ハズビン
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毎日が休日、つまり、ニート。
素晴らしい死後の世界にようこそ。地獄だがな!
爽やかとは言い難い赤い空、換気をしようと窓を開ければ新鮮な血の匂いと嗅いだことない悪臭が部屋を包み込み、非愉快な悲鳴が小鳥のさえずりのように聞こえる。
何もしなくていい以外は最悪の世界。くそったれだな!
そんなくそったれな世界でも、私にはボスがいる。他のエッギーズと一緒にクッションに背を預けてぎゅむぎゅむと身を寄せあっていれば、ボスが私を抱き上げる。当然私がいなくなったので空いてしまったスペース分、卵達はバランスを崩してコロコロしだす。『おほぉっ!? 』じゃないんだよ。ぶつかってもいきなり割れないから安心だ。
「ばぶちゃん、今から私は更生する為のプログラムに参加してくるから、お部屋で大人しくしているんだよ……。お前はいい子だから大丈夫だと思うが、くれぐれも他のエッギーズと悪ふざけして武器に触れたり、お外に出てはいけないよ。」
ボスは、やけに真剣に言い聞かせてくる。過保護に過保護を重ねた彼は、毎回このような行動をとる。
そして、エッギーズに私の子守りをしろと言うものだから、エッギーズはしっかり命令を実行し、私の子守りをしてしまうのだ。
おしゃぶりをしゃぶっている、小さな体の私を皆どんな思いで世話をしているのだろうか。ちまちま私の世話を焼いているのだが、お昼寝の時にガラガラを振っていたのは笑った。コイツらも私を赤ちゃんだと思っているのか、はたまたそういう【ごっこ遊び】なのか。
あと子守唄も歌ってくれるが、なんか、声とか歌い方が気になって眠れず見入って眠れない。ずっと聞いてられるし、見てられる。
前はもっといたエッギーズは気がついたら私を含めて片手で数える程度になってしまった。エクスターミネーションなどで、みんな死んでしまったのだろうか。地獄では当たり前なのだろう。彼らは補充がきくものなのか、しょっちゅう減ったり増えたりする。いつから名前を覚えなくなった。
だから、ボスはこうして、私を大切にする度に卵達はもう復活することが出来ないのではないかと思ってしまう。悪魔は死なないと聞いていたのに。私達は別なのだろうか?
「勝手に部屋に入る事はないだろうが、アラスターが来ても絶対に中に入れてはだめだぞ?」
そう最後に締めくくり、「ん~~!! 」と頬を寄せてグリグリと頬擦りをし、ボスは私を降ろす。他の卵達も「ボス~!ワタシもやって~! 」と騒いでいるが、彼はそんな彼らを指先で少し撫ぜただけだった。
前は、そんな事しなかったのに最近はやるようになったから、このホテルに来てからボスは更に優しくなった。リアルガチプリンセスの力すげぇな。
「いいか?お前達、ばぶちゃんの面倒をしっかり見るんだぞ!わかったな!」
シャーーっ! とコブラが頚部 を広げて威嚇する様な姿をして命令した。
それに敬礼して「はい!ボス!」と返事をするエッギーズ。
(ボス、私は本当は赤ちゃんじゃないんだよ……?1人でも大丈夫なんだからね?)
声を持たない私は身振り手振りしか出来ないので何とか伝えようとしてみる。
「うんうん、大丈夫だからな。しっかりお留守番してるんだぞ」
しかし、やはり意思の疎通は難しかった。
屈んで、つん、と極めて優しく私の帽子をつついてボスは、「そうだ」と思い出したように積み上がった荷物の中から何かを探し始めた。
積み上がったなんか重そうな物やらなにやらが入った箱を「これじゃない、これも違う」と開けながら、中身を確認している。バギーに武器は作ってはダメだと言われているが、パーツを買ったり、設計図を作ってはダメとは言われていないからボスの部屋は荷物が直ぐに溜まる。組み立てないから余計に。いつか、床が抜けてパーツも買ったらダメって言われそうだ。
そうなったら、ボス、どうなるんだろ……鬱になりそう……。
(あれ? でも、もし天国に行ったら、武器は作れないだろうから……設計図も、パーツもダメになる……? )
彼はほぼ癖のように、当たり前のように発明に明け暮れるタイプだ。天国はきっと、治安がいいし、争いもなさそうだしで。彼がもしも天国に行ったとして、そんな生活耐えられるのだろうか。
(あ、でも、エクスターミネーションの時の為に武器作らされたりするのかも……需要はある、のか)
ふと、私は彼と一緒に天国にいけるのだろうか。と考えた。私はここで、何も悔い改めてもいないし、チャーリーの行っている更生のプログラムにも参加していない。ボスは天国に行きたい。でも、私は? 生前にきっと気が付かない内に地獄に落ちるような事をしたから私は天国ではなく地獄に来た。声も出せないし、体も小さい。
ボスがいない地獄で、私はやっていけるのか?チャーリーは、ボスがいなくとも私を置いてくれるのだろうか?
あれ? 積んでない??
「あった! これだ! 」
無邪気に何かが入った箱を持って喜ぶボスの横顔を見つめた。
(ボス、天国に行ったら、もう会えないのか……)
多分、確信はないが、何となくだが。ボスはいける気がする。どうやって行くのかは分からない。天国から呼ばれて行くのか、どうなのか。
そしたらお別れになるのだ。
「ほら、これ……どうした、ばぶちゃん!?」
泣き出してしまいたい様な気持ちになってしまい、顔が歪んでしまったのだろう。いや、実際涙が出てきている。
母親と別れるのが嫌な園児か? 私は肉体に引っ張られて精神的にも幼児化してしまったのだろうか。考えただけでも悲しくなってしまった。
口を強く噛み締めたからか、ぎゅむ~~……と、おしゃぶりがひしゃげる。
ついこないだ捨てられそうになった時だって別に悲しくなったりしなかった。だって、地獄の何処に捨てられたって、ボスが地獄にいる限り戻れると思ってたし。
「よしよし~……、どうした? 何処か痛いのか? それとも、コイツらにいじめられたか? 」
抱っこして、慰めてくれる。これも、してくれなくなるのか……。
えーん……!! 嫌だ~!!
ボスが天国に行くのはいいんだけど、私も一緒じゃなきゃ嫌だァ~!! 離れたくない~~!
