十章 落涙の先へ
1
「タキシード仮面がゴールデンクリスタルを解放したら私たちが援護して結界を張り、シールドを作るわ!」
ヴィーナスが声を上げる。前日の彼女の様子からうって変わり、いつもの強く凛としたリーダーのそれに戻っていた。ここまできたらやるしかない。その思いが、ここにいる全員の心を唯一平静に留めておけるものだった。
「おそらくカオスは、ゴールデンクリスタルが最大限の力を発揮した時、そのパワーに反応してうさぎの体から出ようとすると思います」
プルートが低い声で冷静に話す。
「それが、銀水晶と一緒か、単独かは分からない。だから私たちがカオスをどこへも行かせない為に網状に張り巡らせたシールドに閉じ込めるの。タキシード仮面はその時を見計らって銀水晶を」
マーキュリーが言葉を詰まらせるのを見て、俺は迷わず口を開く。
「銀水晶を破壊するように祈るんだな?」
沈黙の後苦痛に眉をゆがませたマーキュリーは頷いた。
「私達はカオスからの衝撃に耐えられるように後方からセーラー戦士を援護しよう」
クンツァイトが力強く言う。
「あとは、うさぎの生命力を信じるしかない!」
ウラヌスの言葉に皆は頷く。
「大丈夫。きっと、きっとうまくいくわ!」
ずっと黙ってうさの事を見つめていたルナは、自分に言い聞かせるかのように声を僅かに震わせて言った。隣でアルテミスがぴたりと寄り添い、慰めるように顔を擦り付けている。
うさ、俺達に力を貸してくれ。何にも負けない力を。
全員がうさを取り囲むようにそれぞれ配置に付いて、集中力を高めていく。各々の守護星のカラーのオーラをまとって手を繋ぎ全員がシールドのイメージを統一し始める。後方では、四天王が両手を前に出して、壁になるようにオーラを出す。
そして俺は、黄金色に輝くゴールデンクリスタルを操るロッドを掲げてその力を最大にまで持っていった。
「ゴールデンキングダムよ! 今こそその力、我がゴールデンクリスタルに授けよ!」
祈りの塔が俺のクリスタルと同じ色で輝きだし、セーラー戦士と四天王も後押しして力が集まってくる。
うさが、セーラームーンがいつも銀水晶に込めていた願いを強く祈る。
そう、誰も一人にしない力を。
クリスタルに包まれているうさに変化が起きたのはその時だった。うさを包むクリスタルが大きな破裂音をたてて砕け散り、形質を変えながらその体から離れると再び銀水晶の形に戻る。
カオスはうさの体から闇を引き摺りながら出てきて、彼女と銀水晶両方とも取り込もうとする。しかしゴールデンクリスタルの力に反応し、その動きが一時的に止まった。
『この力! ゴールデンクリスタルか? 私の生きていた時代では、これほどまでに強いものではなかった。一体どういうことだ⁉︎』
戦士たちはその一瞬を見過ごす訳はなく、一気に強力なオーラでカオスを包囲する。
『な、なんだ⁉︎』
「セーラークリスタルエターナルパワー!」
八人がカオスをうさから光のシールドで引き剥がし、それをさらに縮小させてカオスの闇を型どらせるかのようにヤツの動きを完全に封じる。
少しでも動きだそうものなら今度は四天王の強力なバリアで押さえ込む。そして、人間化したルナとアルテミスが素早くうさを離れた場所に運んだ。
「今です! 衛様‼︎」
エリオスの言葉を合図に銀水晶に向けてその力を完全に封印するように俺は意識を集中させる。
銀水晶よ、皆の、うさこの願いだ。地球の、銀河の平和を永遠にもたらすためにその力を永遠に封じさせてくれ。
そしてこの願いは俺のものだ。お前の主を、お前のその強大な力から永久に、解放してやってくれ‼︎
「ゴールデンクリスタルラムダパワー! セラピスイリュージョン!」
轟音と共に凄まじいパワーがゴールデンクリスタルから放出されて、それが銀水晶を一気に砕く。
