殺人鬼の癖に優鬼してんじゃねぇぞ!!
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今回もやはりセルフケアが出ない。
ポイントをガッツリ使って頂いたヴィゴの塩漬けクチビルをギャンブラーなエースに押付けて今日も儀式に挑むのだ。
「おじさん、これよりキミのキスが欲しいよ…」
『その中にあるやつの中から選んでしなよ。』
「えー?知らない唇だよぉ…」
女の子からもらったから更に運上がりそ~…と棒読みで瓶の中を覗きながら彼は受け取ってくれた。
『所でなんで私はレイスきゅんに会えないんでしょうかね?』
毎度の如く儀式です。
安定の第1村人になった私は早々にさぁーっと言う音と共に慌てて逃げた先の窓枠へ脚をかけた所、見事なキャッチを決められ今日の殺人鬼、凜ちゃんに担がれたのだった。
ゲーム中何故キャッチされると這いずり判定になるのか謎だったのだが、今も謎である。
ただめっちゃ凄い力で握られたからめっちゃ痛いしビビる。それだけ。この世のルールはよくわかんないものだ。
私の素朴な疑問に凜ちゃんは特に聞いてもいないのかフックへと私を運ぶ。
『女子大生に抱っこされてしまった…!』
今こうしてふざけた事を私は呟いているが、内心はめちゃくちゃ怖い。痛いのは嫌い。
暴れてもどうせ私の力は弱いから逃げることはできないので大人しくフックに吊られるしかないのだ。
『ぴちぴちギャルに運ばれる…そんな私だよ。ちなみに私の最推しはレイスきゅん。レイスきゅん推しの私が凜ちゃんに運ばれていくよ』
ブツブツと訳の分からない言葉を呟き続ける。
そうでもしないと泣いてしまいそうだからだ。
『へぶっ!?』
しかし、突然凜ちゃんが立ち止まって私を地面へ落とした。
へ?なに?鼻ぶったんだけど。鼻血出るわ…!
凜ちゃんを見上げてみると彼女は何故かジッと私を見下ろしていた。
いつもは開きっぱなしの口がキュッと閉じていてへの字口になっている。
「…………」
『……凜ちゃん?』
声を掛けてみたが反応はない。
え?なんだろう。
ちょっと不機嫌なような感じだ。
『…え?凛ちゃーん?どうしたの?』
「…………」
あーとか、はぁーとか、いつもなら言うくせに今は何にも言わない。
何か言いたげな雰囲気の彼女はじっと私を見つめているだけだ。
『凜ちゃん?あの…このままだと私出血死するのだけど…、』
「…………」
『凜ちゃ~ん?』
凜ちゃんは動かない。
そうこうしていたら発電機が一つ直る音が聞こえた。
『発電機直ったよ…?』
「………。」
そう言った時だ。遠くで爆発するような大きな音が鳴った。
それに私は驚いてビクッと反応してしまう。
破滅か?ていうか。霊障の地だったらどうすんだよ。凜ちゃん相手だぞ?
あ。そうか。
凜ちゃんだって知ってるのは私だけだ。だって、開始そうそう第1村人で見つかってこうして倒れたんだ。他の仲間は知る由もない。
ただ早速やられてんなーくらいにしか思ってないだろう。あーあ。
凜ちゃんは漸く周りを見渡して、やがて消えていってしまった。幽体離脱だ。
あー。1人にされてしまったなぁ。最近這いずり放置多くないかぁ?
まだ、出血死まで時間はあるけども。というか何故掴まれただけで血が出てんだよ。どうゆうシステムなんだよ。
やることがないので地面に絵を描き始めた時だ。
遠くで悲鳴が聞こえた。
あ、霊障の地だったんだ…
1人倒れて、またしばらくしたら1人。
『あららららら………、』
あっという間に2人も這いずり状態になった。
『凄いなぁ、凜ちゃん…』
あー。無理だわこれ。
1人ずつ吊られていくのをここから見つめながら諦めムードに入った私はやがて再び地面を見て指で落書きを始めた。
レイスきゅんの顔を描いたら思いがけず上手に書けたのでハートで囲んだ。
うへへ、と気味悪く笑っていると、足音がしてお?と顔をあげたら仲間がいた。
『ローリー!』
「しっ!」
パァっ!と自分でも分かるくらい花が咲いたような笑顔になっていたと思う。
ローリーは人差し指を口に当てて静かにと言って私を立たせてくれた。
『ありがとう!』
「逃げるわよ」
さすがローリー!ありがてぇ!
そう思っていたらサァー、と音がした。
『はわわわわ!凜ちゃんんん!?』
ピタッと私の前に立つ彼女にビックリして手をバタバタとしてしまう。
「逃げて!セオ!」
ローリーに言われたがこんなに近くにいられて無理ぽ。終わったわ。せっかく助けてくれたのにごめんよローリー!
