殺人鬼の癖に優鬼してんじゃねぇぞ!!
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らんらんるー♪
らんらんるー♪
彼が近づいてきた時に聞こえる歌は絶対そう歌っていると信じている。だって殺人鬼だし。殺されるし。
…はい。
儀式です。
今日の殺人鬼ナイトメアかぁ…と思いながら発電機を回す。そんな私だよ。
今回は第一村人ではなかったが、仲間が第一村人になって、吊るされちまった。
ここは私の出番ではないだろうか。近いし。
『ということで、助けにきたよ。
クエンティン・タランティーノ。』
「…スミスだよ…クエンティン・スミスだよ…」
普段から具合悪そうな彼は更に具合悪そうに吊るされているわけで、目の下にある隈が更に彼をザ・不健康と見た人間に衝撃を与えることだろう。ぶっちゃけ私も今まさに衝撃を受けて『…大丈夫?クエンティン・タランティーノ…』と声をかけてしまうほどである。
「クエンティン・スミスだよ…」
『はっ!?らんらんるーって聞こえる!』
「あの…」
クソっ!トンネルだ!流石汚い!キラー汚い!
周りを見ると草が踏まれたみたいに動いている箇所が見えた。
『そこだ!』と私は妨害するためにタックルを決め込む!案の定見えない壁に遮られる。
『逃げるんだ!クエンティン・タランティーノ!ここは私が食い止める!』
「あの、スミス…クエンティン・スミスだよ…」
早く逃げるんだー!と大声で言えば彼は何か言いたそうにしていたが走り出した。
ぐぬぬぬと押し合いをしていれば視界がぐにゃりとして周りが暗くなる。
ドリームワールドだ!
慌てて走り出してその先にあったパレットを倒した。
パレットを挟んだ向こう側にいる殺人鬼はニヤニヤしながら凶悪なお手手をシャリシャリと鳴らしている。
『クエンティン・タランティーノの所へは行かせないからね!トンネル太郎!』
「フレディだ。お嬢ちゃん」
『おだまり!トンネル太郎!』
ダーッと走り出せばパレットを壊す音が聞こえた。
こうなったら障害物コーナーへ逃げ込み窓枠を駆使して逃げまくるぞ!
そう思ってたどり着いた障害物コーナーにて窓枠を越えた。
チラリと後ろを振り向く。
……?
わざわざ殺人鬼は窓枠を通ってくる。
窓枠を超えるよりも回り込んだ方が早いのに。
再び先の窓枠を私は越えてチラリと振り返る。
…やはり彼は回り込まずに窓枠を越えてくる。
『は?なんで?』
窓枠に立ちぴょんと飛び降りてニヤニヤ笑いながら追いかけてくる。
『なんでわざわざ窓枠越えるの!?トンネル太郎!』
「フレディだって言ってんだろっ!」
『痛゛ぁあ!!』
窓枠越えようが足が早いことは変わらないので一発もらってしまった。痛い。
「はっは~!楽しいだろ?」
『えーん!楽しくない~!痛い~!』
痛すぎて加速した後また窓枠を越えようとしたら「芸がねぇな!」と言って越えきる前に再び攻撃を食らって私は地面へ倒れた。
『ふぇえ…』
しくしく泣いていると窓枠をまた越えた彼はスタ。と着地してしゃがんで私の顔をのぞき込んだ。
「おまえ、チェイス下手くそかよ。」
悪かったなぁ下手くそで。
つまんねー。みたいな反応されて心身共に傷ついた私は顔を伏せて『うわぁ~ん!』と泣いた。
泣いたってどうすることも出来ないがとりあえず悲しみは後に残したくないので子供みたいに泣いてやる。
貴様の耳に残るように泣いてやる。
案の定「うるせー!泣くな!」って怒鳴られたが知らん。私は悲しいのだ。
ひっひっ、と嗚咽混じりに顔を上げれば殺人鬼の斜め後にフックがある。
ここに吊られるのかぁと思ってぐずぐず泣いてズリズリと這いずる。せめて少し離れてやろう。黙って頬杖ついてじーっとこちらの様子を見ている殺人鬼は私をまだ担がない。
エサにされてるのかもしれない。
『吊るまで誰も来ないよ。トンネル太郎』
「フレディだっていってんだろ!おまえ耳腐ってんのか?」
うるさいなぁ…。名前なんてどうでもいいんだよ。腐ってんのは貴様だ!
