FF7・ヴィンユフィ短編
*○○%の甘情*
「……はぁ」
目元を軽く揉みながら、ヴィンセントは椅子の背もたれに身体を預け、溜め息を吐いた。
手元のカップを持てば中は空っぽ。いつ消費したのかすら、さっぱり覚えていない。それほどまでに事務処理を熟していたのかと、首を回して硬直した筋肉を解し始めた。
(当時を思い出すな……)
昔、似たようなことをしていたなと、ヴィンセントは既に遠い過去になってしまった時を回想した。
タークスだった頃に、これでもかというほどデスクワークは経験した。裏の仕事を担う組織でも、別に常に外に出てターゲットを狙っている訳ではない。任務のない日は溜った報告書の作成や書類の整理をするなど、普通の事務員と同じ事をしていた。だからもう慣れたと思っていたが、やはり疲れるものは疲れる。WROに加入するまでブランクがあったのだから、当然と言えば当然なのだが。
(……また、似たような生活を送るようになるとはな)
諜報員として活動するのが嫌なわけではない。むしろ技術を持っている自分には天職だと思っている。
ただ……想像すらしていなかった、不老不死の運命から放り出された今、仲間と同じように限りある人生を歩まなくてはならなくなった。その事に困惑している。
生死の感覚がとても中途半端な状態から急に変わった身体と残りの人生に戸惑ったのは、数年経った今でもあまり変わらない。それは仕方ないと思う反面、なんとも言えない思いもわき上がるのは確かだ。
(呑み込めない……いや、違うな)
そんな感情ではない事はわかっている。ただ心にぽっかりと穴が空いたような、そんな空虚な感情が胸を占めているのだ。隙間を埋める術を、ヴィンセントは未だに見つけられずにいる。
(……淹れてくるか)
こんな事を考えてしまうのもきっと疲れているからだと思い、なくなったコーヒーを足すために席を立とうとした、その時だった。
「よっ! お疲れ様って感じ?」
振り返れば、そこには同じようにデスクワークを熟していたはずのユフィが立っていた。
「……まぁな」
「うんうん、働くって疲れるよねっ。というわけで、お裾分け!」
そう言うと、ユフィは小さな箱をヴィンセントのデスクに置いた。パッケージには“カカオ七○%チョコレート”と書かれている。
「疲れた時には甘い物、てねっ」
そう言い残して、ユフィはさっさと自身の机に戻って行った。
わざわざこのために来たのかと、彼女の行動に首を傾げつつ、受け取ったものとその気遣いは有り難く受け取った。
(……まったく)
置いていった箱を手に取り、ヴィンセントは苦笑した。
ユフィは甘党だ。ヴィンセントとは違い、カカオ七○パーセントの苦いチョコレートは口に合わないだろう。そこから導き出される答えが、なんとなくこそばゆい。
(……何が良いか)
自分の食べる分ではない。ただお菓子大好きな娘に対して、何を渡せば良いのか考えているだけだ。
(……取りあえず、コーヒーを淹れにいくか)
席を立ちながら、ちらりとユフィを盗み見る。同じカカオ七○パーセントのチョコレートがデスクに置いてあるが、その顔はどう見ても好物を前にした顔ではない。
その姿に、ヴィンセとはマントの下で小さく笑う。
胸にあった隙間の存在は、突如出現した甘味で埋められていた。
「……はぁ」
目元を軽く揉みながら、ヴィンセントは椅子の背もたれに身体を預け、溜め息を吐いた。
手元のカップを持てば中は空っぽ。いつ消費したのかすら、さっぱり覚えていない。それほどまでに事務処理を熟していたのかと、首を回して硬直した筋肉を解し始めた。
(当時を思い出すな……)
昔、似たようなことをしていたなと、ヴィンセントは既に遠い過去になってしまった時を回想した。
タークスだった頃に、これでもかというほどデスクワークは経験した。裏の仕事を担う組織でも、別に常に外に出てターゲットを狙っている訳ではない。任務のない日は溜った報告書の作成や書類の整理をするなど、普通の事務員と同じ事をしていた。だからもう慣れたと思っていたが、やはり疲れるものは疲れる。WROに加入するまでブランクがあったのだから、当然と言えば当然なのだが。
(……また、似たような生活を送るようになるとはな)
諜報員として活動するのが嫌なわけではない。むしろ技術を持っている自分には天職だと思っている。
ただ……想像すらしていなかった、不老不死の運命から放り出された今、仲間と同じように限りある人生を歩まなくてはならなくなった。その事に困惑している。
生死の感覚がとても中途半端な状態から急に変わった身体と残りの人生に戸惑ったのは、数年経った今でもあまり変わらない。それは仕方ないと思う反面、なんとも言えない思いもわき上がるのは確かだ。
(呑み込めない……いや、違うな)
そんな感情ではない事はわかっている。ただ心にぽっかりと穴が空いたような、そんな空虚な感情が胸を占めているのだ。隙間を埋める術を、ヴィンセントは未だに見つけられずにいる。
(……淹れてくるか)
こんな事を考えてしまうのもきっと疲れているからだと思い、なくなったコーヒーを足すために席を立とうとした、その時だった。
「よっ! お疲れ様って感じ?」
振り返れば、そこには同じようにデスクワークを熟していたはずのユフィが立っていた。
「……まぁな」
「うんうん、働くって疲れるよねっ。というわけで、お裾分け!」
そう言うと、ユフィは小さな箱をヴィンセントのデスクに置いた。パッケージには“カカオ七○%チョコレート”と書かれている。
「疲れた時には甘い物、てねっ」
そう言い残して、ユフィはさっさと自身の机に戻って行った。
わざわざこのために来たのかと、彼女の行動に首を傾げつつ、受け取ったものとその気遣いは有り難く受け取った。
(……まったく)
置いていった箱を手に取り、ヴィンセントは苦笑した。
ユフィは甘党だ。ヴィンセントとは違い、カカオ七○パーセントの苦いチョコレートは口に合わないだろう。そこから導き出される答えが、なんとなくこそばゆい。
(……何が良いか)
自分の食べる分ではない。ただお菓子大好きな娘に対して、何を渡せば良いのか考えているだけだ。
(……取りあえず、コーヒーを淹れにいくか)
席を立ちながら、ちらりとユフィを盗み見る。同じカカオ七○パーセントのチョコレートがデスクに置いてあるが、その顔はどう見ても好物を前にした顔ではない。
その姿に、ヴィンセとはマントの下で小さく笑う。
胸にあった隙間の存在は、突如出現した甘味で埋められていた。