ハズビン
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今日も新しい朝が来る。多分朝である。昨日寝た頃が夜で8時間くらい眠って起きたのでおそらく朝。よく分からないが、とにかく、朝なのである。
やぁ、世界、グッドモーニング! 今日も一日何をするかもう決まっているかな?私は、名も無き卵。ボスの身の回りを世話する為にいるエッギーズだ。今日もボスの為に尽くして尽くしまくるんだ!
まずボスよりもエッギーズは早く起床し、ボスのために朝食とコーヒーを用意するよ。
テーブルに並べて準備出来た頃に、ノロノロとボスは起き出す。席について朝食を食べ始める。私は、皿に乗ったスクランブルエッグ(私達が材料ではない)をスプーンで掬い、ボスにあーん、して食べさせる。
私は、掃除も洗濯も、ボスの戦闘のお手伝いもしないけれど、一緒に眠ったり、こうしてご飯を食べさせたりとちゃんと業務をこなしているので、決して穀潰しではないのである。
……だというのに、朝からなんの用か訪ねてきた赤い悪魔、アラスターがいきなり私を暇呼ばわりして朝のお散歩に着いてくるように言ってきた。勿論嫌がったさ。だって、ボスの側にいるのが仕事なんだからね。
必死に首を左右に(首無ぇ)振り乱していれば、ボスが必死にお断りしようと色々理由を彼に伝えた。
しかし、悲しいかな。ボスは嘘が下手くそだし、全く私の予定もない。チグハグなお断りの言葉などこの男には通用しなかった。そもそも、伺いを立てるようなやつでは無いので、話聞かずしてもう、途中でグワシッ! って頭鷲掴みにされたからね。おい、持ち方ェ…。安心のフィット感である。
あ……、また帽子が…。
背後でボスの悲痛な叫び「ばぶちゃんが~~~!!」の声をBGMにスタスタと運ばれてしまう私……。
大丈夫よ、ボス。必ず生きて帰って来るからね……。
ボス最近泣いてばかりだからちょっと心配だ。それも私関連だから愛を感じてしまう。ありがとうボス、だいちゅき過ぎる。
「さぁ、いきましょう」
嫌だ……
どんなに嫌でも彼には逆らえないので運ばれる私であった。
また、会議に連れていくのかな?でも、この前行ったばかりだし、本当にただの散歩という縄張り確認かもしれない。縄張り、あるよね??私はボスが話してたV軍団しかしらんが。ボス、V軍団に入りたがってたけど、今は話しないなぁ…もういいのかなぁ…。
アラスターと仲良く道中歩いている訳だが、皆面白いくらいに道を開けてくれる。
アラスターは有名だし、ちょこっと聞いた話だと自分の放送するラジオで他の上級悪魔の虐殺音声?流したりしてオイタしたみたいで、それから癖強ヤベェ奴だと思われてるみたい。
目に付いた奴から吊し上げる訳じゃないと思うが、……私は彼の事をあまり知らないので割愛させていただきます。
でもさ、皆、良く考えてみて。彼、卵手に持って歩いてるんだよ? 鼻歌歌いながら。しかも持ち方が頭から鷲掴んでんだよ? 絶対変だよ。親近感湧いてこないか?
「俺も卵鷲掴みしながら街練り歩いたわ~」って。
……頭おかしいよね。
そして普通に喫茶店っぽい店に入るラジオデーモン。卵握り締めながらのご来店です。
あ、コーヒー飲むのね。え?私?