零れた涙を拭ってくれている指を握る。
ボスはとても困った様な顔をして、どうしたら泣き止むのかと部屋を右往左往していた。
結局、メソメソしていたら、ボスが心配して私も一緒に連れて行ってくれた。ラウンジで既に集まっているいつものメンバー。
「なんだか、今日は元気がなくて……邪魔させないので近くにいさせてもいいですか……?」
挨拶もそこそこに、リアルガチプリンセス、チャーリーに申し訳なさそうにそう言えば、彼女はボスの腕の中にいる私を見て「まぁ、どうしたのかしら? ……なんだか、とても、悲しそうな顔をしてる」と心配された。
エンジェルは私を写メるな。こちとらめちゃくちゃメンタル死んでんだぞ。
「朝は元気だったのですが、急に泣き出してしまいまして……」
心底心配だと言わんばかりに目尻が下がりっぱなしのボス。ごめんね、ボス。わがままで。
ちょっとこのままお留守番はメンタル的に辛すぎるので……。
チャーリーは「全然オーケー! この子にもエクササイズを見てもらいましょう! 参加してもいいし」と言っていたので、お?っとちょっと一緒に参加すれば、ボスと天国行けるのでは?と期待したが、「まだ、赤ちゃんですから……参加は難しいかと……、隅っこで積み木で遊ばせても? 」と断られてしまったので、しょぼん。
いや、まて。なんだ?積み木って。あれかな?さっきボスが手に持っていたやつかな?後方に続くエッギーズが持っているよ。
踏まれてしまわないように何故か、ビッグ猫ちゃん……ハスクがいるバーのテーブルの上に座らされた。
行儀悪いって言われないか?若干面倒くさそうにハスクは「子守りはしねぇぞ!」と言ったが、ボスは「エッギーズに子守りはさせますから! ご心配なく! 」と声をかける。すると、ボスの背後について回っていた、小さき卵の子守番、エッギーズが次々とバーカウンターによじ登り始めた。
ベラベラ喋ってパタパタ動き回るエッギーズに「登るな、登るんじゃないっ! おい、備品に触るな!酒は特に!!」と、かき揚げ時の飲食店のように忙しくなるハスクに若干のすまなさを感じつつボスが置いていった積み木が入っているだろう箱を見つめた。
「ベイビーちゃん、ワタシが長男デスよっ」
「ワタシは、次男っ」
「なら、ワタシは三男デス」
卵三兄弟だな。私の前に整列して挙手しながら役割を言ってくる、エッギーズ。
……おう、よろしくな!
末っ子以外の選択肢がないので、とりあえず、積み木でもしようぜ!
ハスクは漸く落ち着いて私の周りを囲むエッギーズ達にため息を吐きつつ、諦めた様に「落ちるなよ」と私に言い、酒を瓶ごとラッパ飲みしている。
声につられ、箱を持ったまま彼の顔を見上げてみる。小さき卵の私は地面に降ろされているとほとんどの悪魔は、巨大すぎて顔が見えない。なので、カウンターの上にいるおかげでいつもよりかは近い位置に顔があるのは珍しいのでなるべく拝ませてもらいたい。
「……どうした? あまりにいい男で、見惚れたか? 」
と、冗談交じりに言いニヒルに笑った。
(うっほ~~! もふもふ猫ちゃん。)
にぱ~…! と効果音が鳴りそうなくらい笑顔になってしまったかもしれない。ハスクが少し目を細めて「いい笑顔だ」と言ってくれた。
卵の表情豊かなのどう思います?落書きかな。
さて、そろそろいい加減積み木で遊ぼうか。ボスがせっかくくれたんだからな。
モタモタと、箱を開けようとビニールの包装を剥がそうと奮闘していれば、見かねて爪先でツーーっと端っこに切れ目を入れて開けてくれた。
ありがとうな! 猫ちゃん!!
ペコり、とお辞儀を体全体ですれば、落ちる小さき帽子。
「……」
ナチュラルに、そっと、帽子を摘んで拾い被せてくれた。
優しいぃ~~!
ボス達がエクササイズという、軽いゲームや、演劇を始めているのを見ながら、エッギーズと交互に積み木を重ねていく。ボス、これ、積み木じゃなくてジェンガだよ多分。全部細い小さな角材だよ。
時折、エクササイズの合間合間に、ボスがこっちを気にしているのかちらちらと視線をよこしていて、たまに目が合う。その度に笑顔になるボス……、愛を感じる……だいちゅき過ぎる……。連れてきてもらって良かった。
漸く、正しく組み上げ終わったら、次は一本づつ抜いていくのだ。エッギーズ達と、ジャンケンをして始める。
中々の白熱した勝負である。時折、ハスクに取らせてみたりして、隙間だらけになったタワーは、ついにグラグラと揺れ始めた。エッギーズ達は『お、おお……』と声を出しながら、見つめた。そろそろ、クライマックスだ。
これは、何処が安全なんだ?
むむむ、と抜く場所を探していると嫌な気配がした。
「おや、本日はこちらにいらしたんですね?」
にゅるん、と黒い影から現れた赤い悪魔。
出たな! アラスター!!
ボスが2度見どころか3度見して、エクササイズ所では無くなっている。
リアルガチプリンセス達にも軽く挨拶をしつつ、彼は私達のいるバーカウンターから離れる様子がない。
ええ~~! アラスターも一緒に混じって演劇やりなよ~……
正直どっかいってくんねぇかなぁ……と思いながら見あげていれば、「これは?」とジェンガを指さす。
エッギーズ達が口々に説明してくれるが、要領を得ない。彼は自分で聞いた癖に興味無さげに爪をいじいじしながら「ふーん……」って言ってる。なんなのコイツ……。
私はとにかく、アラスターは無視して次抜く場所を考える。ジェンガの後ろを回ったりして見ては、此処がいいか、それとも、そこにした方がいいかな?と思案する。
「もう、崩れそうですね~」
慎重にここかな?それともここかなぁ、と悩んでいれば、アラスターは屈んで私に囁きだす。
「どうです?アラスター使います?」
なんだよ、アラスター使います?って。自分の事アラスターとか言ってんじゃねぇぞ(?)もしかして、やりたいのか?やりたいなら、2回戦目にしてくれないか。
アラスターの方を見てブルブルと首(首ない)を振り、再びジェンガを見詰める。悪魔に頼ったらいけない。これは常識である。
傾いて、うーん、うーん、と悩み続ける私。エッギーズはソワソワしている様に固唾をのんで見守っている。
そんな睨めっこしている私を、じっと見つめているアラスター。
どうやら、頼ってこない私を面白く思っていないらしい。私の全神経は割と敏感になっているので、何気なく背後から聞こえてきた衣擦れの音などがやけに耳につく(耳…?)、そう。アラスターが動くのが分かる。
クルッと振り向けば、「なにもしてませんよ~~」というように、手に持つマイクをいじり出す。
再び、ジェンガへ視線を戻して指を抜き取りたい場所に伸ばそうとした時、気配を感じる。
振り向けば、姿勢を正して胸元のリボン(?)を直す仕草をする。
……こ、コイツ……っ!
どうやら邪魔をしたいらしい。
それでなくても崩れそうなのに、コイツの悪戯心にワザとやられるのは嫌だ。せっかく、ここまで楽しんできたのだ……!
今、私の番だからやめてくれ、私の負けになるだろ……!!
「? どうしました? 早く続けては? 」
いけしゃあしゃあと……!!
身振り手振りであっちに行けと伝えてみたが、どこ吹く風だ。気が散る……おのれ……っ!