なんて言えないから黙ってズルズル這いずる。
彼はそんな一生懸命這いずる私の後をスタスタと歩いてついて来るので小賢しい。
ていうか、なんで担がないの?
担がれたくないから別にいいけどさ。
あー、これ助けに来てるよ。
前方に黄色い生存者のオーラが見える。
助けに来ている側とは反対側を曲がって這いずる。
…殺人鬼が邪魔だ。
殺人鬼はそのまま後退する。
私はそっちへ行きたいので必然的に後退する殺人鬼について行くような形になるわけで。
「…おい、なんでこっちに来るんだよ」
違うんだよ。別に君に近づきたいわけじゃない。助けに来た人から離れたいんだよ。
ズリズリとついて行く。
「やめろ!こっちに来るな!」
私はこっちに用があるんだよ。
ヒックと、しゃくり上げながらズリズリズリズリと前に進む。出血死してしまうかもしれん。そろそろキツイ。
漸くピタッと止まって顔を上げる。
「………」
『……ひっく…』
たまにしゃっくりが出る。
殺人鬼は表情がよく分からないけどなんとなく困っているようだった。
『…吊らないの?ひっ』
しゃっくりが時々出るのでなかなかに喋りにくい。
殺人鬼はじーっと私を見下ろしている。
なんなんだろうか。
出血死見たいのかなぁ。
ただひたすらじーっと見つめていたら発電機が直った音がした。
そして漸く殺人鬼は大きなため息をついて私を放置して発電機が直った方へ行ってしまった。
『えー…?なんで…?』
彼が去った方をポカーンと見つめていれば、仲間が私を起こしに駆け寄ってきてくれた。
『クエンティン・タランティーノ…!』
「………スミスだよ」
来てくれた仲間は第一村人クエンティン・タランティーノだった。
彼にしっかりと治療してもらった私は漸く立ち上がることが出来た。
『わーい!ありがとう!クエンティン・タランティーノ!』
「………長いから、クエンティンでいいよ」
『うん!分かったクエンティン・タランティーノ!』
「…………」
彼は私の元気な返事を聞いた後、すごく疲れたように肩を落としてとぼとぼと歩き出した。…大丈夫だろうか彼は。不健康そうだもんな。さっき肩も爆発した事だし。具合も悪くなるだろう…
その背を追うように私も歩き出して見えてきた発電機を一緒に直し始めた。
暫くガチャガチャと直していればまた1人吊るされてしまった。
『…あれ、デビキンかなぁ…あの叫び声…デビキンなのかなぁ…また上半身裸で来たから見つかって叩かれたのかなぁ…防御紙なのに』
ブツブツと私は言いながら、発電機から離れる。
「!?行くのかい?」
『?うん。一応近くまで行ってみる。発電機回らないと困るから、クエンティン・タランティーノは直しといてね。』
「え、あ、ボクが行っ…」
『頼んだよ~!』
ダッ!と走り出して恐らくデビキンが吊られてるであろう場所へ走り出す。
途中しゃがんだりして周りにいないか確認してみたりしてよってみたがらんらんるー♪と歌声が聞こえてきて慌てて障害物に隠れた。
ガサガサと何もいないのに動く草が見えたので、
『うぉらぁああ~~!!』
体当たりしてみた。通せんぼは出来たがビクともしねぇ。
「うおっ!?」って驚いた声が聞こえてきた瞬間、(恐らく)デビキンは無事救助された。
『ここは!ここは通さん!!トンネル太郎め!』
「……」
盛大なため息が聞こえた瞬間、急に前にいたはずの殺人鬼が横へ退いたので私はおっとっと!とたたらを踏んだ。
『え?なんで?!ガン無視!?』
眠らせるでもなく彼はそのままデビキン(仮)を追いかけて行ってしまった。
慌てて後を追うように走り出せば、少し先で再び悲鳴が上がった。
『デビキ~~~ン!!』
駆けつけると見えない殺人鬼に担がれるデビキン。
「デビキンって呼ぶなって言っただろ…!」
そう言いながら必死にもがいているが倒れた場所が不味かった。真後ろにフック。
遠慮なしにそこへ吊るされた。
デビキンの肩が爆発した!
