愛のばかやろう(クン美奈←エース)

その手に持っている石はダイヤモンドにも見えたけれどその輝きは少し寂しそうだった。

『ダンブライト……俺の石だ。強制退去させるつもりですかクンツァイト様。随分と余裕がないんですねえ。』

「美奈子をこれ以上傷つけるならな。そうする。」

私の肩を引き寄せてしっかりと抱くとしばらく睨み合っていた二人に場違いにもドキドキする。
これって、あれじゃない?あたしのために争わないで!っていう女子のあこがれシチュエーションじゃない!?
やだあたしってばモテモテ??

「二人とも!あたしのた『クンツァイト様がいつまでたっても美奈子に手を出さないのがいけないんですよ。だからじれったくて出てきちゃったんです。』

は、はあ!?!?

憧れのセリフを吐こうとしたタイミングでエースの必殺技のカードスラッシュのように飛んできた言葉に真っ赤になる。思わず賢人はどう反応しているのか見上げてみると、初めて宇宙人でも見たかのような呆けた顔で固まっていた。
目が点ってやつ?こーゆーときに使うのね、なるほど。

『このままだと、キスだけじゃなく俺が先に美奈子をいただいちゃいますよ?』

その言葉にぴくりと肩を揺らした賢人はキス?とつぶやいた。

最上Aの相手役オーディションの後、贈られた指輪とキスを思い出す。あの時は確かにエースを好きになりかけていた。でもそれ以上にその後繰り広げられた戦いが苦くて痛いという記憶があって。そして何より、一番大切なプリンセスを思い出したことの方がヴィーナスとしてのあたしの心の中に残る出来事だった。

「ち、ちがうのよ賢人!いや違わないけどでも今のあたしはキスしたいとか、その先……だって、したいのはあんただけだから!」

あたしが混乱しながらも必死で伝えると視界が暗くなった。そう思った瞬間にいつの間にか正面にいた賢人があたしを覆い隠すように唇を重ねた。そのキスは熱くて、彼の吐息すら取りこぼしたくなくて首に腕を回してきつく抱き寄せる。ここまではいつもあたしの一方通行だったのに、賢人もあたしのつま先が床に触れるスレスレまで腰をぐっと高く引き寄せて抱きしめてくれた。

『もしもーし?俺の存在忘れてる?』

「いや、そこにお前がいるからキスをした。
美奈子は俺の恋人だ。例え亡霊であるアドニスにも、誰にも。美奈子のことは渡さない。」

「賢人……。」

夢、見てるのかな。だってこいつがこんな事を考えていたなんて。あんなに胸が熱くなる破裂するんじゃないかと思うくらいの情熱的なキスをして誰かにこんな風に言うなんて。

『かっこいいなあケントさんは。もう前世の時のバカみたいに頑固で初恋こじらせた雁字搦めなクンツァイト様ではないって事か。』

「やめろアドニス。」

狼狽した賢人に楽しそうに声を上げて笑うエースはトランプを一枚取り出すと賢人に投げた。ハートのAが賢人の手に収まる。

『俺はエース。〈最上A〉だよ。芸名だったけど気に入ってるんだ。真名のアドニスよりね。
おとなしくて従順だった配下のアドニスとはもう違うから、俺の事もそう呼んでよね、ケントさん。』

「ああそうしよう。」

エースと呼び掛けて微笑む賢人に元々童顔の彼が無邪気に笑うとより幼く見えてついつい絆されてしまう。けど、出てきた時のような攻撃的な挑むようなオーラは完全に消えていた。
そして、彼自身の体もどんどん薄くなっていく。

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