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 いつものように少し寝坊すると、キッチンからいい匂いがしてくる。
「トーストとスクランブルエッグとー、ベーコン、野菜のスープ……それからコーヒー!」
 昨夜泊まった衛の部屋で、朝食のメニューを匂いで当ててみるうさぎはくすくす笑う。そして開いたシャツのボタンを胸元まで留めるとベッドから跳ね起きた。
「おっはよー! まもちゃん」
「ああ、おはよう。と言ってももう11時なんだけど? うさ」
 振り向くと衛のシャツ一枚とショーツだけのうさぎがいて、呆れていた表情が僅かに赤らむ。
「起こしてくれて良かったのに」
「あんまり気持ち良さそうに眠ってたからな、今日は休日だからトクベツ。普段はちゃんと早起き頑張ってるってルナからも聞いてたし」
 衛は昨夜無理をさせてしまった自覚もある為、恋人の寝坊についてはそれ以上咎めるつもりは無かった。
「まあね、私ももうハタチだもん! ちゃーんと成長してるんです」
 抱きついてきて上目で語るうさぎに苦笑する。
「はいはい、じゃあちゃんと着替えて顔洗って来いよ」
「もう! まもちゃんムード無い!」
 笑いながら膨らんだ頬をツンとつついた衛はすっと真顔になる。
「じゃないと朝から襲っちまうぞ?」
 視線と指先が頬から首筋、無防備な胸元を辿っていく。するとうさぎは分かりやすくビクッと体を震わせて真っ赤になった。
「き、着替えてくる!」
 その様子を見届けてやれやれと肩を少し上げた衛は、文字通り成長している胸を押しつけられて、幾つになっても上目遣いが殺人的に可愛い恋人を前にしてよく耐えたと自身を褒め称えた。
 
「んー! おいしい! まもちゃん、朝食作ってくれてありがとう。次は私が作るからね」
 うさぎは先程の推理通りの朝食に舌鼓をうち満面の笑顔で言う。
「期待しないで待ってるよ」
「ひどーい」
「ほら、レモンのママレードもあるぞ?」
「やったあ!」
 嬉しそうに食べる姿に癒される衛。胸の内から湧き上がる温かな気持ちを噛み締めた。
「うさ、ここに付いてるぞ」
 口元に付いたママレードを指差して言われてうさぎはホント?と取ろうとする。しかし衛の顔が近づいてきて。
「ほら、取れた」
 キスと舌先で拭われたうさぎは目を大きく開いて頬を染めている。
「うん、このママレード美味いな」
「まーもちゃんの、ばか」
「何でだよ」
「もう! 好き」
「俺も」
 今度は互いの意思を持ってキスをした。

 こんな何気ない幸せがずっとずっと続くと思っていた。けれどこのすぐ後、大きな試練の渦が二人を飲み込もうとしていたのである。


 これは、幸福を探す物語

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