アラスター本人に言っても無駄なので、ハスクの方を見て、「あれ、あれヤダ~~!!」みたいにアラスターを指さして訴えてみる。
アラスターは「人に指をさしてはいけませんよ~」とニヤニヤニヤニヤ笑ってやがる、ムカつく。
一応、ハスクは「真剣にやってるんだ。構うな」と言ってはくれたが、知りませーんという様にふーん、と顎を逸らしている。
ムムムム……ッ、と恨めしそうに見上げても、楽しげに鼻歌歌うだけである。
チラッとジェンガを見てはアラスターを見る。
「アラスター使いますか?使っちゃいますか?」
まじで、なんなのコイツ。
使いません。手をクロスし、バツ!
首をカクン、と傾げて不服そうに細まる目。口は笑顔である。器用な男だな。
絶対邪魔するなよ!
ビシィ! と指さしてやれば、更に目が細まる。
糸目じゃねぇか。
ジェンガに振り返り、指をそー……っ、と伸ばす。もう少しで、触れそうだ。ここを抜くのだ……。
チラッとアラスターが邪魔してないか、振り向く。
アラスターは、
まさに今、指先で私に触れようとしていた。
そう、手を私の方へのばしていたのである。
ムキィイ~~~……!! とめちゃくちゃムカついたのでその指をギュッと掴んで上下に揺らす。やめてって伝えてんだろ……!なんでちょっかい出すんだよっ!
「おや、感謝はいりませんよ。では、私がお手伝いしましょう」
違うって~~っ!1ミリも違う~~!
わ~~っ!とやめろやめろと指を引っ張る。
この嫌そうに歪んだ顔見てみろよ~~!!
アラスターはケラケラ笑って「そんなに引っ張ったら、手袋が脱げちゃいますよ」と言っている。
こ、この野郎……っ!
ペちペちペちぺちぺちぺちぺちぺち……っ!
思わずアラスターのその手に、必殺のツッパリをおみまいした!!
(このこのこのこの~~……!! )
アラスターの腰越し(背後)からボスがあわあわ……! と慌てているのが見える。とうとうこっちに来ようと身体が動いていた。
大丈夫よ、ボス! 私はアラスターにだって負けないんだからね。
しかし、現実は非情である。人差し指だけをさしだしていただけの手は全て開かれ、手全体でゆっくり潰されるように、私はアラスターに仰向けで転がされてしまったのだ。
(ぐぁあ……! おのれアラスター!! 全っっ然起き上がれんっ!!)
じたばたとする私、楽しげにゲラるアラスター。「おい、やめてやれ」と注意しながら私を起こそうとするハスク。
しかし、私がそんなに暴れていたらいくらなんでも大丈夫ではないのだ。そう、今にもグラグラしていたジェンガが。
傾くジェンガ。
『あ』
誰が上げた声か。いや、皆一斉に声を上げたかもしれない。
傾いたジェンガは無情にも私の反対側にいたエッギーズの1匹へと倒れ込んだ。
「ワタシがっ!止める……っ! 」
いや、無理だから。
ガラガラバラバラっ、と派手な音を立てて崩れ落ちた。
一瞬で訪れる、静寂の中で1匹の卵の「今の衝撃……長男じゃなかったら、耐えきれませんでした……っ!」と言う訳分からん台詞が響く中、私はせっかくハスクが起こしてくれたのに再び仰向けになり、大の字になった。
……エンジェル……写真撮るなって……。
近くまで来たボスが、「ベイビーちゃん……、また、組み立ててあげるからね、泣かないで……」と言っている。何言ってるんだい、ボス。泣いてなんか……
……じわっと涙の膜がはってる。泣いてるわ……。
カチッと何かスイッチを入れた音がする。
そうして私の横に何か置かれた。置いたのはアラスターだ。
それはまつ毛がビッシリの鳥みたいな獣みたいなモジャモジャの……懐かしい、ファービーだこれ。
「バックドゥルゥルウ~~!アッサァ~~っ!」
……うるせぇよ。
何故か、くれたのか貸してくれたのか分からんが、懐かしのファービーで遊び初めて大体10分弱。
口に指入れたりすると「もぐもぐ」とか言うし、手を叩くと踊るという事がわかった以外何も分からず放置したら急に眠り出したのでそっとしておいた。そう、飽きたのだ。
エッギーズ達も一緒に歌ったり踊ったりしていたが、残念ながら私と同様飽きたらしく現在散らばるジェンガを片付け始めている。ありがとうな。カウンターから降りる時は気をつけろよ。
ボスは、私がファービーで機嫌が戻ったのを確認したらまた戻って行ってしまったので、ちょっと遊ぶの中断して、せっかくなのでじっくり観察させてもらおうと、振り返る。
視界に入る赤い壁。
お前まだいたんか、アラスター。
見上げれば、彼もこちらを見ていた。お前まさか、ずっと私を見ていたのか?
暇なのね。
それにしても、何故ファービーを持っていたのだろうか。なんか、虐めたりするの好きそうだから時折電源入れて逆さにしたりして遊んでそうだな。「オロシテ……オロシテ……」っていうのを聞いてニヤついてるんだろ?私知ってる。
「抱き上げて逆さにすると、面白いですよ?」
ほらぁ~~!!やっぱりやってるじゃないですか~~ヤダ~~!!
首(無い)をブルブル左右に振り乱して遠慮しておいた。可哀想だろ、そんな事したら。私もやった事あるけどさ。子供の頃持ってたからね。
もう、彼に構いたくないのでボスを見たい。
そうしてアラスターが邪魔でボスが見えないので横に移動し座る。アラスター、もうどっか行きなよ。
しかし、悲しいかな。この男はまだ私に用があるらしい。
「さて、そろそろ行きましょうか」
え?何?誰と??
思わずハスクの方を見るが、ハスクは酒瓶を傾けながら自分ではないという様に手を左右に振るう。
「あなたですよ」
はい?なんでまるで約束したかのように予定組んでやがるんだよ……っ!!
スクッと立ち上がり、アラスターから2メートルくらい離れようと踵を返したが、一歩踏み出す前に無情にも頭を鷲掴みにされた。帽子は犠牲になったのだ……。
オーノー……クレイジー……
チラチラ気が気じゃないのか見ていたボスが、また、慌ててこっちに来た。
「アラスターっ、待ってください。この子は今日元気がないので連れていかないでくださいっ」
パタパタと手や足を振って抵抗してみるが、相変わらず、全く意味が無かった。
アラスターは「? 先程から元気だと思いますが?」と首をカクン、と傾げた。
ボスが、必死に朝の事を伝えているのを私はちょっと恥ずかしく思いながら聞く。すまん、すまんな……中身はいい年した大人なのに……。
ボスから話を聞いて彼は「へぇ」と声を上げて。
「泣くんですね」
と、それはそれは嬉しそうに言った。顔が見えないが、めちゃくちゃ笑顔でいっているであろう。やだ~…
ボスも含めて皆ドン引きである。やだ~…
抵抗虚しくも連れていかれてしまう私。
エッギーズ達は残念ながら、お留守番。ボスは行かせたかったが、アラスターがダメだと。
ホテルから出る時、ボス泣いてたなぁ……ボス、連日泣いてばかりで可愛っ……可哀想である。だいちゅき。
アラスターの小粋なトークをBGMになんだか、地獄にしては閑静で綺麗な住宅街に来た。すれ違う歯が素晴らしくギザギザのなんか、人食ってそうな人々がアラスターに気さくに挨拶したりしている。
……まさか、ここ、人喰いタウンでは?
