FF7・ヴィンユフィ短編
*猫に振り回される犬*
ヴィンセントは薬と水の入ったコップが乗ったトレイを片手で持ち、空いている方の手でコンコンっと控え目にノックをすると、ドアノブに手をかけ、静かに寝室のドアを押し開けた。
「ユフィ、入るぞ」
風邪で寝込んでいるユフィに声をかけつつ中に入り、横になっている彼女の様子を見て……眉間に皺を寄せ、赤い瞳をギラつかせた。
「……何をしていた」
ヴィンセントの声が一段下がり、明らかに怒気を孕んでユフィに放たれる。
「え?な、なになに?ちゃーんと寝てたけど??」
布団から顔を覗かせヴィンセントを見上げるユフィは顔をひきつらせ、とてもぎこちない笑顔を浮かべ「えっへへ」と笑った。
ヴィンセントはベッドに歩み寄ると彼女の状態を上から見下ろし、ざっと観察したところでゆっくりと口を開いた。
「……随分行儀良く横になっていたようだな」
風邪で寝込んでいても怪我を負っていても、掛け布団をグシャグシャにして寝るほど寝相の悪いユフィには珍しく、首元まで乱すことなくきっちりと掛けている、彼女にしては異常な様をヴィンセントは鋭く指摘した。
「そ、そりゃ~アタシだって寝相良く寝るときだってあるし…」
目を泳がせ狼狽えながらも尚もシラを切る恋人に、ヴィンセントは眉を上げ更に攻める。
「それに……ぬいぐるみを布団に入れるとは、また珍しいな」
例え一人で寝る時があろうとも、ユフィは「ジャマ」と言いぬいぐるみと一緒に寝ることはしない。
その彼女の隣で横たわっている、ゴールドソーサーで手に入れた巨大モーグリに視線を向ければ、ユフィは益々動揺し始めた。
ユフィが何かを隠しているのは確実であった。
「まま、まぁね!チョーットだけ寂しくって」
一緒に寝ましょうね~、などと言いながらモーグリに布団を掛け直すユフィに、ヴィンセントは口の端を上げ、ニヤリと笑った。
「ほう……寂しかった、か」
サイドテーブルにトレイを置き、徐にユフィの掛けている布団を掴む。
「へ?ヴィ、ヴィンセント?」
「寂しい思いをさせて悪かった。その償いに……少しだけ、私も横になろう」
布団を引き剥がそうと強引に引っ張ったヴィンセントだが、危機を察知したユフィも、掛け布団を取られまいと抵抗して力の限り布団を引っ張った。
「いい、いいよいいよ!!風邪移るから!!寝なくていーから!!本でも読んでれば?!」
「寂しいと言っている恋人を放っておくことなど、私には不可能だ」
「顔笑ってるじゃん!!嘘つくな!!」
「側にいたいと思う心は嘘ではない」
「な、なにい……ギャーッ!!」
不意打ちで喰らった彼の照れ臭い言葉にときめいたユフィの隙を突き、ヴィンセントは思いっきり布団を引っ張り剥がした。
猫が尻尾を踏まれたようなダミ声の悲鳴が部屋に響くが、そんなことはどうでもいい。
ヴィンセントは布団の下に隠されていたもの……ダンベルを手に取り、ずいっとユフィの目の前に突き出した。
「だって!!身体鈍っちゃうんだもん!!」
尋問が始まる前に言い訳という白状をする彼女に、ヴィンセントは深く溜め息を吐くと、ダンベルを握り締めながら怒りを隠しもせずにユフィに説教をし始めた。
「お前が風邪を引いて寝込む羽目になったのは、体調が芳しくないのを感じていながら、休むこともせず任務を立て続けにこなし無理をしたからだろう?身体が鈍る?……知らんな」
ヴィンセントはダンベルを回収して部屋の外に転がり出すと、ユフィの元に戻りコップと薬を差し出した。
「だって……」
ぶつくさと文句を言いつつも、渡された薬を口に放り込み、水を含んで渋い顔をしながら飲み込む。
化学製品が苦手なユフィは風邪薬一錠だけでギャーギャー大騒ぎをするが、ヴィンセントが本気で怒っているのを悟り、今回ばかりは素直に静かに飲み込んだ。
