些細な事で喧嘩した(リレー小説Part2)


 買い物に行くまではいつも通り笑顔だった。けれど衛の家に帰ってきてからと言うもののうさぎは彼に背を向けて、差し出された物も飲まずに涙目で無言の抵抗をしている。衛は買い物先でちょっとした言い合いになってしまった事を思い出し、小さくため息をついて頭を掻いた。
「うさ」
「なあ、うさこ?」

「知らない。なんで、まもちゃんあんな事を言うの。ひどいよ」
 大粒の涙をいっぱいに溜めてしゃくり声を上げながら、うさこはやっと口を開いた。

 衛はうさぎの泣き顔には弱い。けれど、今回ばかりは違った。そこまで泣くほどの事をしたとは思っていない。何故なら買う服をどっちにしたらいいか散々悩んでいたから
「どっちも同じだろ。両方買ったらいいじゃないか」
(どっちも可愛いから言っただけだ!)
 なのに……

 泣くほど怒らせる様な事を言ったつもりは無い。
どちらもうさぎに似合っていたし、そんなに悩むなら両方買えば良いだけだと思った。
 そして喜んでくれると思ったのに、何が気に入らず怒っているのかまるで分からない。
笑顔を見たくて正直に言っただけだった。なのに……
「酷いよ、まもちゃん」

 うさぎの目尻から溢れた涙が次々頬を伝っていく。
そんな顔させたいわけじゃない。今日だって本当は…。
「だって、どっちでもいいって、あたしのことなんかどうでもいいってコトでしょ? 」
 …だからなんでそうなる?!
 思わず衛から漏れた盛大な吐息に、うさぎの顔色はますます曇り出す。

「なんであたしのこと、分かってくれないの!」
 うさぎは、衛から逃げるように外へ出ていった。
 うさぎの後を追うため、衛も外へ出るが、うさぎの姿は見当たらない。
…どうでもいい訳ない。うさこを探して、誤解を解かないと。
 衛は、うさぎの行きそうな場所を探すことにする。

 うさぎの好きな可愛い雑貨店、お気に入りのスイーツがあるカフェ。
 心当たりがある場所を全部探して歩いたけれど、どこにも彼女の姿がない。
(うさ。どこに行ったんだ?)
 衛の心に不安が過る。冷静になれと言い聞かせて考えた末にとある場所が浮かぶ。

 あそこなら居るかもしれない

 「こんな所まで家出するの、うさくらいだぞ」
ゴールデンクリスタルの力を使って月に降り立ち、シルバーミレニアムの庭園を歩いているとバルコニーに恋人を見つける。
 下からそう呼び掛けるとまるであの頃に戻ってしまったかのように感じた。
「ここなら一人になれるし、見つけられるのもまもちゃんだけでしょ?」

 前世の故郷へ帰った事で冷静になれたのか、泣き止んで怒りも収まった様子の彼女は悪戯に微笑んできた。
 「うさがどこにいても愛の力で見つけ出すさ。お姫様、怒ってる理由が分からないから教えてくれますか?」
 話し合って解り合おうと歩み寄り素直に降参した。

「あたしね、まもちゃんに“1番”好きな方を選んで欲しかったの。だから、“どっちも”なんて嫌。でも、こんなことで怒ってごめんね」
 うさぎが理由と衛へのお詫びを告げると、衛は自分の胸の中へ彼女を引き寄せた。

 自分を優しく包んでくれるその手に、何か紙袋が握られていることにふと気付いたうさぎ。
  「まもちゃん、これなあに?」
 実はうさぎを探す合間、衛は喧嘩の元になった服屋に立ち寄っていたのだ。
 だが中身を見たらまた機嫌を損ねるだろうか?とそれを後ろ手に隠したまま衛はなかなか言い出せずにいた。

「なんで、隠すの?」
 先ほどの笑顔に戻ったと思ったら、またすぐに泣き顔になる。さっきの降参はなんだったのかと思うように、喧嘩の繰り返しになる。
 しかしここは月だ。地球と違って、逃げてもすぐに見つけられる。また、ここは月だ。今は二人以外誰もいない世界だ。
 なら・・・いうべきか。

「ねぇ、まもちゃん」
 じっと見つめてくる大きな瞳に困り顔の自分が映る。逃がさないからと言ってくるような恋人の視線には弱い。
 観念した衛は服の入った紙袋をうさぎに手渡した。
「……開けてみな」
 促されて紙袋を開けたうさぎの瞳が驚きに変わった。中身は真っ白なドレス。

「まもちゃん、これ…!」
 それはうさぎがどっちにしようか散々悩んでいた片方の服だった。
「白状するけど、俺はさ、うさはどっちも似合うしどっちも可愛いと思ったから…ああ言ったんだ」
「何それぇ、言葉足りなさすぎだよまもちゃん」
 ふにゃっと泣き笑いのような表情で衛の胸をトンと叩いた。

「ごめんごめん。まさかあんなに怒るとは思わなくて。しかも月まで家出するなんて……」
 素直に白状すると今度は怒る事は無く、受け入れてくれた。
「えへへー嬉しい。まもちゃんありがとう」
「もう一着も買いに地球へ戻ろうか? 」
「うん」
 銀水晶とゴールデンクリスタルを手にする衛とうさぎ。

「その前に忘れ物」
 衛がうさぎの肩をそっと抱く。
「え?なぁに?」
 次の瞬間、衛に唇を塞がれ目を見開いた。そして輝きを増す二つの聖石は辺りを一層照らし、庭園の緑を青々と茂らせ、花々は咲き誇る。
 風が暖かく吹くドーム。

 そんな月から望む青い星が、二人を静かに見つめていた。


おわり
2021.3.4


①③⑧⑭⑯みっこ
②⑫夕月さん
④⑨⑮美青さん
⑤⑪にいなさん
⑥⑩煙華さん
⑦⑬焔桜さん

担当しました!
参加くださった皆様ありがとうございました✨
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