2度目である。
『ふぇ…タゲ取りすらできなかった…』
とりあえずは物陰に隠れてみたが、殺人鬼は私をガン無視しそのまま新しく直った発電機の方へ行ってしまった。なんでだよ。
『あ、そっちは…クエンティン・タランティーノが直してたやつだ…』
逃げ切れればいいが…。
『とりあえず、助けるよ。デビキン』
「…その呼び方やめろ」
私はデビキンを救出した。
『さらばデビキン!私はクエンティン・タランティーノが心配だからあっちに行くぜ!』
「だから、その呼び方やめろって!」
『ジェネ回しとけよ! 』
「うっせ!誰に言ってやがっ…おい!回復しろよ~!!」
なんか言っていたデビキンを放置して走る。そんな私だよ。
まさかアイツセルフケア持ってない?
………デッハで乗り切ってくれ。
ダッシュで走っているとらんらんるーが聞こえた。
あっ、こっちだ。そう思ってそっちに向かう。
障害物コーナーにクエンティン・タランティーノが見えない殺人鬼から逃げ回っているのが見えた。
クエンティン・タランティーノの行くであろう進路を先回りして待つ。
妨害して彼を逃がすのだ!
という事で目の前をクエンティン・タランティーノが通り過ぎた。バッチリ目があった瞬間彼はギョッと驚いたような表情をしていたので笑ってピースする。
『うぉりあ!! 』
「おお?!」
再び見えない何かにぶつかった。
ふははは!さすがに無視する事は出来ないだろう。
どうだ!どうだ!おりゃー!とグイグイ押せば視界が急にグラリとなって、目の前に殺人鬼。
一発攻撃食らうかもしれないが、クエンティン・タランティーノが無事に逃げられればいい。さぁ、攻撃してみろ!
殺人鬼が動いた。
「………」
『んぎぃいいー!!』
鼻を思い切り摘まれた。
鋭い爪の方ではなく普通の手の方で。
そんな攻撃もあんのかよー!泣きながら両手をバタバタと動かせば、そのまま担がれてしまう。
え?ちょ…
『なんで?!なんで?!ルール無視してんじゃん!!なんで?!』
私まだ這いずりじゃないよー!?
私の魂の訴えは虚しく殺人鬼には何も届かなかった。
「出てくんな!」って言われてロッカーに押し込まれてしまったのだ。
オマケに取手に何か挟まれてしまって扉が開かない。
『うそっ!?嘘でしょ!?開けてー!開けてー!』
まさかの事態に焦ってドンドン扉を叩いた。
だが無情にも足音は遠くなって行った。
『なんでだよー!!卑怯者ー!!』
うわぁーん!と泣いた。
仲間が召される音が暫くしたら聞こえた。
発電機は全て回し切っていない。あと、何人生き残りがいるのだろうか。
というかこのまま私はどうなるのだろうか。
散々妨害したから頭に来ているであろう殺人鬼はじっくりじわじわ嬲り殺すつもりかもしれない。
怖い。
『ひっく、ひっ…、』
余計な事しないで発電機回しとけば良かったかもしれない。そんな後悔が頭をぐるぐると掻き回した。
でもさ、助けたいじゃないか。皆で脱出したいじゃないか。
唇をキュッと噛んだ。
でも、足でまといだ。
だって私なんにも出来ない。
ポロポロ涙が頬からこぼれ落ちた時だ。
足音がした。
心音がしない。
まさか、仲間だ。
『誰か、いる?』
掠れた声で呼びかければ、「セオ…?」と呼びかけてくれたので慌てて『ここ!ロッカーに閉じ込められてるの!』と言えばすぐに扉を開けてくれた。
『クエンティン・タランティーノ!』
久々に見た気がする不健康そうな顔の彼に安心する。
クエンティン・タランティーノは私の顔を見て驚いた顔をしたあと、何故かポッケをさがすようにパタパタと叩いたが何かは見つからなかったようで彼は上着の袖をキュッと伸ばしてそのまま私の涙を拭った。
『わ、ありがとう…クエンティン・タランティーノ。袖濡れるよ』
「クエンティン・スミスだよ。いいよ濡れたって」
そうして、私を夢から起こしてくれた。
「セオ、こっち」
『?』
彼は私の手を引いて歩く。
暫く歩いていけば、『あ』と思わず声が出た。
そこにはハッチがあったのだ。
『でも、開いてないよ』
「大丈夫。ほら、コレ」
そう言って彼が見せてくれたのは鍵。
『…まじか』
彼はそうボヤいた私に少し笑いながらハッチの鍵穴に持っていた鍵を差し入れて開けた。
それと同時に聞こえるらんらんるー。
え、やば来たじゃん。
「!奴がきた!早くセオ!」
『うん、いや、クエンティン・タランティーノが先に入りなよ』
「キミが入ったらすぐ入るよ!早く!」
『わかっ、うわ…』
だがしかし、視界が揺れたと同時に浮く身体。だからなんでだよ!私這いずりじゃないだろ!