卵が飲むと思うのか? 飲むよ。オレンジジュースがいいけど、言葉が話せないので意思の疎通ができないのだ。
「ミルクにしましょう」
無念。仕方なし。
いいよ、それで……。
おそらく人生初めて出会うであろう、卵を頭から鷲掴む客からの注文に店員さんもガクブルである。何を隠そう、それやってんのがめっちゃ怖いラジオデーモンだからね。
気軽に「なんで卵握ってンスか?朝食ッスか?」って聞けないよね。
店内ではなくテラス席について、私はアラスターの組んだ足の上に座らされたが、居心地は悪いし屈辱的なのでテーブルをよじ登る
「お行儀が悪いですよ」
そう言われたが、貴様の膝の上でミルク飲みたくないし、コップまで手が届かないのだよ。せめて2mくらい離れたいが、丸いテーブルはそこまで広くないので、正面に行き座る。テーブルの端に足をかけて座っているのでアラスターに背を向ける形だったのが気に入らなかったらしく、「そのようなつれない態度はいただけませんね。お顔は見せてください」と触手みたいなのでグリンッ! て、無理やり向かい合わせにされた上に引き寄せられた。真っ赤な目と合う。なんて禍々しい顔だ。
いつもは遥か上にある顔だし、こうしてまじまじ見るのは初めてかもしれない。実は服の色と独特の声でしか殆ど認識出来なかったんだよな。
アラスターは、テーブルに両肘を付き、頬杖つきながら私を見つめている。
「不思議な方だ。何故かつい構いたくなってしまいます」
ペラペラとお喋りらしく話し始める彼の言葉に潰れた帽子を直しながら、首を(無ぇんだわ)傾げた。
道中全く話さなかったくせにまるでタガが外れたようにペラペラ話し出す。彼は私が赤ん坊ではないというのは分かっている様だし、ボスに特別贔屓されていて尚且つ私も受け入れていることも知っている。
「特別なんでしょうね。彼にとって」
自意識過剰かもしれないが、ボスは私やエッギーズがいるからこそこんな地獄でも腐らずにすんだんじゃないかなぁと思う。だって、ボスは地獄に似合わないくらい優しいし、常識人だ……、あれ? 武器作って街襲うのは常識……? アラスター? アラスターは悪魔だからいいのだ。 というか地獄だから悪魔しかいねぇから破壊活動は別にしてもいいな。うん。
「…貴方、聞いてます?」
全然聞いてなかった。
ほえ? みたいに傾いてみたら指先で軽く眉間を弾かれて転がされた。
おのれ…!!起き上がれん…!!
コロコロと左右に揺れながら手足をバタバタしていれば、コーヒーとミルクを持って来てくれた店員さんの恐怖に怯える顔が見えた。
……あー、アラスター怖いよね。でも、卵転がして笑っているような男だから安心してね。
カタカタカタカタカタ…と小刻みに震えながらコーヒーとミルクを置いて早々に退散する姿を寝転がったまま見つめていれば影がかかり「なんぞ?」って上を見れば、アラスターが人差し指を差し出していた。捕まれってか?
有難く両手で人差し指に掴まれば、引いて起こしてくれた。
ありがとうとは言わないからな!!貴様が転がしたんだからな!!
せめてもの抵抗で指先を両手で掴み直して上下に振ってみた。
「お礼には及びませんよ。律儀な方ですね」
お礼の握手ではなく、嫌がらせなのだが??
意思の疎通がはかれねぇ男との会話(文字通り一方的な)は疲れるぜ。イラッとしたので手袋取れねぇかなぁと布の部分を掴んで引っ張ったたら、ちょっと脱げた。
「これは、あげられませんよ」
指をクイクイ動かした後手を引っ込められてしまったので全て脱がすに至らず。無念…。
ミルクとクッキー(店員さんがサービスしてくれた)を食べてお腹が満たされつつあると、新聞を読んでいた彼もコーヒーを飲み終えた。
そして、帽子の形が元に戻らないまま再び頭から豪快に鷲掴みにされて、潰れる帽子。悲しみの重ねがけやめてもろて。
次は一体どこに運ばれてしまうのか。困ったもんだ。
彼は公園らしき場所まで来た。私は外に出た事があまりないので、地獄にも公園があることに少し驚いた。しかも、ちゃんと整備されているし、花壇もある。
アラスターは本当に散歩しに連れて来ただけなのかもしれない。今もたわいも無い会話を一方的にしている。私は鷲掴まれたままだが……
この浮遊感と頭にかかる圧、そしてラジオデーモンらしくお喋りしてる声を聞いていたら、だんだんと眠たくなってくる。このまま眠気に身を任せてしまうかぁ……だんだん微睡んで彼の言葉も理解できないまま目蓋が落ちていく。
でもなぁ、眠ったりして彼の話聞いてませんでしたってなったら、またひっくり返されちゃうなぁ…。
必死に意識を保とうとすればするほど、眠気が襲ってくる。時折手をパタパタ動かしたりして起きてますよ~アピールをする。こうすると一時的に目が覚めたりするのだ。
ふと、気がつくとどうやら公園から出たみたいだった。もう、帰るのかな……ホテルの方向とかわからないけどね。
寝ているのか起きているのか分からない意識を保っていると、マイクのキーンという音が聞こえて、いきなり身体が投げ出されたような感覚に目が覚めた。
え~~~!! 何事……!? と思っていれば、そのまま落下。
柔らかなふわふわの何かの上にぶつかり、そのまま、肌触りの良い生地を全て落ちていく。
割れる!!死……!!