そう思っていたら凜ちゃんはおもむろに足元を見た。
彼女の視線の先には私が描いた渾身のできのレイスきゅんがあって
「はああっ!!」
ぐしゃーっ!!
そんな音がした気がする。彼女は渾身のできのレイスきゅんを足で踏みつけ、揉み消した。
『ああああ~~!?レイスきゅんがぁああ!!』
思わず叫べば何故かお怒りモードの凜ちゃんに刀で切りつけられて私は一回転して地面と再びお友達になった。
『ジーザス…!』
めっちゃ痛いし訳わかんないし、せっかく助けてくれたローリーに申し訳ない。
なんとか逃げ切って欲しい。
凜ちゃんは怒りをそのままにローリーを追いかけて行ってしまった。
暫くしてローリーの叫び声がしたのでダメだったか…と涙がちょちょ切れた。
『結局今回もなんも出来なかったなぁ…』
はぁ。とため息をついて地面に力なくひれ伏して目を閉じる。
あー、ストライク決められたかなぁ。
せめてローリーだけでも逃げて欲しかったなぁ。
出血死しそうでうとうとしてきた頃
サァーっと音がした。
あ、戻ってきた。
『おか、えり。凜ちゃん』
「………」
やっぱり凜ちゃんは何も言わない。
ローリーはどうしたのか。
彼女が吊られた様子はないみたいだからきっと逃げ切れたのかもしれない。
『凜ちゃん、もう吊らないと私出血死するよ…』
吊られたいわけではない。このまま出血死した方が遥かに楽な死に方になるので、死ぬならこのまま出血死の方がいい。でも、僅かに生き残りたいという希望がある。
吊られればもしかしたら助けに来てくれるかもしれないと。
そしたら。持ち直せたなら。
このまま終わるのは嫌なのだ。
1人遠くで助けられた。
ああ。そうだ。そのままもう1人も助けられれば。せめてあと一つは発電機を直せたなら。
『眠い…』
強い眠気に襲われる。
あー、今回は出血死かぁ。
どこか他人事のように眠りに身を任せてしまおうとした時、身体が浮いた。
殺人鬼に担がれると、出血は免れる。
なんでかわかんないけど。
また下ろされれば出血するのだ。
ああ。吊るのかなぁと。思って痛みを覚悟していたのだけど。
『ん、凜ちゃん?』
「………」
ギュッと抱きしめられてる。
冷たい肌が私の体温を奪う。
ああ、やっぱり彼女はお化けなんだなぁとうっすら思っていれば。
「…ばか、なんで…ばか」
とボソボソと呟いている。
わ、喋れるのか…?
そんな風に少しの驚きと、言葉の意味を理解出来なくて首を傾げた。
『凜ちゃん?』
「………」
出血のせいであんまりスッキリした頭ではないためぼーっとする。
名前を呼んでみてもまただんまり。
一体凜ちゃんはどうしたいのだろうか。
もう1人も救出された。ああ。よしよし。
頑張って発電機直しておくれ。今のうちに。
今だ抱き枕を抱えるようにぎゅうぎゅう抱きしめられていてちょっと息苦しい。
『凜ちゃん、』
「名前、」
凜ちゃんがまたポソリと喋り出した。
「わたしの名前、なんで、知ってるの?」
あっ、と思わず声が出た。
そうだよね。凜ちゃんはスピリット。
そうだよ、みんなエンティティから貰った名前なのか分からないけど、その名前で呼ぶんだよね。サバイバーは彼女の本名なんて知らない。
なんで私が知ってるかって。そりゃ、私は別の世界で生きていて、このデッドバイデイライトのゲームやってて、凜ちゃんの事も他の殺人鬼の事も知ってるんだもん。
なんて言っていいのか。サバイバー仲間には私のことは話したけど。まさか彼女にあなたはゲームの中の登場人物ですだなんて言えない。
だって。彼女が懸命に生きてきた人生も、怨霊になってしまったあの惨劇も作られたものなんです。って。あんなに辛い死を迎えたこの子にとても言えない。迂闊だった。なにも考えないで呼んでいたが、これっておかしい事なんだよな…。私は彼女が大学生だということも、彼女のみ知る情報をベラベラと喋ってしまったのだ。
まごまごとしながら、私はどうしようと冷や汗をかきながら言葉を紡ぐ。
『名前…、呼ばれるの嫌?』
「………」
彼女はまた何も言わない。
暫く見つめあったまま沈黙が訪れる。
