調されていてる。踵のあるエナメルのヒールも色は深めの青で統一されていた。
(めちゃくちゃ可愛い。連れ帰りたい)
そんな思考に支配されそうになる衛は頭を小さく振って挨拶を返すと、うさぎの頭をくしゃっと撫でた。
撫でられたうさぎも今日の衛を見て頬を染めている。
今日の衛は麻混のジャケットに薄いグレーのカットソー、黒のジーンズといったシンプルなコーディネートだが素材が良いので少しラフな感じも相まって、うさぎの目にはキラキラして見えた。
(かっこいいなぁ。この人があたしの恋人なんだよーって、世界中の人に自慢したいなぁ、えへへ)
「まもちゃん、行こ!」
「あ、ああ」
この世の中で一番可愛い恋人を家に連れ帰って独り占めしてあんな事やこんなことをしたいという思考に飛んでいた衛は、若干の上の空に応えてしまう。
(しっかりしろ衛!今日はうさこの好きな所に連れていってやるって決めただろ!)
そんな彼とは逆に、手を繋いでカフェやお買い物や海にも行きたいな、と脳内でデート周遊していたうさぎ。やはりどこかいつもと違う彼に気付いて袖を引いた。
「どうしたの?まもちゃん」
「え、いや……」
そんな時だった。
「おい見ろよ、あの子可愛い〜」
「ほんとだ!」
そんな男たちの声を衛の耳が拾う。
彼らに見えないように彼女の肩を抱いて「行こう、うさこ」と進み始めるのだが、急な密着にうさぎが真っ赤になって慌てだす。
「まもちゃん!やっぱり何だか変だよ。どうしたの?」
「うさこが今日すげえ可愛いから誰にも見せたくない」
早口で低い声で言われてうさぎの心臓が大きな音を立てた。
「ひゃっ?!そ、そんな事言ったらまもちゃんだってかっこいいもん!!」
「なっ、お前そういう事言うなよ」
今度は衛が赤くなる番だった。
「なんで?本当のこと言って何が悪いの!」
手をしっかり握って見上げるうさぎはぷりぷり怒っている。
なぜ自分たちが言い争わなくてはならないのかよく分からなかったが、最早どちらも引っ込みがつかない状態だった。
「じゃあお互い様だな!」
「そうだねまもちゃんのハンサム!」
「この笑顔天使!」
「イケメン!!」
「色白美少女!」
仲良く手を繋ぎながらも互いを褒め合い喧嘩しているように見える二人。
(……何だあのバカップル……)
十番街の人々は赤面しながら、同じ事を思って通りすぎるのだった。
おわり
2021.3.20