最終章 永遠に失うものと

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 皆が覚悟していた。この戦いが終わった時、俺たちにとって最も大切な人を失ってしまうかもしれないということを。
 うさは、目覚めない。

「大丈夫だ。もう一人で歩ける」
 途中からは歩けるほどに回復し、部屋に入った所で肩を貸していたネフライトに言う。そして、先にベッドに横たえられている彼女の元へゆっくりと近付いて行った。病院に連れていくという選択肢はなかった。なぜならば彼女は既に息をしておらず、心臓の鼓動も聞こえず、いつも彼女を柔らかく包んでいた月のオーラが消えていたから。
 それは、それはもううさはこのまま永遠に目覚めないということだ。
「うさ……うさこ……?」
 俺はようやく君に触れることができた。けれどいつも子どものように体温の高いはずの彼女の肌は、石のように硬く冷たくなっていて。抱き締めても柔らかく抱き締め返すその腕は重く下がっていて。キスをしても、その唇は信じられないほど冷えきっていて。
「死なないって」
『大丈夫。私は』
「死なないって言っただろ?」
『私は死なないよ』
「俺は、お前と生きていきたい」
『まもちゃん、大好き』
「大きな力や、戦いから解放された一人の人として、生きていきたいって思ったんだ」
 どうして、どうして、どうして‼︎
「一緒に生きていくって約束しただろ? また、笑顔で会おうって!」
 頼む。お願いだから目を覚ましてくれ。俺はうさのことをきつく抱き締めて、その心に懸命に語り掛けた。
 うさ、もう大丈夫だよ。もう全部終わったんだ。一緒に。一緒に、生きていこう。
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