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ほら、今日もダメだった。
目の前でたった今殺害された仲間を見て膝をついた。
血肉を撒き散らして苦しそうに横たわる亡骸を力なく見つめた。
今日こそは必ず脱出しよう。そう言って2人だけの合図をして別れた。
『ドワイト…』
彼がまだ生きている。それだけで生き生きと私は走ることが出来た。
だけど、もう協力すべき、守るべき人がいないなら。
私は抜け殻のようになってしまう。
血で濡れた殺人鬼が巨体を揺らして私の方へ近寄ってきた。
私も殺されてしまうのだろう。
彼のように私もそのチェーンソーで切られて事切れるのだ。
…不思議、微塵も怖くない。
寧ろ自分も皆と同じように死ねるんだと思うととても喜ばしく待ち遠しかった。
すぐ目の前に殺人鬼が来た時、漸く私は彼を見上げた。
彼は首を傾げて不思議そうに私を見つめている。
「逃げないの?」
殺人鬼がそう声に出して少し驚きに目を見開いた。喋れるのか。今まで話した事などなかったから新鮮である。
そして見た目に反して幼さの残る喋り方だな。
彼の言葉に私は小さくため息を吐き『ええ。逃げないわ』と答えた。
私の応えに少し困ったような、動揺しているような。そんな素振りで再び口を開く。
「死んじゃうんだよ?痛いよ?」
たった今仲間を残忍に殺しておいて何を言っているのか。気遣うような言葉を殺人鬼の癖に。
訳がわからない。
首を振って目を閉じる。
『もう、疲れてしまったから。いいの。』
早く殺しなさいよ。
静かに目を開いて鋭く睨みあげ冷たくそう呟けば、ビクリと彼の肩が揺れた。
どうして、何をためらっているのか。
誰もいないのに不安げに左右を見渡して彼は呻いた。
「…だめだよ、この子いなくなっちゃうんでしょ?ボクはやだ。会えなくなっちゃう。」
『は?』
いきなり、1人で喋り出した殺人鬼。
まるで誰かと喋っているようだった。
ブツブツと何もいない空間へ向かって抗議している。
「…でも、でも…ボク、」
こちらを見て今にも泣きだしそうにしている。
なに?ダラダラと。
どうせ殺すクセに。無駄に死ぬ時間を伸ばさないで欲しい。
殺人鬼の事情なんて知らない私はだんだん苛立ちが募る。
『なんなの…っ!
殺すならさっさと殺しなさいよっ!!』
私がそう怒鳴れば彼は「ひぇっ」と肩を揺らした。
殺人鬼がビビってんじゃないわよ!
「あのね、その…怒鳴らないで…」
『うるさい!口より手を動かせ!』
仲間を殺したように私を早くその手に持つ凶器でトドメを刺せばいい。
いつまでも長引かせないで!
「ひぇ、だって…」
尚もグズグズと渋る彼に私は靴を片方脱いで投げつける。
『殺せって!!』
「あうっ?!」
怯んだ彼は悲鳴を上げてよろめいた。
もう片方脱いで投げつける。
だんだん、死ぬのが怖くなってきている。変に希望を持たせないで。
さぁ、腹立つでしょ?
怒りのまま私を殺しなさいよ。
『なんで…』
だけど彼は持っている凶器を置いて投げつけた靴を拾いあげ、私の前にしゃがみ靴を履かせた。
その手つきがすごく優しくて固まってしまう。
そうして私に笑って彼は手を伸ばした。
『きゃっ、』
突然担ぎ上げられて驚いて短く悲鳴をあげてしまった。彼はそのまま歩き出した。
ああ、吊るすのか。
目を閉じる。邪神に殺されるより皆と一緒がよかった。
でも、死んだらまたあの焚き火に戻れる。
そしたら彼もーーー…
「諦めたら、消えちゃうんだよ」
『え?』
ポツリと殺人鬼が呟いた。
消える?なにが?
「エンティティはあきらめてしまったサバイバーはいらないんだって。だから、殺したらキミは消えちゃうんだよ」
それを聞いて何故か私は恐怖よりも先に安心感が湧き出た。
『…そう、ようやく終われるのね。』
皆と、彼と会えなくなるのは寂しいし悲しい。
でも、永遠とも言えるこの地獄から解放されるなら悪くないかもしれない。
力無く彼に身体を預ける。
少し疲れてしまった。
目を閉じれば妙に眠くなって。図太いなぁと思いながら夢の世界へ旅立った。
痛みで1度起きるだろう。それまでは。
私は知らない。痛みは永遠に来ないことを。
殺人鬼がとっくに沢山のフックを通り過ぎていることを。
これから殺人鬼に飼われる事を。
「大丈夫だよ。ボクが守ってあげるからね」
殺したくないならソレは好きにしろと言われたから。
なら、貰ってもいいんだ。
眠る彼女に鎖を付けて彼は満足そうに微笑んだ。
彼女が目を覚まして絶望に落ちるまでそう時間は経たないだろう。