『まもちゃん、ありがとう』
うさの声が刹那、聞こえた気がした。
『やめろーー!』
カオスの断末魔の叫びと共に、ゴールデンクリスタルのパワーはカオスごと丸め込み、眩いばかりの光を放つと跡形もなく消え去る。
その対衝突とも言える衝撃に皆は後ろに飛ばされるが、軽々と着地して、その様子を伺い呆然と立ち尽くしていた。
俺は、今までにない虚脱感が体を突き抜ける。グニャリと視界が揺れたかと思えば、その場に力なく倒れ込んでいた。
遠くで皆が俺を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけれど、指先一つすら動かせずにその意識も闇の中に消えていった。
目覚めると、そこは一面の霧の世界。まるでコルドロンの中のような空間だった。
『歴史が変わるのですね』
うさとそっくりの顔と声をした見たこともないセーラー戦士がそこにいた。シルバーと輝く虹色、そして月の真の輝きである白を基調としたその戦闘服はどこか神々しさを覚える。
『戦いの連鎖が、シルバームーンクリスタルの封印と共になくなる。思念体まで失ったカオスは、もう二度と再生することは無いでしょう』
そこまで聞いて、俺は彼女の正体に気付く。
「君は、コスモスか?」
寂しそうに笑い、小さく頷く。
『貴方は、遥か昔から私の側にずっといてくれました。ですが今こそ、永遠の絆とは永久(とわ)にお別れする時です』
「え?」
『今、この時を大切にして。例えその一生が短くても心から愛し合える人と共に過ごせたならば、それは永遠よりも何倍も価値のあるものだから』
「コスモス、君は」
『ありがとうエンディミオン。いいえ、「まもちゃん」』
コスモスの体が光に包まれて虹色の彼方に消えていく。永遠に断ち切れることのない連鎖が消えていく。
一滴の涙が、つうっと頬に滑り落ちた。
「タキシード仮面がゴールデンクリスタルを解放したら私たちが援護して結界を張り、シールドを作るわ!」
ヴィーナスが声を上げる。前日の彼女の様子からうって変わり、いつもの強く凛としたリーダーのそれに戻っていた。ここまできたらやるしかない。その思いが、ここにいる全員の心を唯一平静に留めておけるものだった。
「おそらくカオスは、ゴールデンクリスタルが最大限の力を発揮した時、そのパワーに反応してうさぎの体から出ようとすると思います」
プルートが低い声で冷静に話す。
「それが、銀水晶と一緒か、単独かは分からない。だから私たちがカオスをどこへも行かせない為に網状に張り巡らせたシールドに閉じ込めるの。タキシード仮面はその時を見計らって銀水晶を」
マーキュリーが言葉を詰まらせるのを見て、俺は迷わず口を開く。
「銀水晶を破壊するように祈るんだな?」
沈黙の後苦痛に眉をゆがませたマーキュリーは頷いた。
「私達はカオスからの衝撃に耐えられるように後方からセーラー戦士を援護しよう」
クンツァイトが力強く言う。
「あとは、うさぎの生命力を信じるしかない!」
ウラヌスの言葉に皆は頷く。
「大丈夫。きっと、きっとうまくいくわ!」
ずっと黙ってうさの事を見つめていたルナは、自分に言い聞かせるかのように声を僅かに震わせて言った。隣でアルテミスがぴたりと寄り添い、慰めるように顔を擦り付けている。
うさ、俺達に力を貸してくれ。何にも負けない力を。
全員がうさを取り囲むようにそれぞれ配置に付いて、集中力を高めていく。各々の守護星のカラーのオーラをまとって手を繋ぎ全員がシールドのイメージを統一し始める。後方では、四天王が両手を前に出して、壁になるようにオーラを出す。
そして俺は、黄金色に輝くゴールデンクリスタルを操るロッドを掲げてその力を最大にまで持っていった。
