殺人鬼の癖に優鬼してんじゃねぇぞ!!
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いつだってそうなんだが。
儀式は運もあると思う。
今回に限らず不運な事など多々あるわけで。
例えば、開始早々チェーンソーの音が聞こえたなぁと思ったら誰かが倒れて。
吊られた誰かを誰かが救助したと思ったら、またチェーンソーの音がして2人仲良く倒れて。
また助けに行ったら見つかって追いかけられて。
そうだ。たまにあるのだ。こんな状況は。
つまり、だから今回もそうなったから。
『私にどうしろってんだよ…』
2人吊られて1人が這いずり。
発電機がひとつも直らないうちにあっという間に地獄絵図。
残った私だけが今、途方に暮れているのだ。
まだだ。まだ大丈夫なはず。持ち直さないと。
そろそろ限界な仲間の1人、ドワイトの吊るされたフックの近くの物陰に隠れる。
近くをまだうろつく殺人鬼が怖くて震えが止まらない。
『(ヒルビリーだよぉ…)』
脚を引きずるような独特の歩き方。あんなんでも追いかけられたらめちゃくちゃ速い。
普通でも速いのに、チェーンソーなんてもっと速い。
何度斬りつけられたことか。
ドクドクと五月蝿い心音とこっちに来たらどうしようというような恐怖、そして早く仲間を救助したいという焦りが滴る汗と共に溢れてくる。プレッシャーに押しつぶされそう。ここで見つかったら不味い。
漸くヒルビリーは這いずった仲間を持ち上げた。
『(よし!)』
私はそっとドワイトの側に寄って彼を救助した。
「ありがとう、セオ…」
諦めているのか心做しか彼の声は暗い…
『急いで離れよう、わっ!?』
そう言った瞬間、チェーンソーの音が聞こえてきて殺人鬼がこちらに信じられない速さで向かってきた。まさか、まだ吊ってないのに?
マジか。担いでいた仲間を落としてこちらへ走ってきたのだ。
ああ、もう!
『走って!』
声を上げた瞬間それはきた。
殺人鬼はチェーンソーのエンジンを止めて顔を上げた。
彼は逃げ去るドワイトの背を見た後、私を見た。
『ひっ、』
そうして、怪我をしているドワイトではなく私の方へ向かってきた。
走り出して逃げる。
なんで?いや、ドワイトはもう後がないからむしろ私でいいんだけど…
嗚呼チェイスは苦手なのに、せめて…せめて仲間から離れよう…!
必死に走ってなるべく吊られた仲間から引き離す。
『ひっ、ひぇ…!』
後ろを振り返ったら、手に持つハンマーを振り上げたので慌ててそれを避ける。
風を切る音がしなんとか避けられた。
けど、無理に避けたから身体がふらついてたたらを踏みながら大きな木にしがみついた。
背後を見れば、ゆっくりした動作で此方へ向き直る殺人鬼が見えてまた短く悲鳴を上げた私は木の裏側へ隠れるように回った。
殺人鬼が此方にくる。
『あわわ…!』
ぐるぐると木の周りを走り回る。
追いつかれると思ったら反対側へフェイントをかけられたりして鉢合わせになって慌てて逆へ回れ右して走る。
かと思ったらまたフェイントをかけられ回り込もうとしてくる。
それをいくつも繰り返して、その度に私は情けない声を上げて。
『やだ~!やだよ~!やだ~!』
それに耐えられなくて半泣き状態でその木から離れて障害物のある場所へ向かう。
この間仲間は助けられてようやく持ち直したのだが、必死な私はそれどころじゃなかった。
いや、もう無理!無理だ!
