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ため息と共に始まる儀式。
透明な姿のまま、レイスは暗闇の中サバイバーを探すために発電機を見回っていた。大体いるだろうなという場所へ目星を立てて向かう途中にある高い障害物が並ぶ場所を通りかかった時だった。
『レイス~!こっちみて~ん♡』
そんな声が聞こえた。反射的に声のするほうを見れば窓枠に足を組みながら座り、アドオン増し増しの懐中電灯を浴びせてくる女。
ライトが苦手なレイスはそれだけで炙り出されてしまう。
『可愛い姿を見せて♡』
いつもそうだ!この女は発電機も修理せずにいつも邪魔をしてくる。
何度も何度もやられてきた事。
透明な自分の僅かな空間の歪みを見つけて的確に当ててくるのだ。
いい加減頭にきて吊るし上げてやろうと追ってやった時もある。その度にコイツは嬉しそうに甲高い声で叫びながら笑って走る。
そして、コイツはなかなか捕まえられない。悔しいが上手いのだ。
コイツに構ってたら通電する。漸く吊るしても成果がそれだけでは話にならない。
腸が煮えくり返りそうだが、無視をするしかない。
踵を返して走り出せば背後から着いてくる気配。
少し振り向けばついてきているあの女。
『あ~ん!置いていかないで~!』
甘ったるい声でカチカチとライトのスイッチを入れたり切ったりして微笑む。
…本当にムカつく。
鐘を鳴らして再び姿を消そうものなら、恐らくライトを当てて炙り出すつもりなのだろう。
どの道、他のサバイバーを追っても担ぎあげた瞬間ライトスタンさせられて逃がすのがオチだろう。コイツはきっとやれる。
しかし、構いたくない。
無視して振り切ろうと走り出す。
サバイバーと殺人鬼のスピードは違う。ライトの光が当たらないくらい離れた所で漸く彼は鐘を鳴らして姿を消す。
透明なままサバイバーを探すために発電機に向かえばなかなかいい音を立てている1台を見つける。もうすぐ修理が終わりそうだ。ここにいる。ガチャガチャと音を立てて修理するそいつに奇襲をかける為に鐘を鳴らした時だ。
『だめよ、余所見しちゃっ』
瞬間眩しい光が身体を照らす。
「!?」
ジリジリと音を立て炙り出される感覚。とても不愉快な気分だ。
呻き声を上げて姿を焼き出された彼は、その光を当ててくる女を睨みつける。
『こっちよ、レイス♡』
女は艶めかしく誘う様にこちらを見つめていた。しかし、瞳の奥は仄かにギラリと光を放ちとても強く挑発している。
くそ、くそっ、くそ!
これで何度目か。そんな安い挑発に乗ってしまうのは。
彼は彼女に誘われるがまま走り出した。
『あははは!こっちよ~!レイス~~♡』
さっきは追われていた筈なのに。今度は女の背を追いかける。
まるで影のようだ。逃げれば追われて、追えば逃げられる。そして決して捕まえられないのだ。
いや、今度こそ捕まえてやる。
レイスは歯を食いしばり逃げる背を睨む。
ケラケラ笑いながら走る女の背を。
甘い残り香を残しながら上手く立ち回るその姿を血走る目で見つめる。
少し、見失えば彼女は『こっちよ!』と声をかけてくる。
目が弧を描き笑っている顔。楽しくて仕方ないという顔。
馬鹿にしやがって。
窓を越える時の俊敏さ、彼女の白い脚がよく生える暗闇がいっそうその存在感を知らしめる。
脚を切ってしまえば、もう走れなくなるのに。
ああ憎たらしい。
凶器を振るえば後1歩で板を滑りきり外してしまう。
『割るの?割らないの?』
ニヤニヤした顔。腹が立つ。
どの道割らないといけないだろう。じゃないと一生追いつけない。仕方なしに板を割れば、当たり前のようにライトを当てられる。
視界が眩しい。
『ふふ、こっちよ』
視界が開けて見れば姿が見えないが少し離れた場所から呼ぶ声。
地を蹴り走り出す。
絶対に捕まえる。
最後の場所、ボロ小屋にたどり着いた時だ。
ここでも散々稼がれた。しかし、窓枠を彼女が越える時だ。
今なら届く。
漸く詰められた距離。
一撃入れられる!