「はい残念~」
あっという間に担がれて暴れる。
『なんで?!担げるのおかしくない?!ちょっと!卑怯だぞ!トンネル太郎!』
「フレディだっつってんだろ!」
パンっと尻を叩かれた。セクハラだ!スケベ!
サイテー!!
「フレディ…!」
「おうおう、クエンティンよぉ~。早く出ないとしまっちまうぞ?え?」
『クエンティン・タランティーノ!ハッチに飛び込んで!』
「ですってさ。見捨てるかぁ?なさけねぇ奴だ。」
「くそ…彼女を離せ!」
悔しそうに睨むクエンティン・タランティーノを嘲笑い、殺人鬼はスタスタと歩き出した。
それを追うように彼も動いたので慌てて私は来るなと手をばたつかせた。
『クエンティン・タランティーノ!入って!生存者は私1人になるからハッチはまた開く!もがいて逃げるから!早く!!』
「う、う…」
まだ悩む彼に『早く!!』と言えば彼は「ごめん!セオ!生きて帰ってきてくれ!」と言ってハッチへ滑り落ちた。
ハッチは私1人になったので開いたままだ。
『…気がついてると思うけど、私もがいて逃げられた事ないんだ。弱いみたい。』
「おう。チェイスも出来なけりゃ、もがいて逃げることもできねぇカモだな。」
『…………』
「…………」
『…………ふぇえ…』
「泣くな!気が滅入る!」
『だっで、ひっく!う、う…うぇえええん~!!』
「あーくそ!うるせぇ!いちいち泣くな!!」
担がれたまま、えんえんと泣く私にうんざりしたように殺人鬼は立ち止まって文句を垂れる。
だって悲しんだもん!
どうせ吊られて死ぬんだ。
せめてもの嫌がらせに殺人鬼のセーターを引っ張って涙と鼻水で濡らしてやろう。
「あ、バカ女!やめろ!」
『ふぇえ…柔軟剤の匂いがするー』
殺人鬼の癖にフローラルだよぉ…
しっかり涙と鼻水を染み込ませてやれば、再び早歩きだして来た道を戻った。
耳に風の抜ける音が聞こえた時。
『ふぇ?!』
「帰れ!」
そのまま殺人鬼にハッチへ落とされてしまった。
ストンと見慣れた焚き火のある場所に落ちてポカーンとした。
なんだったんだ、今のは…生かされた…、
「セオ!よかった!逃げられたんだね!」
真っ先に駆け寄ってきたクエンティン・タランティーノは安心したような表情をしていたが後はひたすら「ごめんね」と謝られた。
気にすることじゃないのに。
『あれは仕方ないことだから気にしなくていいよ。全滅だってありえたんだし、あそこでぐずぐずしててもね。』
「だけど、ボクはキミを見捨てて…」
『だから、気にしないでって。こうして無事だったんだし。キミがロッカーに閉じ込められた私を見つけてくれてなかったら今頃どうなっていたか…見つけてくれてありがとう』
「セオ、……うん」
その後たわいのない話をした。
就寝前。結局また生き残れた私は先程の殺人鬼の行動が全く理解できないままねむりについたのだった。