その姿を見て満足したように一息吐くと、ヴィンセントはユフィからコップを受け取りトレイに戻し、横になった彼女にしっかりと布団をかけ直した。
「ユフィ。身体が鈍り、復帰して数日の間本来の力を発揮出来ないもどかしさは理解している。だが今十分に休養せず無理をすれば、この先更に悲惨な状況に陥る。今はしっかり休め」
もう大分前の出来事になるが、熱を出して数日寝込んで復帰した直後は感覚が元に戻らず、当時は散々な目に遭ったようだった。
そのせいか、ユフィは熱を出して寝ていなければならない状態でも、人の目を盗んでは「筋力を落とさないように」と、こそこそと身体を動かすようになった。
「…………」
不貞腐れた顔をするも、頬は赤く染まり、目の下に濃く隈が浮かび、今にも瞼が閉じそうな程うとうととしている彼女に、ヴィンセントは気持ちを理解はしても甘やかすことはしなかった。
だが……
「……回復したら、慣らすためにマテリア探しに行こう」
惚れた弱味か、子どものようにムスッとした表情と、熱と叱責で潤む瞳を見てしまえばやはり甘くなってしまう。
そんな自分に内心苦笑しながらそう言えば、ユフィは目を見開き、黒曜石の瞳をキラキラと輝かせた。
「ホント?ホントに??前言撤回はナシだかんね!」
今にも飛び起きそうな勢いの彼女を宥め抑えると、「誓って……」と赤く熱を発する柔らかな頬にそっと唇を寄せた。
「だから、よく休め」
いつも元気で大切な存在が不調なのは、どうにも落ち着かない。
懇願と願いを込めそう伝えれば、相当辛かったのだだろう、嬉しそうにうんうんと数回頷いき目を瞑ったユフィは、そのままストンと夢の世界へと落ちて行った。
「……まったく」
何に対しての「まったく」なのか……。 ヴィンセントはそう苦笑すると、彼女が寝ている間に買い出しに行こうと立ち上がりトレイを持つと、静かに寝室を後にした。
* * *
買い物が済み、住んでいるマンションに帰って来るや否や、エレベーターを待つのも堪えられんとばかりに、極力足音を立てずに階段をかけ上がり、自分たちの部屋があるフロアに誰もいないのを確認すると、風の如く部屋のドアまで駆け寄り、瞬時に鍵を開け玄関を開き中に逃げ込んだ。
―――ユフィめ
確認しなかった自分の落ち度でもあるが、恨み言の一つでも言わなければ、棺桶に引きこもりたい程の羞恥心をどうすることも出来なかった。
持っていた買い物袋を目の高さまで持ち上げて、原因となるものを見て溜め息を吐き、何とも言えない感情に無意識に眉間にシワが寄る。
一見黒色の買い物袋はシンプルで洒落ているように見える。しかし袋の片面には、白猫のシルエットが堂々とプリントされていたのだった。
悪いデザインではない。格好良さと可愛らしさがちょうど良く交わり、ユフィが使うにはとても似合っているものだったが、ヴィンセントが使うには少し……いや、かなり無理がある。
実際買い物袋を広げ猫のシルエットが現れた時に、「ふふっ……すみません。可愛くて……ちょっと意外です」と店の店員に和まれてしまった。
ユフィに悪気はなかったのだろうが、被害を被ったのは事実であり、このことに対しては何かしらの償いをしてもらわなければと思いながら、ヴィンセントは玄関を上がり廊下を進むと、寝室のドアを開けて部屋の中をそっと覗いた。
モーグリのぬいぐるみも床に投げ出され、掛け布団もグシャグシャになっている様を見て、ほっと息を吐く。
(……よく寝ている)
足音を立てずにベッドに近寄り、ぬいぐるみを拾ってモーグリ専用の椅子に座らせると、彼女に布団をかけ直しながらその寝顔を見つめた。
忍というだけあり気配に敏感なユフィだが、これだけ近付いても何をしても起きないところ、相当疲れているのだろうと窺える。