そう振り上げた腕。
『きゃっ!?』
凶器を振り上げた筈だった。
小さな驚いた声、そしてその後に床に落ちた凶器の音。
『レイス…?』
凶器を持っていたはずの手は彼女の肩を掴んだ後腹部に回る。
捕まえた。
逃がさないように背後から抱き締め彼は笑った。
『え?え、なんで、殴らないの?武器は?落ちちゃったよ?』
困惑したような声色、困った顔でこちらを見上げている彼女。
こんな声も顔も初めてだ。いつもの挑発的な様子は見られない。
ああ、こんな顔もするんだなと。彼は興味深く彼女を見下ろす。
『レイス?』
暖かい。彼女に触れている箇所全てが暖かかった。それに、いい香りがした。
無意識に喉が猫のようにゴロゴロ鳴る。
何故鳴るのかは分からない。元は人間だった筈なのに。声帯がおかしくなっているのかもしれない。喉仏の、なんか、そんな所が。いや、別に今はそんな事は重要じゃない。
『猫ちゃんみたいね』
今の状況にそんな事を言える余裕がまだあるのか。
じっと見下ろす彼と、じっと見上げる彼女。
『ねぇ、レイス、私をどうするの?このまま吊るすの?』
彼は答えない。ただ光る目がこちらを見つめてくるだけだ。
ため息を1つ吐く彼女。
『もう…どうしたいの?何か言ってよ』
言葉を紡ぐ唇が、どうしても気になった。
どうしたいか。生意気なこの女をこうして捕まえて。ああ、そうだ。憎たらしい女を捕まえた。どうしてくれよう。どうしようか。
まさか、捕まえれる日が来るなんて思わなかったんだ。
今この状況で1番困惑しているのは彼なのかもしれない。だって殺意を抱いていた筈なのに。あの一瞬、凶器を振りかぶった時。
彼は彼女を傷付ける事に酷く抵抗したのだ。
じっと見つめる。
『なぁに?どうしたの?』
緊張感のない声に顔。
恐れを抱いてないようだ。
いくら凶器を持たなくてもエンティティの恩恵を受けたこの身体は常人よりも遥かに力は強い。こんな細腰簡単に潰せるというのに。
だが、彼は恐らくしないのだろう。
唇にそっと指を這わせる。
『ん…くすぐったい…』
身動ぎするが、逃げる素振りはない。
この女も変だ。
そんな事をしていれば、通電を告げるブザーが聞こえた。
『こんな事してるからよ』
呆れたような口調で彼女が言う。
誰のせいだ。お前が散々逃げ回るせいだろ。
レイスは目を細め、不満気に彼女に視線を送る。
『ほら、どうしたいの?吊るなら早くしないと。コラプス死見たいなら別にいいけど。』
本当にイカれている。
彼女は死ぬことも別に構わないと言うような態度だった。
レイスは唇から手を離した。
『首、疲れちゃった…』
顔が正面に向く前に。
『ん…』
その唇に吸い付いた。
短い様な長い様な。何度か小さくリップ音を立てて唇は離れた。
ゲートが開いた。
コラプスが始まる。
彼は彼女から離れた。
『もう、いいの?』
本当に腹の立つ女だ。
もういいのか、なんて。まるでもっと先を強請っているみたいじゃないか。
お前がもっと早く捕まらないからこの先なんてない。
ギリッと歯を食いしばれば、彼女は笑って窓枠を越える。
『バイバイ、レイス!次はもっと早く捕まえてね♡』
ヒラヒラ手を振り、いつもの甘ったるい声で彼女は走り出した。
その背を追うことなく彼は見送る。
次は。
次も捕まえられるのだろうか。
キス以上の行為が出来るほどの時間があるくらい早く捕まえるなんてきっと無理だ。
ああ、本当に憎らしい。
揶揄って遊んでいるような女が。その先なんてさせるつもりも無いくせに。
彼は大きくため息を吐いた。
今日も弄ばれてしまった。まんまと。
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