FF7・ヴィンユフィ短編

*真夏の炎*
※ねつ造ユフィ母登場


 ヴィンセントがユフィの帰省に付き合い共にウータイの町に降り立つと、家々の玄関先や庭にはホオズキが飾られており、それと同じように飾られている、風に吹かれクルクルと回る風車が町中に夏の色を鮮やかに彩っていた。
 今回はゴドーらが住むユフィの実家に戻るということで、手土産を持って総本山に向かっている途中、ウータイの夏の風物詩を眺めながら、ヴィンセントはそれらと同時に謎の皿が目に付き、町の景色に感動しながらも疑問が腹の底で渦巻いていた。

「たっだいま~!!」
 総本山へ到着し、ユフィは玄関に入ると家の中に向かい元気良く挨拶をした。
「ユフィ…これは」
 ヴィンセントは総本山までの道のりで見つけたものと同じ土皿がここにも置かれているのを発見し、靴を脱ぎかけていたユフィを呼び止め、ウータイの文化であろうそれを探究心と好奇心を持ってユフィに尋ねた。
「それ?それは焙烙だよ!」
ヴィンセントの目線の先にある素焼きの皿を見てユフィは答えた。
「焙烙?」
「そう!ウータイにはね、星に還った人が、夏の数日の間戻ってくるっていう風習があるんだ。この焙烙は『おがら』っていうのを燃やして火を焚いて、帰ってくる人が家までの道に迷わないように目印にするためのものなんだよ!」
 ウータイという国には、大陸では思い付きもしない風習や教えが存在する。
 数々の困難を乗り越えユフィと心を通わすようになり、それと同時にウータイへ訪れることが多くなったヴィンセントは、それらを目の当たりにしたり実際に体験するようになり、知識力旺盛な彼はその都度ユフィに尋ねていた。
 別に尋ねる相手をユフィに絞る必要もなければゴーリキーに聞いた方がより細かい説明を受けられるのも確かなのだが、普段ヴィンセントに説明を受けてばかりのユフィが「あのヴィンセントに教えてるよ!!」と、瞳を輝かせながら得意気に解説する姿がなんとも可笑しく、そしてとても愛しく思え、その姿を見るためにヴィンセントは何か疑問に思えばユフィに尋ねるようにしていた。
「迎え火は終わっちゃってるけど送り火は明日だから、そのときはヴィンセントにやらせてあげるよ!」
 オヤジとゴーリキーには言っておくから!!…と言うと、ユフィは靴を脱ぎ散らかしたままバタバタと屋内へと上がって行った。
(死者が帰って来る…か)
 世界の教えとして、死者の全ては星に還り、星の流れとともに星を廻り、やがて新たな命として誕生する。
 その中で死者が数日の間戻ってくるといった考えは存在しないが、大陸とは違う、長きに渡り独自の文化を築き守ってきたウータイならではの考えにヴィンセントは深いものを感じながら、ユフィが脱ぎ散らかしたままの靴を並べて自身も家に上がった。

 キサラギ家の親族も集まって開かれた賑やかな夕食も終わり、ウータイの名物でもある温泉を堪能した二人であったが、長旅で疲れたのであろうユフィは、部屋に戻り布団に入るとすぐ眠りに就いてしまった。
 その寝顔を愛しさと多少の不満を持って見つめていたヴィンセントであったが、一向にやって来ない眠気に溜め息を吐き、ユフィを起こさぬように布団から出ると、物音を立てずに部屋を後にした。

 髪を揺らす風を心地良く感じながら、ヴィンセントは眠気がやってくるまで、月明かりが照らす縁側を庭を眺めながら歩いていた。
 庭にあるゴーリキーが育てたのであろうホオズキや、草木が擦れて囁いているように聴こえる風鳴りの音が心地良い…。
 大陸では決して見ることの出来ない風景を一人楽しんでいたヴィンセントだったが、一瞬、妙に辺りが暗くなり思わず足を止めた。
 空を見上げても黄金に輝く月は雲に隠れることなく輝いており、不自然な出来事に首を傾げながら再び歩き出そうとした…そのときだ。

「こんばんは」

 背後から不意に聞こえた声に振り向けば、縁側に腰かけて微笑む一人の女性がいた。
「驚かせてごめんなさい。お散歩ですか?」
 柔らかく微笑む女性はウータイの民族衣装である浴衣を着てはいるが、その顔立ちはウータイ人とは違い大陸寄りで、思えば流暢に大陸の言葉で話していることや、自分に気付かれずに背後に現れたことにも違和感を覚えたヴィンセントは彼女が無防備であっても警戒した。
「私、こんな顔してるけど、キサラギの家の者よ?夫がキサラギの出で、大陸から嫁いできたの」
 キサラギだけじゃなくウータイでも珍しいわよね…と、穏やかな笑顔はそのままに説明をする彼女の話を聞き、ヴィンセントは暫し考えた後に警戒と解いた。
 この家には今キサラギの親族が泊まっている。きっとその中の一人なのかもしれないと思い至り、ヴィンセントは彼女に詫びた。
「気にしないで。それより、少しお話しませんか?」

 ヴィンセントは彼女の隣に腰かけ、楽しそうに話す彼女の話しを聞いていた。

「ユフィはよくゴーリキーに遊んでもらってたの。鞠で遊ぶのが大好きだったわ」

「実は猫屋敷に初めて入るまでは怖くてあそこに近付けなかったの。もう大泣きしてね…笑っちゃいけないけど、可愛くてつい笑っちゃった」

「何でも美味しそうに食べる子でね。『美味しい!』てたくさん食べてくれるのが嬉しかった」

 幼少期のユフィの思い出を話す彼女はとても嬉しそうで、ヴィンセントは当時のユフィのことを想像して微笑した。
 きっとそのときからヤンチャで元気いっぱいの子どもだったのだろう。今と変わらぬユフィの話しに可笑しく思い、同時にユフィに好意的な彼女にヴィンセントはすっかり気を許していた。
 やはり一国を統治する家系というだけあり、次期領主になるユフィに対し親族であっても良く思っていない者は存在した。夕食の時間はユフィに向けられる嫌悪感を視線で撃退していたヴィンセントは、少しばかり神経質になっていたと自覚し、ユフィの身近に彼女を大切に想う者がいたことに安堵した。