障害物コーナーにはまだパレットが残っていた。
『えい!』
多分間に合わないで叩かれるかと思ったら殺人鬼が痛そうな声を上げたので当ったらしい。
え?渇望溜まってんじゃないの?と驚いて振り向くと板の先に立ってこっちを見ている殺人鬼。
『………』
「………」
なんだろうかこれ。
思わず私も見つめてしまったが彼がパレットを壊さずにこちらへ回って来ようとしたので慌てて反対側を走る。
再びぐるぐると走り回る。
『う、う~!やだ~!』
ツルーとパレットを滑ったりぐるぐる追いかけられたり。
そうして時折彼はハンマーをゆっくり掲げて振り下ろしてくる。
もう、さすがに私でも気がつく。
これ完全に弄ばれてる。
とっくに殴れる距離なのにわざと遅くハンマーを振り下ろしたり、チェーンソーのエンジンをかけてみたり。
攻撃を当ててこない。
オマケに、この殺人鬼さっきからケラケラと笑っている。
まるで追いかけっこを楽しむ子供のように。
『(飽きたら吊るされる…!!)』
発電機が直った音がさっきからしている。
けど、一向に追いかけっこは終わりを迎えない。
再びフェイントのし合い。
左右にゆらゆらと行ったり来たり…
それが楽しいらしく、殺人鬼は笑う。
私は涙目だよ…
『ふぇえ…もうやだよぉ~!』
もう殴れよ~!と、とうとう耐えきれなくて泣き出しその場に崩れた。
彼はそんな私の目の前まで追いついて来てそして首を傾げた。
「なんで泣いてるの?楽しくないの?」
何言ってんだよコイツ。
楽しいわけないだろ。
やっぱり遊んでるつもりだったのだろう。
『もう、殴゛っで、吊゛りなよぉ…!』
そう言ってしゃくり上げて泣き出した。
すると彼は困ったようにオロオロとしだした。
「な、泣かないでよ…」
『ふぇええ!えええん!!』
吊るされるのも殴られるのも怖い。私は子供のように泣きわめいた。
殺人鬼はそんな私を黙らせるために殴るでもチェーンソーで斬るでもなくただただオロオロとしていた。
「あわわ、どうしよ、…どっか痛いの?」
『い、たく、ないもんっ!』
中腰になって私の様子を伺いながら彼は困っていた。
『どっか、行゛ってよ~!!』
「い、いかない!泣いてるのに置いていかない…!」
殺人鬼が何言ってんだよ!!
散々殺しておいて泣いてるのに置いていかないだと?!
寝言は寝て言え!
『あっち、行ってよぉ…!ふぇえええ…!』
えんえんと泣く私の頭へ大きな手が伸びてきてぎこち無く撫で始められて私はその手を振り払うことも出来ずに大人しく撫でられる状態であった。
それ、撫でてるの?頭掴んでんじゃないの?手でかいから頭掴まれてるみたいなんだけど!握りつぶさないよね?そして髪ぐしゃぐしゃになってんだけど!
2度悲しい展開に涙が止まらない。
殺人鬼は泣きやみそうもない私に「困ったなぁー…」と呟いてそれから「あ、そうだ!」と呟いた。ああ、泣き止まないなら殺してしまおうと思ったのかな。きっと今度こそハンマーで殴って来るんだろう。痛みと衝撃がくると思うと怖くて怖くて身体が震えた。
殺人鬼が動いた。くる!身体が強ばった時だ。
『ぴっ…!?』
突然身体が持ち上がってビックリする。
「ほら、どう?」
いや、どう?って…
え?何これ…
キョトンと首を傾げながら彼の顔を見下ろした。
これは、高い高いでは…?
『??……?』
あまりに拍子抜けしてしまって涙も引っ込んでしまった。
今、今私は何をされているのだ?
すると泣き止んだ私を見て彼は気を良くしたのかそのまま回り始めた。
え、ちょっ、
『わわわ、まっ、怖いからっ…』
地面が遥か下。想像して欲しい。2メートル以上あるであろう巨体の殺人鬼に高い高いされた上ぐるぐると回られる恐怖を。
落とされるかもしれない恐怖を。
『怖っ、怖いって!!降ろし、て…!!』
ふわぁ~と遠心力で浮く身体。
下手なジェットコースターよりも怖い。
きゃーきゃー恐怖で喚いていた時だった。
「あ…!」
そんな声を上げた殺人鬼。
そしてグラりと視界が揺れる。
まさかだ。
嘘だろおい。
『きゃあああ!?』
彼はバランスを崩したのだ。
こんな高さから落ちたら…
心臓が凍るような感覚に襲われた。
「わっ、危なかったぁ…!」
なんとか、殺人鬼は尻もち着きながら私を抱きとめてくれたので地面には叩きつけられなかった。
「大丈夫だった?えっと、セオ…?」
殺人鬼がそう声を掛けてきたけど私はビックリして衝撃でドクドク五月蝿い心臓とじわじわ思い出したように溢れてくる涙と言いようのない怒りで頭がごちゃごちゃになってしまった。
『…大丈夫じゃない!ひどい!バカバカ…怖かったんだから!』
「わっ!?ご、ごめんね、」
ぽかぽか彼の胸を叩いて泣きついた。
怖かった。本当に怖かったのだ。
相手が殺人鬼なのも忘れて私はすがりついて泣いた。
彼は困ったような声を出していたけど落ち着かせるようにぎゅっと私を抱きしめて優しく背を撫でていた。
「ごめんね、大丈夫だよ。大丈夫…」
何が大丈夫だよコノヤロウ!一体誰のせいでこうなったと思ってんだよ…!