「ゴールデンキングダムよ! 今こそその力、我がゴールデンクリスタルに授けよ!」
祈りの塔が俺のクリスタルと同じ色で輝きだし、セーラー戦士と四天王も後押しして力が集まってくる。
うさが、セーラームーンがいつも銀水晶に込めていた願いを強く祈る。
そう、誰も一人にしない力を。
クリスタルに包まれているうさに変化が起きたのはその時だった。うさを包むクリスタルが大きな破裂音をたてて砕け散り、形質を変えながらその体から離れると再び銀水晶の形に戻る。
カオスはうさの体から闇を引き摺りながら出てきて、彼女と銀水晶両方とも取り込もうとする。しかしゴールデンクリスタルの力に反応し、その動きが一時的に止まった。
『この力! ゴールデンクリスタルか? 私の生きていた時代では、これほどまでに強いものではなかった。一体どういうことだ⁉︎』
戦士たちはその一瞬を見過ごす訳はなく、一気に強力なオーラでカオスを包囲する。
『な、なんだ⁉︎』
「セーラークリスタルエターナルパワー!」
八人がカオスをうさから光のシールドで引き剥がし、それをさらに縮小させてカオスの闇を型どらせるかのようにヤツの動きを完全に封じる。
少しでも動きだそうものなら今度は四天王の強力なバリアで押さえ込む。そして、人間化したルナとアルテミスが素早くうさを離れた場所に運んだ。
「今です! 衛様‼︎」
エリオスの言葉を合図に銀水晶に向けてその力を完全に封印するように俺は意識を集中させる。
銀水晶よ、皆の、うさこの願いだ。地球の、銀河の平和を永遠にもたらすためにその力を永遠に封じさせてくれ。
そしてこの願いは俺のものだ。お前の主を、お前のその強大な力から永久に、解放してやってくれ‼︎
「ゴールデンクリスタルラムダパワー! セラピスイリュージョン!」
轟音と共に凄まじいパワーがゴールデンクリスタルから放出されて、それが銀水晶を一気に砕く。
『まもちゃん、ありがとう』
うさの声が刹那、聞こえた気がした。
『やめろーー!』
カオスの断末魔の叫びと共に、ゴールデンクリスタルのパワーはカオスごと丸め込み、眩いばかりの光を放つと跡形もなく消え去る。
その対衝突とも言える衝撃に皆は後ろに飛ばされるが、軽々と着地して、その様子を伺い呆然と立ち尽くしていた。
俺は、今までにない虚脱感が体を突き抜ける。グニャリと視界が揺れたかと思えば、その場に力なく倒れ込んでいた。
遠くで皆が俺を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけれど、指先一つすら動かせずにその意識も闇の中に消えていった。
目覚めると、そこは一面の霧の世界。まるでコルドロンの中のような空間だった。
『歴史が変わるのですね』
うさとそっくりの顔と声をした見たこともないセーラー戦士がそこにいた。シルバーと輝く虹色、そして月の真の輝きである白を基調としたその戦闘服はどこか神々しさを覚える。
『戦いの連鎖が、シルバームーンクリスタルの封印と共になくなる。思念体まで失ったカオスは、もう二度と再生することは無いでしょう』
そこまで聞いて、俺は彼女の正体に気付く。
「君は、コスモスか?」
寂しそうに笑い、小さく頷く。
『貴方は、遥か昔から私の側にずっといてくれました。ですが今こそ、永遠の絆とは永久(とわ)にお別れする時です』
「え?」
『今、この時を大切にして。例えその一生が短くても心から愛し合える人と共に過ごせたならば、それは永遠よりも何倍も価値のあるものだから』
「コスモス、君は」
『ありがとうエンディミオン。いいえ、「まもちゃん」』
コスモスの体が光に包まれて虹色の彼方に消えていく。永遠に断ち切れることのない連鎖が消えていく。
一滴の涙が、つうっと頬に滑り落ちた。