二度目の
「入って」
「うん、お邪魔しまーす」
まもちゃんの家に来たのはあの日以来二度目だ。
お互いの正体を明かし合ったあの日。
そして今日はお付き合いを始めて最初に訪れた日。どっちもきっと、この先ずっと忘れることのない特別な日になると思う。でもね、本当のことを言っちゃうと、私にとってはまもちゃんと過ごす日は……いつだって特別なの。
「適当に座ってて。今飲み物用意するから」
「ありがとう」
まもちゃんが戸棚から紅茶の缶を取り出しているのが見えた。丸い銀色の缶の蓋には、美味しそうなリンゴが描かれている。
「まもちゃんって、コーヒーよりも紅茶派?」
「いや、俺は特にこだわりはないんだけど、このアップルティーはうさこが好きかなと思って買っといた」
「へ、へー! そうなんだ」
私の為に用意してくれてたことを知って、胸がそわそわ。顔もそれこそリンゴみたいに赤くなっちゃう。そんな私に気付いたまもちゃんは、ふわっと笑う。出会った頃、口喧嘩してばかりだったあの頃には絶対見せてくれなかった優しい笑み。
私はその顔に弱い。
彼がティーサーバーへと視線が移った時を見計らって、パッとソファーで顔を背けて、カバンからリップを取り出すとゆっくり唇に引いた。ほんのりグロスが付いたチェリーピンク色のリップは、なるちゃんと前にお揃いで買ったとっておきのアイテム。
これで私は無敵の恋する乙女よっ!
気合いを入れるかのようにそんな事を思うと、一人でウンウンうなずいた。
ティーカップに飴色の紅茶を注ぎながら他愛もない事を話しかけてくれるまもちゃんの低音。アップルティーのいい香り。出来上がる頃には、吸い寄せられたかのようにキッチンの彼の隣にいた。
「美味しそ〜! あ、私が持ってきたクッキーも一緒に食べよ♡」
見上げると、まもちゃんは目を見開いて、ちょっとだけほっぺたが赤くなった。
「うさこ、それ……」
唇を指差してそう言うまもちゃんにドキッとする。気付いてくれた!
「えっと、さっきリップ付けてみたの。へ、変かな?」
「いや、変じゃない」
「あ、良かった」
まもちゃんの袖をキュッと掴んで、ほっとして笑ってもう一度目線を上げると。彼の視線は口もとから離れてなくて心臓がバクバクする。
「うさこ……」
前髪を長い指でそっと撫で上げられてすっと降ろされる。そして今度は頬に添えられる。
こ、これってつまりやっぱりき、す、キスするってこと、だよね?
キスはこれが初めてって訳じゃない。だけど、それは戦闘の最中だったり、した訳で。こういう風に二人っきりのお部屋で、恋人同士になってからするキスは、実はまだした事なくて。だから、ものすごく、ドキドキが止まらない。
私がすっかり熱くなった顔で目を閉じた瞬間と、まもちゃんの唇が触れた瞬間はほとんど同時だった。
甘くて、優しくて、あったかい。
ドキドキするのにずっとこうしていて欲しくなってしまう。
大好きな人とするキスは、こんなに幸せなことなんだって思ったら……ちょっぴり涙が出るほど嬉しくて。
「ご、ごめん! うさこ」
「え?」
すっかり眉を下げた彼が慌てているのに、夢見心地だった私はぼんやりと聞き返してしまった。
まもちゃんが心配そうに私の濡れた頬を拭ってくれる。突然キスした事を謝ってくれていたことに気付いて、私も慌てて首を振った。
「違うの! これはね、嬉しくて。えへへ、やだなぁもう。恥ずかしい……」
急に視界が暗くなって息が少し苦しくなる。
「ま、まもちゃん?」
ぎゅうっと抱き締めてくる彼に、私はわたわたと腕を振った。
「うさこ、好きだよ」
耳元で小さく聞こえたその言葉に、負けずにぎゅーーっと大きな背中に回した手に力を込めた。
「私も! だーいすきっ」
その日に飲んだ紅茶は少し冷めていたけれど、とっても甘くて幸せな味がしたの。
おわり