じとり、と殺人鬼を涙目で見上げる。
歪な顔がとても近い位置にある。
ゲーム内で見るよりも遥かに恐ろしく感じる姿なのだが、私は特に嫌悪感はわかなかった。
そんな私を見つめる目がキュッと細くなった。
と思ったらその顔が近づいてきて頬擦りされる。
『わ、』
今度は私が驚く番だった。
え?なに?
「ふふ、可愛い…」
そう言ってグリグリと頬をすり寄せてくる彼はご満足気だ。
クスクス笑いながら私を抱きしめて離さない彼に(これ、帰れないのでは?)と不安になり始めたころ。
視界の端っこになにか見えた。
物陰から此方を心配そうに見ている…ドワイトだ。助けに来てくれたのだ。
「いい匂い…暖かい…」
うっとりとしたように呟いて彼は目を閉じて動かない。
ドワイトの方を向く。
「どうしよう、どうやって助けよう…」っていうように落ち着きなさそうにこちらの様子を見ている。ああ、見つかったら彼も危ないのに。
ドワイト、私のことはいいから逃げて。
今回のこのヒルビリーはきっと私を殺さない。
…気が変わって殺すかもしれないけど。
口パクで(に げ て)と言ってみるも、彼は首を振って(大丈夫 )と返してきて動かない。
臆病な癖に頑固だ。困ったように眉を下げていれば、ヒルビリーが顔を上げた。
あ、ドワイトの方を見た。
「…ああ、もう通電したんだ…」
少し寂しそうにそう呟いて彼は私を立たせて、ドワイトの方へと背を押した。
戸惑ってヒルビリーの方を向くと彼は「行っていいよ」と言いゆっくりした動作で立ち上がり此方を見ていた。
「セオ行こう!」
慌てて近寄って来たドワイトに手を引かれつられて走り出す。
チラリと後ろを振り返ればまだ彼はこっちを見ていた。
私が何となく手を振れば、彼も振り返してくれた。
「ばいばいセオ。」
見えなくなった背に寂しさを感じながら彼はポツリと呟いた。
『今日はもうダメかと思った…』
ドワイトに手を引かれながらゲートを抜けてキャンプ場へ戻る途中私はボソボソとさっきのヒルビリーの事を思い出してた。
「ボクも、ダメだと思った」
前を歩く彼もそう呟いて、でも、と続ける。
「セオが助けてくれて、キラーを引き付けてくれたから、みんなで逃げられた。」
ありがとうセオ。
そう笑顔で言われて私も笑う。
「私、何もしてないよ?ヒルビリーもわざと当たらないように攻撃してきてたし、なんか弄ばれてたみたい…」
あの時のヒルビリーの行動を思い出しながら首を傾げる。
ドワイトも前を向きながら考えているような仕草をして「そう言えば、あれなんだったんだろうね…?」と同じく首を傾げた。
「キミに懐いているような感じだったけど。」
『懐かれるようなことしてないんだけどなぁ…』
はて?と2人してハテナマークをとばしながら歩いていれば目的地である仲間の待つキャンプ場へとたどり着いた。
「おかえり~…」
ネアが声を掛けてくれた時だ。
あっ!と言うような声を出して指さしてきた。
私達は互いに彼女の行動の意味が分からずに『え?なに?』と言うように彼女を見ていたら突然繋がれていた手をジェイクに離された。
ジェイク…いつの間に…!
というか、ずっと手繋いでたの忘れてた…!