「エンティティから聞いたの?」
『うーん…そんな感じ…』
目が泳いでしまう。
エンティティと干渉した事などない。
時々神頼みみたいなことはするが、彼女とは処刑される時ぐらいしか触れ合わないし(刺されてる)。
凜ちゃんは「ふーん…」とちょっと納得してないような雰囲気だった。
「ねぇ、」
『うん?』
凜ちゃんは目を伏せてポソリと言う。
「あなたの名前、教えて。」
あ、まつ毛長ぇなぁ…と思っていたらそう言われてポカンとした。
ああ、とにっこり笑って私は自己紹介する。
『あのね、私の名前はねセオって言うの。』
「セオ…、セオ」
ポツリポツリ私の名前が彼女から零れる。
それが嬉しくて私も彼女の名を呼ぶ。
『凜ちゃん。凜ちゃん。』
「!…セオ。セオ。」
暫く互いに交互に名前を呼びあって互いに笑いあった。
やがて、一つ2つと発電機が直る。
『凜ちゃん、追わなくていいの?』
「…うん」
凜ちゃんは発電機が直った方を見ていたけど視線を私に戻した。
『私を吊ってもいいんだよ?』
「セオは吊らない」
『エンティティ不機嫌になるよ?』
「…いいの」
『お仕置きされちゃうんじゃないの…?』
「……」
凜ちゃんはぎゅっと再び私を抱きしめた。
「…いいの。」
そして目を閉じた。
まるで、今この時を忘れないように噛み締めるような。
彼女から孤独を感じた。
だから私も彼女を抱きしめ返した。
彼女の抱きしめる力が少し強くなってなんとなく彼女の身体が暖かく感じた。
とうとうブザーが鳴る。
どれほど長い間抱き合っていたのか分からないけど、凜ちゃんは私の手を引いてゲートまで連れていってくれた。
凜ちゃんの足取りは重く感じた。
帰って欲しくないと言うような。
でも、彼女は帰してくれた。
とっくに開いてるゲート。
もうみんな脱出したのだろう。
『凜ちゃん』
「………」
『凜ちゃん』
「……セオ、」
俯いている彼女の顔を覗き込めばようやく名前を呼んでくれた。
嬉しくて笑顔になれば、彼女も笑ってくれた。
『凜ちゃん、またね!』
「…!うん。またね!セオ」
ばいばい!
ばいばい。
最後に抱きしめあって、そして。手を振る。
「セオ、あのね。」
『うん。』
「わたし、セオが好き」
『私も凜ちゃんが好きだよ』
「本当?」
『うん!』
「…レイスよりも?」
『レイスきゅんはアイドルだから』
「ええ…??」
『私の中ではね』
「ふーん。」
『凜ちゃんの事凄く好きになったよ。』
「!えへへ」
可愛い。この子やっぱり可愛い。
『もう、可愛いんだから!』と思わずもう1度抱きついてしまった。
「セオの方が可愛いよ」と言って抱きしめてくれた彼女にキュンキュンする。
しゅき。しゅきすぎる。凜ちゃん。
「あのね、セオ。」
『うん。』
「今日のわたしを忘れないで欲しいの。」
『…?うん』
「次会う時はいつもの私だから」
悲しそうに目を伏せて彼女は口をキュッと結んだ。
『凜ちゃん、凜ちゃん』
「セオ…」
私は、凜ちゃんに自分が付けていた三日月型のネックレスを外して彼女に付けた。
金の三日月が彼女の胸元でキラリと光った。
『あげる。』
「セオ、でも」
『いいの。次会って斬られちゃっても、吊るされても。』
「…、」
『凜ちゃん、ありがとうね。』
「セオ、」
ポロポロと涙が彼女の目から溢れてきてハンカチを取り出して拭ってあげた。
「セオ、好き、好き…」
『うん。凜ちゃん、私も大好きだよ』
私は彼女が落ち着くまでそばにいた。
やがて、落ち着いた頃互いにもう一度抱き締めあって手を振って別れた。
『ばいばい!凜ちゃん!またね!』
「ばいばい、セオ。またね」
きっと次会う時は殺伐としてる。
殺人鬼とサバイバー。
彼女は私を迷わず襲う。
霧で見えなくなるまで彼女は手を振り続けていた。
そこには殺人鬼ではなくただの女の子の彼女がいた。
キャンプ場に戻ってからぼんやりしてばっかりだった。
エースが「ルインだと思って壊したら霊障だった」とか抜かしてやがったからさすがに反応したがな。
貴様か壊したのは。塩漬け唇渡したのに運ねぇな!