外に出た事ないから初めて来たが、こんなに綺麗なんだな……。意外だ。そこかしこで食人してんのかと……。
ここになんの用があるのか。まさか、ついに私を卵として活用しようとしている……っ?
アラスターは1軒の立派な店構えの建物に入っていく。急にドキドキしだす胸……ドキドキ……心臓……ある、のか?
中に入れば、なんだか、不思議な形状の小物や、キーホルダー等の商品が目につく。
そして、結構お客もいる。特に、奥のカウンターらしき場所に客が集中しているので、じっと見ていれば、アラスターはカウンターの奥に誰かを見つけ軽く手を振った。
カウンターの奥、恐らくこのお店の主が「アラスタァ~!」と、嬉しそうに声を上げた。
その人は笑顔で客の間を割ってこちらに来た。
そうして、アラスターと彼の手に握り締められた私を見て、「まぁまぁまぁまぁ~!」と、口に手を当てながら言ったと思ったら、彼に握りしめられている私を両手で優しく受け取り、「ダメじゃない、アラスター!優しく抱き上げないと!」と彼を叱った。
全くその通りですな!
そうして、ロージーと名乗った貴族のお方は私が話せない事を恐らくアラスターが言っていたのか、身振り手振りで自己紹介をする私に「大丈夫よ、ちゃんと伝わっているわ!とっても礼儀正しい子ね!」と喜んだように声を弾ませていた。
「貴方に会えるのを楽しみにしていたのよ?なんて、可愛らしいのかしら!そうそう、小さい赤ちゃんだから、柔らかくて食べやすい耳を用意したのだけど、いかが?」
パカッと上品そうな小箱の蓋を開けたらビックリ、柔らかくて食べやすいらしい人間の耳らしきものが見えて全力で首(ない)を振った。残像すら見える。
どうやら、私のこの行動が謙虚に見えたらしくロージーはとても感心し、アラスターに「見習って!」と言っていた。アラスターお前、食ったのか……。
それから、ティータイムと洒落こんで、色んな話を聞いた。アラスターもロージーも話上手な為聞いていて楽しかった。何話していたか何も思い出せないがな。
それもこれも、ロージーがくれたお土産のおもちゃのせいだろう。赤ちゃんに使う振ると音が鳴るタイプのやつ。
不思議な感触だ。音もなんか、ちょっと変わっている。振るっていれば、ロージーがふふふ、と微笑まし気に笑う。
「いい音でしょ?貴方の為に作ったのよ。
人の骨と皮で!」
わぁ~……最高に悪夢みそ~……。
ドン引きであるが、大人である私はお礼にぺこりと頭を下げた。
「いいものを貰いましたね!今日から良い悪夢が見れそうだ」
むちゃくちゃ笑顔で言わないで。知ってるよ。
このおもちゃ……、どんな悪魔から作ったのかなぁ~……。
色々ぶっ飛んだプレゼントに虚無を抱いた私だった。
帰りに再び、アラスターが私を鷲掴もうとしたもんだから、ロージーが怒って持ち手の付いた籠にタオルを敷いて、私をその中に入れて持たせた。
なんで、こんなに育ちが良くて、いい人がアラスターと友達なんだろうか。人喰いだけどな。
「ビビッ……」じゃないんだよアラスター。
大人しくちゃんと籠を持つ彼を見送るロージー。バイバイと手を振れば、彼女も振り返してくれた。
「また、来てね」
アラスターが連れてきてくれたらね。耳とかおもちゃの事以外ならめちゃくちゃいい人であった。
スーパーで買われた食材の気持ちになりながら、再び道中アラスターの小粋なトークをBGMにウトウトし出す。彼の話は面白いのでなるべく聞きたいのだが、どうにも無理そうだ。
アラスターに握り締められた時にも眠かったが、籠だと余計に眠たい。タオルがふかふかだし、絶妙に揺れる籠がまたたまらない。
その内、アラスターは話すのをやめて、マイクから前世でも聞いた事があるゆったりとしたジャズの曲が流れ初める。そうなると、もう私の目蓋は限界を迎えた。
「おかえり!」
そんな声が聞こえて、目が覚めた。どうやらホテルに着いたらしい。
重たい目蓋を開ければ、ちょうどアラスターがボスに私を籠ごと渡している最中であった。
「まともに運ばれてる……っ」
と感動しながら受け取ったボス。いやぁ、なんか買い出ししに行った後みたいになってるけどね。
「良かったじゃん。ちょっとアラスターが持ってると、シュールだけどさ」
そう言ってパシャリ、と写真を撮る。キミはよく私の写真を撮るね。SNSにあげてるのかな。
「赤ちゃん用のおもちゃ持ってると、余計に赤ちゃんっぽいね」
「赤ちゃんですから。ベイビーちゃん、このおもちゃはアラスターが買ってくれたのかい?」
ボスがおもちゃを手に取り、左右に振って音を鳴らす。アラスターは「いいえ、私の友人がくれたものです。手作りだそうですよ」と答えた。
「? なんか、不思議な音ですね」
「まぁ、人の皮と骨で出来てるようですので」
「……なんて?」
露骨に嫌そうにおもちゃを見る面々。分かる。悪夢見そうだよね。
おもちゃを足元にいるエッギーズ達に渡してやれば、「これでバブちゃんをあやします!」と喜んでいた。アラスターに「友人がくれたやつだから、捨てるなよ」と言われれば仕方ない。使って貰うしかないのだわ。
今日1日やはり、アラスターはろくでもねぇ奴だと思い知らされた訳で、部屋に戻ってからまた絵を描く。
その絵はちゃんとボスに飾られた。また1つ、壁に私のクレヨンで描いた絵が増えてしまった。
身振り手振りで絵を指さしながら、ボスに報告し、ボスは「うんうん」と微笑まし気に頷いていた。ボス、ちゃんと聞いてます?
「うんうん、ちゃんと聞いてるよ。とにかく、元気になって良かった」
ボス、だいちゅき過ぎる。
「あ、そうだ。これもアラスターがくれたから、一緒に寝るといい」
でん、と置かれたファービー。ずっとバーカウンターに置かれていたのだろうか。そのまま飾っておいてよかったのでは?
触ってみても、中身はプラスチックの塊だろうから硬いし、抱き心地が悪い。とりあえず、机の端に置いておいたが、ある日、電池が無くなりかけてたのか分からないがいきなり永遠と踊り出したので怖いし煩いしで電源を切った。
……こうして忘れられていくのだ。このおもちゃも。
そして、後日エンジェルが私の写真をSNSであげて超バズったのは別の話である。
【ラジオデーモンに弄ばれる赤ちゃん】
アラスターの手にしっかり仰向けに転がされている写真に、鷲掴みにされている写真。手のみだからしっかりと写ってる。
コメントに【ラジオ様のお手】【さすがラジオデーモン、赤ちゃんにも容赦ない】【鬼、悪魔、ラジオデーモン!!】って書かれてた。
明日こそいい日になって欲しいなと思う卵でした。
素晴らしい死後の世界にようこそ。地獄だがな!