隠れてトレーニングなどしている場合ではなかったのだ。
「何粥にするか……」
彼女が早く回復するように、少しでも栄養の摂れるお粥を考える。
それを食べて幸せそうに微笑むユフィの笑顔を想像しながら、買い物袋を持ち部屋を出てキッチンへと向かった。
* * *
「ん~……ミルク粥……おいし~」
ぼんやりしながら譫言のように呟くユフィの食事姿を、モーグリから椅子を奪って彼女の隣に置き座りながら見届けるヴィンセントは、取り合えず食事は出来るようだと安堵した。
「ありがとねぇ~ヴィンセント」
ふにゃけた笑顔に答えるように小さく笑う。
こうして彼女が少しでも元気になるのであれば、あの猫騒動も浮かばれた気がした。
「そのエプロン……着てくれたんだ~。うれし」
ヴィンセントは身に付けているエプロンを一瞥すると、「折角だからな」と、先程とは違い若干ひきつりながら笑った。
ユフィが料理をする回数が増えた彼に贈ったこのエプロン。実は猫がポケットから顔を半分出して外を覗いているようにプリントされており、お粥を作る際に初めて袖を通したヴィンセントは猫に向かって「またか……」と、思わず突っ込みを入れてしまったのだった。
「うん……似合ってる……かわいい」
買い物袋といい、エプロンといい、猫に振り回されたヴィンセントからしたら苦笑せずにはいられないのだが、それもまた二人で生きる思い出の一つとなるのだと考えれば然程問題ではないかった。
ユフィの言う『ゾッコン』がどれ程のものなのかと、ヴィンセントはその力を改めて実感した。
「それねぇ、後ろは猫の顔になるように出来てるんだよ~……スゴイよねぇ」
嬉しそうに笑うユフィから発せられた新事実に彼の中で衝撃が走る。
―――……一部、撤回
にこにこと粥を食べるユフィを見つめながら、やはり受けた羞恥への償いはしてもらおうと、ヴィンセントはその内容を脳内で練り始めた。
ヴィンセントは薬と水の入ったコップが乗ったトレイを片手で持ち、空いている方の手でコンコンっと控え目にノックをすると、ドアノブに手をかけ、静かに寝室のドアを押し開けた。
「ユフィ、入るぞ」
風邪で寝込んでいるユフィに声をかけつつ中に入り、横になっている彼女の様子を見て……眉間に皺を寄せ、赤い瞳をギラつかせた。
「……何をしていた」
ヴィンセントの声が一段下がり、明らかに怒気を孕んでユフィに放たれる。
「え?な、なになに?ちゃーんと寝てたけど??」
布団から顔を覗かせヴィンセントを見上げるユフィは顔をひきつらせ、とてもぎこちない笑顔を浮かべ「えっへへ」と笑った。
ヴィンセントはベッドに歩み寄ると彼女の状態を上から見下ろし、ざっと観察したところでゆっくりと口を開いた。
「……随分行儀良く横になっていたようだな」
風邪で寝込んでいても怪我を負っていても、掛け布団をグシャグシャにして寝るほど寝相の悪いユフィには珍しく、首元まで乱すことなくきっちりと掛けている、彼女にしては異常な様をヴィンセントは鋭く指摘した。
「そ、そりゃ~アタシだって寝相良く寝るときだってあるし…」
目を泳がせ狼狽えながらも尚もシラを切る恋人に、ヴィンセントは眉を上げ更に攻める。
「それに……ぬいぐるみを布団に入れるとは、また珍しいな」
例え一人で寝る時があろうとも、ユフィは「ジャマ」と言いぬいぐるみと一緒に寝ることはしない。
その彼女の隣で横たわっている、ゴールドソーサーで手に入れた巨大モーグリに視線を向ければ、ユフィは益々動揺し始めた。
ユフィが何かを隠しているのは確実であった。
「まま、まぁね!チョーットだけ寂しくって」
一緒に寝ましょうね~、などと言いながらモーグリに布団を掛け直すユフィに、ヴィンセントは口の端を上げ、ニヤリと笑った。
「ほう……寂しかった、か」