「いつまで繋いでんだよ!」
何故か怒っているジェイクに首を傾げていればドワイトが
「あ、ご、ごめん、ずっと繋いじゃって…嫌だったよね…」
とオドオドと謝りだしたので慌てて私は首を振る。
『嫌じゃないよ、私の方こそずっと握ってごめんね、なんかドワイトの手温かくて安心しちゃって』
素直にそう言えば、彼はぽかんとしたような顔をしていた。
「え?あ、う、うん」
だけどだんだん顔が見る見る赤くなってきて心配になって、『大丈夫?』と声をかけた。
ドワイトは自分の両頬を手で押さえたと思うとはわわわ、というような声を上げて、
「ご、ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」
と走り去ってしまった。
『え?あ、ドワイト?あんまり森の奥に行ったらだめだよー!』
聞こえたか分からない。何せすごい勢いで走り去ったのだ。
どうしたんだドワイト。
ぽかんと突っ立っていればジェイクの壮大な舌打ちの後「…このタラシ」と言われて私はさらに首を傾げた。
『…照れたのか?ドワイト。可愛いやつめ…』
「………」
『いぎぃいっ!なにすんだ!』
ジェイクに頬を抓られた。
え?めちゃくちゃ不機嫌そうなんですけど?
『なに?ジェイク、なんで抓ったの?』
「……うっせ」
ええー…なんか怒ってんですけど…?
『おこなの?』って聞いたら今度は両頬をやられたのでまた変な悲鳴を上げた。ネア笑ってんじゃねぇぞ!
それからドワイトは夕飯の頃に戻ってきた。
だけど、話しかける度いつも以上に何だかソワソワしてるような感じでお前大丈夫か?と心配してしまった。
今日あったヒルビリーのことや、反省会を交えて話しているのにどこか上の空だった。
「ドワイトもセオに落ちたか」
反省会も終わりまったりタイムの時だ。
にしし、と笑いながらネアは私を指さした。
『…へんな事言わないでネア。』
ジト目で言えば、彼女は隣にいたメグに「ですってさ」と視線を向ける。
「あの反応、絶対ドワイトあんたに恋したよ」
メグまでそう言ってきて違うと否定する。
「ジェイクのあの顔…!」
「焦ってたよねー?まさか、ドワイトと仲良く手繋いで帰ってきたんだから」
『いや、だからあれは…』
「あんた本当に、どっちか白黒付けなさいよ?ジェイクかドワイトか」
『いや、だからね、2人とも別に』
「私的にはジェイクとくっついて欲しいなぁ」
『違うってばー!』
私の推しはレイスきゅん一筋だから!
そう言えば、2人に「なんでレイス…」とウゲッと言われる始末。
貴様らレイスきゅんをなんだと思っているんだ…
『レイスきゅん一筋だから。何故か会えないんだけど。私もう会いたすぎていざ会えたら正気でいられないかも…』
「…………」
「…………」
私がレイスきゅん語りを仕出した瞬間黙り込むのやめてさしあげろ。
『私、いつレイスきゅんに会えるのかなぁ…』
「…あんた、もしもだけど、レイスに付き合ってって言われたらどうすんの?」
『嬉しくて死んじゃうかも…私レイスきゅんの夢女だから』
「…あんた、レイスだけはやめときな!キラーなんかと!絶対ダメだからね!」
「そうよ!レイスなんかにセオをあげないんだから!絶対だめ!」
『え?急にどったの二人とも…?』
何故か拳を握りしめてパークを見直し始めた2人に首を傾げた。
「メグ、私都会捨てて決死の一撃入れようと思う」
「私も陽動か決死の一撃入れようかしら」
「陽動も捨てがたいわね…」
『??』
急にやる気に満ち溢れてる2人に圧倒されながらふと視線を感じたので振り向いてみた。
するとこちらを見ていたドワイトと目が合って彼はビクッとして慌てて焚き火の方をみていた。
横目でチラチラと見ている気がする…。
挙動不審になってるが次の儀式までには何とか普通に対応してくれよ。リーダー。
「そんな…ボク、セオにドキドキして死にそうなんだけど…なんで…はぁ…」
「…………」
バキっと枝をへし折りながらジェイクは火に枝をくべた。