爽やかとは言い難い赤い空、換気をしようと窓を開ければ新鮮な血の匂いと嗅いだことない悪臭が部屋を包み込み、非愉快な悲鳴が小鳥のさえずりのように聞こえる。
何もしなくていい以外は最悪の世界。くそったれだな!
そんなくそったれな世界でも、私にはボスがいる。他のエッギーズと一緒にクッションに背を預けてぎゅむぎゅむと身を寄せあっていれば、ボスが私を抱き上げる。当然私がいなくなったので空いてしまったスペース分、卵達はバランスを崩してコロコロしだす。『おほぉっ!? 』じゃないんだよ。ぶつかってもいきなり割れないから安心だ。
「ばぶちゃん、今から私は更生する為のプログラムに参加してくるから、お部屋で大人しくしているんだよ……。お前はいい子だから大丈夫だと思うが、くれぐれも他のエッギーズと悪ふざけして武器に触れたり、お外に出てはいけないよ。」
ボスは、やけに真剣に言い聞かせてくる。過保護に過保護を重ねた彼は、毎回このような行動をとる。
そして、エッギーズに私の子守りをしろと言うものだから、エッギーズはしっかり命令を実行し、私の子守りをしてしまうのだ。
おしゃぶりをしゃぶっている、小さな体の私を皆どんな思いで世話をしているのだろうか。ちまちま私の世話を焼いているのだが、お昼寝の時にガラガラを振っていたのは笑った。コイツらも私を赤ちゃんだと思っているのか、はたまたそういう【ごっこ遊び】なのか。
あと子守唄も歌ってくれるが、なんか、声とか歌い方が気になって眠れず見入って眠れない。ずっと聞いてられるし、見てられる。
前はもっといたエッギーズは気がついたら私を含めて片手で数える程度になってしまった。エクスターミネーションなどで、みんな死んでしまったのだろうか。地獄では当たり前なのだろう。彼らは補充がきくものなのか、しょっちゅう減ったり増えたりする。いつから名前を覚えなくなった。
だから、ボスはこうして、私を大切にする度に卵達はもう復活することが出来ないのではないかと思ってしまう。悪魔は死なないと聞いていたのに。私達は別なのだろうか?
「勝手に部屋に入る事はないだろうが、アラスターが来ても絶対に中に入れてはだめだぞ?」
そう最後に締めくくり、「ん~~!! 」と頬を寄せてグリグリと頬擦りをし、ボスは私を降ろす。他の卵達も「ボス~!ワタシもやって~! 」と騒いでいるが、彼はそんな彼らを指先で少し撫ぜただけだった。
前は、そんな事しなかったのに最近はやるようになったから、このホテルに来てからボスは更に優しくなった。リアルガチプリンセスの力すげぇな。
「いいか?お前達、ばぶちゃんの面倒をしっかり見るんだぞ!わかったな!」
シャーーっ! とコブラが
それに敬礼して「はい!ボス!」と返事をするエッギーズ。
(ボス、私は本当は赤ちゃんじゃないんだよ……?1人でも大丈夫なんだからね?)
声を持たない私は身振り手振りしか出来ないので何とか伝えようとしてみる。
「うんうん、大丈夫だからな。しっかりお留守番してるんだぞ」
しかし、やはり意思の疎通は難しかった。
屈んで、つん、と極めて優しく私の帽子をつついてボスは、「そうだ」と思い出したように積み上がった荷物の中から何かを探し始めた。
積み上がったなんか重そうな物やらなにやらが入った箱を「これじゃない、これも違う」と開けながら、中身を確認している。バギーに武器は作ってはダメだと言われているが、パーツを買ったり、設計図を作ってはダメとは言われていないからボスの部屋は荷物が直ぐに溜まる。組み立てないから余計に。いつか、床が抜けてパーツも買ったらダメって言われそうだ。
そうなったら、ボス、どうなるんだろ……鬱になりそう……。
(あれ? でも、もし天国に行ったら、武器は作れないだろうから……設計図も、パーツもダメになる……? )
彼はほぼ癖のように、当たり前のように発明に明け暮れるタイプだ。天国はきっと、治安がいいし、争いもなさそうだしで。彼がもしも天国に行ったとして、そんな生活耐えられるのだろうか。
(あ、でも、エクスターミネーションの時の為に武器作らされたりするのかも……需要はある、のか)
ふと、私は彼と一緒に天国にいけるのだろうか。と考えた。私はここで、何も悔い改めてもいないし、チャーリーの行っている更生のプログラムにも参加していない。ボスは天国に行きたい。でも、私は? 生前にきっと気が付かない内に地獄に落ちるような事をしたから私は天国ではなく地獄に来た。声も出せないし、体も小さい。
ボスがいない地獄で、私はやっていけるのか?チャーリーは、ボスがいなくとも私を置いてくれるのだろうか?
あれ? 積んでない??
「あった! これだ! 」
無邪気に何かが入った箱を持って喜ぶボスの横顔を見つめた。
(ボス、天国に行ったら、もう会えないのか……)
多分、確信はないが、何となくだが。ボスはいける気がする。どうやって行くのかは分からない。天国から呼ばれて行くのか、どうなのか。
そしたらお別れになるのだ。
「ほら、これ……どうした、ばぶちゃん!?」
泣き出してしまいたい様な気持ちになってしまい、顔が歪んでしまったのだろう。いや、実際涙が出てきている。
母親と別れるのが嫌な園児か? 私は肉体に引っ張られて精神的にも幼児化してしまったのだろうか。考えただけでも悲しくなってしまった。
口を強く噛み締めたからか、ぎゅむ~~……と、おしゃぶりがひしゃげる。
ついこないだ捨てられそうになった時だって別に悲しくなったりしなかった。だって、地獄の何処に捨てられたって、ボスが地獄にいる限り戻れると思ってたし。
「よしよし~……、どうした? 何処か痛いのか? それとも、コイツらにいじめられたか? 」
抱っこして、慰めてくれる。これも、してくれなくなるのか……。
えーん……!! 嫌だ~!!
ボスが天国に行くのはいいんだけど、私も一緒じゃなきゃ嫌だァ~!! 離れたくない~~!