必死に何か掴まないと、と思って落ちる寸前何かに掴まった。
それは誰かの足である。
白いズボンの、細長い足。この足がアラスターで無いことは明らかであった。彼は赤い。
視界にチラチラはいる裾の長いコートに着いたふわふわな毛。
恐る恐る上を向いたが、この足の持ち主は背が高過ぎるらしい。アラスターが自動販売機よりデカい男なら、この足の持ち主は電柱。全然見えん。
アラスターでなく見知らぬ悪魔の足に引っ付いてしまったので直ぐに降りようとしたのだが、どんな奇跡が起きたのか、この悪魔は足に引っ付いた私に気が付かず、そのまま歩き出し、停めてあった車に乗ってしまった。
え? うそーーっ!? おかしい! おかしいって!!
信じられます?? 全く気が付かれてないんですけどーーッ!!
クソが!これもそれも、アラスターのせいだ! 手から私をすっぽ抜かして飛ばしやがって……!なんでなの……! ちゃんと握ってろよ…!
そして、何処に向かうのだろうか。この悪魔。車、めっちゃ高級そうだし、香水付ける量、間違ってません?? 近いからこんなにいい匂いするんです??地獄なんだが?地獄にいるんだけどさ。
もしかして、上級悪魔だったりします?
だとしたら余計に見つかると不味い。殺されるかも。
車が止まって降りたら、速攻離れなくちゃ。
しかし、こんなにしがみついてるのに気が付かれないなんて、この悪魔もどうかしている…。
逃げられない。離れようと思ったのにこの悪魔は急いでいるみたいで長い足をスタスタと素早く動かされてしまい、降りるに降りれなくなってしまった。そして、何処かのオフィスビルに入っていく。私が付いていて重さとか分からないのか?
とにかく、できることは無い。ひっつき虫の様に足にくっついているしかないのである。
そして、なんか薄暗い場所に来た。長い上着の裾からチラチラとほんの少しだけしか周りが見えないので、どんな場所なのか分からない。
私は動かすじっとしているしか無かった。きっと足に卵が引っ付いているだなんて見つかったら割られるか、食材にされてしまう。
悪魔が椅子に腰掛けて足を組む。反対側を組んだら死んでたな。丸見えになる。ここでも運が勝ったな。
それにしても、足長いな…。
足を組んだことにより、前がはだけて漸く視界が見やすくなる。
何処かのスタジオだ、これ。
「アクション!」
そうして始まるいかがわしい撮影。
わ、わぁあ……、これが……ポルノの世界……。
色々ショッキングというか、なんか記憶飛んでいたんだが。
しかし、なんでだろう。
いきなりこの悪魔、癇癪起こし怒鳴り始めた。それで意識が戻ってきたんだけども……
もう、何言っているか分からない、激おこも激おこ。周りのスタッフらしき人達もガクブルで誰も対応出来ずにいた。
なんか、気に入らないことをした?らしき人が拳銃で撃たれたりしている。
挙句の果てに激しく殴ったり蹴ったり。
手や足を使い始めた。
そう、ここで漸く、私の存在が気が付かれてしまうのだ。スタッフの視線が明らかに私を捉えている。しかし、癇癪玉(悪魔)は怒りで我を忘れているのか全く私には気がついていないようだった。
今の怒りゲージMAXの癇癪玉に向かって、「足に何か着いていますよ」と言うのは無理がある為、皆が皆、癇癪玉が足を振り回すたびに「何かついてる」的な視線を向けてきてはくるが、黙っていた。
長い足が風を切る。足に着く泥棒草の如く引っ付いている私。親のスネをかじって生活したいとは言ったが、癇癪玉のスネに齧り付いて命の危険に晒されるとは聞いていない。これが地獄、まさに地獄。
まじで、まじで…もうダメかもしれない。
ジェットコースターに乗っているような風を切る音と、身体にかかる負荷。
とうとう耐えきれずに吹き飛ばされる私。
オワタ。エピソード1完。
しかし、フワッとした感触。ちょこっと痛かったが、何かにキャッチされた。
「何やってんだよ、お前」
ヒソヒソと話しかけられてふわふわな所から顔を上げると、そこには見知った顔がいた。
エンジェル・ダストだ!
ぱぁあ…!と希望を見出したような顔をした私を見て、彼は呆れたようにため息を吐きながら移動し、そっと扉を開いて化粧室の様な所に私を押し込めた。
「なんで、ヴァルにくっついてたんだ? …とにかく、危ないからここに隠れてろ」
「後で迎えに来る」と言って扉は閉まった。
エンジェル、まじでエンジェル!