「こんなに引き留めてしまってごめんなさい。そろそろ戻りましょうか。眠くなってきたでしょう?」

 彼女の言葉に、あれだけやって来なかった眠気を確かに感じ、ヴィンセントは彼女に続き立ち上がった。
「お話に付き合ってくれてありがとう」
「いえ…こちらこそ、話が聞けて良かった」
「ふふ…私も、貴方に話せて良かったわ。……ユフィのこと、宜しくお願いしますね」
 深々とお辞儀をする彼女に続き、ヴィンセントもそれに答えるように頭を下げると、彼女に見送られる形でユフィのいる部屋へと歩き始めた。
しかし…
(……名前を聞きそびれた)
 ヴィンセントは彼女の名前をまだ聞いていないことを思い出し、それを聞くためにまだ居るであろう後ろを振り返って、ヴィンセントは目を見開いた。
(……いない)
 ヴィンセントが歩いたのはほんの二・三歩で、彼女が通るであろう曲がり角はまだ少し先にあり、数歩でたどり着けるほどの距離ではない。
 それなのに、あの女性の姿はすでに消えていた。思えば足音も聞こえなかったことに、ヴィンセントは出会ったときと同じように不思議に思ったが、眠気が勝り考えることを止め、明日顔を合わせたときにでも聞けばいいだろうとぼんやりと考えて部屋へと戻った。



「そういえば、まだ母様に会ったことなかったよね」
 結局昨晩出会った女性に出会えずに夕方を迎えた頃、ユフィはどこからか持ってきたアルバムをヴィンセントの前に開いて並べた。
 そう言われれば、ユフィから母親の話は聞いたことは多々あれど、写真を見たことはまだ一度もなかった。
 どんな人なのだろうか…まだ見ぬ彼女の母親を想像しながら、ユフィがページをめくるのをじっと眺めていれば、あるページでその手がピタリと止まった。

「この人が母様だよ」

 ユフィの指差す人物を見て、ヴィンセントは唖然とした。
 そこに写っていたのは、紛れもなく昨晩縁側で出会った女性だった。
 こちらを見ながら優しく微笑む顔は昨日見たの表情と同じで、ヴィンセントはあり得ない状況に困惑していた。
「母様は縁側に座って、アタシとゴーリキーが鞠で遊んでるのを良く見てたんだ。一緒に遊ぼう!って誘いたかったけど、母様は足が悪くて中々出来なかったから『そこで見ててね!』って言って一緒に遊んでる気分になってた。それとさ、母様の作るご飯はちょっと独特だったけどめっちゃ美味しくてさ、『美味しい!』て言えば大げさなぐらい喜んでた」
 ユフィの母親との思い出話もあの女性から聞いたものと同じで、ヴィンセントは信じられない思いともに、楽しそうに一人で話し続けるユフィの姿が昨夜の彼女の姿と被り、このお喋りは母親に似たのだろう…とどこか冷静に考えていた。
「…ユフィ」
「なに?」
「お前は、死者の魂が戻ってくる…と、信じているか」
 キョトンとするユフィに、ヴィンセントはいつものように尋ねた。
 昨晩のことがどうしても気になり、例え笑われようとも聞かずにはいられなかった。

「う~ん…。まぁ、おとぎ話でしか聞かない不老不死なんてものが本当にあったんだから、信じてもいいんじゃない?」

 悪戯に笑うユフィにヴィンセントは一瞬呆けると、それもそうだな…と心の行き場がストンと納まり、驚くほど納得してしまった自分に笑いたいのをぐっと堪え、昨晩彼女から聞いた話しをポツリと呟いた。
「……猫屋敷が怖くて大泣きしたようだな」
 ヴィンセントの言葉に固まったユフィだったが、次の瞬間には眉を上げて慌て始めた。
「誰がそのこと話した?!ゴーリキー?オヤジ?マジありえない!!」
まさか実の母親に教えられたとは思ってもいないであろうギャーギャー騒ぐユフィを見て、ヴィンセントは今度こそ笑った。



 日が沈み始め辺りが紫色に染まり始めた頃、キサラギ家一同は外に出て、ユフィの計らいでヴィンセントの手で送り火が焚かれた。
 揺れるオレンジ色の炎を見つめながら、ヴィンセントはユフィの母親の言葉を思い出していた。

『ユフィのこと、宜しくお願いしますね』

 深く頭を下げてヴィンセントにそう言い残した彼女は、この火に見送られながら星に戻ってしまう。

「……必ず」

 あのときヴィンセントは彼女と同じように頭を下げたはしたものの、言葉でしっかりと誓ってはいなかった。あの後何もなかったということは意志は伝わったのだろうが、ヴィンセントは今一度言葉に出して彼女に誓った。

「な~にが『必ず』なの?」
 隣に立つユフィが好奇心旺盛な瞳でヴィンセントを見上げた。
「…お前が猫屋敷で泣かないように私が見張っていると先祖の方々に誓っただけだ」
 ヴィンセントの言葉に大声で抗議するユフィの声が響き渡る。
 自分の誓いは聞こえたかわからないが、ユフィの元気な声は聞こえただろうと思いながら、ヴィンセントは炎が消えるまで彼女を想った。

10/11ページ