零れた涙を拭ってくれている指を握る。
ボスはとても困った様な顔をして、どうしたら泣き止むのかと部屋を右往左往していた。
結局、メソメソしていたら、ボスが心配して私も一緒に連れて行ってくれた。ラウンジで既に集まっているいつものメンバー。
「なんだか、今日は元気がなくて……邪魔させないので近くにいさせてもいいですか……?」
挨拶もそこそこに、リアルガチプリンセス、チャーリーに申し訳なさそうにそう言えば、彼女はボスの腕の中にいる私を見て「まぁ、どうしたのかしら? ……なんだか、とても、悲しそうな顔をしてる」と心配された。
エンジェルは私を写メるな。こちとらめちゃくちゃメンタル死んでんだぞ。
「朝は元気だったのですが、急に泣き出してしまいまして……」
心底心配だと言わんばかりに目尻が下がりっぱなしのボス。ごめんね、ボス。わがままで。
ちょっとこのままお留守番はメンタル的に辛すぎるので……。
チャーリーは「全然オーケー! この子にもエクササイズを見てもらいましょう! 参加してもいいし」と言っていたので、お?っとちょっと一緒に参加すれば、ボスと天国行けるのでは?と期待したが、「まだ、赤ちゃんですから……参加は難しいかと……、隅っこで積み木で遊ばせても? 」と断られてしまったので、しょぼん。
いや、まて。なんだ?積み木って。あれかな?さっきボスが手に持っていたやつかな?後方に続くエッギーズが持っているよ。
踏まれてしまわないように何故か、ビッグ猫ちゃん……ハスクがいるバーのテーブルの上に座らされた。
行儀悪いって言われないか?若干面倒くさそうにハスクは「子守りはしねぇぞ!」と言ったが、ボスは「エッギーズに子守りはさせますから! ご心配なく! 」と声をかける。すると、ボスの背後について回っていた、小さき卵の子守番、エッギーズが次々とバーカウンターによじ登り始めた。
ベラベラ喋ってパタパタ動き回るエッギーズに「登るな、登るんじゃないっ! おい、備品に触るな!酒は特に!!」と、かき揚げ時の飲食店のように忙しくなるハスクに若干のすまなさを感じつつボスが置いていった積み木が入っているだろう箱を見つめた。
「ベイビーちゃん、ワタシが長男デスよっ」
「ワタシは、次男っ」
「なら、ワタシは三男デス」
卵三兄弟だな。私の前に整列して挙手しながら役割を言ってくる、エッギーズ。
……おう、よろしくな!
末っ子以外の選択肢がないので、とりあえず、積み木でもしようぜ!
ハスクは漸く落ち着いて私の周りを囲むエッギーズ達にため息を吐きつつ、諦めた様に「落ちるなよ」と私に言い、酒を瓶ごとラッパ飲みしている。
声につられ、箱を持ったまま彼の顔を見上げてみる。小さき卵の私は地面に降ろされているとほとんどの悪魔は、巨大すぎて顔が見えない。なので、カウンターの上にいるおかげでいつもよりかは近い位置に顔があるのは珍しいのでなるべく拝ませてもらいたい。
「……どうした? あまりにいい男で、見惚れたか? 」
と、冗談交じりに言いニヒルに笑った。
(うっほ~~! もふもふ猫ちゃん。)
にぱ~…! と効果音が鳴りそうなくらい笑顔になってしまったかもしれない。ハスクが少し目を細めて「いい笑顔だ」と言ってくれた。
卵の表情豊かなのどう思います?落書きかな。
さて、そろそろいい加減積み木で遊ぼうか。ボスがせっかくくれたんだからな。
モタモタと、箱を開けようとビニールの包装を剥がそうと奮闘していれば、見かねて爪先でツーーっと端っこに切れ目を入れて開けてくれた。
ありがとうな! 猫ちゃん!!
ペコり、とお辞儀を体全体ですれば、落ちる小さき帽子。
「……」
ナチュラルに、そっと、帽子を摘んで拾い被せてくれた。
優しいぃ~~!
ボス達がエクササイズという、軽いゲームや、演劇を始めているのを見ながら、エッギーズと交互に積み木を重ねていく。ボス、これ、積み木じゃなくてジェンガだよ多分。全部細い小さな角材だよ。
時折、エクササイズの合間合間に、ボスがこっちを気にしているのかちらちらと視線をよこしていて、たまに目が合う。その度に笑顔になるボス……、愛を感じる……だいちゅき過ぎる……。連れてきてもらって良かった。
漸く、正しく組み上げ終わったら、次は一本づつ抜いていくのだ。エッギーズ達と、ジャンケンをして始める。
中々の白熱した勝負である。時折、ハスクに取らせてみたりして、隙間だらけになったタワーは、ついにグラグラと揺れ始めた。エッギーズ達は『お、おお……』と声を出しながら、見つめた。そろそろ、クライマックスだ。
これは、何処が安全なんだ?
むむむ、と抜く場所を探していると嫌な気配がした。
「おや、本日はこちらにいらしたんですね?」
にゅるん、と黒い影から現れた赤い悪魔。
出たな! アラスター!!
ボスが2度見どころか3度見して、エクササイズ所では無くなっている。
リアルガチプリンセス達にも軽く挨拶をしつつ、彼は私達のいるバーカウンターから離れる様子がない。
ええ~~! アラスターも一緒に混じって演劇やりなよ~……
正直どっかいってくんねぇかなぁ……と思いながら見あげていれば、「これは?」とジェンガを指さす。
エッギーズ達が口々に説明してくれるが、要領を得ない。彼は自分で聞いた癖に興味無さげに爪をいじいじしながら「ふーん……」って言ってる。なんなのコイツ……。
私はとにかく、アラスターは無視して次抜く場所を考える。ジェンガの後ろを回ったりして見ては、此処がいいか、それとも、そこにした方がいいかな?と思案する。
「もう、崩れそうですね~」
慎重にここかな?それともここかなぁ、と悩んでいれば、アラスターは屈んで私に囁きだす。
「どうです?アラスター使います?」
なんだよ、アラスター使います?って。自分の事アラスターとか言ってんじゃねぇぞ(?)もしかして、やりたいのか?やりたいなら、2回戦目にしてくれないか。
アラスターの方を見てブルブルと首(首ない)を振り、再びジェンガを見詰める。悪魔に頼ったらいけない。これは常識である。
傾いて、うーん、うーん、と悩み続ける私。エッギーズはソワソワしている様に固唾をのんで見守っている。
そんな睨めっこしている私を、じっと見つめているアラスター。
どうやら、頼ってこない私を面白く思っていないらしい。私の全神経は割と敏感になっているので、何気なく背後から聞こえてきた衣擦れの音などがやけに耳につく(耳…?)、そう。アラスターが動くのが分かる。
クルッと振り向けば、「なにもしてませんよ~~」というように、手に持つマイクをいじり出す。
再び、ジェンガへ視線を戻して指を抜き取りたい場所に伸ばそうとした時、気配を感じる。
振り向けば、姿勢を正して胸元のリボン(?)を直す仕草をする。
……こ、コイツ……っ!
どうやら邪魔をしたいらしい。
それでなくても崩れそうなのに、コイツの悪戯心にワザとやられるのは嫌だ。せっかく、ここまで楽しんできたのだ……!
今、私の番だからやめてくれ、私の負けになるだろ……!!
「? どうしました? 早く続けては? 」
いけしゃあしゃあと……!!
身振り手振りであっちに行けと伝えてみたが、どこ吹く風だ。気が散る……おのれ……っ!
アラスター本人に言っても無駄なので、ハスクの方を見て、「あれ、あれヤダ~~!!」みたいにアラスターを指さして訴えてみる。
アラスターは「人に指をさしてはいけませんよ~」とニヤニヤニヤニヤ笑ってやがる、ムカつく。
一応、ハスクは「真剣にやってるんだ。構うな」と言ってはくれたが、知りませーんという様にふーん、と顎を逸らしている。
ムムムム……ッ、と恨めしそうに見上げても、楽しげに鼻歌歌うだけである。
チラッとジェンガを見てはアラスターを見る。
「アラスター使いますか?使っちゃいますか?」
まじで、なんなのコイツ。
使いません。手をクロスし、バツ!