安心して私はその部屋の何処で隠れようかとしていたら、扉が開いた。
え? エンジェル? と思って振り向けば、多分スタッフの1人であるお姉さんだった。あ、やば。見つかった。と、思ったら、お姉さんは様子を伺うようにスタジオ側を振り向いて確認してから、スっと中へ入ってきた。
「あなた、何処から来たの?ここは危ないのよ」
エンジェルと同じ事を言って抱っこされた。このお姉さんも優しい方みたいだ。何故地獄だってのに、こうも優しい悪魔って存在するんだろうね。
それから、ちょっぴり疲れている様子のお姉さんとほんの少しだけ会話をして、彼女の大きめのバッグ中に隠れるようにといれられた。ついでに、「写真撮っていい?」と言われたので頷いたら、パシャリ、と撮られた。
お姉さんとエンジェルのおかげで何とかなりそうだ。
それから、本当に迎えに来てくれたエンジェルに抱っこされて私は無事に帰ることに成功した。スタジオはめちゃくちゃだったし、癇癪玉ことヴァル?ももういなかった。慌ただしく片付けなどをしているのが目に入る。そして、お姉さんと目が合って手を振ってくれた。
ありがとうお姉さん、手を振り返したら笑ってくれた。
皆、お疲れ様やで……
道中エンジェルにどうしてあそこに居たのか?と、聞かれたが、声を持たない私は身振り手振りで頑張って伝えてみる。
「んーー、全然分からないや」
と言われてガックリした。
私としてはちゃんと帰れたらそれでいいや。
ホテルに着いて漸く安心した。ぐったりとエンジェルに抱かれたままでいれば、今回の私を連れ出したアラスターが現れた。
貴様私を放り投げて、何処に行ってやがった!?
「あなた、私を置いて何処に行ってたんです?」
ちょっと何言ってるか分からない。お前が私を放り投げたんだろうが。何故私がアラスターを置いていった事になっているんだよ。
「なに? 卵ちゃん、アラスターと出かけてたの? それがなんで、ヴァルの足にしがみついく事になったわけ? 」
コイツに投げ出されたからだが?
必死にアラスターを指さして訴えるが、彼は「人に指をさしてはいけませんよ」とニヤニヤして言うだけだった。こ、コイツ……!!
その後、エンジェルがスタジオであった事を話してますます聞いている面々は、そうなった経緯が分からず首を傾げた。
アラスターは何故、私を放り投げたのか。私はそっちの方が気になったが、彼が「肉屋で肉を購入した」と言っていたので、もしや、手に持つのに邪魔で手放すのに投げたのだろうか?サイテー! サイテー!
……直前のマイクのハウリングが頭によぎったのだが、あんまり関係ないかな。誰かとトラブルになったとか。割とキレやすいっぽいのであの癇癪玉の様に暴れたのだろうか?
この似非紳士。
「ベイビーちゃん、おかえり!」
ふと、聞こえた大好きなボスの声。めっちゃ癒される~~!抱っこを求めれば抱っこしてくれる。
(ボスただいま。やっぱりアラスターはろくでもない奴だったよ。)
頬を寄せ合い、再会を喜んでいれば、2人だけの世界に周りがもう近寄れなくなったので自然とお開きになる。
それからクレヨンでお絵描きをし、今日あった出来事を身振り手振りでボスに報告する(全然伝わってない)
ボスは、私の描いた絵を褒めて額縁に飾った。
私の描いたラジオデーモンがなかなかツボに入ったらしくボスは「特徴をよく捉えてるね」と褒めてくれた。
今日は散々な一日であったけど、外に出てクッキー食べたりミルク飲んだり、泥棒草みたいに全然知らん上級悪魔の足にくっついてみたりして、刺激的だった。
あと、エンジェル、ふわふわだった。
……そういえば、部屋に戻る時、アラスターに「また一緒にお散歩しましょうね」と言われたが、ブルブル……と首を左右に降った(首ねぇわ)。
もう貴様と行きたくないわ。行くならボスとがいい。
でも、濃い一日だったけど、ちょっぴり、刺激的でドキドキしたなぁ……。
私は知らない。あのお姉さんが撮った写真がSNSでプチバズりしていたのを。
小さき生き物が好きな者は少からずいるわけで、おしゃぶりをしゃぶってる卵が鞄からひょっこり顔を出している姿はなかなか可愛く見えるらしい。そして、この卵がラジオデーモンが握り締めて歩いていた卵じゃないかと気がついた者達からの注目も集まり、なんか勝手にじわじわバズってしまったのだった。
明日もいい日になるといいね。