どつかれながら笑うエースに殺意を感じながら、ローリーに感謝した。
『ローリーいなかったら全滅だったんだからね。』
「…あれはセオが、スピリットを引きつけてくれたからよ。」
彼女がそう言うと皆興味津々にこちらを向いた。
「え?チェイス頑張ったの?」
『…んーん。抱っこされてたよ。ずっと』
「…は?なんで?」
『…なんでだろうね。』
凜ちゃんの事を思い出して急に寂しくなった。
「優鬼だったの?」
『うん。』
「俺達吊られたのにな。」
「ずるーい、セオ」
『おだまり!私は出血死直前だったんだぞ!この霊障壊し!』
「ええ~?だからあれは、運が悪かったんだって~」
『塩漬け唇渡しただろうが!』
「あれは効果ないんだよ」
『なんだとコラ!』
エースに掴みかかってぎゃいぎゃい騒ぐ。
それをクエンティン・タランティーノとジェイクが止めて、デビキンとネアが「いいぞー!もっとやれー!」と囃し立てる。それを笑って皆が見ている。
そして最後にミンに五月蝿いと怒られる。
このやり取りもなかなかに楽しい。
ふと、静かになった時、凜ちゃんの寂しそうな顔を思い出してしまう。
「お前、さっきからボーッとしてないか?」
ジェイクに言われて『ちょっと疲れただけ』と返す。
ジェイクは暫く私をみていたが、やがて視線を外した。
セオから貰ったネックレスに触れた。
彼女はとても幸せそうに笑った。
好き、セオ。
ずっと、儀式で見つける度気になって仕方がなかった。
なんでか目を引く存在。
彼女を見る度暖かな何かを感じた。
陽だまりのような暖かいあの子。
名前を呼ばれるのなんて本当に久しぶりだった。
呼ばれる度にじわりととっくに冷たくなったはずの胸が温かくなる。
わたし、あの子が好き。
そう素直に思ったらまるで生前を思い出したかのように心臓が動いた気がした。
「ん?やぁ」
ふと声をかけられた。
彼女が声のした方を向けばそこには彼女が今最も敵視する男がいた。
「あれ?今日は反応するんだ?いっつも無反応なのに。」
レイス。
彼女は彼を視界に入れた瞬間顔をクワっとして、
「レイス、あなたにセオは絶対に渡さないんだからっ!!」
「??は?え?なに?セオ?」
「気安く呼ばないで!!」
「ええ?!誰なの?セオって!?」
「だまって!なんでレイスなのよ…!わたしが推しじゃないの…?!」
「ちょ、なにがなんだか…」
「でも、セオはわたしのこと好きだって言ってた。私も好き。これは両想い…結婚するしかないわ。」
「あの~…もしもし?」
全くわけが分からずイチャモンつけられた挙句最終的に「いつまでいんのよ!とっとと消えなさいよ!」と凄い剣幕で言われて彼は腑に落ちないままとりあえずその場を去った。
「めちゃくちゃ喋るじゃん。彼女。」
レイスは後にトラッパーに「セオって誰なの?」って聞いたが、何故か知っているトラッパーにこんなサバイバーだと説明されても1度も出会った事がないので全くピーンと来なかった。
「ふーん。その内会えるかな?」
「…むしろ今まで会ってないのが不自然だな」
「なんでだろ?」
「知らん」
きっとエンティティの仕業かなぁと彼はさして興味も抱かないままトラッパーに別れを告げて住処へ戻って行った。
帰る途中再びスピリットがナースと一緒にいるのを目撃して彼は今透明化していて良かったと思いつつ通りすがろうとした。
決して会話を盗み聞きしようとした訳では無いが、二人の会話が耳に入る。
「あら?スピリットちゃん、そのネックレス素敵ね!」
ナースの言葉に彼女は嬉しそうに笑いそして頬を赤らめもじもじとしながら言う。
「す、好きな人から貰ったんです…」
乙女だった。先程の親の敵を見るような表情を向けられたとは思えないくらい乙女だった。
さっきのはなんだったのか。
別人なのではないのか?
レイスはいろいろ言いたいことがあったが口を噤んで脚を動かしてその場から去った。
「まぁ!素敵~!」とキャッキャッとはしゃぐ声が背を押されているような気分にさせる。
…一体ボクは彼女に何をしたというのだ。
セオって誰だろうか。
スピリットが好きになるようなサバイバーだから男なのだろう。結婚がどうのとか言ってたし。
トラッパーは男か女かまでは言わなかった。
ただ変わった奴だとしか言わなかった。
とりあえず、セオというヤツは会ったら絶対に処刑しよう。
そう心に決めて彼は家路に着いた。
『ぶしっ!』
「汚ぇ!」
『ひどい!』
「もっと女らしいクシャミしろよ!」
『うるせぇ!』
ジェイクに肩パンをおみまいしながらセオは鼻を啜った。
私の噂をどこかでしてやがるなぁ。へっ!
寒気がしやがるぜ!
『びぇーーん!』
「へ!」
鼻で笑われながらジェイクに鼻を摘まれて手をバタバタした。おのれジェイク!
今日も生存できた!