首をカクン、と傾げて不服そうに細まる目。口は笑顔である。器用な男だな。
絶対邪魔するなよ!
ビシィ! と指さしてやれば、更に目が細まる。
糸目じゃねぇか。
ジェンガに振り返り、指をそー……っ、と伸ばす。もう少しで、触れそうだ。ここを抜くのだ……。
チラッとアラスターが邪魔してないか、振り向く。
アラスターは、
まさに今、指先で私に触れようとしていた。
そう、手を私の方へのばしていたのである。
ムキィイ~~~……!! とめちゃくちゃムカついたのでその指をギュッと掴んで上下に揺らす。やめてって伝えてんだろ……!なんでちょっかい出すんだよっ!
「おや、感謝はいりませんよ。では、私がお手伝いしましょう」
違うって~~っ!1ミリも違う~~!
わ~~っ!とやめろやめろと指を引っ張る。
この嫌そうに歪んだ顔見てみろよ~~!!
アラスターはケラケラ笑って「そんなに引っ張ったら、手袋が脱げちゃいますよ」と言っている。
こ、この野郎……っ!
ペちペちペちぺちぺちぺちぺちぺち……っ!
思わずアラスターのその手に、必殺のツッパリをおみまいした!!
(このこのこのこの~~……!! )
アラスターの腰越し(背後)からボスがあわあわ……! と慌てているのが見える。とうとうこっちに来ようと身体が動いていた。
大丈夫よ、ボス! 私はアラスターにだって負けないんだからね。
しかし、現実は非情である。人差し指だけをさしだしていただけの手は全て開かれ、手全体でゆっくり潰されるように、私はアラスターに仰向けで転がされてしまったのだ。
(ぐぁあ……! おのれアラスター!! 全っっ然起き上がれんっ!!)
じたばたとする私、楽しげにゲラるアラスター。「おい、やめてやれ」と注意しながら私を起こそうとするハスク。
しかし、私がそんなに暴れていたらいくらなんでも大丈夫ではないのだ。そう、今にもグラグラしていたジェンガが。
傾くジェンガ。
『あ』
誰が上げた声か。いや、皆一斉に声を上げたかもしれない。
傾いたジェンガは無情にも私の反対側にいたエッギーズの1匹へと倒れ込んだ。
「ワタシがっ!止める……っ! 」
いや、無理だから。
ガラガラバラバラっ、と派手な音を立てて崩れ落ちた。
一瞬で訪れる、静寂の中で1匹の卵の「今の衝撃……長男じゃなかったら、耐えきれませんでした……っ!」と言う訳分からん台詞が響く中、私はせっかくハスクが起こしてくれたのに再び仰向けになり、大の字になった。
……エンジェル……写真撮るなって……。
近くまで来たボスが、「ベイビーちゃん……、また、組み立ててあげるからね、泣かないで……」と言っている。何言ってるんだい、ボス。泣いてなんか……
……じわっと涙の膜がはってる。泣いてるわ……。
カチッと何かスイッチを入れた音がする。
そうして私の横に何か置かれた。置いたのはアラスターだ。
それはまつ毛がビッシリの鳥みたいな獣みたいなモジャモジャの……懐かしい、ファービーだこれ。
「バックドゥルゥルウ~~!アッサァ~~っ!」
……うるせぇよ。
何故か、くれたのか貸してくれたのか分からんが、懐かしのファービーで遊び初めて大体10分弱。
口に指入れたりすると「もぐもぐ」とか言うし、手を叩くと踊るという事がわかった以外何も分からず放置したら急に眠り出したのでそっとしておいた。そう、飽きたのだ。
エッギーズ達も一緒に歌ったり踊ったりしていたが、残念ながら私と同様飽きたらしく現在散らばるジェンガを片付け始めている。ありがとうな。カウンターから降りる時は気をつけろよ。
ボスは、私がファービーで機嫌が戻ったのを確認したらまた戻って行ってしまったので、ちょっと遊ぶの中断して、せっかくなのでじっくり観察させてもらおうと、振り返る。
視界に入る赤い壁。
お前まだいたんか、アラスター。
見上げれば、彼もこちらを見ていた。お前まさか、ずっと私を見ていたのか?
暇なのね。
それにしても、何故ファービーを持っていたのだろうか。なんか、虐めたりするの好きそうだから時折電源入れて逆さにしたりして遊んでそうだな。「オロシテ……オロシテ……」っていうのを聞いてニヤついてるんだろ?私知ってる。
「抱き上げて逆さにすると、面白いですよ?」
ほらぁ~~!!やっぱりやってるじゃないですか~~ヤダ~~!!
首(無い)をブルブル左右に振り乱して遠慮しておいた。可哀想だろ、そんな事したら。私もやった事あるけどさ。子供の頃持ってたからね。
もう、彼に構いたくないのでボスを見たい。
そうしてアラスターが邪魔でボスが見えないので横に移動し座る。アラスター、もうどっか行きなよ。
しかし、悲しいかな。この男はまだ私に用があるらしい。
「さて、そろそろ行きましょうか」
え?何?誰と??
思わずハスクの方を見るが、ハスクは酒瓶を傾けながら自分ではないという様に手を左右に振るう。
「あなたですよ」
はい?なんでまるで約束したかのように予定組んでやがるんだよ……っ!!
スクッと立ち上がり、アラスターから2メートルくらい離れようと踵を返したが、一歩踏み出す前に無情にも頭を鷲掴みにされた。帽子は犠牲になったのだ……。
オーノー……クレイジー……
チラチラ気が気じゃないのか見ていたボスが、また、慌ててこっちに来た。
「アラスターっ、待ってください。この子は今日元気がないので連れていかないでくださいっ」
パタパタと手や足を振って抵抗してみるが、相変わらず、全く意味が無かった。
アラスターは「? 先程から元気だと思いますが?」と首をカクン、と傾げた。
ボスが、必死に朝の事を伝えているのを私はちょっと恥ずかしく思いながら聞く。すまん、すまんな……中身はいい年した大人なのに……。
ボスから話を聞いて彼は「へぇ」と声を上げて。
「泣くんですね」
と、それはそれは嬉しそうに言った。顔が見えないが、めちゃくちゃ笑顔でいっているであろう。やだ~…
ボスも含めて皆ドン引きである。やだ~…
抵抗虚しくも連れていかれてしまう私。
エッギーズ達は残念ながら、お留守番。ボスは行かせたかったが、アラスターがダメだと。
ホテルから出る時、ボス泣いてたなぁ……ボス、連日泣いてばかりで可愛っ……可哀想である。だいちゅき。
アラスターの小粋なトークをBGMになんだか、地獄にしては閑静で綺麗な住宅街に来た。すれ違う歯が素晴らしくギザギザのなんか、人食ってそうな人々がアラスターに気さくに挨拶したりしている。
……まさか、ここ、人喰いタウンでは?
