36°C (まもうさ)


昨夜から調子が悪かった。これはもしかしたら熱が出るかもしれないと思いなるべく早くベッドに入った。明日は久し振りに恋人と会う約束をしていたから何が何でも治したかったんだ。


「嘘だろ」
38度5分。
翌朝、サイドテーブルに置いておいた体温計で測った数値を見て掠れた声で落胆する。
あんなにしっかり寝たのに俺の身体は言う事を聞いてくれなかったのか。
残念だけど、うさに電話しないと....って、動けない。重症だろこれ。
やむを得ず通信機の蓋を開いた。
『どうしたのまもちゃん?!敵?!』
「うさごめん、てきじゃない。電話まで動けなくて。今日ねつでて行けない。また治ったら、ぜったい、デートしような」
『大変だわすぐに看病に行かないと!』
『亜美ちゃーん、それは彼女のうさぎに任せましょうよ♡』
『美奈はそー言うけど、うさぎで大丈夫?』
『レイちゃん!大丈夫だようさぎに任せても死んだりしないって!』
通信機を個人通信でなく戦士全員への通信ボタンを誤って押してしまったことに気付くも時すでに遅し。
準備していくから待っててね!といううさの声と、やんややんやと心配したり失敗気味のフォローをしたりする声と共に羞恥で消えたくなる通信は終了した。

「頭いてぇ...」


更に熱が上がった気がした俺はそのまま強制睡眠に入ってしまったのだが、次に目が覚めるとひんやりとした額のタオルの感触と、心配そうに覗き込む空色の瞳があった。
「あ、起こしちゃった?ごめんね合鍵で入らせてもらったよ。スポーツドリンク持ってきたんだけど、飲む?」
「ん、飲む」
うさの声を聞いているだけで落ち着いていくのが分かる。素直に従う俺にホッとしたのかにっこりと笑う彼女が可愛くて、熱のふわふわした感覚でもそれだけははっきりと映った。「ここに来る途中で皆にアドバイスもらったの!」と張り切ってタオルで汗を拭いてくれたり、ゼリーや薬を持ってきてくれたりする姿はまるで奥さんみたいで。家族の優しさに触れた様な気持ちと大切な人が傍にいてくれる嬉しさが込み上げてくる。

「好きだよ」
「え?!」
「ありがとな、うさ」
着替えも終わって再び眠ろうとした時自然に口から出た言葉に真っ赤になる恋人が可愛くて、指先で頬を撫で感謝を述べる。
眠りに落ちる直前、ずるいよまもちゃんという可愛い声が聞こえた気がした。


俺の平熱は三十六度。熱が下がったら今度こそちゃんとデートしような。看病してくれたお礼も兼ねてうさの好きなところ、どこへでも連れてってやるから。

実際熱が下がってまず初めに待ち受けていたのは美奈達から盛大に揶揄われる事になるだなんて、幸せな夢を見ていたその時の俺は知る由もなかった。


おわり
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