サイドテーブルにトレイを置き、徐にユフィの掛けている布団を掴む。
「へ?ヴィ、ヴィンセント?」
「寂しい思いをさせて悪かった。その償いに……少しだけ、私も横になろう」
布団を引き剥がそうと強引に引っ張ったヴィンセントだが、危機を察知したユフィも、掛け布団を取られまいと抵抗して力の限り布団を引っ張った。
「いい、いいよいいよ!!風邪移るから!!寝なくていーから!!本でも読んでれば?!」
「寂しいと言っている恋人を放っておくことなど、私には不可能だ」
「顔笑ってるじゃん!!嘘つくな!!」
「側にいたいと思う心は嘘ではない」
「な、なにい……ギャーッ!!」
不意打ちで喰らった彼の照れ臭い言葉にときめいたユフィの隙を突き、ヴィンセントは思いっきり布団を引っ張り剥がした。
猫が尻尾を踏まれたようなダミ声の悲鳴が部屋に響くが、そんなことはどうでもいい。
ヴィンセントは布団の下に隠されていたもの……ダンベルを手に取り、ずいっとユフィの目の前に突き出した。
「だって!!身体鈍っちゃうんだもん!!」
尋問が始まる前に言い訳という白状をする彼女に、ヴィンセントは深く溜め息を吐くと、ダンベルを握り締めながら怒りを隠しもせずにユフィに説教をし始めた。
「お前が風邪を引いて寝込む羽目になったのは、体調が芳しくないのを感じていながら、休むこともせず任務を立て続けにこなし無理をしたからだろう?身体が鈍る?……知らんな」
ヴィンセントはダンベルを回収して部屋の外に転がり出すと、ユフィの元に戻りコップと薬を差し出した。
「だって……」
ぶつくさと文句を言いつつも、渡された薬を口に放り込み、水を含んで渋い顔をしながら飲み込む。
化学製品が苦手なユフィは風邪薬一錠だけでギャーギャー大騒ぎをするが、ヴィンセントが本気で怒っているのを悟り、今回ばかりは素直に静かに飲み込んだ。
その姿を見て満足したように一息吐くと、ヴィンセントはユフィからコップを受け取りトレイに戻し、横になった彼女にしっかりと布団をかけ直した。
「ユフィ。身体が鈍り、復帰して数日の間本来の力を発揮出来ないもどかしさは理解している。だが今十分に休養せず無理をすれば、この先更に悲惨な状況に陥る。今はしっかり休め」
もう大分前の出来事になるが、熱を出して数日寝込んで復帰した直後は感覚が元に戻らず、当時は散々な目に遭ったようだった。
そのせいか、ユフィは熱を出して寝ていなければならない状態でも、人の目を盗んでは「筋力を落とさないように」と、こそこそと身体を動かすようになった。
「…………」
不貞腐れた顔をするも、頬は赤く染まり、目の下に濃く隈が浮かび、今にも瞼が閉じそうな程うとうととしている彼女に、ヴィンセントは気持ちを理解はしても甘やかすことはしなかった。
だが……
「……回復したら、慣らすためにマテリア探しに行こう」
惚れた弱味か、子どものようにムスッとした表情と、熱と叱責で潤む瞳を見てしまえばやはり甘くなってしまう。
そんな自分に内心苦笑しながらそう言えば、ユフィは目を見開き、黒曜石の瞳をキラキラと輝かせた。
「ホント?ホントに??前言撤回はナシだかんね!」
今にも飛び起きそうな勢いの彼女を宥め抑えると、「誓って……」と赤く熱を発する柔らかな頬にそっと唇を寄せた。
「だから、よく休め」
いつも元気で大切な存在が不調なのは、どうにも落ち着かない。
懇願と願いを込めそう伝えれば、相当辛かったのだだろう、嬉しそうにうんうんと数回頷いき目を瞑ったユフィは、そのままストンと夢の世界へと落ちて行った。
「……まったく」
何に対しての「まったく」なのか……。 ヴィンセントはそう苦笑すると、彼女が寝ている間に買い出しに行こうと立ち上がりトレイを持つと、静かに寝室を後にした。
