FF7・ヴィンユフィ短編

*たとえ瞬きの間の出来事だとしても*


「どーよ、ヴィンセント」

 うっすらと紫が残る空を、ただ無言で見上げている長身の男に得意気に笑ってみせる。
 返事もない彼の深紅の瞳の先には、夕闇を彩る幾つものオレンジ色の輝き。

「ウータイのランタン祭り、アンタはゼーッタイ気に入るって、言った通りだったでしょ?」

 ニカッ と満面の笑みを浮かべるも、彼の瞳は夜空に浮かぶ炎の花に釘付けになってる。
 初めて知った、心に残る美しさを堪能してくれているのなら、たとえ自分を見てくれなくても、それで本望だった。

(アンタは、それで良いんだよ)

 誰よりもこの星に生き続けていく人に、心の中でそう呟く。

(アンタにとってアタシたちとの時間は瞬きの間の出来事でも、何十、何百、何千年と、変わらないものもあるからね)

 一人時に残されたまま周囲だけが変わっていく感覚は、残念ながら数十年後には星に還る側にはわからない。わからないが、なんとなく、寂しい気がしなくもなかった。
 それは勿論個人的感覚でしかないのだが、そう感じて何もしないような人間ではないのがウータイに咲く一輪の花だった。

(取りあえず一個、発見かな?)

 次々に浮かんで行くランタンを見上げる横顔を見る。
 彼の中に変わらないものを無事植え付けられたようで、ああ 良かったな、と、満たされていく。

(本当に、良かったよ)

 心が揺れ動く瞬間を、その表情を目に焼き付ける事が出来る喜びを、ただ独り、闇の中で噛み締める。
 ヴィンセントにとって、この日の事は一瞬の事。けれど自分にとっては一生の事で……

(アンタの中に残してほしい、なんて言わないから)

 だからどうか、アタシの中にアンタを残す事は許してほしい

 願いを乗せて浮かんでいくランタンにも乗せない願いを、口から溢れないよう唇を結ぶ。
 過ぎて行く時の中で色褪せない夏の思い出を……愛しい人の美しい瞬間を、どうか心に刻ませてほしい。
 そんな最高に身勝手な願いを、この我が儘娘が言わないでやるんだからと、頭の中で胸を張ってみせた。

「……何故、先程から百面相をしている」

 不意に開いた薄い唇に、そこから飛び出してきた言葉と声に思わず驚き飛び跳ねる。
 目線は確かに空に向いていたのに、一体どれだけ視野が広いのか。

「気のせいじゃない?」
「それは、ないな」

 迷いの無い否定。
 彼にしては珍しい即答の意味を知りたくなくて、ケラケラと笑った。

「何でそんな自信満々なんだよっ」

 おっかしい、と、遠ざかって行く光に視線を反らす。けれど、逃がしてくれたのは視線だけで……

「……どーなっても、知らないよ」
「ああ……構わない」

 人生の中に、残ってくれるのなら

 仲夏の宵。
 絡んだ指の熱は、生涯忘れない。









おまけ

「……は?」

 耳がおかしくなったのかと、その穴に指を突っ込もうとして阻止された。

「別に耳はおかしくなっていない」

 呆れ顔で言われるも、今し方聞いた話しが信じられず、話しを聞いてから「え、だって」と、譫言のように繰り返す事しか出来ない。

「信じられないかもしれないが、先日検査結果も出て間違いなかった」

 人の顔を見て苦笑する様を見るに、相当間抜けな顔をしているのだろうと想像するが今はそれどころではない。

「そ、そんな、そんな……そんな急に『不老不死じゃなくなりました』なんて言われたってさぁ!!」

 心が追い付かんわ! と、祭りの明かりから少し離れた神社の闇に衝撃が走った。

 毎度人の誘いに渋々付き合う男が、今回すんなり承諾した違和感がなかった訳では無い。が、まさか『同じ時間を生きられるようになったので、今まで抱えていた想いを伝えるために誘いに乗った』等と、どうすれば違和感と結びつけられるというのか。

「み、みんなにその事は!?」
「……ユフィに先に伝えようと」
「言ってないんかい!! いや嬉しいけど!!」

 次から次へと飛び出してくる困惑と歓喜に、先程まで抱いていた切ない恋心は一体何だったのかと泣きたくなってくる。

(こうなったら、一生かけて償ってもらうんだからね!)

 ありがと! そんでこれからヨロシク! と、叱られた仔犬みたいにしょぼくれる、つい先程恋人になった男に思いっ切り抱き付いた。

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