外に出た事ないから初めて来たが、こんなに綺麗なんだな……。意外だ。そこかしこで食人してんのかと……。
ここになんの用があるのか。まさか、ついに私を卵として活用しようとしている……っ?
アラスターは1軒の立派な店構えの建物に入っていく。急にドキドキしだす胸……ドキドキ……心臓……ある、のか?
中に入れば、なんだか、不思議な形状の小物や、キーホルダー等の商品が目につく。
そして、結構お客もいる。特に、奥のカウンターらしき場所に客が集中しているので、じっと見ていれば、アラスターはカウンターの奥に誰かを見つけ軽く手を振った。
カウンターの奥、恐らくこのお店の主が「アラスタァ~!」と、嬉しそうに声を上げた。
その人は笑顔で客の間を割ってこちらに来た。
そうして、アラスターと彼の手に握り締められた私を見て、「まぁまぁまぁまぁ~!」と、口に手を当てながら言ったと思ったら、彼に握りしめられている私を両手で優しく受け取り、「ダメじゃない、アラスター!優しく抱き上げないと!」と彼を叱った。
全くその通りですな!
そうして、ロージーと名乗った貴族のお方は私が話せない事を恐らくアラスターが言っていたのか、身振り手振りで自己紹介をする私に「大丈夫よ、ちゃんと伝わっているわ!とっても礼儀正しい子ね!」と喜んだように声を弾ませていた。
「貴方に会えるのを楽しみにしていたのよ?なんて、可愛らしいのかしら!そうそう、小さい赤ちゃんだから、柔らかくて食べやすい耳を用意したのだけど、いかが?」
パカッと上品そうな小箱の蓋を開けたらビックリ、柔らかくて食べやすいらしい人間の耳らしきものが見えて全力で首(ない)を振った。残像すら見える。
どうやら、私のこの行動が謙虚に見えたらしくロージーはとても感心し、アラスターに「見習って!」と言っていた。アラスターお前、食ったのか……。
それから、ティータイムと洒落こんで、色んな話を聞いた。アラスターもロージーも話上手な為聞いていて楽しかった。何話していたか何も思い出せないがな。
それもこれも、ロージーがくれたお土産のおもちゃのせいだろう。赤ちゃんに使う振ると音が鳴るタイプのやつ。
不思議な感触だ。音もなんか、ちょっと変わっている。振るっていれば、ロージーがふふふ、と微笑まし気に笑う。
「いい音でしょ?貴方の為に作ったのよ。
人の骨と皮で!」
わぁ~……最高に悪夢みそ~……。
ドン引きであるが、大人である私はお礼にぺこりと頭を下げた。
「いいものを貰いましたね!今日から良い悪夢が見れそうだ」
むちゃくちゃ笑顔で言わないで。知ってるよ。
このおもちゃ……、どんな悪魔から作ったのかなぁ~……。
色々ぶっ飛んだプレゼントに虚無を抱いた私だった。
帰りに再び、アラスターが私を鷲掴もうとしたもんだから、ロージーが怒って持ち手の付いた籠にタオルを敷いて、私をその中に入れて持たせた。
なんで、こんなに育ちが良くて、いい人がアラスターと友達なんだろうか。人喰いだけどな。
「ビビッ……」じゃないんだよアラスター。
大人しくちゃんと籠を持つ彼を見送るロージー。バイバイと手を振れば、彼女も振り返してくれた。
「また、来てね」
アラスターが連れてきてくれたらね。耳とかおもちゃの事以外ならめちゃくちゃいい人であった。
スーパーで買われた食材の気持ちになりながら、再び道中アラスターの小粋なトークをBGMにウトウトし出す。彼の話は面白いのでなるべく聞きたいのだが、どうにも無理そうだ。
アラスターに握り締められた時にも眠かったが、籠だと余計に眠たい。タオルがふかふかだし、絶妙に揺れる籠がまたたまらない。
その内、アラスターは話すのをやめて、マイクから前世でも聞いた事があるゆったりとしたジャズの曲が流れ初める。そうなると、もう私の目蓋は限界を迎えた。
「おかえり!」
そんな声が聞こえて、目が覚めた。どうやらホテルに着いたらしい。
重たい目蓋を開ければ、ちょうどアラスターがボスに私を籠ごと渡している最中であった。
「まともに運ばれてる……っ」
と感動しながら受け取ったボス。いやぁ、なんか買い出ししに行った後みたいになってるけどね。
「良かったじゃん。ちょっとアラスターが持ってると、シュールだけどさ」
そう言ってパシャリ、と写真を撮る。キミはよく私の写真を撮るね。SNSにあげてるのかな。
「赤ちゃん用のおもちゃ持ってると、余計に赤ちゃんっぽいね」
「赤ちゃんですから。ベイビーちゃん、このおもちゃはアラスターが買ってくれたのかい?」
ボスがおもちゃを手に取り、左右に振って音を鳴らす。アラスターは「いいえ、私の友人がくれたものです。手作りだそうですよ」と答えた。
「? なんか、不思議な音ですね」
「まぁ、人の皮と骨で出来てるようですので」
「……なんて?」
露骨に嫌そうにおもちゃを見る面々。分かる。悪夢見そうだよね。
おもちゃを足元にいるエッギーズ達に渡してやれば、「これでバブちゃんをあやします!」と喜んでいた。アラスターに「友人がくれたやつだから、捨てるなよ」と言われれば仕方ない。使って貰うしかないのだわ。
今日1日やはり、アラスターはろくでもねぇ奴だと思い知らされた訳で、部屋に戻ってからまた絵を描く。
その絵はちゃんとボスに飾られた。また1つ、壁に私のクレヨンで描いた絵が増えてしまった。
身振り手振りで絵を指さしながら、ボスに報告し、ボスは「うんうん」と微笑まし気に頷いていた。ボス、ちゃんと聞いてます?
「うんうん、ちゃんと聞いてるよ。とにかく、元気になって良かった」
ボス、だいちゅき過ぎる。
「あ、そうだ。これもアラスターがくれたから、一緒に寝るといい」
でん、と置かれたファービー。ずっとバーカウンターに置かれていたのだろうか。そのまま飾っておいてよかったのでは?
触ってみても、中身はプラスチックの塊だろうから硬いし、抱き心地が悪い。とりあえず、机の端に置いておいたが、ある日、電池が無くなりかけてたのか分からないがいきなり永遠と踊り出したので怖いし煩いしで電源を切った。
……こうして忘れられていくのだ。このおもちゃも。
そして、後日エンジェルが私の写真をSNSであげて超バズったのは別の話である。
【ラジオデーモンに弄ばれる赤ちゃん】
アラスターの手にしっかり仰向けに転がされている写真に、鷲掴みにされている写真。手のみだからしっかりと写ってる。
コメントに【ラジオ様のお手】【さすがラジオデーモン、赤ちゃんにも容赦ない】【鬼、悪魔、ラジオデーモン!!】って書かれてた。
明日こそいい日になって欲しいなと思う卵でした。
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