2021.11.10
「うん、お邪魔しまーす」
まもちゃんの家に来たのはあの日以来二度目だ。
お互いの正体を明かし合ったあの日。
そして今日はお付き合いを始めて最初に訪れた日。どっちもきっと、この先ずっと忘れることのない特別な日になると思う。でもね、本当のことを言っちゃうと、私にとってはまもちゃんと過ごす日は……いつだって特別なの。
「適当に座ってて。今飲み物用意するから」
「ありがとう」
まもちゃんが戸棚から紅茶の缶を取り出しているのが見えた。丸い銀色の缶の蓋には、美味しそうなリンゴが描かれている。
「まもちゃんって、コーヒーよりも紅茶派?」
「いや、俺は特にこだわりはないんだけど、このアップルティーはうさこが好きかなと思って買っといた」
「へ、へー! そうなんだ」
私の為に用意してくれてたことを知って、胸がそわそわ。顔もそれこそリンゴみたいに赤くなっちゃう。そんな私に気付いたまもちゃんは、ふわっと笑う。出会った頃、口喧嘩してばかりだったあの頃には絶対見せてくれなかった優しい笑み。
私はその顔に弱い。
彼がティーサーバーへと視線が移った時を見計らって、パッとソファーで顔を背けて、カバンからリップを取り出すとゆっくり唇に引いた。ほんのりグロスが付いたチェリーピンク色のリップは、なるちゃんと前にお揃いで買ったとっておきのアイテム。
これで私は無敵の恋する乙女よっ!
気合いを入れるかのようにそんな事を思うと、一人でウンウンうなずいた。
ティーカップに飴色の紅茶を注ぎながら他愛もない事を話しかけてくれるまもちゃんの低音。アップルティーのいい香り。出来上がる頃には、吸い寄せられたかのようにキッチンの彼の隣にいた。
「美味しそ〜! あ、私が持ってきたクッキーも一緒に食べよ♡」
見上げると、まもちゃんは目を見開いて、ちょっとだけほっぺたが赤くなった。
「うさこ、それ……」
唇を指差してそう言うまもちゃんにドキッとする。気付いてくれた!
「えっと、さっきリップ付けてみたの。へ、変かな?」
「いや、変じゃない」
「あ、良かった」
まもちゃんの袖をキュッと掴んで、ほっとして笑ってもう一度目線を上げると。彼の視線は口もとから離れてなくて心臓がバクバクする。
「うさこ……」
前髪を長い指でそっと撫で上げられてすっと降ろされる。そして今度は頬に添えられる。
こ、これってつまりやっぱりき、す、キスするってこと、だよね?
キスはこれが初めてって訳じゃない。だけど、それは戦闘の最中だったり、した訳で。こういう風に二人っきりのお部屋で、恋人同士になってからするキスは、実はまだした事なくて。だから、ものすごく、ドキドキが止まらない。
私がすっかり熱くなった顔で目を閉じた瞬間と、まもちゃんの唇が触れた瞬間はほとんど同時だった。
甘くて、優しくて、あったかい。
ドキドキするのにずっとこうしていて欲しくなってしまう。
大好きな人とするキスは、こんなに幸せなことなんだって思ったら……ちょっぴり涙が出るほど嬉しくて。
「ご、ごめん! うさこ」
「え?」
すっかり眉を下げた彼が慌てているのに、夢見心地だった私はぼんやりと聞き返してしまった。
まもちゃんが心配そうに私の濡れた頬を拭ってくれる。突然キスした事を謝ってくれていたことに気付いて、私も慌てて首を振った。
「違うの! これはね、嬉しくて。えへへ、やだなぁもう。恥ずかしい……」
急に視界が暗くなって息が少し苦しくなる。
「ま、まもちゃん?」
ぎゅうっと抱き締めてくる彼に、私はわたわたと腕を振った。
「うさこ、好きだよ」
耳元で小さく聞こえたその言葉に、負けずにぎゅーーっと大きな背中に回した手に力を込めた。
「私も! だーいすきっ」
その日に飲んだ紅茶は少し冷めていたけれど、とっても甘くて幸せな味がしたの。
おわり
2021.11.10