* * *
買い物が済み、住んでいるマンションに帰って来るや否や、エレベーターを待つのも堪えられんとばかりに、極力足音を立てずに階段をかけ上がり、自分たちの部屋があるフロアに誰もいないのを確認すると、風の如く部屋のドアまで駆け寄り、瞬時に鍵を開け玄関を開き中に逃げ込んだ。
―――ユフィめ
確認しなかった自分の落ち度でもあるが、恨み言の一つでも言わなければ、棺桶に引きこもりたい程の羞恥心をどうすることも出来なかった。
持っていた買い物袋を目の高さまで持ち上げて、原因となるものを見て溜め息を吐き、何とも言えない感情に無意識に眉間にシワが寄る。
一見黒色の買い物袋はシンプルで洒落ているように見える。しかし袋の片面には、白猫のシルエットが堂々とプリントされていたのだった。
悪いデザインではない。格好良さと可愛らしさがちょうど良く交わり、ユフィが使うにはとても似合っているものだったが、ヴィンセントが使うには少し……いや、かなり無理がある。
実際買い物袋を広げ猫のシルエットが現れた時に、「ふふっ……すみません。可愛くて……ちょっと意外です」と店の店員に和まれてしまった。
ユフィに悪気はなかったのだろうが、被害を被ったのは事実であり、このことに対しては何かしらの償いをしてもらわなければと思いながら、ヴィンセントは玄関を上がり廊下を進むと、寝室のドアを開けて部屋の中をそっと覗いた。
モーグリのぬいぐるみも床に投げ出され、掛け布団もグシャグシャになっている様を見て、ほっと息を吐く。
(……よく寝ている)
足音を立てずにベッドに近寄り、ぬいぐるみを拾ってモーグリ専用の椅子に座らせると、彼女に布団をかけ直しながらその寝顔を見つめた。
忍というだけあり気配に敏感なユフィだが、これだけ近付いても何をしても起きないところ、相当疲れているのだろうと窺える。
隠れてトレーニングなどしている場合ではなかったのだ。
「何粥にするか……」
彼女が早く回復するように、少しでも栄養の摂れるお粥を考える。
それを食べて幸せそうに微笑むユフィの笑顔を想像しながら、買い物袋を持ち部屋を出てキッチンへと向かった。
* * *
「ん~……ミルク粥……おいし~」
ぼんやりしながら譫言のように呟くユフィの食事姿を、モーグリから椅子を奪って彼女の隣に置き座りながら見届けるヴィンセントは、取り合えず食事は出来るようだと安堵した。
「ありがとねぇ~ヴィンセント」
ふにゃけた笑顔に答えるように小さく笑う。
こうして彼女が少しでも元気になるのであれば、あの猫騒動も浮かばれた気がした。
「そのエプロン……着てくれたんだ~。うれし」
ヴィンセントは身に付けているエプロンを一瞥すると、「折角だからな」と、先程とは違い若干ひきつりながら笑った。
ユフィが料理をする回数が増えた彼に贈ったこのエプロン。実は猫がポケットから顔を半分出して外を覗いているようにプリントされており、お粥を作る際に初めて袖を通したヴィンセントは猫に向かって「またか……」と、思わず突っ込みを入れてしまったのだった。
「うん……似合ってる……かわいい」
買い物袋といい、エプロンといい、猫に振り回されたヴィンセントからしたら苦笑せずにはいられないのだが、それもまた二人で生きる思い出の一つとなるのだと考えれば然程問題ではないかった。
ユフィの言う『ゾッコン』がどれ程のものなのかと、ヴィンセントはその力を改めて実感した。
「それねぇ、後ろは猫の顔になるように出来てるんだよ~……スゴイよねぇ」
嬉しそうに笑うユフィから発せられた新事実に彼の中で衝撃が走る。
―――……一部、撤回
にこにこと粥を食べるユフィを見つめながら、やはり受けた羞恥への償いはしてもらおうと、ヴィンセントはその内容を脳内で練り始めた。